七話 強い人たち
女冒険者に攻撃を与えた後から、戦いは拮抗していた。
女冒険者が攻撃を入れようとすれば、ルナがその攻撃をギリギリまで引きつけてから躱すか、捌くかするのだ。
そのギリギリまで攻撃を引きつける行為が女冒険者の勘に触り、戦いをさらに激化させる。
「なかなかやるじゃない!フッ!」
「そっちも!イヨッ!」
なぜか友情まで芽生えている。
しかし手の動きは見えず、動きの反動で突風が発生する。
女冒険者は未だイフリートを片腕で抱えている。その点、女冒険者の方が技術面では上ということになる。
ルナが両腕を使っていれば、だが。
ルナもそれに対抗して片腕しか使っていない。しかも初撃に使った不可視の武器は使っていない。
その戦闘を鑑賞しながら、村の長はマルサに聞かれる。
「申し訳ありません、長。ルナはどれだけ実力を上げたのですか?私でも動きが見えません」
「推定ではあるが、ルナの潜在能力はこの村でダントツであろうな」
そんな話をしている間もルナと女冒険者の戦いは続いている。
当然のように攻撃を捌き、反撃を入れる。その動きに無駄はなく、素人からしてみれば極限まで洗練された戦闘だ。ルナはその戦闘の最中、村の中では被害が大きいと判断したのか、戦う場所を変える。村の近くにある山の麓にまで戦いながら移動する。
しかし、この戦闘、長くは続かない。
理由は至って簡単。
この世界ではステータスに体力という値が存在する。体力は単にスタミナという面とゲームで言うところのHPの面、その二つの面をを併せ持つ。消費した体力は時間に応じて少しずつ回復していく。
だが、戦闘中に回復させるなど甘ったれた戦いをするほど冒険者の世界は甘くない。
「ぐっ!あぁ、はあ、はあ」
「あら?体力切れかしら?なかなか楽しめたのだけれど、終わりかしらね」
ルナの動きに無駄が生じ始める。これ以上の長期戦は不利にしか働かない、と判断したルナは攻撃の当たる確率を上げるために両手を使い出す。
それに合わせるように女冒険者もイフリートを離して両手を使い出す。
ただでさえ、女冒険者より体力の値が低いことに加え、山の麓に移動するために無理な体勢から攻撃したため無駄に体力を消費した。
村を思っての行動は、逆に自分の首を絞めることとなった。
その実行力を目の前にして、女冒険者は不思議に思ったことをそのまま口にする。
「あなた…本当にすごいわね。なぜ、冒険者にならなかったの?」
「そういう決まりが村にあるから。でも、こんな強い人がうじゃうじゃいるなら街も楽しそうかも。いつか行ってみたい」
「やっぱり余裕なのね。あなたみたいな時が私にもあったのかしらね?」
不思議そうに、女冒険者は言った。
グワングワンと頭がおかしい。
目を開け、立ち上がろうとする。しかし、風がすごいのでなかなか立ち上がれない。どうにか立ち上がる。視界は良好。よし、前を見よう。
どういうことなんだろう。ルナと冒険者さんがめっちゃ高速で手を動かしている。まったく見えない。
突風です!こちら目を瞑りたくなるほどの突風に襲われております!
