六十八話 物色
…………勝った? 勝った、よな?
後ろにはアクトロがちょうどいた場所に灰が残っていた。
アクトロは完全に消滅した。ということは、最後のボス戦を俺たちの勝利で終えたってことだよな。
本当なら全力で叫びたいが、それはできなかった。腹に大穴が開いてしまっている。すぐに治るとは思うが、いくらなんでも無茶しすぎた。
正直、一瞬でも気を抜いたら気絶しそうだったし、ずっと並列思考と直列思考を使い続けていたせいで頭もいつ吹き飛ぶか分からなかった。
しかも、そこに止めの『操炎』と『蒼炎』だ。あれにどれだけの苦労がいるのかは俺が一番分かっている。あの状況では不可能に近い難易度だった。
それでも、なんとか成功できたのは、何を隠そう『自己再生』のおかげだ。本当にありがとうございます。
っとそんなこと考えてる場合じゃねぇ。イストたちの治療をしないと。咄嗟に魔術で防御したけど大丈夫だったかな。
しっかりと魔術で覆ってあった。壁を壊していくと、全員の姿があった。
一番ひどいのは、カラか。出血量がすごい。致死量にまで達するかもしれない。一刻を争う状況だな。
うぅ、できればやりたくないんだが、仕方ないか。
俺は指に傷をつけて、血を垂らすとカラの口に入れる。
『譲渡』は速攻承諾すると、カラの傷が治る。うーん、俺は医者じゃないが、今まで『自己再生』の劣化版が効かなかったやついないし、顔色も元に戻ったし、多分大丈夫だろ。
他の三人にも同じことをして、傷を治していく。
うん、完全回復したな。とりあえず見た目は。
とりあえずみんなが起きるまでは待つか。
ん? 一人足りない? あっ。
俺はアクトロを倒した時にいた場所に近くまで駆け寄って、
「悪い、お前のことすっかり忘れてたわ」
「ひ…………ひどい」
「いやー、お前なら平気かなって。大丈夫か?」
「ちょっと休めば大丈夫だと思う」
「なら良かった。やばそうだったら言えよ?」
さて、ひとまず全員無事だったな。
俺もそろそろ『自己再生』のおかげで全快しそうだし。頭の痛みが引いてきた。
となると、暇だな。
アクトロを倒したからか、謎の扉ができている。これで階段ができていたらやってられなかったが、そういうことにならなくて良かった。
なので、扉の先に行ってもいいんだが、一度行ったら戻れないみたいだったら、無防備なイストたちを置いていくことになるのでむやみに入りたくない。
そもそも俺たち全員でアクトロに勝ったのだから、俺だけ先に見るようなことはしたくない。
というわけで、待っていなくちゃいけなくなった。
さっきは暇だと思ったが、案外考えられることはある。
まず、アクトロ。あいつ自分のこと、魔人って言ってたな。ということは、俺がなぜか持っている魔人技能とやらはあいつも持ってるんじゃないのか?
なんで魔人しか獲得できない魔人技能を俺が獲得しちゃってるのか、少しは情報が欲しかったんだけどな。
最初に思いっきり吹っ飛ばされたりしなければ、話せたかもしれないのに。
まあ、完全に不意打ちだったし、あの距離で攻撃してくるとは誰も思わないだろうから仕方ないか。仕方ないな。
「あとは自称相棒のことか」
なにやら目的があるとか言ってたな。
そして、俺の本当の力がどうのこうの。とにかくちゃんと力を使えるようになれ、的なことを言ってた気が。
あいつが一体何者なのかはまだ分からないが、とりあえずあいつは俺を利用してるってことだ。
うーん、できるなら利用されたくないけど、またこんな風に戦闘になるなら強くなるしかないから、どうしても利用されてしまうな。
まあ、あいつの目的が達成されてしまったら、その時はその時だ。どうにかしよう。
今は何より、アクトロを倒せたことを喜ぼうじゃないか。
と言いつつも、正直ひたすら謎が深まっただけだし。
おい、アクトロ。どうして俺は魔人技能を獲得してしまっている。
おい、相棒。お前が俺の本当の力を知っているなら、どうして転生者は全員赤子から、というルールを無視して、気付いたらこの体になっていたのか知らないか?
