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七十一話 時間

森の中では、イフリートさんがいなくなってから数日が経ちました。

 まだまだ時間はある、と言いたいのですが、マルフェさんは私がイフリートさんに期限を伝えたことを知ると、期限を早めてしまったのです。

 人の命を短くするなんてよくできますね、と言いたいのですが、流石に言える度胸はありません。というか、言えていたならきっとこんな人生は歩んでいません。

 イフリートさんが本当に犠牲を払わずに結界を維持する方法を見つけたとしても、期限に間に合うのか。そもそも、その方法が使えるのかは分かりません。

 そんな不確かなものを信じる人は全くいませんでした。

 私ももちろん信じてはいないのですが………なんというか、あの人が使えない方法を持ち込んでくる人には見えないのです。

 龍人という種族なので、ステータスは低くて、体格にも恵まれておらず、嘘をついている可能性だってあります。それでもあの人が嘘をつかないと思えるのは一体、どうしてなのでしょうか?

 ………………………多分おかしいからですかね。

 この森に入れるだけでも十分におかしいですが、この森から出て行く理由もよく分かりませんでしたし。

 方法を見つける理由が、この森の仕組みが気に入らないから、どうのこうのと。

 まるで子供です。私よりも小さかったので、言動以外は本当にただの子供でしたけど。

 そんなことを考えながら、ゆっくりと起き上がりました。

 今日は大事な用事があるので早く起きなければいけません。と言っても、私には全く大事でもなんでもなく、マルフェさんたちにとって重要なだけなのですが。

 服も決められたものを着ないといけませんし、早起きしなければいけません。朝は苦手なので嫌なことばかりです。


「はあ………」


はっ、いけません。流石にあからさま過ぎました。

 でも、目的地まで一人で歩いていくというのは、存外……その………暇なんです。

 最近は、妹を自称するあの子の姿も見ませんし。いつもならこういう時には颯爽と現れて、お話ししてくれるのですけど。

 いつもなら……あんなお話や、こんなお話で…………。

 っと、着いていました。

 さあ、ここからはいつもの私とは違い、人と距離を置くリエルです。

 イメージして………よし。これで大丈夫。

 建物の敷地の中に入り、扉を開けます。

 玄関があり、そして男性がいました。


「ああ、来てくれたんだね! ありがとう、リエルさん。会えて嬉しいよ!」


とっても好印象な声。

 なのですが、あまりに体型の方がよろしくないです。

 見るからに肥満体型です。見事です。

 そうなのです。大事な用事というのは、お見合いなのです。

 魔道具に吸収される前に、結婚しなければいけないという決まりのため、私は今目の前にいるこの人と結婚しないといけないのです。

 先ほどお見合いと言いましたが、強制です。私と結婚したいと希望してくれた人の中から一人を、マルフェさんが選び、その人と結婚させられるのです。

 私と結婚したいと思ってくれる人が少ないのは分かっています。女性としての魅力は無いも同然ですし。どうせ私の胸は壁ですよ。

 そういうわけで、そんな私と結婚してくれるという優しい方なのですが、いかんせん体型がアレなので、生理的に無理というか。

 しかし、それを表情に出すわけにはいかないので、気をつけます。


「ささ、中に入ってくれ!」


言われるがままに、中に入ります。

 そして、こんなことになっている原因の顔を見ることになりました。


「ああ、マルフェさん。いたんですか」

「いなくてどうする。お前の通過儀礼だ。この森の長として見届けないわけにはいかん」

「そうですか、分かりました。ですが、邪魔はしないように」

「しないとも」


あなたのせいで、こんな状況になっているんですから邪魔されたら困ります!

 選り好みしている場合ではないのは分かっていますけど!

 最初に犠牲になった方が既婚者だったということで、このようなことをしなければなりません。

 ため息をつきたくなるのは不思議ではないはずです。まだ結婚するような年ではありません。そして、できれば自分で選びたいです。

 悪意のある選び方してませんか、マルフェさん。そうですよね? 絶対にそうです。

 どうやってもこの人と結婚するという事実は変わりません。だって、そういう決まりですから。

 つくづく逆らえない自分が嫌になります。


「リエルさん、僕は本気です。どうか答えを聞かせてくれないか?」

「…………………」


この人、私が断れないって分かってますよね?

