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六十六話 助言、助力

体が動かない。物理的に、完璧に。

 そりゃそうだ。壁に綺麗にめり込んでいるのだから。

 魔人のステータスが相当高いせいか、技能を使っても抜け出せない。どんだけの力で吹っ飛ばしたんだ。ていうかどうやって吹っ飛ばしたんだ。

 方法は後で考えればいい。今問題なのは、壁から抜け出せないせいで戦闘に参加できないことだ。

 魔術を使って出ようにも、この層の壁だけが異常に硬い。高威力の魔術で一思いにやってもいいが、それでさえ壊せるのかが微妙なラインだ。

 だが、やってみるしかない。


(まあ、ちょっと待てよ)

「え、誰………」


気づけば視界が変わる。

 周囲が黒い空間。ポツリと俺だけがいる………いや、目の前にもう一人、俺の姿をしたやつが立っている。

 しかし、俺は相変わらず動けない。口だけが動かせた。


「よう、ちょうど良かったから話がしたくてな」

「ちょうど良かったじゃねぇよ。戦わないといけないんだから、元の場所に返せ」

「安心しろ、話が終わったらちゃんとあの魔人と戦う力も貸すから」


この感じ、もしかしなくても相棒と名乗る奴だろうな。

 こいつ、ここまでのことできたのかよ。


「なぁ、まず一つ目な。お前、どこまで思い出した?」

「思い出す? 何を?」

「そうか、ならいい」

「おい、気になるだろ。続けろよ!」

「はい、二つ目ぇ。さすがに手加減、というか油断しすぎだろ」

「うぐっ、何も言えない。でも、龍人だし………」

「種族に甘えるんじゃねぇ。お前だって言ってただろ? 下剋上だ。どんな種族であれ、信念さえあれば強さは付いてくるんだよ」

「圧倒的強者の発言だ。すげぇ、こんなこと言うやついるんだ」

「茶化すな。にしても、どうしてほとんど使われてないんだ? 思い出してもいないみたいだし、俺とあいつの記憶は全くの別物? でも、そんな風に言った覚えは………あいつらが勝手にしたことか? チッ、探ってみるしかねぇか」

「おーい、俺を置いて行かないでくれ」


全く何を言っているのか分からない。

 記憶がどうのこうのと言っていたが、俺には自分自身の記憶以外には記憶はないぞ?

 こいつはもしかして、妄想が激しい感じのやつなのか? まあ、全く面識がないのに相棒だ何だと言ってきた時点で既に妄想は激しいだろうが。

 そういうことにしておこう。

 そんな妄想の激しい自称相棒だが、さすがに俺を置いてけぼりにしすぎたことを反省していた。


「あっ、悪い悪い。やっぱり人と話すと、今まで気づかなかったことに気づくもんだな」

「そっちが呼んだようなものなのに、俺のことを置いていくとはいい度胸だな」

「悪かったって」

「じゃあ、俺戻っていいか?」

「それはダメだ。お前にはもう少し冷静になってもらった方がいいからな。ほら、もうちょっとゆっくり話していこうぜ」

「どうしてだよ」

「実際、お前はあの魔人の攻撃に全く反応できなかったからな。俺ならお前にあれに反応する手段をやれる。まあ、いらないって言うなら別にそれでいいけどな」

「お前、面倒臭いな」


俺が断れないと分かっている。

 はぁ、仕方ないか。どうせあいつが返そうと思うまでは返してくれないだろうし。そもそもどうやって帰るのかも分からないような状況だし。

 だが、一体これからどんなことをするのか。


「聞く気になったか。良かった。まずお前、戦闘が下手くそだよな」

「帰るわ」

「だぁー! 待て、待ってくれ、俺が悪かったから! そうだよな、聞く気になったところに悪口言われたら、そりゃ帰りたくなるよね!」

「なんなんだよ」

「だからさっきも言っただろうが。久しぶりなんだよ、人と話すの」

「あっそ。そして戦闘が下手なのは仕方ないだろう。ほぼ独学なんだし」

「あぁ、まあ確かにな。お前が一人前なのって、魔力操作と魔術構築の速さだけだな」


図星だし、認めなきゃいけないんだろうが、こいつの言い方本当に腹立つなぁ。

 こちとら、引きこもりで、戦う必要なんて全くなかったんだぞ!