あ、ちょっと余裕出てきた。大丈夫大丈夫、ヒッヒフゥー、あっ、俺男だ。うーむ、まだ困惑している模様。突風であんまり聞こえないが、とりあえず耳を立ててみる。すると、
「やっぱり余裕なのね。あなたみたいな時が私にもあったのかしらね?」
呟いたその声には、明らかな後悔があった。その後悔があるのなら、その懺悔があるのなら。
少なくともそんな思いがあったのなら、
「なんでそんなことしたんだ!」
「なっ!一体誰だッ!?」
ふっふっふ、冒険者さん。お困りのご様子ですね。ならば、答えをお教えしましょう。
「俺だよ!」
えっ、うるさい?いや、そんなつもりはなかったんですけども。ホントすんません。
と思いつつも、女冒険者の後ろ、後頭部に蹴りが入る射程圏に入った瞬間に蹴りを思い切り入れる。
「うっぐッ!な、なぜ坊やが?馬鹿な、魔力が回復するには早すぎる!」
「どうにも回復の時間は計算に入れなくていいみたいなんでな。ルナ、よく耐えた。ここからは俺が代わる、と言いたいけど無理そう。共闘でいい?」
「イフリート、了解」
さすがは『自己再生』!魔力の回復すら瞬時に済ますとは。
そして、疑問があるだろう。なぜ女冒険者に気づかれずに後ろに回り込めたのか。
原因としては先ほど獲得した『死への執着』の効果だ、多分。
技能:『死への執着』
効果…死を経験する、または死を経験させてから一定時間、一時的に身体能力を数倍に引き上げる。
加算可
ヒッヒフゥーしながら、見ておいた。秘密裏に。
ついでに取得した称号『殺人者』も見ておいた。他の称号も見てなかったので見ようとしたが『転生者』しか見れなかった。
内容が多少難しかったので要約すると、つまりこっちの世界で人が死ぬのを見るよりも前に人を殺せばいいわけだ。
「ともかくあんたと闘えるんだ。絶対勝つ、まだこっち来て1日だ。こんなところで捕まるもんかよ!」
「威勢のいい子は好きよ。でも、私も仕事を放棄するわけにはいかないのよ。死ぬまで戦いを楽しみましょう」
という建前の時間稼ぎは、終わった。
「悪いが死にたくはないのでね、死ぬまで戦うのは勘弁願いたい。なので、捕獲させていただきます!『土縛』!」
唱えると共に、女冒険者の足元の地面が蠢き、倒す。そして、またもや地面が蠢き女冒険者の体を土で縛る。
いやー、魔術のイメージ疲れる。ここまで早く魔術のイメージが終わったことにも訳がある。時間ないからまた後にするけど。
「イフリート、こいつどうする?」
「できれば、生かしたまま町に送りたい。これ以上、この村に襲撃されるのは俺としても勘弁だ。ああ、ルナさんや。村からロープ、できれば頑丈なやつを取ってきてくれる?魔術で抑えるのはその場にとどめておくには適任なんだけど縛ったまま移動させるにはちょっと向いてなくて」
「了解」
待って、俺前世はぼっちだったのに今普通に話せてる。女子と話せてる!なんという進歩!俺この世界でなら学校にも行けるかもしれない!
「あの…なんか気持ち悪げな笑み浮かべながら、全身を小刻みに揺らすのやめて?」
「お、おう。悪い、自分の進歩の具合を再確認して興奮してた。それにしてもあんたの処分、どうしようか?」
「いや、私に聞かれても。あなたが決めないとダメでしょ。私はどうなってもいい」
「え、そうなの?じゃあ……」
いたずらっ子っぽく手を出して、何もない空間をモミモミする。
その行為を間違って捉えたのか、女冒険者が多少引いた顔をしている。
「なんだよ、脇でもくすぐってやろうかと思っただけなのに。それも冗談なのに」
そう言って、そっぽを向いて頬を膨らませてみる。
すると、女冒険者は
「待って、その顔可愛い!」
「ふえぇ?いや、何を言ってるんですか?俺、男なんですけど。女の子に言うはずのセリフ言われても嬉しくないんですけど」
「その顔も可愛い!」
この人大丈夫か?何言っていいのか分からん。
どうしよう。誰か助けて!ヘルプミー!
「取ってきた。縛る?縛るの?」
「うぉおお!ルナ、お前、救世主だ!ありがとう!言ってること若干物騒だけどありがとう!そして縛ろう!」
「あなたも言っていること物騒よ?それでどうなるの、私は」
ふーむ、どうしたものか。村に放置?いや、ダメか。逃げられる。
となると…………は、そうだ!
「よし決めたぞ!衣服を適度にボロボロにさせて町に返す」
「なぜ?こいつまた来るかもよ」
「そうならないように俺が今から言っとくから、それ終わったらルナさん、衣服をボロボロにさせる役頼みます」
こればかりは男の俺には抵抗があるからね。
女冒険者は不思議そうに首をかしげる。
「なぜ私の服をボロボロにする必要が?……!?まさか坊やの趣味!?」
「いや違うけど。俺そんな趣味ないですけど…」
「有りね!」
「いやなんなんだよ。まるで分からん。ねえ、ルナ分かりますか?」
「分からないけど…イフリート、なんか変なこと言ったり、したりした?」
「思い当たることはございません」
「じゃあ、こいつの性癖。気持ち悪いから早く町に送ろう」
なんかこいつ俺の言うこと何でも聞きそう。
じゃあ、話早そう。
「ねえ、俺の言うこと聞いてくれる?」
「聞くわ!何でも聞くわ!だからもう少し近づいてちょうだい!」
「あの…あなたがフーフーしてるので無理です。じ、じゃあこの村でのことは他言無用ということで、いい…ですか?」
「うん、うん!分かったわ!」
高速で頭を縦に振る女冒険者。頭が吹っ飛んでいきそうな勢いだ。飛んでかないよね?