 分かっているならタチが悪いですが、分かっていなければ、さらにタチが悪いですよ?

 いえ、これは分かった上で言っていますね。

 最悪です。マルフェさん、性格というのが、私の夫を選ぶ上で必要な観点として存在するのかは分かりませんが、もう少し調べてから決定してください。

 とりあえずはこの危機を脱しないといけません。

 しかし、どう答えれば……………そうです。

 考えた末にたどり着いた答えを口にします。


「………すみません。まだどうすればいいのか分からなくて………もう少し待ってもらっていいですか?」


他にどう答えればいいのか全く分かりません。

 これでダメならまた別の方法を……と思っていましたが、


「そうか、確かにリエルさんはまだ若いもんね。戸惑ってしまうのも無理はない。うん、まだ時間はあるから……ゆっくり考えてくれ」


最後の部分だけ、やけに気味が悪く聞こえたのは気のせいのはずです。

 この人、本当に無理です。


「それでいいのか?」

「はい、せっかくマルフェさんに選んでいただきましたが、リエルさんの気持ちが伴っていない時に無理やり、というのは……」

「そうか、では頃合いを見てまた訪ねる」

「はい、お願いします」


できればもう二度と来たくないです。

 何事もなく、男の家を出ることができました。良かったです。

 さて、問題はこれからです。なんとかしてイフリートさんが戻ってくるまでは耐えなければいけなくなりました。

 イフリートさんが手に入れてくるであろう方法に期待しているわけではありません。

 あくまで目安です。きっと方法を遠くまで探しに行っていることでしょうから、戻ってくるのはギリギリのはずです。

 つまり! それまで耐えきることができれば、私は結婚しないまま魔道具に吸収されることが…………でき………る。


「どうした? 明るい顔から一変、絶望のどん底にいるような顔だぞ」

「! い、いえ、そんなことはありません」

「それならばいいが。あまり気を落すな。お前はこの森の歴史に刻まれるのだ。儀式当日までには戻しておけ」


気づかれていました。

 しかも、最後の言葉は励ましではなく、忠告です。この人に心はあるのでしょうか?

 いえ、もしかしたら今のがマルフェさんなりの励ましであることも…………ないですね。まず間違いなくありえないです。割と長い付き合いですが、そういう方向であった試しがないです。


「分かっています」


途中でマルフェさんと別れ、自分の部屋に入り、ベットに倒れ込むと、深いため息が自然と出ました。


「はあ〜〜」


初めて森の中に足を踏み入れたイフリートさん。

 彼が来てから、今までと何かが変わってしまった気がします。

 『森人』にああいう人がいないせいで、そう感じてしまっているだけかもしれませんが、なぜかそう感じてしまうのです。

 でも、彼もきっと物語の王子様のような存在ではありません。

 だから、私一人でこの問題を解決しなくてはいけません。

 いえ、少し違いました。私と二重人格のもう一人の私で、でした。

 イフリートさんが戻るまで時間もあることでしょうし、頑張りましょう!



