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七十六話 祭り

そういえば祭りがあるっていうのは、森に来て少し経ったくらいのタイミングで聞いた気がする。

 でも、今後ろからついているエルフや、ルファーや、ルナは特に驚く様子もない。

 エルフとリエルが驚かないのは分かる。この森で過ごしてきたやつらだから、祭りのことくらい知ってるだろう。

 だけど、ルファーとルナは? ……………………………………あっ、ルファーは操られたふりしてエルフのこととか探してた時か。あと、ルナは………服探す時にリエルに教えられた?

 ということは、俺だけが祭りについてこれっぽちも知らなかったと。


「リエル、ちょっと速い!」

「あっ、すいません。まさかこのお祭りを生きて参加できると思ってなかったものですから!」

「あぁ、そうか」


なんの祭りなのかは知らないけど、マルフェが言ってたことと、今のリエルの言動からなんとなく推測はできる。

 まあ、そりゃあ生きた状態で参加できるとは思わないよな。

 俺も祭りに参加することがあるとは思わなかったよ。


「主様、驚きましたか?」

「そりゃあな。めっちゃびっくりした。知ってたんなら教えてくれよ」

「教えられる状況を逃し、そのあとは気分が沈みに沈んでたので、教えられませんでした!」

「確かにそうだな。いや、お前らのせいだけど」

「本当に申し訳ない」

「思ってないのは分かった」


というか、今着てるワンピース、動きにくい。というかスースーする。

 よくこんなの着て動けるもんだよ、女性の皆さん。今スースーして気になって仕方ない。

 いや、本当なら感心なんてしたくないし、本来なら出来ないんだけどさ。

 今どこ向かってるんだ? 別にどこでもいいし、俺は案内なんてできないから全く違うとこに向かってても指摘できないんだけどさ。

 でも、大通りっぽいところから大幅に外れてはいないから、恐らく大丈夫だろう。

 そんなことよりも俺は『森人』とはいえ、他の誰とも会いたくない。現在、ローブを着てフードも被って、ワンピースを隠している。さすがに近づかれたらバレるだろうが、誰とも会わなければ気づかれない。

 と思っていたら、これだよ。


「イフリートさん、あそこのお店の食べ物美味しそうですよ!」

「うわっ、びっくりした。何、どれ?」

「あれです、あれ!」

「いや、あれとか言われても…………あぁ、なるほど。確かに目を惹かれるのは分かるかもしれない」


屋台まで行ってみると、うん、やっぱり。

 りんご飴、に近い何かだ。確か転生してすぐ街でりんごに似た果物を見たな。名前は確か………


「うわぁ、ルプの飴ですか」

「そうそう、それ」

「二つですね」


ルプ飴でいいのかな?

 この森の中では似たようで違う種類のりんごみたいなのがあるのかと思ったが、どうやら種類も名前も同じらしい。

 となると、この世界では俺の知るりんごみたいな果物はルプ以外にないと考えていいな。いや、とりあえずは、ね。

 店番の人がルプ飴を二つ取り出してきて、少し驚いてからまたルプ飴を取り出してきた。

 なんだ、どうしたんだ?


「連れの人がいるのならそう言ってください。五つですね」

「えっ、二つじゃ……」

「いえ、五つで合っていますよ」


不意に後ろから声が聞こえて、振り返ると、そこにはエルフたちがいた。

 完全に忘れてた。リエルがすごいはしゃぐもんだから。

 そういえば、三人もついてきてたな。


「はい、どうぞ」

「わあ、ありがとうございます」


店番の人が、リエルに四つ飴を渡した。

 そして俺の方に近づいてきて、俺の分の飴を渡してくる。


「今日はせっかくのお祭りです。もう少し楽しそうな顔をしてもいいと思いますよ。可愛いお嬢さん」

「お、嬢さ………ん。はい」

「それにあなたはこのお祭りの主役と言っても差し支えありません。見ていましたよ。あなたはとんでもないことをしたのですから、もう少し胸を張って」

「は、はぁ」


顔をめちゃめちゃ近づけて話された。

 普通にイケメンだった。俺は特にそれ以上のことは思わなかったけど。女子だったら、イチコロ? って奴だったんじゃない? 知らないけど。

 イケメンはすくっと立ち上がって、


「それではお金の方を」

「あっ、金、どうしよう」

「どうしましょう」

「払えないのならば…………冗談です。めでたい日なんですから、お金はいりませんよ。楽しんで」


そう言って、店番に戻っていった。

 なんだったんだ、あいつ?