「よーし、どうもありがとう!じゃあ、ルナ、頼んだ!」
「イヤァー!待って、行かないで!もう少し顔を拝ませて!」
「静かにする!」
なんか今、怖くなった。大丈夫だよな。常人ならざる思考なのかね。
それなら俺もあんな感じなのかな。俺が常人ではない自覚はある。反省はしよう、後悔もしよう、だがしかし!改善はしない!
「俺、先に戻ってるから終わったら、お前も来いよ」
「というわけで、戻ってきたぞ!爺さん、大丈夫だったー?」
「おお、イフリート様。ご無事でしたか。はて、ルナはどこに?」
「あいつにはもう一人の冒険者をロープで縛ってる。すぐに戻ってくると思う」
「そうでしたか。おや?イフリート様、ズボンが…」
ズボン?
そういや、初期装備でズボン履いてたけどそれがどうかしたのか?
そう思って下を向くと、破れていた。
しかも大事なところはちゃんと隠れてる。あらやだ、恥ずかしい。
「イフリート様、この村に来た時にもズボンとマント以外しておられなかったですよね?良ければ新しいものを用意いたしますが…」
「で、できれば頼みたい。申し訳ない」
「そうですか。ではこちらに、ついてきてください」
そう言って、爺さんが歩き出す。
というかそろそろ爺さんの名前、教えて欲しい。
数分歩くと、ある建物にたどり着く。露店のような作りになっていて、ガラスの中に服が飾ってあった。
服屋、か。できれば、上の服も欲しい。
扉を開けばチリン、と音が鳴る。
その音に反応して店の奥から女性が出てくる。
「はーい、いらっしゃいっ!って、まあ。龍人さんじゃないか。村長、こちらの龍人さんに服を?」
「そうだ。話が早くて助かるよ。イフリート様、こちらこの服屋の店長、マーヤ。マーヤ、こちら龍人のイフリート様」
「あっと、イフリートです。宜しくお願いします」
「マーヤです。宜しくお願いします、イフリートさん。それでご要望は?」
うーん、要望と言われてもなぁ。特に何もないんだけどな。
「あー、できればこれと同じようなデザインで頼みたいんだけど。あと上の服も…」
「了解だ!デザインがわからないから参考にそれを借りたいんだけど…何か替えを用意するよ」
そう言って、また店の奥に入っていった。
いやー、良かった。気さくな人で。他の性格だったら俺、喋れなかったかもしれない。
「ルナ、もう帰ってるかな?」
「どうでしょうかな。まあ、そのうちに帰ってくるはずですよ。心配しなくても大丈夫です。
それにしても、人を殺したにしては落ち着いていますな」
「ああ、そういえば俺、人殺したんだった。忘れてたよ。なんでなんだろうな。俺にも分からねぇ。あ、あと死体どうしたの?」
「村の者に焼却させるようにと、言っておきました」
「ふーん。そう」
とりあえずマーヤさんが替えのズボンを持ってくれるのを待ってから、手早く履き替え、外に出る。
さてと、これからどうするか。ルナが戻ってきて、あの人からちゃんとした話聞くまでは暇なんだよな。
「ああ!イフリート様!お疲れさまでした」
「そして相談があります!」
おお、おお。マルサさんとムルサさんじゃないですか。
わかってます、お二人さん、顔が近い。
「相談…ですか?どういうものですか?」
「来てもらったほうが早いよな、ムルサ?」
「そうだな、マルサ!というわけで失礼します!」
「何が失礼します、なんだっよ!うおっ!」
答えを聞く前にムルサさんに担がれた。
本当にどこに連れて行かれるんだ、俺。
「おい、失礼だろう!どこに連れて行くかくらいは伝えておけ!」
「はい、イフリート様。これから俺たち二人の家の前にまでついてきていただきたいのです」
「ああ、うん。ついていく、というより連れて行かれる感じだけど楽だからいいよー」
軽くね?と思う人もいるかと思う。だが、さっき爺さんと一緒に歩いて分かった。
歩くのすら俺、遅い。爺さんに相当気を遣わせてしまった。
というわけで、ムルサさんおなしゃーっす!