何度聞いたところで、答えなんて返ってこないけど。
「はぁ」
深いため息をつきつつ、このダンジョンに来た本来の目的を思い返した。
このダンジョンに潜って、まだ一週間も経っていないはず。俺とルナだけの段階から攻略速度は早かったが、イストたちが加わったおかげで更に早くなった。
そんなわけで予定よりも相当早いペースでこのダンジョンを攻略できた。あとは目当ての魔道具を回収して、ダンジョンから出て、森に向かうだけ。簡単なお仕事だ。
簡単、だよな? さすがに森の外には出てこないはずだから、森に到着してから、リエルが犠牲になるまでには余裕で間に合って、多少時間はあるはずだ。
そこはたいして心配してないし、障害でもないだろう。
問題なのは、俺が求めている魔道具が、どれだけ使い勝手の良いものなのかどうか、ということ。
当たり前だが、発動させるためには一ヶ月以上準備をしなければいけない、なんて使えない魔道具だったら、俺はわざわざ時間を使って、ここまで来た意味はない。
それなら、最終手段、魔道具の作成をした方が少しはマシだと思う。
「どっちにしろ、見てみないと分からないんだよなぁ」
そういうわけなので、どうしてもこの先に進みたいんだが、イストたちが目覚めない。
おかしいな、『譲渡』はちゃんと発動したはずなんだけどな。
「う、うぅ。こ、こは?」
あぁ、目覚めた。良かった。
最初に目覚めたのはイストか。一番重症だったカラはまだ目覚めないか。
相当な大怪我だったのに、俺の『譲渡』が間に合ったのはルナとコテルが魔法で治療しておいてくれたおかげだと思う。一命は取り留めていた。すごいグロかったけど。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、ツカサちゃん。魔人は?」
「倒しました」
「そうか、ありがとう………………え、倒しましたの!?」
「あ、はい。倒しましたの」
「嘘だろ、魔人って確か相当強かったよな、というか現に強かったし」
すごい慌ててるな。
この感じだと俺だけで倒したと思われてるんだろうが、正直ルナの協力あってのことなんだよ。アクトロにとどめをさせたのはルナがアクトロの動きを抑えててくれたおかげだし。
そういうわけなので、後でルナのことを褒めてやってください。
「あっ、そうだ。他のみんなは?」
「すぐそこで寝てますよ。ほら」
「本当だ。でも、完璧に傷が治ってるな」
イストが自分の太ももあたりをさすりながら、不思議そうにしている。
そこについては聞かないでもらえるとありがたい。常識がよく分からないので、『譲渡』について教えていいのか分からないから、説明するのが面倒臭い。
「それにしても、やっぱり俺の判断は間違ってなかったな」
「判断、ですか?」
「うん、魔人の前のボス戦でツカサちゃんたちを戦闘に参加させなかったでしょ? あれは少しでも二人に温存しておいて欲しかったんだ」
「あぁ、それで」
そのおかげでようやく回ってきた活躍の機会が、最初っから本気で戦う羽目になりましたけどね。
まあ、それについては良かれと思ってやってくれたことなので、別に構わないが。
「とりあえず他のみんなが目覚めるのを待ってから、進むつもりです」
「それがいいと思うよ。この先、もしかしたらまだ戦闘があるかもしれない。戦力は多いほうが良いだろう」
「賛成」
「うぉ、びっくりした」
後ろから急にルナの声が聞こえた。
休憩はもう十分取れたらしい。
元気になったのはいいんだけど、できればもう少し俺の心臓に負担をかけない登場の仕方をしてほしい。
「ルナか、大丈夫だったのか?」
「うん、イストも平気そう」
「おかげさまでな。きっと二人で魔人を倒してくれたんだろ? ありがとな」
「別に大したことじゃないから気にしないで」
あのアクトロを倒したのを、大したことじゃないとか、すごいなぁ。やっぱりどこかの物語の主人公なんじゃない?
「ツカサちゃんもルナもまだ全然元気そうだな。うんうん、それに比べて俺たちは……」
「気にしないでください。相性が良かったとかそういうことですよ。単純な技量じゃ皆さんには勝てませんよ」
「そう言われると、むしろ情けなくなるよ」
逆効果だったか。
うーん、落ち込んでいる人の励まし方がよく分からん。
そして、俺は『自己再生』があるからともかく、ルナはどうして元気なんだ。休憩はそんなに長くなかったぞ。まあ、主人公だし。きっと主人公補正だ。
「なあ、ルナちょっといい?」
「何?」
イストから少し離れた場所に移動すると、俺はルナに疑問に思っていたことを言ってみた。
「なんでお前魔力見えてたの?」
そう、なぜか残留していた魔力だが、本来は見えないはずのものだ。
俺は相棒に魔眼を貸してもらって見えるようになったが、ルナに魔眼なんてものが備わっているとは聞いていない。
なのに、アクトロとの戦闘中。配置されていた魔力の全てに、当たらないようにしてルナは移動していた。
一体どうやってやったのだろうか?」
「えっ、『色彩操作』だけど?」
「どうやったの?」
「アクトロの魔力に色をつけた。使い方が分かってきた時に、一度覚えた魔力に色つけられないかなって思って試したらできた」
「本当、天才だな」
まあ、確かに合点はいった。
俺と同じように見えていたわけか。
俺が相棒に借りたものを、元から技能でどうにかできるとは。
「やっぱりすごいな」
「だから、大したことじゃない」
「そうかぁ?」
「イフリートだって私にはできないことが色々とできる」
「そんなことできたっけ?」
「できる」
それについて聞こうとした、まさにその瞬間。
クリアとコテルがほぼ同時に目覚めた。
「いったた」
「ここは、どこ?」
「おお、お前ら! 起きたか!」
「イスト? …………そうだ! 魔人はどうなったの!?」
「そ、そうだ! どうなったじゃ!?」
「ツカサちゃんとルナが倒してくれたらしい」
どうしてか、二人が固まる。
『譲渡』で傷は完璧に治ったはず。となると、さてはびっくりしてる? びっくりしてるね? そろそろ来るね?