 軽い冗談も混ぜつつ、話してて、普通に好印象だったけど。

 不思議に思いながら、屋台から離れて飴をなめていると、ルファーが、


「主様、軽く口説かれてませんでしたか?」

「口説かれる? なんで?」

「可愛いからじゃない?」

「ルナ、お世辞でも言わないでくれない?」


口説かれるわけないじゃん。口説かれるって、あれだろ? 男が女にするやつでしょ? 俺は男だからそんなことになるわけないじゃん。

 ………………そういや、俺がこんな格好させられてるのって、顔が女見たいからだったっけ? ……………もしかしたらされてたのかもしれない。

 うわぁ! 最悪なんだけど!

 くそ! 気づかなかったことより、されたことに対してとんでもなく情けない。そして、悪寒がすごい!


「ないとは思うが、次に口説かれてて、俺が気づいてなかったら言ってくれ」

「了解」

「分かりました」


ルファー、ルナ、頼む。

 そして、切り替えて普通に祭りを楽しむことにした。

 屋台はいっぱいあるし、きっと食べ物もたくさんあることだろう。


「よし、じゃあ何か食うか」


なんやかんやで初めての祭りだ、楽しまないと損だろう!

 よし、楽しむだけ楽しもう。

 とりあえず、ルプ飴があったんだから、祭りと言ったらこれでしょ、っていう食べ物はきっとあるだろう。それを全部食べるってことで。


「そうですねぇ、それならあそこから行きましょう!」

「うわっと、っと。急に引っ張るなよ、ってぇ!」


本当に急に引っ張るのはやめてほしい。

 俺のステータスじゃ踏ん張れずに引きずられそうになるから。

 リエルのテンションが高すぎるな。いや、テンションが上がるのは分かるんだけどさ。


「ください!」

「おい、どんなものなのかも確認せずに買うんじゃねぇよ! 俺まだ飴、食べきってない!」

「はい、どうぞ」

「そして早い!」


まだ飴がほぼ丸々残っている状態で、もう片方の手に新しく食べ物が。

 よく見れば、もうリエルは飴を食べて、今美味しく新しい食べ物食ってる。

 あれ、これ、もしかして俺、とにかく早く食べないとどんどん食べ物増えてく?

 食べよう。

 ルプ飴をなめながら、新しい食べ物を見る。

 これはもしかして……………焼きそば? いや、焼きそばっぽい何かなんだろうけど、すごい似てる。

 ルプ飴、どう頑張っても飴だから食べる速度が遅いな。仕方ない、もう噛もう。

 あっ、ちゃんと噛める。龍人のステータスでも案外どうにかなるもんだ。うむ、うまい。

 ちゃんと全部食べた。棒は……どうしよう。


「なあ、飴の棒どうした?」

「そのあたりに………」

「捨てたのか。…………………………まあ、じゃあ俺も」


よい子の皆はやめましょう。

 そんなことしないか。でも、きっと祭りのあるあるだと信じてる。誰もが一度は通る道だと思ってる。

 道端で、誰も見なさそうな場所に棒を捨てる。

 そして、焼きそばっぽいのを食べ始める。

 うん、うまい。


「次はあそこ行きましょう」

「えっ、もう!」


早いって。

 まだ食い終わってないから!

 そんな俺のことなんて構わず、リエルはまた別の屋台に向かって歩き出した。

 俺も焼きそばっぽいのを食べながら後をついていく。

 おっ、次はたこ焼きっぽい何かだな。この世界にタコがいるのかは知らないけど。でも美味しそうだな。

 リエルは走って行って、もらってきた。本当に行動の早いやつだな。


「はい、イフリートさん」

「本当に早いな、お前。いや、食べるけどさ」


焼きそばをどうにか食い切って、容器は…………………うん、捨てました。だって、ゴミ捨てられる場所ないんだもん。

 まあ、きっとどうにかなるでしょう。

 次はたこ焼きもどきか。もちろん美味しくいただきます。

 ひとつ食べてみて、うん、すごいうまい。

 いやぁ、祭りの食べ物って美味しいんだね。

 さすがに俺もちょっとテンションが上がってきたので、リエルと同じ感じのテンションでやっていこう。


「イフリートさん、次どこ行きます?」

「どこでもいいぞ、どんどん行こうぜ」


それからはとりあえず食べまくった。

 もう何を食ったのかほとんど覚えていないが、おそらく祭りと言ったらこれっていうのは、食べてると思う。

 まあ、『自己再生』のせいで、というかお陰というかで、全く腹は膨れていないが、それでも十分楽しめたと思う。

 そして今は、リエルが疲れたらしいので、配置されていたベンチに座って休んでいる。俺は口説いてきたイケメンが店番している屋台とは違う屋台から買ったルプ飴をなめている。

 なんでゴミ箱ないのにベンチはあるんだよ!

 という心からの叫びは、心の隅にしまっておこう。

 ぼーっとしながら飴をなめていると、『森人』の子供とその親らしい人がやってきた。男の子と女の子。あと母親。

 ってぇ! 子供だって!? 俺だめじゃん。

 あれ、でも震えないぞ? なんだ、誤作動か!? 俺は年下は無理だぞ!? 正常に機能しろ!