爺さんにお姫様抱っこで運ばれた時も思ったが、猫人の皆様、速すぎない?
多少抑えてもらってるっぽいが、それでも速い。
「着きましたよ。あれ、大丈夫ですか?大変だ、気絶してるのでは!?」
「いや、大丈夫。本当に速いなぁ、と思って。俺もこれくらい速く動ければ…もう少し使えると思うんだけどな」
「いえいえ、拝見しましたよ。B級冒険者相当の実力ですよ。自信を持ってください」
「……善処、します」
素直に褒められると照れる。そっぽを向いて誤魔化す。
こんな仕草を繰り返すのは何年ぶりだろう。3年以上前、かな?中学は結局入学式以外行ってないし。
さて、本題に入ろう。マルサさん、ムルサさんは何故俺をここに呼んだのか。
「マルサさん、それで用は?」
「ああ、それがですね…」
何故そこで黙る?
しかも少し顔を赤くして。なんだ、マルサさんたちもですか?俺が可愛いウンタラカンタラ言うんですか?
「マルサ!ここで躊躇ってどうする!
イフリート様、俺ら、二人は一人の女性を好きになっているんですが…どちらか一人が結婚できる、ということになると決める方法がないんですよ。もちろん二人とも気持ちは伝えています。というわけなのでイフリート様に決めていただきたいのです!」
「なんで俺なの?いや、まあ異世界出身だから勝負の方法なんてのは結構知ってたりするけど」
「その方法をお聞かせ願いないでしょうか?こちらもあまり時間をかけたくないのですが…」
おうおう、リア充め。俺の前でそんな話題を出すでない。戦い的な意味で蹂躙するぞ。
でも……うーん、時間をかけずに。かつ確実に勝負が決まるもの、か。
もうこれでいいや。
「ジャンケン、なんてどうだろうか?」
「じゃんんけんですか?それはどんなものなのでしょうか?」
「いや、ジャンケンです。ん一個多い。ええとな、これがグーでこれがパーでこれがチョキ。グーはチョキに勝って、チョキはパーに勝てる。それでもって、パーはグーに勝てる。以上。これのいずれかを両者、『ジャンケンぽい』の掛け声と同時に出して勝ち負けを決める。出したものが同じ場合、もう一度やり直す。これで大丈夫かな?」
他にも色々あるけど、手っ取り早く済ませるとなるとジャンケンが適任だろう。
「なるほど、この状況ではもってこいですね」
「気に入ってもらえて何よりです。そういえばマルサさんとムルサさんの好きな人はどこに?自分の結婚相手が決まるのにいないのは、ちょっと…どうかと思うんだけど」
「いますよ?庭で待っていてもらっています。さあ、ムルサ!」
「ああ、マルサ。戦う準備は整った。はじめよう」
「「せーの、ジャンケンぽい!」」
おう、あいこだ。それは別にいいんだけどさ。剣幕がすごい。あと手を振る時の風圧もすごい。
どうせ暇だし、俺はマルサさんたちの好きな人にでも会いに行きますかね。
柵を越えようとしたら、転んだ。柵に足ひっかけて。
「いってぇー」
「あらあら、大丈夫ですか?龍人様」
女冒険者と同じような、少し間延びした声。前を向けば、地球では考えられない美貌の持ち主がいた。
うわー、しかも巨乳だー(棒)
さすが。異世界は違うね。俺は惚れません。断じて惚れません。ぼっちの俺にそんな勇気はありません。
「あはは、大丈夫です。あなたが?」
「はい。マルサさんとムルサさんから聞いていると思います、ミーヤと申します」
「ミーヤ?なんかマーヤさんと似てるな。親子だったり?」
結構適当に言ってみたんだけど。ミーヤさん、驚いたように目を見開く。
当たってんのね。
「その通りです。よく分かりましたね?」
「いや、なんとなくだったんですがね。それにしても二人からも好意を寄せられるとはすごいですね」
「そんなことないですよ。こんなのを好きになるより、もっと素敵な人がいると思うんですけどねぇ」
ありゃりゃ、自分が相当綺麗なこと分かってないのか。もったいない。
「そんなことないですって。綺麗ですよ?」
「あ…ありがとうござい…ます」
なぜ照れる?
