七十五話 俺は男
バカじゃないの!?
させないよ、させないからね!? 本当に森から出たいなら俺を倒してから行け!
というか、だ。
「何でそんなこと考えるんだ? 森の中の方が安全だろ?」
「森は私が生まれた場所であって、きっと居場所ではありません。親にも裏切られましたし、本来ならいなくなっていたんですから、きっと周りからあまりいい目でも見られないと思います。それなら、私は森から出た方がいいと思うんです」
うっ、そこまで闇が深い理由があると断れない。
「何よりも私は、何と言われようとあなたに恩を返したい。あなたについていきたいとは言いませんから、どうかお願いします」
「いや、何と言われてもダメだよ。俺が何のために魔吸石取りに行ったと思ってるんだ。結界を維持するのに、犠牲を出さないようにするためだよ! 別に森から出て行って欲しいからやったわけじゃねぇよ!?」
「あれ、でもイフリートさん、ひきこもるなら自分だけにしろ、みたいなことをマルフェさんに言ってませんでしたっけ?」
「あの時は頭に血が上ってたの! よく考えたら自分だけ引きこもっても意味ないから皆で引きこもってたんだよね! おい、神としてなんか言ってやれ!」
妹に助けを求めたのだが、思わぬ返しが待っていた。
いや、少し考えれば分かったんだけどさ。
「別に森から出て行くのは一向に構いませんけど」
「えっ、なんで!?」
「特に縛る理由もありませんし。それに外の世界を知ってお姉様が成長なさるならそれはそれで構いません」
「お前が止めなかったら一体誰がこいつ止めるんだよ!」
「だから、止める必要がないんですって」
妹が止めなかった。つまり、もう誰も止めないということ。
どうするんだよ! 結界は維持したから『森人』のいる森自体は見つからなくても、『森人』の存在はバレるんだぞ! 大変なのはお前らじゃねぇか。
俺は面倒くさいから、関わらないようにするからな。
「そんなに心配ならイフリートが面倒見ればいいのに」
「嫌だよ! つーか、不意打ちで後ろから会話に割り込むな、びっくりするだろうが!」
「なんで?」
「面倒くさいから! あと、心臓に悪いから!」
「イフリートが助けたせいでこうなったって言ってもいいんだから、別にそのくらいしてあげてもいい」
「ぐっ、そう言われるとまったく言い返せない」
なんでこんなに言ってくるのか知らないが、ルナが正論で攻めてくる。
確かにリエルは俺があんなことしなければ、こういう考えはしなかったわけだし、リエルが森から出て行くのなら、その責任の一端は確かに俺にある。
でもさ、よく考えてみろ。俺に何ができるの? 絶賛ルナ達の村に居候してるだけだよ? どのあたりに俺に任せていい要素があるの?
今頑張って家建てようとしてるけどさ。
「分かったって言いたいけど、俺は任せられるようなやつじゃないだろ。どっちかっていうと信頼ゼロでは?」
「そんなことないですよ」
「んなわけないじゃん」
「まあ、そう思っているならそのままでいいですよ」
何言ってるんだ、こいつ。
いや、気にしないからいいけどさ。
というかこのままだと、俺が多少なり面倒見ることになってないか。
「うん、それは分かったけどとにかく俺はリエルが森から出るのは反対だ」
いくらなんでも急すぎる。
もうちょっと考えてからにしない? 考えてくれないと俺が困るんだけど。
「ダメ………ですか?」
「えっ、うん。どしたの急に?」
なんか上目遣いで見つめてきた。忌まわしいことに俺の方が身長低いのに大丈夫?