「ほら、行ってきなさい」


促されるようにして、子供二人が何かを持ってこっちにやってきた。

 何を持っているのかを不思議に思う前に俺の頭はパニック状態。子供の接近の方に思考がいってしまっていた。

 そんな俺に近づいてきた二人は、俺の目の前に来ると、


「「せーの、ありがとう」」


感謝をしてきた。

 なんだ、特に心当たりはないんだが。

 もう目の前だというのに、全く震えたりしない俺の体に困惑しつつ、感謝とともに差し出された花束を受け取る。

 うーん、花束を貰うようなことをした覚えはないな。

 でもとりあえずこれは礼儀だからな。

 俺は極力優しく笑うようにして、


「ありがとう」


状況を一切把握できない。

 どうなってるんだよ。

 すると二人の母親と思わしき女性が慌てたように近づいてくる。


「それじゃあ分からないでしょう! 聞いた話ではこの森を救ったも同然ということを自覚していないそうなのだから!」

「えぇー、でもありがとうだけでも言えってお母さんに言われたから言っただけだもん」

「私たち、別にありがとうって思ってないもん」

「あのー、どういうことですか?」


どうやら、本当に二人の母親らしい。

 そして、この人なら今がどういう状況なのかを知っていそうだ。


「あなたはこの森の仕組みを変えてくれました。それに対してほとんどの『森人』は感謝の気持ちでいっぱいです。ですからそれを少しでも表したくて。リエルさんもありがとうございます」

「は、はい…………」

「そうですか、それではこの花はありがたく受け取らせていただきます」

「お願いします。ほら、二人とも行くわよ」

「はーい、じゃあね年下」

「ばいばい」

「こら! 体はあなたたちの方が小さいんだからそういうこと言わないの!」

「………お姉ちゃん?」

「お姉ちゃん」


ひらひらと手を振って、去っていった家族を見て、俺は持っていたルプ飴を落としそうになった。

 お姉、ちゃん?

 いや、いや分かってる。俺のこの世界での姿は女っぽいというよりはもう女であるということは。

 でもさ、面と向かって言われるとさすがになんかこう、くるものがあるよね。

 お姉ちゃんかぁ。

 そして、さっきの発言から、俺よりも多少なり小さい子でさえ俺より年が上だということが判明した。これからは『森人』全員に敬語を使わなければ。

 さらにもう一つ判明したこととしては、子供だと思っていても、実際俺よりも年が上であれば俺は震えたりしないことが分かった。つまり、ロリババア、ショタジジイ(いるかは分からないが)及びそれに準ずる、俺よりも小さいのに俺よりも実年齢が高い人に対して、俺は震えない! まあ、とんでもなく限定的なわけだが。

 それでも、とっても大きい収穫だ。


「俺は少しは嬉しいことがあったわけだが、お前は対照的にテンション落とすなぁ。どうした?」

「やっぱり他の『森人』とは顔を合わせづらいです。特に親御さんは」

「なんでだよ」

「私、親に………その、裏切られまして」

「どういうことだ、それは?」

「いえ、私が勘違いしてるだけかもしれません。というか正直そうである確率の方が高いんですけど。まだ犠牲になるって分かって、あまり時間が経っていなかった時です。マルフェさんと話している父の姿を見つけまして」

「ふーん、それで裏切られたと、小さいお前は思ったと」

「……………はい」

「なるほど………………じゃあ、今から確かめに行くか」

「へっ?」


驚く声を上げるリエル。

 俺はお前に、軽い『辛い』だったら、相談しろって言ってあるから、お前にとっては突拍子もないこと言うぞ? 慣れろ?


「いや、俺が言えたことじゃないが、ずっと悩んでるより本人に聞きに行こうぜ。そっちの方が気は楽になるだろ。裏切られてても、裏切られてなくても。『そうだ、俺はお前のことを裏切ったんだぁ!』って言ったら、一発ぶん殴ってまた祭り楽しもうぜ」

「それは……そうかもしれませんが」

「よし、じゃあ決まり。案内して」


ルプ飴を噛んで食べながら、今度は俺がリエルを連れていく形で、歩き出した。

気づいた方もいるかもしれません。忘れた方の方が多いと思いますが。

 この二章、季節的には夏なんです。投稿が遅いのに、謎に話が長いせいでこのような事態になりました。

 リアルでは絶賛冬ですね。寒いですね。

 なんで主人公たち、まだ夏満喫してるの?

 ていうか、作者。お前、まだ二章終わらせないの?

 そんな思いは出来れば抑えていただいて、抑えられなかったら感想か何かのついでに愚痴ってください。アンチとしてでもいいです。

 ……………本当なら夏の間に終わる予定だったのになぁ。

 まだ続いてしまう本作ですが、もしよろしければ週末の暇つぶしに読んでいただけると幸いです。

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