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七十話 後処理

ダンジョンから出るための扉に入った俺たちだが、なぜかとても気分が悪くなっている。

 すごいグワングワンして気持ち悪い。

 よく分からない空間を、何もしてないのに移動しているのだが、運転が荒いぞ。

 くそ、本当に気持ち悪いから早く終わってくれ。

 と思っていたら、終わった。

 外に放り出されて、地面とキスしたが傷は『自己再生』で治るので、何の問題もない。

 問題としてすぐに思い浮かんだのは、


「俺、仮面被るの忘れてた」


もしかすると、俺が顔を上げると、そこは思いっきり人前かもしれない。

 イストたちの時は非常事態だったんだ。何の事情もないのに、顔を見せたくない。

 『血への渇望』を使って素早く仮面を被ると、周りを見る。

 すると、俺の知らない場所だった。どこだここは。暗いな。

 イストたちなら知ってるかな。

 何て考えていると、すぐ上から何か降ってきた。


「おっふ! ごふぁ! うげぇ! ぬあぁ! うううぅ!」


俺が一番最初に出られたみたいで、残りの全員が降ってきた。

 他の人よりも小さい俺に残りの全員の体重が全て乗っかれば、潰れる。

 ギブアップという意味を込めて、地面をバンバンした。

 助けてくれぇー、重いよー、死にそうだよぉー、下手したらもう死んでるよー。

 なのに、誰一人として起きてくれない。くそ、出口からの道で気持ち悪くなったせいで俺以外全員ダウンしちまったか。

 もう一度『血への渇望』を使って抜け出そうとしてみるが、びくとも動かない。


「助けて!」


他に手段もなかったので、最終手段を取ることにした。

 周りの人に助けを求める。

 ここがどこなのか分からなかったから、助けを呼んだらやばい人が来るかもしれないと思ってやめておいたんだが、さすがにこの状態が続くとやばいので、呼びました。

 だが、誰も来なかった。

 くそ、人気がない場所だったのか!


「なんだよ、うるせぇなぁ」


気のせいだったようだ。

 思いっきりいました。


「助けてください」

「あぁ? お前は…………って事はルナもいるのか?」

「えっ、あんた!?」


ルナの登録してくれたあの性格の良いおっさんじゃないか!

 助かった! これなら話を早く進めることができるぞ!


「とりあえず助けてくれ」

「あ、あぁ。確かにこの状況は助けた方が良さそうだ」


おっさんは近づくと、俺の上に乗っかっている奴らを一人ずつどかしていってくれた。

 楽になった。良かった。

 『自己再生』に頼って、すぐに回復する。

 これでようやくちゃんと動ける。

 そしておっさんがいるってことは……


「ここは……ギルド?」

「ああ、そうだ。お前が来たギルドの地下だ。そして、なんでここにいるんだ? 立ち入り禁止のはずだが」

「ダンジョン行って、戻ってきたんだから察してくれよ」

「おまっ………本当か!?」

「ちゃんと攻略してきたよ。証拠を聞かれると、俺は持ってないけど。他の人が目を覚ましたタイミングで聞いてください」


またもや皆が起きるまで待ってないといけなくなった。

 とりあえずいつまでもここに居られると困るらしいので、おっさんが別の部屋に案内してくれた。やはり優しい。

 それにしても、こいつらよく気絶するな。いや、俺も同じくらい気絶するんだろうけど『自己再生』ですぐに起きられるんだろうな。

 いつになっても俺は『自己再生』から離れられないんだろうなぁ。

 なんて思っていると、誰かが起きた。


「……………イフリート、無事?」

「ん? おう、大丈夫」


少し周りを見回してから、俺の安否を確認した。

 そういえば護衛役なんて役柄についてたな、ルナ。


「アクトロとの戦闘では助かったよ」

「そこまで役に立ててない」

「所々守ってくれなかったらあいつは倒せなかった」


実際ルナが守ってくれなかったら、攻める余裕はなくなっていただろう。

 しかも、最初ルナがアクトロを止めてくれなかったら多分俺は全く戦闘に参加できずにいただろうから、本当にルナには感謝してる。

 他の人たちもそのあとすぐに起きてきたので、ギルドの受付の方に出た。


「おお、他の奴らも起きたか。それで? 本当にダンジョンを攻略したのか?」

「イストさん、お願いします」

「ちゃんと証拠はある」


イストがドサっとダンジョンで手に入れた物を出す。

 興味深くおっさんが、それを見つめる。多分、『鑑定士』を使っているんだろう。

 全ての品を見終わると同時に、拍手し始めた。


「なるほど、確かにこれはダンジョン攻略の証拠だな。よし、分かった。お前たちのダンジョン攻略を認める。ちょっと待ってろ、ダンジョン攻略が成功した時用の紙がどこかにあったはず」