あっ、腰曲げるのが辛くなってしゃがんだ。
なんで若干殺気を含ませながら、こっち見るの? いや、だからダメだって…………………ダメだって………………ダメだ…………………ダメ…………………………ダ……………、
「分かったよ!」
根負けした。さすがにあれだけずっと見られると断るのが悪い気がしてきた。
くそ、本当ならこんなことするつもりなかったのに。俺の本来の目的じゃなかったのに。
喜び、ガッツポーズを取るリエルに対して、さすがにこのまま引き下がるわけにもいかないので、
「でも条件付きだぞ」
可能な限り譲歩しにかかる。
「まず、辛くなったり、やっぱりやめたってなったら遠慮なく帰れ。外で生活するのが辛いのに、我慢して外で生活するのは、俺が気分悪い」
「分かりました。多分そんなこと言わないと思いますが」
「ああ、そう。んで、次。自分のことは可能な限り自分でやれ。自慢にもならないが、俺は未だにこの世界の常識ってのが分からない。だから自分のことでいっぱいいっぱいになることもあると思う。そういう時には自分でなんとかしろ。そして最後に」
これが一番大事だと思う。
こいつがこの森で今までやってきたことの否定になると思うが、それでもだ。
なんと言われようと、本当にこれだけは曲げられない。
「最初に言った条件より軽い『辛い』だったら、俺とか、ルナとか、ルファーを頼れ。自分大事に行こうぜ」
我慢したせいでついさっき自分から死にに行きそうになった。
自分の感情を押し殺していたせいか分からないが、とにかくそれは危ないと思う。いじめとかのせいで引きこもりになった俺が言うんだから間違いない。
だから、今までのことは忘れて、ガンガン頼って欲しい。
「もちろんこっちが困ることだってあるだろうけど、それを気遣ってお前が潰れるよりずっとマシ。言うこと聞けよー、これでももうお前の命、2回は救ってるんだからな?」
「はい、もちろん!」
「それで良し」
はあ、結局面倒見ることになっちまった。
なんでこんなこと承諾しちゃったんだか。
後ろからルファーが近づいてきて、
「よかったんですか?」
と言ってくる。
こいつの言いたいことはなんとなく分かる。
今でも十分大変なのに、これ以上大変にしてどうするんだ、と言いたいんだろう。
「まあ、大丈夫。って言えないけど、どうにかするよ」
ルファーが心配してくれたことに若干感謝しながら、これからどうするかなぁ、と前向きに考える俺だった。
↓
少しして、リエルの、外に出るための許可をもらえた興奮が収まった頃、マルフェが急に大声をあげた。
「大幅な予定の変更はあったものの、儀式は無事執り行われた! よって皆の者、準備を開始せよ!」
準備ってなんだ?
俺が不思議がって、リエルと妹に聞くと、悪戯する子供みたいに笑って教えてくれなかった。
集まっていた『森人』も全員どこかに行ってしまった。マルフェも教えてはくれないだろうし、うーん。
まあ、何が始まるか知らないが、始まれば分かるだろ。
そんな心構えで座って待っていると、妹に急に指摘される。
「あなた、服ボロボロじゃないですか」
「ん? ああ、まあ確かに」
ローブは勝手に直るから別に気にしなくていいんだけど、普通の衣服となるとそんな機能はないからな。
確かにアクトロの戦闘とか、ルファーの戦闘とかでいろんなとこ貫通されたり、切られたりしたからな。そういえばそうだった。
「着替えましょうか」
「へっ、何を言って………うわっ!」
急に持ち上げられた。
おい、誰だ。俺がチビだからって物みたいに扱うのは感心しないぞ。というかぶっ飛ばしてやろうか。
「それはいいですね。主様、着替えましょう」
ごめん、なんでもないわ。
お前が話に入ってくると思わなかった。
「私も入れてください」
なんでリエルまで入ってくるの!? もうわけが分からないんだけど!
さすがにルナは入ってこないだろう。
「一応ついていく、面白そう」
俺で遊ぶ気満々だね!?
