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六十三話 慣れてきた

倒す対象である魔獣が、増えているかもしれない。

 イストから口に出たその可能性は、一見すれば大したことないと思うかもしれない。所詮は雑魚だと。

 だが、俺にはそれが恐ろしいことに思えて仕方なかった。


「もし、その可能性が本当だとして、ダンジョンにも適応されるのだとしたら、ダンジョンに補充される魔獣も増殖しているってことだ。何かの拍子にそれが溢れかえったら、その大量の魔獣を冒険者が気づかなかった、もしくは対処しきれなかったら」

「魔獣を外に出さないために『神種』が行動に出る」

「そういうことだ」


可能性の話だが、もし魔獣が増えれば冒険者たちには相当の負担だろうな。

 にしても、イストの師匠は色々と考えているようだ。すごい。

 常識に疎い俺、つまりはこの世界の固定概念すら知らないやつでも、そこまで考えないだろう。

 現に俺も、そんなことは全く考えつかなかった。


「『神種』がすることとして考えられるのは、魔獣を自ら殺す、ダンジョンごと魔獣を道連れにする、その他色々とあるが、俺が一番有力だと思っているのは、さっきのツカサちゃんの質問の答えになるんだけど、層を増やすことだ」

「な、なるほど」

「このダンジョンで言えば、二十層で足りないなら二十一層に、二十一層で足りないなら、二十二層に増やすと思うんだ。だから、ギルドに登録されているこのダンジョンの層の数は二十層だけど、もしかしたら増えているかもしれないんだ」


それで、あんな含みのある言い方だったのか。

 納得がいった。

 そして、俺はこの考えを信じてみたくなった。

 そんなわけで、俺はこれからダンジョンに入るときは、層が増えているかもしれないことを考慮していこう。

 ぶっちゃけ、ただの用心だが。


「話は済んだか?」

「おう、全員いい感じに休めただろ」

「ツカサ、だったっけ? 大変ね、うちのリーダーの馬鹿みたいな話に付き合わされて」

「なんだとぉ! 可能性は捨てきれないだろうが!」

「誰も間違ってる、なんて言ってないわ」

「そうだな、その説には俺も少しは感心している」

「私もまあ、ちょっとはそうだったらいいなって思ってるじゅき」


休憩を挟んだおかげか、イストたちの空気が和んでいた。

 相変わらず一人、語尾がおかしいやつがいるが。というか、その説を『そうだったらいいな』とか言ったら、ダメだろ。大丈夫か。

 そして、ルナは特に変わった様子がない。元からずっと自然体だったってことか。

 俺は立ち上がった。

 現在、地下七層目。

 一番下、二十層、もしくはさらに下を目指して攻略を再開する。

 と言っても、前衛が優秀すぎて、俺たち後衛は特にすることもなく、攻略が進み、気づけば地下十層に。



  ↓

  ↓

  ↓



 地下十層目。

 すなわち、ボス層である。

 正直、負けるビジョンが見えない。別に俺のおかげではないが。


「入るか。ボスだかなんだか知らないが、援護なんてさせずに終わらせてやろうぜ!」

「ルナ、大丈夫ね?」

「瞬殺する」

「おーい、俺は別にいいですけど、他の二人には出番をあげてください」


パーティーの奴らよりもルナと仲良くなってないか?

 これ、このダンジョン攻略終わった後の、このパーティーが心配になってきたぞ。

 そんなことを考えているうちに、ボス部屋への扉が開く。

 嘘、早くね!?

 俺が慌てていると、


「私たちのことを気遣うのもいいけど、考え事をする時間じゃないじゅけ」

「えっ?」


語尾がおかしい人が、まともなことを喋った、だと!?