ルナは反応しなかった。俺も特に何も感じなかったが、イストたちはガッツポーズした。

 それだけダンジョンを攻略したということが嬉しいのか、それとも他に何かあるのか。どっちにしろ目的は達成したらしい。

 俺もわざわざダンジョンに潜った甲斐があった。ちゃんと目的のものは手に入れた。

 というわけで俺はもう今すぐにでも森に向かいたいんだけど。


「おい、そこのそわそわしてる仮面野郎。ちょっと待て、ダンジョン攻略は名誉なことだから、その分手続きとか色々とあるんだよ」


おっさんに注意された。

 さすがにあからさますぎた。

 その後、何か書類を書かされ、イストたちは帰った。だいぶ時間を使っての作業だったのに、俺とルナは級が一番低かったせいで、級を上げるという無駄なことまでやらされた。

 イフリートとして、もう一度冒険者登録するつもりなんだから、別に級は上がらなくても良かったのにな。まあ、不可抗力か。

 級に関してはどうでもいいので、何も聞いていない。奥義、聞き流しである。


「よーうやく終わったぁ! ルナ、このまま森まで直行する。俺の後をついてきてくれ」

「させねぇよ。おい、コラ。ちょっとツラ貸せや」

「……………ツカサ、まだ続くの?」


言い忘れていたが、ルナも途中から手続き等に飽きていた。

 級が上がる時に、多少テンションが上がっていたが、それより前もそれより後もほとんど違うこと考えてた。

 なので、ルナもこれから面倒臭そうなことになることに対して不満を言っている。

 分かってる、俺ももうやだよ。


「仮面野郎、この前はよくもやってくれたな」

「悪いが、この後予定が入っている。付き合えないな」

「てめぇ………立場ってもんが分かってないみたいだな」

「そちらこそ、この前負けたことを忘れているのか?」


ルナにだけど。


「ああ、確かに負けたな。だが、この前と決定的に違うことがあるぜ。お前ら!」


リーダーらしき奴から、一声かかると、ゾロゾロと人が集まってくる。

 なるほど。全員、完全戦闘態勢の上、数も増やしてきたか。

 まあ、戦闘のプロじゃないから、それっぽい感じに言ってみただけだけど。


「やっちまえぇ!」

「予定があると言っただろう」


殺気を出してから、魔術で全員気絶させた。

 正直、龍人であるイフリートとしてこの状況に陥ったら、こんなことしていいのか、ということになるが、今は全く問題ない。

 何故なら、今の俺は覆面のツカサだ。種族に関しては何の心配もない。特に、俺がイフリートとして冒険者になった時は困らないだろう。

 そんなわけで、こんなに思いっきり魔術をぶっ放したりしてしまったわけだが、まあ、この後どうなるかは知らね。


「ルナ、行くぞ」

「了解」


俺は魔術の反動で、ルナは素のステータスで移動を始める。

 話すこともないので、黙々と進むだろう、と思っていたが、そうでもなかった。


「良かったの? あんなに目立って」

「そんなに心配されることだったか?」

「あの数を一瞬で制圧は、さすがに目立ち過ぎ」

「マジか。そこまで深く考えてなかったからな。でも、目立ったところで実際には存在しない、ツカサっていう冒険者の噂が立つだけだろ。本当の俺はこっちだからな」


能面を外しながら、答える。

 納得したのか、してないのか、ちょっと分からない表情だったが、それ以上話しかけてこなかったので、話が終わった。

 そのあとは、行きと同じようにただ黙々と移動するだけだった。

 行きと違うのは、目的地までの道のりを覚えているから迷う心配がないので、行きよりも速度が速いことだ。

 つーか、ちょっと速すぎない? この速度は幾ら何でも。森まで体力保つのか?

 それを呼んだように、ルナが急に話しかけてきた。


「ツカサ、じゃない。イフリートは回復させる手段を持ってる?」

「んぁ? えっ、あ、うん。あるけど、それがどうした?」

「体力が少なくなったら、言うから回復して」

「お、おう」

「急いでるんでしょ?」

「お願いします」


本当に主人公みたいである。頼りになるね!

