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六十四話 最後のボス戦、開始

あれから、さらに休憩を挟みつつ、さらに下へと降りて行き、地下十五層にまで来ていた。

 しかし、どうにも休憩の回数が増えたのと、今までのようなどんどん行こうぜ、という感じが薄れていた。

 一体、どうしたんだろうか。

 なんて考えつつ、ボス部屋の中での戦闘を見ていた。

 そういえば、もう3回目なのに、ようやくボス部屋には明かりがあるということに気づいた。

 壁に窪みがあり、その窪みに上手く収まるように光源が配置されているらしい。


「にしても、明らかに慎重になってるよなぁ」

「なんで?」

「うわっ、びっくりした! なんでルナがこっちにいるんだ?」

「ボス戦は経験積んでる私たちに任せろって言われた」

「どういうことなんだろうな。何かを恐れてるみたいだし」


別にこの先に何か、やばい魔獣がいるっていうわけじゃないだろうに。

 あっ、ボス戦終わった。

 慎重になったとはいえ、さすがは冒険者になって何年も経っているイストたちだ。なんというか、手際がいい。

 連携も取れているし、冷静に戦っている感じだ。

 俺とルナではあんなことにはならないだろう。


「よし、次の層へ行こう!」


慎重なんだが…………さっき言っていることと矛盾しているようだが、少し焦っているようでもある。

 ここまで、今までと全く態度が違う原因があるとすれば、それはこのダンジョンのさらに下の層に何かがある、もしくは何かが起きたのだろう。

 攻略中の俺たちと、もしかしたら遭遇するかもしれない脅威らしい。

 まあ、危険を承知で行かないと目当てのものが手に入らないからな。何が何でも行くけどさ。


「ツカサちゃん、何かあったらいつでも知らせてくれ」

「分かりました。初心者の魔力感知で良ければ」

「またまた、頼りにしてるよ」


嘘でも何でもないんだけどな。

 何だろう、初心者の誰の教えもない状態だと、魔力を垂れ流すだけだから範囲は広いけど代わりに精度の低い魔力感知になって、洗練されると、範囲が狭くなる代わりに精度が上がるんだろうか。

 初心者だから頼ってもらってるんだとしたら、今は自分の技量のなさに感謝しよう。



  ↓



「ツカサちゃん、近くに何かいる?」

「…………いえ、特には」

「じゃあ、行こうか」


ついさっき、確認したばっかりじゃないか。いくらなんでも心配性すぎないか?

 ダンジョンではいつ死ぬか分からない、みたいなとこがあるから、神経質になるのは分かるが。

 それにしても、本当に魔獣に会わないな。

 魔力感知で探ると、魔獣がダンジョンの端っこにいることが分かる。どうしてなのかは知らん。

 多分、そういう気分なんだろう。俺には理解できな、いわけではない。端っこっていいよね。とりあえず背中の死角がなくせるから、後ろから水かけられるみたいなことはなくなるし。何より、ちょっとだけ安心できる。


「階段はどっちかな?」

「えぇと、右ですね」


俺を頼ることが多くないか?

 推測が合ってれば、俺の魔力感知に精度はないぞ。合ってるかもしれないが、合ってもないかもしれないのだ。頼りにするのはおかしいだろう。

 うーん、とりあえず魔力感知を広げつつ、歩いているが、魔獣たちは全く襲ってくる気配がない。というか、動く気すらないみたいだぞ。

 なんだよ、楽勝じゃねぇか。

 そんなわけで、魔獣が襲ってこないダンジョンはただのだだっ広い、道があるだけの空間なので、俺が魔力感知で下の層への階段を探し、そして下の層へ降りるだけの、ひたすら簡単な攻略になってしまった。

 ボス戦を3回もしたからなのだろうか?

 もちろん俺に答えが分かるはずがない。

 魔力感知は止めずに、下の層へと降りていく。



  ↓

  ↓

  ↓

  ↓


 地下二十層。

 あの後、特に何の変化があるわけでもなく、ただ魔獣がいないダンジョンを歩いて行って、ここまで来た。

 何の代わり映えもなかったので、正直つまらなかった。

 別に戦闘させてくれなくていいから、戦闘を見せて欲しかった。

 今から見られるのだが、退屈だった。ルナもそう思っていることだろう。

 それにしても、いつまでたっても、イストたちの緊張感が全く薄れないなぁ。さっきから、ずっと安全じゃないか。


「皆、もう最後のボス戦だ。全力を出そう!」

「「「了解!」」」


イストのパーティーメンバーが息を揃えて、応じた。

 俺は遅れた。さっきまで気分が沈んていたみたいなのに、急に大声あげるから。ルナは多分、ぼーっとしていて気づかなかったのかな?