 いや、そんなこと気にしてる場合じゃない、前衛の人たちはもうボス部屋の中に入っている。

 もしかしなくても、このダンジョン最初のボス戦での、俺とルナのような状況がもう一度出来上がった。

 急いで、ボス部屋に入り込む。あいつら、自分たちが入れるギリギリのスペースしか扉を開けていないせいで、俺と語尾おかしい人は入れたけど、メガネが入れないじゃねぇか! 無駄に高身長だしな、メガネ。

 ボス部屋の扉は、非力な俺では動かせない。ここは語尾のおかしい人に任せよう。


「カラのことは諦めるじゅき。戦闘に集中するじゅ」

「おい、コテル。後で覚えておけよ」

「こっちまで来れないから別に問題ないじゅこ」


案外ひどい人だった。

 ステータスの低い俺ではどうしようもないし、メガネも俺が助けるとは思っていないだろう。

 じゃあ、いいか。

 俺たちが手間取っている間に、ボス戦ももう最終局面みたいだし。後で前衛の人たちがどうにかしてくれるだろ、多分。


「後で通れるようにするので」

「しなくていいじゅか!」

「そういうわけにはいかないでしょう」


思っていたよりも、表情が変わるな。

 面白い人だ、このコテルって人。語尾おかしいけど。

 さて、戦況はと言うと、言うまでもなくルナ達が押していた。

 ボスは地下五層目のボスと同じように四速歩行だった。ただ、ライオンというよりかは虎みたいなフォルムだった。ところどころに切り傷ができて、もう息も絶え絶えっていう感じだ。

 これはもう決着するな。

 さらば、一瞬しか見なかったボスよ。安らかに眠れ。安心しろ、次のやつが補充されるらしいじゃないか。お前の兄弟が、きっと違う冒険者で仇をとってくれるさ。


「イスト、お願い」

「はいよ、とどめ、っと」


あっ、首が落ちた。死んだ。

 よし、カラを通れるようにしてから、下の層へ降りよう。

 できれば降りたくないんだが。だって、ボス層から降りた後にあのリビングアーマーと会ったから、ちょっとしたトラウマになってしまっている。

 まあ、イスト曰く、もういないらしいし大丈夫らしいが。


「イストさーん、カラさんを助けてあげてくださーい!」

「はぁーい、なんでもしますよ、ツカサちゃん!」


おおっ、軽々と扉を開けてくれた。

 そして後ろから聞こえる、走っている音。きっとコテルが逃げているんだろう。


「すまないな、イスト。そして待たせたな、コテル。まあ、そう焦るなよ」


一歩の歩幅が小さいコテルと、高身長で一歩がでかいカラではステータスが同じでもスピードには差が出るだろう。

 多分そういう理屈で、カラがコテルを捕まえた。


「待って、話せば分かりあえるじゃ!」

「問答無用だ」


うわー、頭ぐりぐりされてるよ。

 あれは痛い。

 そして俺、コテル、カラ以外の前衛陣は、もう下への階段を降りようとしていた。

 待ってくれよ、この状況の責任の一端は、あなたたちにあるんだぞ。少しは興味を持ってくれたっていいじゃないか。

 あっ、もうカラのお仕置きが終わった。

 そんなわけで下の層へ降りた。



   ↓



 地下十一層目。

 なのだが、攻略する前にボス戦をしたということで、休憩を挟むことになった。俺たち、後衛は全くと言っていいほど働いていないのだが。

 まあ、今回の前衛の働きには目を見張るものがあったからな。仕方ない、少しは休んでやろうではないか。

 いや、ごめんなさい。現在目立った活躍もない俺では、そんな偉そうなことは言えない。


「ねえ、ツカサちゃん」

「はい、なんでしょうか」


もはや休憩中の恒例行事と化してないか? 気のせいか? 絶対そうだよな?

 まあ、いい。少しは話を聞こう。

 しつこいこの人になら、俺は少しは偉そうな態度をとってもいいと思う。


「ツカサちゃんの体力って、どのくらいなの?」

「それはむ………………」

「む?」


これ、無限って言っちゃいけないよな?

 もしかしなくても、体力が無限のやつとか、化け物でしかないよな?