 そういうわけで、今日1日で森まで行くか。鬼畜だと思うな。少しでも早く森に着きたいのだ。

 俺の予想通り、ルナの体力はすぐに切れそうになるので、その度に『譲渡』で体力を回復させる。

 とにかく頭おかしい速度で駆け抜けていった。魔術を使い慣れてきたおかげで余裕はあったけど。

 なのだが、ダンジョンから出て、そのあとの面倒臭い手続きがあったせいで、ギルドから出た時間が想像以上に遅かった。

 アクトロと戦う時に、数えていた体内時計を止めちゃったし、ダンジョンから出るときの気持ち悪くなる道も時間経過が分からないから、仕方ないけどさ。

 そんなわけで夜になった。真っ暗である。

 まあ、頑張れば進めないこともないんだが、やめておこう。

 ルナが精神的にキツそう。


「大丈夫か?」

「大丈夫ではあるんだけど、いつも動いてるよりも動いて、全く平気っていうのがなんか気持ち悪い」

「まあ、そうだな」


俺だって最初は気落ち悪く………なってないな。なんでだ?

 はっ、まさか! 引きこもりで運動してなくて、自分がどれくらい動けるか覚えてなかったから?

 うーん、そう考えると引きこもり生活は良かった、のか?

 いや、別に転生するって分かってたから引きこもったわけでもなんでもないんだけどさ。

 こればかりは慣れるしかないよ。と、経験者でもない俺が語る。


「食欲あるか? あったら何か作るが」

「今はいい」

「そうか。休めよ」


何か作るって言っても、俺料理できない人なんだけどさ。

 だって、情けない話、俺が準備しなくてもどうにかなったんだよ。俺は料理なんてしなくてよかったんだよ!

 というわけで俺はこれからも料理なんてしない。

 あれ、ルナがどっか行った。一体どこに行った? そこまで遠くには行って無いと思うから、特に探しに行ったりしないけどさ。

 暇である。思い返せば俺、だいぶ待ってるね。いちいち思い出したくもないけど。

 少し待っていると、後ろから急に気配がした。

 びっくりして振り向くと、ルナがいた。どうしてか、あんまり服着てなかったけど。

 下着……………? これ、下着だけ着てる? 下着………下着!?


「うわぁぁっ! なんて格好してんだよ! うわ、鼻血!」


くそ、女子のそういう格好に慣れてないから、鼻血が。というか慣れてたまるか! どういうシチュエーションだ!

 引きこもりには刺激が強すぎて、死ねてしまう。

 本当になんでそんな格好してるんだ。ここ思いっきり外だからね!? 誰がどこから見てるか分かんないからね!?


「いや、別にイフリートはそういうことに興味ないだろうから」

「本当にやめて! 服着て! 一応男だからな!?」

「気にしないからいい」

「えぇーと………………あっ、その姿のままだと俺の護衛はできない、と思います」


目をそらして苦し紛れに言った言葉が、ルナに刺さったらしい。


「なるほど、じゃあ着る」


そう言って、服を着だした。

 なんなんだ、お前は。常識知らずの主人公かよ! しかも俺みたいにこの世界の基準を知らないんじゃなくて、人との接し方の常識を知らないから、下手したら俺よりタチ悪いし!

 ともかくルナは服を着ている。なんとなく髪が濡れていることから、多分シャワーでも浴びてきたんだろう。言って欲しかった、そういうことは。

 急にいなくなるし、急に下着姿で現れるしで、心臓が引き千切れそう。

 そしてさっきのことは忘れよう。抹消。


「もう服着たか?」

「うん」

「食欲は? あるならその方がいいけど」

「理由は分からないけど、お腹空いてない。イフリートの技能のおかげ?」

「あー、もしかしたらそうかもしれない」


『自己再生』にかかれば、空腹は感じさせないくせに、食べようと思ったらいくらでも食べられるという意味の分からない体にすることだって可能だ。

 劣化版とはいえ、一時的な効果はあるだろう。

 となると、特にこの場に留まっている理由もない。

 よし、じゃあ行くか! ともならないんだけどさ。

 ルナは大丈夫そうではあるが、これだけ『譲渡』を一個人に使い続けたのは初めてなので、どんな効果があるのか分からない。

 今日は夜が明けるまでは休ませよう。

 それにしても、森の方はどうなってるんだろうか。マルフェが時間を早めたりしてなかったらいいんだけどな。

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