「まあ、今までの感じからして、戦闘とは無縁だったんだろうけどさ。戦略なんて立てずに『自己再生』頼りで突っ込むし、他のやつへの配慮もしないし」

「だからぁ!」

「でもな、さすがに強くなってもらわないと困るぜ」

「はっ?」


今までにない強めの口調だった。

 何かを言おうとも思えなかった。ありえないほどの殺気に襲われたから。

 体のいたるところに剣を突き立てられながら、頭をグシャグシャにされているのに、まだ感覚は残っている。

 そんな錯覚を覚えた。


「お前がどう思ってこの世界を生きてるのかは知らないが、俺にだって目的がある」

「目……的?」

「見ろよ、これがお前の力だ。俺はお前の力を一時的に引き出してるに過ぎない。せめてここまで使いこなせるようにはなってもらわないと」

「何を目的にすると、こんな力がいるんだよ」

「そりゃぁ、強いやつぶっ潰す以外に何があるよ」

「誰だよ、そいつは」

「それはまだ言えない」


殺気だけでここまでなのに、普通に実力が伴ったら、気持ち悪いくらい強くなるんじゃねぇの? ていうか、これが俺の力? どういうこと?

 だが、確かにどんな形であれ、少なからず強くならないと魔人と名乗ったあいつを倒すことはできないだろう。

 戦略的にでも、実力的にでも。何かしら強くならなければ、絶対にあいつに勝つことはできないだろう。

 でも、どうやって? 空間は違えど、確実に流れる時間の速さなんかは変わらないはずだ。ルナ達がいったいどれだけ戦えるのだろうか。いや、負けると思っているわけでは勿論ないが。

 それでも不安は募っていく。


「焦るなよ。動かせるようにするからまあ座れ」


うわ、動くようになった。

 戸惑いつつも、自称相棒の目の前に座る。

 殺気はもう消えていた。あれ、心臓に悪いからやめてほしい。


「とりあえず、お前が直しておいたほうがいいのは、単身で突っ込むことだな」

「だって他の奴らが怪我したらダメだろ」

「それはダメだが、お前は極端なんだよ。『自己再生』があるからって、お前だけが傷つく必要なんてないんだよ」

「俺が怪我して、それで他の奴らが無傷で戦闘を終えられるならそれでいいじゃねぇか」

「もう少し仲間を信用してやれよ。ルナもリルファーも強いだろ?」

「いや、むしろ強すぎて俺が戦闘に参加できないことが多々あるんだが」

「だから極端だって言ったろ? 戦闘で自分が突っ走るか終わらせるか、戦闘をしないかの二択なのはおかしいって」


正論なんだが、なんというか、後者に関しては俺ではどうしようもないのだ。

 そもそもそこまで戦闘をしなくてはいけない場面に出くわさない……………わけでもないのか。だが、俺が気づいて、技能を発動させようとすると、もうルナとリルファーが突っ込んでいる。技能を発動させる、という無駄な一工程を挟まないといけない俺では何一つ貢献できないのだ。


「仕方ないって言いたそうな顔だな」

「事実、仕方ない」

「まあ、もう少し仲間を頼っていこうぜ。お前が思っている、仕方ない状況以外の時にはとりあえずそうしよう」

「分かったよ」

「それさえできれば、あの魔人、とんでもなく雑魚だから」

「嘘を教えるんじゃねぇ!」

「いや、本当だよ。連携覚えりゃ勝てるって。お前が一人前なところでぶっ飛ばしてこい」

「さすがに無理だって。言われた通り、ルナの力も借りて、あいつは倒す」

「それでいい」


なんとなく、この空間の外に引っ張られるような感覚を覚える。

 こいつがこの空間を操って、俺を外に出ようとしているのか、それとも時間制限があるのか。

 どっちにしろ、俺は戻るようだ。今のうちにどうやって戦うのかを考えておく。


「っと。そういえば、お前って何者?」

「あぁ? お前の相棒だって言ってるだろ」

「うーん、まあ、今はそれでいいか」


本当なら色々と聞きたいのだが、そんな時間はない。

 なかなかな力で引っ張られるイメージ。

 引っ張られるのが終わると、壁に埋まって動けない、さっきまでの状態だった。

 全く動けない。だが、さっきほど焦ってはいない。

 きっとルナ達が耐えてきているから。


(あの魔眼をまた貸す。今度はちゃんと対処しろよ)

「分かってるって」

(やり方は覚えてるな)

「ああ」


右目に魔力を込める。すると、血が出始める。それで終了だ。

 右の視界が全くの別物に変わる。魔力が視えるようになる。

 そして、視えたのは魔人の周囲を取り囲んでいるように見える、無数の線状の魔力だった。

 この魔力で攻撃していたのか? この魔眼の使い方は分からないが、目を凝らせばさらに魔力が視えるようになる。すると、俺が最初にこの部屋に入ってきた時に立っていた場所に、うっすらと魔力が視える。