 だめだ、とんでもない威力の魔術使ってしまったのは致し方ないが、ステータスをそこまでおおっぴらけにするわけにはいかない。

 そんなわけで、俺は今絶賛、『む』から始まっていい感じのごまかし方を試行中。


「無理と言いたいところですが、特別に教えましょう」

「勿体振るね」

「そう簡単に教えられるものじゃないですから。確か、6000くらいです」


だいぶ前に聞いたルナの体力からいくらか引いた数値を俺の体力とさせてもらおう。

 無限なんだから、別にどんなにあっても実質それだけあるようなもんだし、なんと伝えてもいいだろう。


「それだけなのにあれだけの魔法を使って、大丈夫だったのか!?」


うおぉ、急に大きな声出すなよ、カラ。

 そこまで驚くことじゃないだろ。実際の体力は無限なんだから。


「まあ、そこは技能とかでいい感じに」

「なるほど、組み合わせ次第ではそんなことも可能なのか。お前が持っている技能を教えろ」

「えっ、いやです。秘密です」

「そうか」


なんで急に熱くなったんだよ。

 別にそこまで大変なことじゃないだろ。

 これからはビックリさせないようにしてくれ。


「そろそろ再開するか」

「そうだね」

「ごめんね、ツカサちゃん。カラのやつ、魔法が絡んでくると熱くなっちゃって」

「いえいえ、別に大丈夫ですよ」


俺が使っているのは魔術なのだが、他の人には魔法に見えているのか。

 俺にはなぜか知らないが、魔法が使えないんだよ。魔法使えてたら、魔術なんて面倒くさいもの使ってねぇよ、この野郎。

 はぁ、俺も手っ取り早く魔法を使えたらよかったのにな。

 まあ、それはともかくとして、


「ルナ、お前もう他の人たちの仲良くなってるのが俺は羨ましいぞ」

「別に難しくない。というか、ツカサも仲良くなってる」

「お前ほどじゃないんだよ」


ルナが思っていたよりもイストたちに馴染んでいることに喜んでいる。

 俺がそこまで馴染めないのは当たり前だ。前世の段階から、トラウマ通り越すレベルでいじめられてきたのだから。

 でもルナは俺に比べたら些細なことだと思う。本人に言ったら、怒られそうだが。

 なので、こうして他人と馴染めているのを見て、なんというか安心したのだ。

 いや、何様なんだ、って話だが。

 とにかく嬉しい気がした。

 これが嬉しさなのかは知らない。生まれてこのかた、友達なんていたこともない。だから、友達との感動の共有なんて、したこともない。

 だから、これが初めてだ。初めてだから、戸惑っているのだ。

 いじめられてきたせいで、人の顔色を伺うのだけが無駄に上手くなった。

 でも、今は伺わずに。


「よかったじゃん」

「うん…………楽しいね、こういうのって」


俺はまだそこまで経験したわけじゃないけど、きっと楽しいんだろうな。

 いつかきっとそこまで行こう。

 問題なのは、そういう話をしている空間がダンジョンだということだ。

 うーん、その事実さえなければ、普通の会話な気がするんだけどなぁ。


「おい、置いていくぞ」

「ごめんなさい!」


カラに言われて、ダッシュで追いかける。

 ちょっと話しすぎた。

 今の所余裕とはいえ、ここはダンジョンだ。油断しちゃダメだな。

 そういえば、ボス戦を2回乗り越えたこともあってか、地下一層とかだと何度も遭遇した魔獣たちと、全く遭遇しない。

 なんというか、難易度下がってないか?

 いや、ダンジョンがどういうものなんかを知らないから、詳しくはなんとも言えないのだが。


「ねえ、ツカサちゃん。魔力感知で何か感じる?」

「俺に任せて大丈夫なんですか?」

「まあまあ、とりあえずやってみてよ」

「分かりましたけど」


俺が今までお世話になってきた魔力感知だが、冒険者暦の長いそっちの方が精度は良いという結論に達したから、俺は極力そっちにやってもらいたいんだけど。

 愚痴を心の中で言いつつ、魔力を伸ばして、周囲を探る。

 うーん、特に異常があるわけじゃないけどな。

 強いて、というわけではないが、問題としては………


「魔獣がまとまってますね」

「そうか…………なるほど。分かった」

「こんなんでいいんですか?」

「うん、助かったよ」


よく分からないな。

 まあ、別に攻略に困らないならいいか。

 俺に対しては、どうにも気持ち悪い対応しかできないようだが、それでもイストの経験は俺よりも何倍も上だから従う。

 さて、このままで行けば、簡単にダンジョンは攻略できそうだな。

 なんだかイストたちの空気がピリピリしている気がするが、気のせいだろう。だって、今のところ楽勝なのだ。緊迫する理由がないだろ。

 上手くいきすぎて、むしろ緊張してしまっているのだろうか。

 初心者の俺が言うことではないが、もうちょっと気楽にいこうぜ。ルナも特に気にしている素振りはないし。

 経験の有無が空気感の違いになってしまっている、現在地下十一層目だった。

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