 最後のボス戦だし、テンションが上がるのは当然だと思うが、もう少し落ち着こうぜ。


「と、言いたいところなんだが。ツカサちゃん、ルナ。君たちは今回も戦いに参加せずに見守っていてくれ」

「どうして?」

「俺、このダンジョン入ってから、ろくに戦ってないんですけど………」

「うーん、ちょっとした保険かな。もちろんその心配がなくなりそうだったら、二人にも戦闘に参加してもらうよ」

「四人で大丈夫?」

「あはは、さすがに大丈夫さ」

「舐められたものだな」

「負けないわよ」

「ぶっ殺してやるですよ!」


ようやく語尾が今までのと比べて、多少マシになった人がいる。

 ではなくて! 全員が自信たっぷりだ。これは………俺たちの出番は本当になさそうだぞ。

 リビングアーマーと戦いとも呼べない、鬼ごっこをしたくらいしか、俺の記憶に戦闘のシーンはない。少しは活躍の機会があると思ったが、考えが浅はかだった。

 扉が開かれた。

 うわ、もう行くのかよ。早いな。

 一瞬で、イストたちが駆け出した。

 今までのボス戦よりも何段階か上の速度だ。

 ボスとして配置されていたのは、ライオンと虎を掛け合わせた上で、魔獣の成分、角などを突っ込んだ面白い姿の魔獣だった。

 そして、何より強い、速い。素人目に見ても、めちゃくちゃ高度な戦いをしている。

 あの魔獣、知能があるのか。俺の目では前衛たちの戦いを捉えられないが、後衛のカラたちが魔法を撃っていない。

 ということは、何かしらの立ち回りで、後衛が魔法を撃ちにくい状況を作り出しているってことだ。

 それは、どう頑張っても知能がないと無理だ。

 イストたちは速い。俺はもちろんの事追いつけない。

 だが、だからこそ、追いつきたいと思うのは、男として間違っちゃいないだろう。

 不意にクリアが叫んだ。


「撃ってっ!」


全く見えなかったが、どうやら上手いことして魔獣の体勢をのけぞらせたようだ。

 その隙に後衛組が魔法を放つ。

 炎と土が放たれて、そして魔獣に命中した。

 だが、そこまでのダメージじゃないようだ。

 魔獣が顔を振って、また前衛たちに襲いかかっていく。

 剣が振るわれ、それを爪が弾く。

 爪が振るわれれば、剣が弾く。


「すごいな」

「うん、前のボス戦と全然違う」

「これが冒険者か」


魔獣は高い攻撃力、硬い毛並みによる防御力、そして速度があった。

 普通なら、勝てないんだろう。だが、足りない分を仲間が補っている。

 少なくとも俺にはそう見えた。

 戦いが始まって、まだ1分。

 なのに、前衛の二人には、多少の疲れが見えてきた。

 それだけ魔獣が強いってことなのか、イストたちが動いているってことなのか、よく分からないが。


「参戦したいな」

「する?」

「いや、止められてるからしないけどさ」

「残念」


確かに、疲れてはいるだろう。

 だが、多分勝つ。

 理由は一つ。

 まだ、イストたちは切り札を使っていないはずだから。

 切り札がなければ、あんな目はしていない。

 冒険者なら切り札の一つや二つ、持っている、と思う。

 思い返せば、イストたちは技能を全く使っていない。

 なら、何か切り札みたいな技能があるはずだ。

 勿論ないかもしれないから、『多分』勝つと言ったのだが。


「お前ら、10秒もたせてくれ!」

「! 了解!」


イストが数歩下がる。

 魔獣から距離をとった。何かする気だ。

 剣を構えて、呼吸を整えている。

 魔力が剣に集中する。剣の周りを薄く魔力が覆う。

 数秒の集中を経て、イストが言った。


「『空斬』!」


風属性の魔法や魔術のように、見えない攻撃が魔獣を襲った。

 見えない攻撃に、魔獣も気づいている。

 だが、クリアやカラ、コテルのおかげで身動きが取れずにいる。

 魔獣は避けることが叶わず、見えない攻撃をその身に受けた。

 警戒するほどの威力の攻撃がもろに命中し、顔に大きく傷ができる。片目を失った。

 だが、魔獣は死んでいない。

 しかし、イストには仲間がいる。一人だったら、大技らしき攻撃を放って、疲れて、もう死んでしまうかもしれないが一人ではない。


「今だぁ! 倒せ!」

「はぁっ!」


クリアの剣戟が魔獣を襲った。


「『風剣』」

「『水槍』」


風の剣と、水の槍が魔獣を斬って、刺した。

 最後にリーダーのイストが、一気に間合いを詰め、そして魔獣の首を斬り飛ばした。

 声すら上げずに、魔獣は絶命した。

 終わった。俺たちの出番はなかった。


「はあはあ…………っはぁ!」


イストだけ、異常に息を切らしていた。

 あれ、大丈夫なのか?