  →



 朝になった。

 ルナも起きてきて、特に体に支障はないことを伝えられた。

 これで今日も活動できる。森に一刻も早く戻りたいからな。

 大丈夫かな、マルフェのことだし、リエルが言ってた日程より何週間か短縮してたら終わりなんだけど。

 …………急ぐか。


「おい、ルナ。本気の速度で行こうと思うんだけど」

「あれ、本気じゃなかったの?」

「一応」

「イフリートって、本当に龍人? 全然違う種族だったりしない?」

「俺もその可能性を信じたいが、ステータスにはちゃんと龍人って書かれてあるんからなぁ」


俺だって、なれるなら普通の種族が良かったよ。

 もっと言うなら、超強い種族になりたかったよ。それこそ『神種』とか、序列3位までの種族に。

 でも、これ現実なんだよ。


「と言うか、龍人じゃなかったらルナ達とも会ってないだろ」

「確かに。むしろ龍人で良かった?」

「まあ、転生して最初の方から好意的に接してくれる人たちがいたのはスゲェ良かったよ」


本音言ってて、急に恥ずかしくなった。

 無かった方向で行こう。


「そんなことより、もう行けるか?」

「いつでも大丈夫」

「よし、それなら出発だ」


片付けるものはほとんどないので、手早く済ませて、移動を再開する。

 今度は魔術の威力を常に最大で。反動で加速して、最高速が切れるタイミングでまた加速。今までよりも早いスパンで魔術を使い続ける。

 後ろを振り向くと、ルナが小さく見えるくらいには離れていた。

 咄嗟にブレーキをかけようとするが、ルナが止めた。


「大丈夫、私も本気出す!」


地面を力強く蹴り、すぐに俺の速度に追いついた。

 ルナがもっとゴツかったら、リビングアーマーだったな。思い出して怖くなってきた。普通にホラゲーだったよ、あれは。

 ともかく全力で向かっているのだが、森が遠い。村からは近かったのだが、どうにもダンジョンからは相当な距離になる。いくら速度を上げたとはいえ、正直微々たるものだろう。

 今のうちに使ってもいいやつはいくつかあるんだが、森の中でマルフェが抵抗してきて、戦闘に、なんてことも考えられないわけではないので、できれば消耗は避けたい。

 『自己再生』あるお前が何言ってるんだ、と思われるかもしれないが、思っている以上に疲れるのだ。特に規模の大きい魔術を使うと。

 普段なら、『自己再生』が回復してくれるのをほんの数瞬待ちながら、魔術を構築しているので特に支障はないが、戦闘中ともなるとそうもいかない。

 そのせいか、無限と表示されているはずの体力が底を尽きるような感覚と、倦怠感が体を支配してくる。

 ゆっくりやれば、それで万事解決なのだが、今の状況だとちょっと。


「イフリート、まだ?」

「ああ、一応魔力感知は使ってるんだけど、やっぱり遠いな」


魔力を伸ばしているが、それでも森まで感知することができない。

 と言うか、ルナさん? まだ出発してから一時間も経ってませんからね? 確かに速度は上げたけど、こんな短時間で着くのはいくらなんでも速すぎだろう。

 あれ、なんか弾かれた?

 少し時間を空けてもう一度確認するが、魔力が弾かれている。

 これはもしかして………………おおっ! 近くなってきたのか!

 森の結界まで感知できるあたりまでは来たのだ。まあ、魔力は相当長く伸ばしているので、まだ距離は全然あるが。それでも十分近づいてきた、はず。


「感知はできたから、あとは突っ走るだけだな」

「イフリートは別に走ってない」

「そういうこと言わなくていいの!」


速度は変わらないが、精神的には楽になったので、先ほどよりかは楽しく移動できた。



  ↓



 そして、


「着いたな」


久しぶりなのかは正直疑惑の判定だが、ダンジョンに潜っていたせいで、最近あった気もしない。

 そんな感じの、特にこれといった特徴のない森がある。俺の目には、そう映っている。

 ルナには全く見えていない。俺が止まれって言わなかったら、おそらくぶつかっていただろう。

 ルナの『色彩操作』もやっぱり認識してないと色分けできないのか。


「本当に、私の目の前に森があるの?」

「おう、あるある。そういう結界が張ってあるから分かんなくても仕方ない」


必死に目を凝らしても多分見えないだろうからやめろルナ。

 『森人』の奴らを200年間も引きこもらせてきた結界だぞ。

 さてと。この先には気に食わないマルフェがいて、諦めてるリエルがいて、操られてるリルファーがいる。

 全部解決とまではいかないまでも、最後のは絶対に解決させる。

 よーし。


「ルナ、今から森に入る。ついてこい」

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