「「た、倒したぁ!?」」
やっぱりそうだった。
まあ、ルナはともかく、龍人の俺も一緒に魔人を倒したって言われたらそりゃびっくりするだろうな。
事実なので、否定はしないが。自分でも倒せた実感ほとんどないし。
驚きが収まりきる前に、イストがクリアとコテルに気絶していた時のことなどを説明する。
ほとんど上の空で話を聞いているが、別にそこまで重要なことは伝えられてなさそうだし、大丈夫か。
そして、やっぱりカラが気になるな。
近づいて、ちゃんと呼吸しているかを確認する。うーん、大丈夫そうだけどなぁ。大きな音で目覚めさせるのはいくらなんでも可哀想だし、そっとしておくけどさ。
なんて思っていると、カラが起きた。
「ツカサ、か?」
「はい、痛くないですか?」
「あ、あぁ、平気だ。魔人は、アクトロと名乗った魔人はどうなった?」
また驚かれるのだろうか。
いや、ちゃんと言うけど。
「倒しました。俺とルナで」
「…………そうか」
少し考えたようにしてから、カラはそう言った。
あれ? 想定していたリアクションと違うぞ。別にクリアやコテルの時ほど大げさに驚かれることを望んでいたわけじゃないが。
「驚かないんですね」
「イストがわざわざ温存させた奴らだ。それくらいはしてもらわないと困る」
「そう言われても、ルナの協力がなかったら多分倒せてませんよ」
「そうか。…………………俺はダンジョンで会った段階から、お前を警戒していた」
「まあ、そりゃ初対面の人、警戒しないわけにはいかないでしょ」
「だが、俺の勘違いだったようだ。少なくとも、俺が考えていた可能性より何倍も善良だ」
この人、何言ってるの?
もしかして生死の境を彷徨いすぎておかしくなっちゃった?
いや、とりあえず生きてたってことを喜ぶか。
「それは良かったです。動けますか?」
「おそらく何か支えが必要だ」
「イストさーん! カラさんに肩を貸してあげてください!」
「もちろんだよ!」
カラが言った通り、肩を貸さなければ立てないくらいには衰弱していた。
おかしいな、『譲渡』は発動したから疲労なんかも全て吹っ飛ぶはずなんだが。
精神的に辛いから、なのか? 本当は全然動けるけど、精神的に辛いから、体が上手く動かないとか? まあ、考えられなくはない?
そういうことにしておこう。
そして、ようやく全員が目を覚ました。
ということは…………
「やっと進める」
「待たせて悪かったね、ツカサちゃん。さあ、行こうか!」
イストは肩を貸しているので、扉を開けられない。
技能を使って、俺が開けようかと思ったら、ルナが開けてくれた。
扉の先には、廊下のような空間が続いていて、その奥にまた扉がある。
これ、大丈夫だよな? 歩いていたら、横とか後ろから攻撃されないよな?
まあ、アクトロも倒したわけだし、流石に大丈夫だと思うことにしよう。
そこまで長い廊下、というわけでもなかったので、すぐに奥の扉に辿り着く。
またもや、ルナに扉を開けてもらって、中に入ると、そこには目が痛くなるような光景が広がっていた。
「うわ、眩し」
いわゆる金銀財宝とやらが、そこらへんに転がっていた。
本当なら、とんでもなく高価なのだろうが、ここまで雑に置かれていると価値がよく分からなくなる。量も多いし。
というか、目が痛くなるような、高価そうなものしかないじゃないか! おいグリモワール、お前まさか嘘ついたのか?