おもちゃじゃねぇぞ、俺は! って言いたいけど、そんなこと言えそうな状況じゃない。
俺と、囲んでるやつらとの力の差がすごいことになってるから。
ルファーに抱っこされたまま、行き先も分からず連れて行かれる。
↓
服屋だった。
しかも俺が女物の服を買わされた場所。わざわざ『強欲』で金を出して。
あの時の服どっかいったので、正直この店の店主に顔を合わせづらい。買ったの女物だったけど。
「とりあえず似合いそうな服を各々持ってきましょうか」
「俺で遊ぶ気しかないよね! おもちゃになってない、俺!?」
「そんなことないですから安心して服を着させられてください、主様」
普通の笑顔で言ってるのに、今の俺にはとても怖い。
今すぐ逃げたい、けど逃げようとした瞬間に捕まる気がする。
「えぇっと、ルナさん、でしたっけ。一緒に選びませんか?」
「別に、いいけど……」
「行きましょう!」
案外積極的だったな、リエル。
やっぱり今まで自分のこと抑えてたんだな、っていうのがよく分かる。なんか雰囲気も違うしな。
ルナも一人で探そうとしてたのに、押されてOKしちゃってたし。
俺は足をブラブラさせながら、座って待っていた。
待つこと数分。最初に服を持ってきたのは妹だった。
なんか明らかに俺が前世で着ていた服とは違う服な気がするのは気のせいだよな。
「ちょっと待て! それは本当に俺が着られるものか!?」
「着られますよ、当たり前じゃないですか。あなた、人なんですから」
「そりゃ人型だったら服なんてだれでも着られるよ! そういうことじゃなくてさ、それは男が着る服かって聞いてるの!」
「男? 何言ってるんですか、あなた女でしょう。そんな可愛い顔してるのに男なんて冗談はやめてください」
「とりあえずそれを戻そう。一回戻して落ち着いてから考えよう?」
「逃げずに大人しくしなさい」
俺が逃げようとすると、妹が魔法で止めてきた。
くそ! 全く動けん!
妹はじりじりと近づいてくる。
そして、持ってきた服を着せようとする。
やめろ、俺はこんなところで男としてのプライドを捨てたくない!
うああああああああああぁぁぁぁぁッッ!
「ふむ、いい感じですね。強いて言えばもう少し生き生きした表情が欲しかったですけど」
「無茶を言うなよ。こんな服着せられて、どうして生き生きできるよ」
ドヨンとした声で答えるしかなかった。
だって、異世界に来て、まさかさ…………こんなお姫様が着るみたいなドレスみたいなの着ると思わないじゃん。
男としての俺のプライドはもうズタズタにされてしまった。
いや、確かに俺はもう身体的に男じゃないよ? でも女でもないんだよ。
正直服への知識もないから、これがどういう服なのかも分からないし、楽しむものがないからただ絶望する以外にない。
唯一知っているのは、今着ているドレスみたいなのについている『ふりる』とやらだけ。
しかもこの『ふりる』のせいで動きにくいったらない。
下を見て、自分が女物の服を着ていると頭が理解すると、考えるよりも前に体が動きローブを羽織っていた。
「何をするんですか」
「もう無理。見てられん! ついでにお前の名前は?」
「そういえば言ってなかったでしたっけ、エルフです。宜しくお願いします。お姉様も」
うん、なんとなく分かってはいた。『森人』ってまんまエルフだしね。
すごい笑顔で言ってきたけど、俺にこんな格好させたの君だからね? ふざけるなよ?
「俺、外に出れない」
「えぇー、可愛いと思いますけど」
「俺は! 男! なの!」
「あー、はいはい」
こいつ、信じてないな。
本当なんだけどな。証明できないから、どうしようもないんだけどさ。
エルフは俺にドレスを着せて満足したのか、俺の隣に座って他の奴らを待ち出した。
さらに数分待つと、ルファーが服を持ってきた。
「探すとあるものですね。主様、これを着てください。あっ、可愛いですね」
「ありがとうって言わないから。あと、また不吉なの持ってきたなぁ」
「それじゃあ、着ましょうか」
「嫌です。これ以上、俺は黒歴史を増やしたくない」
「ダメですよ、わざわざ見つけてきたんですから着てもらわないと」
「お前、ジリジリこっち寄るな。俺、本当無理だから!」
「大丈夫ですよ」
「ちょっ、お前まじ寄るな」
また逃げようとすると、ルファーは圧倒的なステータスで俺に追いついた。捕まってしまった。
またもや完全に動けなくなった。待って、また女物の服着たくない。しかも、ルファーが持ってきた服、どぎついんだよ!
俺はこれ以上黒歴史を作りたくないんだよ!
やめろってえええぇぇぇッッ!
「やっぱり似合いますね」
「あー、うん。そうかもね」
目に入ってきたのは、白と黒の色合いの服。異世界でもお決まりというか、地球でもまだ文化として残っている服というか。
まあ、いわゆるメイド服だった。頭によく分からん白いのも付けて。いや分かるんだけど、名前が思い出せない。
なんでこんな服がここにあるんだよ! という叫びは心の中にしまっておく。言える感じじゃないし。
そして、こんな服着させて、ルファーが俺に何をさせたいのかは分かっている。
「それじゃあ主様、なりきって一つ私に………」
「あー! ごめん、なんて言ってるのか聞こえないわー!」
大声を出してかき消す。
どうせ、ご主人様とか言って欲しいんだろ? 俺がそういうこと言って一体なんの得になるの?