 つまり、そういうことだろう。おそらく技能を使って魔力で攻撃している。この魔力、どうにかできないかな。

 確か、拘束系の魔法を、自分自身の魔力でどうにかできたな。魔法って魔力でどうにかしてるはずだから、魔力も同じ要領でどうにかできないかな。

 魔力を放出して全部消してやろう、と思ったところでやめた。どうせならピンポイントで魔力を消してやる。

 ちょうどよく、と言っては申し訳ないが、実際ちょうどいいのでルナが吹っ飛ばされ、魔力に触れる直前に、こっちも魔力を放出して、魔人の魔力を消してやった。

 驚いてるな。まあ、急に消えたらそうなるだろうな。


「あなたに私は殺せない。だって、あいつがいるから」


あれ、なんかルナが言ってる。

 にしても、全然動かないな。焦ってなかったけど、さすがに魔力を消したら、多少警戒されるだろうからそろそろ動きたいんだけど。


(はぁ………仕方ない、力貸してやるよ)


どうも。

 手足が黒く染まる。これが何を意味するのかは知らないが、この色になっている箇所は、この壁から抜け出すには十分なステータスになっていることは分かっている。

 ゆっくりと、壁から抜け出す。

 そして、一言。確か、こいつの名は……そうだ。


「そろそろ終わりにしようか。アクトロ」


それに伴なわせて、魔力を全方位に放出して、アクトロの周りにあった魔力をすべて吹き飛ばす。

 これで、もう一度やつが配置しない限り、魔力を使った攻撃はできないはずだ。

 さっき魔力を消したせいで、明らかに動揺していたアクトロが、さらに驚いている。そんなに驚くなよ、魔力を放出しただけだぞ。


「お前が生きていることは分かっていた。だが、五体満足、だと? ありえない! お前は、お前は雑魚のはずだ!」


そう言うと、急にアクトロが持っていた武器を振り回す。

 魔力をばらまいている? 間違いない。ああやって、魔力を配置していたのか。

 まだ腕の色は黒から戻っていない。ということは、まだ俺のステータスとは桁違いの身体能力は健在。

 一歩踏み込めば、もうアクトロの目の前。これ、本当に便利。やっぱりステータスって大事なんだな。


「なっ! くそ、来るな!」


俺は何も言わずに、アクトロが振ってきた双剣を両手で掴む。

 武器を掴まれて、魔力による攻撃をしてくる直前に、また魔力放出ですべて消し飛ばす。

 他に攻撃手段はないのかな? このままだと、相棒が言っていた通り、本当に楽勝で勝ってしまう気がする。

 相棒の力を借りたとはいえ、いくらなんでも弱くないか? 俺でこれならルナなんて楽勝中の楽勝なんじゃ……。

 ちらっとルナの方を見てみる。少し離れた場所から戦闘を見ていた。手伝ってくれよ。


「隙あり!」

「ごめん、多分ないと思う」


魔力感知は常に張り巡らせてある。たとえ真後ろであっても、感知できると思う。

 アクトロは魔法を使っていた。さすがに魔法は今掴んでいる武器と違って受け止められない。こっちも魔術で対抗しよう。

 片手を一瞬放すと、『身体硬化』で放した方の手の肘を硬化させる。そして武器を肘で受けると、手のひらから魔術を放つ。

 威力はだいたい同じだったようだ。最悪、俺の方が押し負けても別にいいかと思っていたのだが。とっさに発動させたせいで、威力が落ちたのだろうか? 魔法については正直一つも分からないから、何も言えないけど。

 というか、俺は手のひらから以外は基本的に魔術を撃てないのに、魔法は手のひらから以外でも撃てるのか? ずるくね?

 ま、まあ、いいだろう。

 黒い状態の腕を、相棒がどこまで貸してくれるかは分からない。魔眼に関しても同じ。短期決戦と行きたいが、アクトロがまだ奥の手を隠している可能性が否定できない。だが、イストたちのことを考えると、できるだけ早めに決着をつけたい。

 どうしたものか。

 考えていると、アクトロが離れる。


「いいだろう、お前が強いことは認めてやる。だが、だからと言って負けてやることもできない。ルナとの戦闘で使うつもりだったが、今ここでお前に使おう」


考えている余裕もないらしい。

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