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六十二話 団体行動

俺自身も分からない、謎の急展開のせいでイストたちのパーティーと同行することになってしまった。

 正直イストはどうしてかこっちをずっと見てくるし、カラは何を思って、俺たちの動向を許したのかが分からないから、不気味だし。

 まあ、戦力が増えたことには変わりないし、攻略が楽になるから視線と不気味ささえ無視すれば、まあ、いいか。


「そういえばツカサちゃん」

「はい、なんでしょうか?」

「さっき俺って言ってなかった? 一人称おかしくない?」

「別におかしくないですよ。だって、俺男ですし」

「へっ、嘘でしょ?」

「いや、嘘なわけないじゃないですか。男ですよ、紛れもなく」


周囲の空気が固まった。

 なんだ、別に嘘はついてないぞ? 確かに男としてついてなきゃいけないものがなくなってはいるが。

 精神的に男なら、別に男でもいいと俺は思っている。

 そんなわけで俺は特に今の状況がおかしいとはなんら思っていないのだが、他の人にはおかしかったようだ。

 ちなみにルナは反応していない。だいぶ前に色々と伝えてあるし、猫人全員が、多分そんなことは気にしないだろう。ルナも例に漏れず、というわけだ。


「………………ちょっと確認してもいい?」

「え、だめです」


だって男にあるはずのものがないわけだし。

 確認させたら、『体』は男じゃないということがバレてしまう。というか、この人に体を触らせるのはまずいと思う。

 なので、食い気味にだめだと言ったのだが、これは無理矢理にでも触りにくる気がする。

 精神的には男の体を触って何が楽しいんだろう。

 うわ、寒気が。


「おい、無駄なことをするんじゃない。このダンジョンを攻略するじゃないのか? 時間は有限だぞ」

「分かってるよ。緊張をほぐそうと思ってだな……」

「無駄だ。急ぐぞ」


ナイス、メガネ。

 全員その言葉で動き始めた。

 とりあえず危機は去った。今度いつ来るかは分からないが。


「お前たちの目的はなんだ? 同行を許したんだ。それくらい聞かせろ」

「このダンジョンの一番下に行くこと」


おい、俺が言うところじゃないの?

 ルナに取られた。

 まあ、ルナも目的を覚えておいてくれたことを喜ぼう。


「そうか、では俺たちと目的は変わらないな」

「そうなんですか。それは良かった、っと、敵が来ます。ちょうど前方ですね。構えて下さい」

「何を言っている、魔獣の姿なんて見えないぞ。お前の索敵はおかしいのか?」

「とりあえず構えてみてくださいって」


おかしいな、魔力感知で見つけた魔獣の方向を言っただけなんだが、イストのパーティーには不審がられた。

 今までこの魔力感知が外れたことないから、今回も大丈夫だと思ったんだけど、もしかしたら俺の魔力感知はそこまで精度が良いものではないのかもしれない。

 一応全員構えてくれたが、申し訳ない。俺の魔力感知はそこまで良いものではないらしいんだ。もう構えるのをやめてくれていいぞ。

 と思っていると、


「魔獣だ! 来るぞ!」


一番前にいたイストが叫んだ。

 えっ、当たってたのか?

 そこまでひどい魔力感知ではないようだ。

 でも、ちゃんと話せる冒険者と会ったことがなかったから、冒険者にとっての常識がどういったものなのかが分からないんだよな。この人たちは一体どういったことができるんだろうか。