 心配になって近づくと、想像よりも顔色が悪い。


「大丈夫なんですか、それ!?」

「うん…………技能、使った………反動だか、ら仕方ない、よ」

「とりあえず休め、リーダー」

「水とかいります?」

「頼む。俺たちはこいつを冷やしておく」


魔法か何かで冷やすつもりらしい。

 俺もボス部屋の前の扉に、ルナが置いてくれた荷物の中からコップを探すと、魔術で水を入れる。

 さらに、本当ならいけないんだろうが、ここまで疲れ果ててるのを見ると、さすがに気の毒になるので、『譲渡』を使う。

 『自己再生』なら、あの疲労も治るだろう。

 できればこんな変態行為はしたくないのだが、まあ仕方ない。全員から見えない位置で血を一滴、コップの水に垂らす。

 たかが一滴なので、すぐに薄まって元の透明に戻る。…………戻ってるよな?

 えぇい、もうどうにでもなれ。


「はい、水です」

「すまない、助かる」


カラがイストに水を飲ませる。

 天の声的な声が頭に響いてくる。

 それを速攻で承諾して、『自己再生』の劣化版技能を『譲渡』する。

 これで、イストの体調は回復するはず。

 一安心だな。これで、このダンジョンも攻略完了したわけだし、少しゆっくりできるかな。


「あれ、楽に、なった?」

「もうか? どういうことだ」

「よく分からんが、とにかく完全復活だ。ダンジョンに潜った時と変わらない状態だぞ!」

「そんなことがあるのか? このダンジョンをクリアしたからか?」

「いいや、残念ながらこのダンジョンはまだクリアできてない」

「何を根拠にしている。二十層のボスを倒したじゃないか」

「そうよ、さっきまで疲れ果ててたせいで、知能が下がったの?」

「んなわけねぇだろ! あれ見ろよ、あれ!」


イストはある方向を指差した。

 そっちに何かあるのか?

 イスト以外の全員が指差された方向に、同時に顔を向ける。

 そして全員が驚いた。


「なっ!」

「嘘……」

「幻のはずなのです!」

「本当だ」

「なるほど、イストさんが言ってたこと、あながち間違ってないのかも」


そこには、本来現れないはずの階段が現れた。下へ降りる階段が。

 しかも、うっすらと流れてくる気配は、まさしく敵のそれだ。

 まだボス戦か何かがあるってことか。

 イストの言っていた、魔獣の増加による層の増加。

 このダンジョンには、地下二十一層目があったのだ。



  ↓



 休憩をとって、万全の状態で挑む、ということになったので、地下二十層で休んでから、階段を降りて、地下二十一層へと向かう。

 階段を降りきると、ボス部屋のある層のように、大きな扉がある。

 イストたちは、少しためらいながらも、その扉を開けた。

 ボス戦と同じようなドーム状の空間。明かりもあって明るい。

 そしてそんな空間の中心に男がいた。

 茶色くて短めの髪。細身だが、確実にパワーのある肉体。そして、整った顔立ち。

 何より目を引くのは、額に生えた、一つの角。

 俺たちに気づいたそいつは、口を開いた。


「おぉ、ようやく誰か来たぁ! 待ちくたびれたぜ! さぁ、戦おうかぁ!?」


軽めの口調だ。

 だが、底知れない威圧感があった。


「と、その前に。雑魚はすっこんでろ」

「はっ?」


俺は吹き飛ばされた。何をされたのかも分からない。

 壁に叩きつけられる。

 痛い、がそれ以上に一体いつ攻撃された? いつ接近された? やつはいつ動いた!?

 壁にめり込むほどの衝撃を食らったのだ。何かしらの予備動作くらいはあっていいはず。

 だが、俺がその答えを見ることはできなかった。

 体がうまく動かない。まだ『自己再生』で治ってないのか? 俺は攻撃を受けた場所を見た。そして納得した。ああ、確かにこれじゃ動けないだろう。

 俺が吹っ飛ばされて、そして攻撃を受けた場所を見るまで、およそ1秒。

 『自己再生』は俺が、傷を見るまでに治った。だが、いくら修復機能があるとはいえ、たかが1秒ではローブは直らなかった。

 ローブは右側のほとんどがなくなっていた。

 つまり、俺は『自己再生』で治るまで、右半身がなかったのだ。


「なかなか飛んだな。やっぱり雑魚か。よーし、それじゃあ戦うかぁ!」

「ツカサ!」

「ツカサちゃんのことは一旦忘れろ! 目の前の敵を倒すぞ!」

「俺を倒す気か? うんうん、良い根性してるぜ。そして俺は忘れてたな、自己紹介を」


くそ、壁に完全にめり込んで全く身動きができない。

 これじゃあ魔術も使えない、援護できない!

 動け、動け!

 必死になって壁から抜け出そうとする中、俺を吹っ飛ばしたやつが名乗った。


「偉大なる悪魔より力を授かり、魔人となった。俺の名はアクトロ。アクトロ・デルバ」


俺たちのダンジョン攻略、その最後のボスは魔人らしい。

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