「うひゃー!」
「取り放題であるー!」
あっ、クリアとコテルが飛び出した。
さっきまで、ショックが抜け切らないとかなんとかで元気なかったのに。現金な人たちだなぁ。
ん? もしかしてルナも取りに行ってる? ルナもお金欲しかったんだ。
まあ、俺もお目当ての物はあるんだが、別に他は大丈夫なので、皆さんでどうぞ。
イストとカラもゆっくり近づいていっている。
俺はもうちょっとしてから、行こうかな。
「おーい、ツカサちゃんは来なくていいの?」
「魔道具が欲しいだけなので後からでも大丈夫かなー、と思いまして!」
「魔道具ならこっちの方にあるよ!」
「そうですか、今から行きます」
イストたちがいる方向に向かうと、さっきまでのところは目が痛くなるような装飾モリモリの物が置いてある場所だったのに、急に道具が置かれている場所になった。
まあ、それでも所々に金などは見えるが。
そしてルナがいた。
「なんでここに?」
「使える武器はないかと探してた」
「なるほど。なんかあったか?」
「これは良さそう」
ルナが見せてきたのは、見るからに呪われてそうな、不気味なデザインのナイフだった。
これは…………………大丈夫なのか?
使ってたら呪われそうなんだけど。
「感想言っていい?」
「どうぞ」
「めっちゃ怖い」
「でも切れ味は抜群」
「いや、それでも……」
『血を……よこ、せ』
待って、今声聞こえたんだけど。
確信した。これは使っちゃいけない類の物だ。
「あー、あんなところにもっと良さそうなナイフがー!」
「どこ?」
「ほら、あっちの方だよ! これは預かってるから探してこい!」
「分かった、ありがとう」
本当はそんなもの見つけちゃいない。悪いな。
手渡されたナイフは誰も探さなそうなところにポイした。
永遠に見つけ出されませんように。
よし、俺もそろそろ探そう。
と思っていたら、イストが大声を上げた。
「やっべ! 魔吸石触っちまった!」
「おい、気をつけろ」
魔吸石?
俺の聞き間違いじゃなければ、それは俺のお目当ての物じゃないのか?
イストたちの方に駆け寄ると、声をかける。
「魔吸石ってなんですか?」
「触ると魔力、つまりは体力を吸っていく厄介な魔道具だよ。しかも放置しておくと周囲からも魔力を吸っていくし。ダンジョンでしか手には入らないダンジョン産の魔道具の中では絶対に出会いたくない魔道具の3位以内に食い込む代物なんだ」
「これだ!」
「え?」
「俺が欲しかったのはこれなんですよ」
「こんなのが欲しかったの? 多分、誰も欲しがらないだろうし、どれだけ取っても大丈夫だと思うよ」
良かったぁ、ちゃんとあった。
一つ手に掴んでみると、確かに吸われている感覚がある。『自己再生』ですぐに治ってしまうが。
そしてグリモワールの言うことが正しければ、この石は今、絶賛吸収中の俺の魔力を貯蔵している。貯蔵しているなら使うことだってできるはず。
今はしないが、これでこのダンジョンでするべきことは終了だ。
魔吸石を、村長に貸してもらっているアイテムボックスのような袋にあるだけ入れる。
あとは皆が物色し終わるまで待つだけだ。
すぐそこに金でできた椅子みたいなのがあるが、さすがに座るのは気が引けるので、その近くの地面に座って待つことにした。
→
ようやく皆終わった。
どうやらダンジョンから持ち出していい物は、誰も欲しがらない物を除いて、5つまで、という暗黙のルールがあるらしい。
選び抜いていたな。何を選んだのかはよく分からないが。きっと俺では想像もつかないような効果を持つ代物なんだろう。
「そういえば、ここからどうやって出るんですか?」
「ダンジョンから出たいと思えば、出口が現れるはずなんだ。そこから外に出られるよ」
「全員が終わらせる目星がついた時点で作っておいた。行くぞ」
もうカラの調子も大丈夫そうだ。
クリアとコテルは少し名残惜しそうではあるが、他の人たちは特にそういったこともなさそうだし、ここにやり残したこともない。
「出ましょうか」
そう言って、このダンジョンの出口の前に立つ。
異次元にでも通じていそうな空間に続いている道に一歩踏み出し、俺たちはダンジョンから出た。
ちなみにではありますが、主人公たちが潜ったダンジョンは、いわゆる初心者用のダンジョンであり、とにかく魔獣との遭遇率が多いです。
そのあとに初心者には手強いボスが三体、さらに初心者では倒せない強さのボスが登場します。
ボスはともかく、道中とにかくテンポ良かったのはそういうことです。いや、ボスもそこまで書いたつもりないですけど。
そりゃそうですよね。主人公たちだけでもテキパキ進んでたのに、さらに実力者四人追加ですからね。
そういうことです。手抜いてるんじゃないの、って思われた方。
まあ、少しは手抜いたかも……………いえ、なんでもないです。これからもよろしくお願いします。