 俺は後ろで明かりを、魔術で作っているだけなので、背が小さくはあるが基本的に落ち着いた状態で戦闘の様子を観察できる。

 イストたちはどういった感じで攻めるのか、見ていよう。

 すると、イストともう一人の前衛の女の人、確かクリアだったか。二人が走り出した。この二人が攻撃を開始するらしい。

 だが、それ以上の速度でルナが突っ走っていった。

 しかも『色彩操作』で保護色になって、気配も消している。完全に隠密状態だ。

 もう職業は暗殺者なんじゃないだろうか。そういう感じの立ち振る舞いである。


「おい、猫人はどこに行った?」

「もう魔獣のすぐそこですよ」

「どういうことだ? 何も見えんぞ」

「確かに姿消してますね」

「はっ? そんなことができるはずがないだろう」

「まあ、見ててください」


そう言った直後に、魔獣数体の首が飛んだ。

 そしてルナが姿を表す。いつも通り、すごいな。

 何の意図か知らないが、まだ魔獣は残っている。

 もしかして、ルナもイストたちの実力が知りたいんだろうか。


「残りは攻撃していいらしいですよ」

「了解!」

「ちょ、ちょっと」


イストとクリアが飛び出した。

 イストもクリアも剣か。ルナは基本的に短剣だからな。どんな使い方するんだろう。

 まあ、そんなことを考えていても、相手は雑魚だし、一振りしただけで終わってしまった。残念だ。

 だが、この層はきっと魔獣が多いはず。魔法使いたちが活躍する場面だってあるはず。魔法の威力も知っておきたいところだ。

 なんだけど、前衛の皆さんが強すぎて、後衛である我々の出番がない。

 ねえ、ちょっとくらい俺たちにも活躍の場をだね。


「なあ、ツカサちゃん」


あっ、活躍の場をくれない前衛の一人がこっちまでわざわざ来たぞ。

 なんだよ、視線もなんか怖いし、できれば戦闘に集中してもらいたい。


「ツカサちゃんは、どうして冒険者になったんだ?」


声音から察するに、どうやら真面目な話がしたいらしい。

 合わせるが、一体何を思って、そんなことを聞いてきたんだろうか。

 冒険者になる理由なんて、そりゃぁ…………


「………なりゆきですね」

「どうして冒険者にならないといけない状況に?」

「うーん、説明が難しいし、どこまで話せばいいのか分かりません。なので拒否します」


変なことを言って、俺が転生者とでもバレたら、嫌だったから、はぐらかさずに真っ向から拒否した。

 いや、本当なら転生者ってことがバレてもいいはずなんだが、どうにも街で生活している人たちの価値観とかが分からないから、話していいのか本当に分からないのだ。

 例えば、転生してすぐ会った(攻撃してきた)おっさんが言うには、転生者は珍しいから捕まる、みたいなことを言っていた気がする。

 イストがそんなことをするやつかは正直分からない。まだ会って、一時間くらいか、それより短い。信用できるはずがない。

 悪い奴には見えないんだが、やっぱりあまり人に慣れていないのが原因だろう。

 友達とかになると、こういった暗い話もすぐに言えるんだろうが。あいにく、イストとは友達でもなんでもない。友達のように接しろ、と言われても無理だ。


「そうか、それなら深くは聞かないよ。でも、どこまで話せばいいか分からない、か。なかなかに長い話らしいね」


よく分からない解釈をしてくれた。まあ、ありがたいので、直さないでおこう。

 どこまで話すべきなのか分からないのは、ルナが関わってくるから、どうしても気にしてしまうからなんだが。

 ルナには苗字がない。

 よくあるネット小説の、貴族だけが苗字を持っている、みたいな世界ではないこの世界では、ほとんどの人が苗字を持っているだろう。

 その中で苗字がないやつがどれだけいるのかは、俺には分からない。どれだけ珍しくて、どれだけ本当の意味を知っている人がいるのかは分からないのだ。

 ルナの冒険者登録をしてくれたおっさんは、苗字がない意味を知っていてくれた。だが、あの人を基準に考えるのはおかしいだろう。

 職業上、覚える必要があったのかもしれない。本を読んでいたら、たまたま見つけたのかもしれない。他にも色々と可能性はあるが、何にしろ珍しい例だったと思うのが普通だ。


「まあ、そんなところです」


適当に返事を返しつつ、歩いていると、魔力感知に引っかかった。

 何がって? もちろん下への階段だ。

 魔力感知で見つけたってことを知らせてもいいんだが、どうにもカラが俺の魔力感知を信用していない。お前のせいで俺も自分の魔力感知に自信が持てなくなったぞ。

 なので、さりげなく伝えてみることにした。


「あの…………次、左に曲がってみませんか?」

「そんなことするわけないだろう。お前は何を根拠に進んでいる」

「えぇと…………」


魔力感知です、とはどうやっても言えない雰囲気だった。

 さっきは同志だと思ったのに、想像以上に嫌われているらしい。

 まあ、仕方ないか。気長にカラたちが下への階段を見つけるのを待つしかない。


「おいおい、別に良いだろ? ちょっと運任せみたいにダンジョン攻略してみようぜ。まだ食料には余裕があるし」

「チッ、仕方ないな。左だな?」

「はい」


よくやったよ、イスト!