乙女心、解読不能だ。
にしてもマルサさんとムルサさんのジャンケンの風圧がすごすぎる。髪の乱れ方がおかしい。もう視界に入って入って、気になって仕方ない。あれ?ということは…
「げっ、髪束ねてた紐、戦いで切れちゃってる。ううー、また新しいの探さないと…」
「紐…ですか?村の人たちに言って、何か作ってもらいましょうか?」
そんなん出来るのか。でも、これ以上村の人に迷惑かけるわけにもいかないしな。
断っておいた。
「それにしてもあの人たち、全く終わりませんね。あっ、すいません。勝手に方法決めちゃって」
「大丈夫ですよ?私も困ってたところですから」
ブオンブオンブオンッ‼︎
おお、おお。ウッセェな!風切り音がウッセェな!
「爺、やっぱり大雑把。全然分からない。おーい、イフリート!」
「なっ、なんで分からないの!?あそこよ、あそこ!イフリート君、あそこにいるでしょ!」
「こ、この声は…」
声のした方へと顔を動かすと、女冒険者さんとルナが戻ってきていた。
女冒険者さん、しっかりと服もボロボロにされて、かつロープに縛られて。目の行き場がないのだが。
「おお、お疲れさん」
「ん。でも、なんでこいつの服、ボロボロに?」
「そうよ、恥ずかしいったら」
しっかり理由はあります。そんな変態を見るような目で見ないでください、ルナさん。
「理由の一つとしてあげられるのは、まさにそれだ」
「?どういうこと?」
女冒険者に指を向けると、
「あんた、さっき恥ずかしいって言ったよな?」
「うん、この格好で恥ずかしくないのは変態よ」
「あんたの反応で分かる通り、冒険者とてあの格好は多少なりとも堪える訳だ。それを意図的にされたことを黙っていれば俺に対する嫌悪感で、女性の冒険者が来る確率を下げることができる訳だ」
なるほど、と言わんばかりに頷くルナと女冒険者。爺さんの他にも、この人の名前も聞いておいたほうがよさそうだ。
それは後にして。この方法、確実ではない。
あくまで俺の世界では、ってだけであってこの世界でどうなるのかは実際にやってみないと分からない。
「確実ではないんだけどな…」
「あのー、お取り込み中申し訳ないんですけど…こちらの方はどなたですか?猫人族ではないと思うんですけど」
「えっ、ルナのこと?猫人だよ?村で見なかった?」
おどおどするミーヤさん。ああ、こっちの方か。
「スンマセン、間違えました。こっちは先ほどの騒動で襲ってきた冒険者の一人ですよ」
「はい?い、今なんと?」
今度は、目を白黒させるミーヤさん。先ほどから表情が豊富ですよね。多分…可愛いんじゃないですか?知らんがな。
マルサさんとムルサさんが惚れたのが分かったかもしれない。
「安心してください。ロープで縛ってるんで暴れたりはしないですよ。そもそもしないようですがね」
「私の目的はイフリート君だけよ。他の人に危害を加えるつもりはないわ」
「だそうです」
「よかったです」
ホッと胸をなでおろして安心しているのだが、マルサさんとムルサさんのジャンケンの風圧が相変わらずものすごいせいで服がたなびいている。
漫画とかの創作ならば不可抗力とかのせいで、見えるはずないところまで見えちゃうんだろうけど。僕は見ません。見えません。見る気もありません。
でも、さすがにうざったい。ので、
「マルサさん、ムルサさん。まだ終わりませんか?」
「「終わりません!」」
あいこが多すぎるんだよ。双子ってすごいね。だが、一度中断させてもらおうか。
「あの…一回やめませんか?また後で再開、というのではー」
「「ダメです!」」
こりゃもうダメだ。決着つくまでやめないわ。そう思って諦める俺だった。
全く、あんなことが起きた後だってのになんとマイペースな人たちか。
本当に…強い人たちだよ。