…………………うぇ、想像して絵面が気持ち悪すぎて吐きそう。
「とりあえずそういうのは無しで」
「そんなぁ!」
「お前が何を期待してこの服を持ってきたのかは分かった。っていうか今更だけどお前、俺との戦闘で服ボロボロになったよな? いつ新品に着替えた?」
「えっ、パッと。主様が見ていない隙に」
「マジか、お前スゲェな」
「そう思ってるんでしたら、少しくらい私の言うことを聞いてください」
「嫌だね」
全く、ろくなこと考えねぇな。
あと残っているのは、リエルとルナの二人組。
当たり前のようにローブを着て、メイド服を隠しながら待つことにする。
ちなみに、この店に来るまでに来ていたボロボロの服には着替えさせてくれなかった。なんでだよ、別にいいじゃん。少なくとも、お前ら二人が持ってきた服よりかは、俺の中では全然アリだよ。
と考えていると、リエルとルナが戻ってきた。
あれ、おかしいな。たくさん持ってきてないかな? いや、そんなわけないよな。ルナがきっとリエルの暴走は止めてくれるはずだからな。
うん、きっと…………大丈夫、だと思ってた。
「お前ら、なんだその量は! 見間違いかと思ったわ!」
「ルナさんにも手伝ってもらって、たくさん選びました」
「ルナ、お前……! 遠慮ってもんをさぁ!」
「選んでたら楽しくなってきて………」
口笛吹けてないからね!?
さすがに身の危険を感じて、本気で逃げようとした。
無理だった。足を後ろに運ぶ暇すらなく捕まった。いや、エルフとルファーがいる時点で捕まるのは分かってたけどさ。ここまであっけないとは。
もうこの段階まで来てしまうと、抵抗するのが不可能だ。覚悟だけしておいた。
「……………………………」
着させられていたのは、俺がほぼ唯一知っていると言っても過言ではない女子用の服。ワンピースだった。白の。赤と白って合うの? 俺分かんないんだけど。
正直俺はこれ以外女子用の服を知らん。
つまり、俺にとって女子イコールワンピースというイメージがあるわけで。
「……あの、大丈夫、ですか?」
「俺は男俺は男俺は男俺は男俺は男俺は男」
「主様が女性用の服を着すぎて男としての存在証明を始めた!」
もう無理、ホント無理、マジで無理。
落ち着け、思い出せ、男だった頃の俺を。
引きこもりでぼっちで、小学校の時はいじめられてて、身長は小さい時から変わらずチビで、あとモテなくて、家からは出なかった時の俺を!
あれ、これもしかして思い出してもあんまり意味ない?
むしろ気分が沈んできた。
「なぁ、こんなことして本当に楽しいのか? こんな服着させて」
「楽しいです!」
そんな断言するか。
本当でも、お世辞でも辛い。
っていうか、男物の服は一体いつになったら着させてくれるんですか?
「さあ、どんどん行きますよ!」
「まだあんの!?」
それから先のことはほとんど覚えていない。
他にも色々と着させられたんだろうけど、俺には記憶がない。多分気絶してたんだと思う。
なんか満場一致っぽい感じの雰囲気を漂わせて、最終的にリエルとルナが選んだ白のワンピースが着させられていた。
何も思わないことにした。
もう日も暮れて、外は暗くなっているだろう。と思って、店の外を見ると、何やら明るい。
なんかやってるのか?
外で何をやっているのか考えていると、急にリエルが俺の手を引いた。
「さあ、イフリートさん。行きましょう!」
「えっ、待って! この格好で外出るの!?」
「はい!」
「ちょっと待って、ちょっと待って!」
慌ててローブを羽織る、と同時に店の外に出てしまった。
目に飛び込んできたのは、屋台?
えっ、何どういうこと?
「これ、何?」
「お祭りですよっ! いっぱい遊びましょう!」
祭り? えっ、え?
俺の頭がまだ困惑する中、リエルに連れられ歩き出す。