 これでダンジョンの奥まで行くのに少しは時間を短縮できただろう。

 俺は魔力感知で階段までの道を把握して、ところどころ口を出して、正規ルートを通らせた。

 イストたちの方が年が上なのだが、俺はこう言いたくなる。

 全く、手のかかるやつらである。

 そうして、どうにか階段に到着できた。


「おお! 運任せなのに早いな!」

「たまたまだ。次からはこう上手くはいかない。イスト、あまりはしゃぐな」

「分かってるって、っと。うーん、下の層に行ったら、少し休憩を挟むか」


俺たちと会う時も休んでたって話じゃねぇか。

 さらに休んでていいのかよ。

 呆れていたところで思い出す。

 そういえば、この世界はHPとMPが統合されているということに。

 例えば、剣も魔法も使えるような奴が戦っているとしよう。

 剣を振るえば、その分体力が減る。言い換えれば、魔力も減っているということだ。

 だから、剣を振り過ぎれば、魔法が使えなくなる。

 魔法を使いすぎれば、剣を振れなくなる。そういうことなのだ。

 だから、休めるときに休む、ではなく強引にでも、こまめに休む必要がある。

 休憩をよく挟んでいたのは、そのせいか。やっぱり冒険者になって、それなりなんだろうな。ダンジョンというか、活動の仕方をよく分かっている。

 それに比べて俺は、一体何をしていたのか。五層分も休まずにルナを動かして、ようやく休めたかと思ったら、俺のせいで休憩を中断させてしまった。

 不甲斐ない。いくら戦闘などに慣れていないとはいえ、さすがにルナのことを考えなさすぎた。


「よし、ここで止まれ」

「距離からして、だいたいこのあたりまでかな」


イストが剣で床に傷をつけた。

 およそ、階段から2、3メートル。

 やっぱりそのあたりまでがセーフゾーンだよな。

 全員、階段に座ったり、床に座ったりして、休み始める。

 よくよく考えれば、俺は『自己再生』のおかげで、休まなくたっていい。だから、ルナの体力的な面での危険を感じ取れなくても、仕方ないといえば、仕方ない。

 開き直っていい身分ではないのだが。

 さすがは何度も命を救ってくれた『自己再生』だ。何度も思っているが、やっぱりチート級な固有技能だ。

 そういうわけで、休まなくていい俺は一体何をして、休憩時間という暇な時間を乗り越えようかと考えていると、またもやイストから声がかかった。


「あれ、ツカサちゃんは休まないの?」

「あー、そんなに疲れてないので」

「ダメだよ、そうやってるとすぐに死んじゃう。休んで体力を回復しないと」

「分かりました」


さすがに押しが強かった。

 仕方ない、少しだけ休むか。といっても、適当に座っているだけだが。

 リビングアーマーのこともあるし、単独行動は控えよう。というか、多分イストたちが許さないだろうから。

 となると、情報収集でもするか。

 幸い、すぐそこにイストもいることだし。


「なあ、イストさん」

「はいはい、なんだい、ツカサちゃん? なんでも答えるよ」

「このダンジョンって下にどこまで続いているんですか?」

「うーん、合計二十層、と言われている」

「含みのある言い方ですね。どういうことです?」


このダンジョンだってクリアされてるはずだろ。

 なら、正確な層の数くらい把握されてるはずでは?


「ツカサちゃんは、ダンジョンが魔神が作り出した魔獣を閉じ込めておく檻として作られたことは知ってるよね?」

「はい、そのくらいは」


確か、種族を作った、いわば善神に対抗して魔神が作ったとかなんとか、って話だったな。

 だが、それとダンジョンに一体なんの関係が?

 常識に疎い俺では、今与えられた少ないヒントでは全く分からない。これっぽっちのヒントで答えを導き出せというのは、さすがに無理だ。


「じゃあ、話が早い。地下五層目で強い魔獣と戦っただろ。その死体はどうなってた?」

「消えましたね」

「おかしいと思わない? ダンジョンにはまだまだ人が来る。だというのに、あの魔獣を消してしまったらあの層は簡単に越えられてしまう」

「そうですね。でも、復活するか、同じ種類の新しい魔獣が配置されるんじゃないですか?」

「後者が正解だ。そして、それが問題なんだ」

「問題、ですか?」


どういうことだ? 新しく魔獣が配置されるだけだろ?

 別にダンジョンなら普通だろ。


「新しく配置されるってことは、つまり替えの魔獣がいるってことだ。それはどこから補充される?」

「そりゃあ、どこからか………」

「正確な位置は分からないけど、どこかから補充されているのは、確かだよね。しかも、昔からこの先ずっと入るであろう冒険者のパーティーの数だけ、ね」


おい、ちょっと待て。

 イストの言い方に悪意があるわけじゃないはずなのに、予想していくうちにとんでもない事実に行き着くぞ。

 経験豊富な冒険者が言っているから、必ずしも間違っているわけじゃないはずだ。


「これは世間一般では出回っていない考えだし、言ったところで信じてもらえない頭の狂った考えだ。でも、俺の師匠がよく言っていたことだから言うよ」


短時間とはいえ、少なからず接してきた、というか接することを強要されてきたイストが見せる、初めての表情だった。

 俺もその異端な考えを受け入れるのに、甘ったれちゃいけないようだ。

 覚悟を決めて、耳をすませた。


「魔獣は増殖している可能性がある」

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