六十一話 同行
確かに龍人は俺以外にいないって話だったが、やっぱりいざ目の当たりにすると驚く人が多いな。
「えっ、嘘でしょ? この子の言ってることが本当なら、これ売るよりあの子自体を売っちゃった方が何倍もお金が入ってくるじゃない!」
「それはやめてください」
「魔道具壊しておいてそれはどうかと思うな。往生際が悪いぞ。おい、俺にも分けろ」
「えぇ、そっちの方向で話が進んでる」
「落とし前くらい自分でできるようにならないと一人前じゃないじゃく。でも私たちが教えたから大人に一歩近づいたじゃく」
「対価が重すぎるんですが」
教えてやるから代わりにお前を売らせろ、って多分ヤクザでも言わないぞ。
つまり、冒険者はヤクザ? いやいや、そんなことはないだろ。
さっきまでは怒ってたけど、それでも優しそうだったのに。金のことになると人間って変わるんだな。
まあ、イストって人は特に何も言ってこないので、比較的まともな部類だろう。
「なっ!? お前ら、ツカサちゃんを売るだと!? ふざけるな、その金使って買い戻してやる!」
それ、あんたの所有物になるようなもんじゃねぇか。知らないが、どうせこの世界にも奴隷制度くらいある、はず。
さっきの言動から察するに、俺には想像つかないことをやるつもりだろ。
この状況をどうやって変えようかと考えていると、後ろから殺気を感じた。
リビングアーマー!? いや、違うな。ルナだ、これ。
あーあ、売るだなんだと言ってるからルナがキレたな。
「さっきから、ツカサを売るとかなんとか…………やってみろ。私を倒して」
えっ、ルナさん!? そこで主人公みたいな言動するのはやめてください!?
不意打ちでびっくりした。
そして殺気を抑えろ。
相手は冒険者何年もやってるベテランのはずだぞ。倒せて二人だぞ。
俺は援護しないからな。面倒臭そうだし、そもそも俺のせいでこうなってるわけだし。
「じ、冗談だ。だからとりあえずその殺気を抑えろ。どこから魔獣が来るか分からん」
「次そういうことを言ったら、一人は倒す」
「ルナ! ダメだって!」
「まあ、いいって。うちの奴らが金の亡者ですまん。でも、本当に龍人なのか?」
「別に『鑑定士』? で鑑定してもらっても大丈夫ですよ」
「分かった。カラ、頼む」
「本当なはずがないだろう。まあ、やってはみるが」
カラと呼ばれた男が、疑り深い目で俺のことを見てくる。
さすがにちょっと慣れてきたので、もう大丈夫なはずだ。
少しして、カラが視線を俺から外した。少しだけ焦ったように。
「本当だ……………確かに種族は龍人だ」
「ツカサちゃんがステータス隠蔽系の技能を持っては?」
「いないな、持っているならわざわざ嘘をつく必要はないだろう。少なくとも俺にその理由は考えられん」
「なるほど、ってことは本当に龍人なのか。つまりだ、クリア」
「これは本物の龍人の鱗! 嘘、どれだけの値段で売れるかしら!」
「あの魔道具もう一つ買えるじゃか!?」
「それは今となってはもうあるかも分からない代物だから、もしかしたらお釣りが来るかもしれないな」
まあ、確かに30年前に絶滅したって話だったもんな。角と鱗目当てで。
ん? 30年前ってそこまで昔じゃなくないか? なんであるか分からないような物になってるんだ?
気になるな。聞いてみるか。
「なんでそんな珍しいものになってるんですか?」
「なんでって、知らないのか? いくら若くても知っているような事件だと思うが」
「そんなことがあったんですか。ちょっと色々あって知らないです、ゴメンなさい」
「どんな生活を送ってきたんだ、お前は」
「おい、ツカサちゃんを責めるんじゃない。その程度の事件だったってことだろ?」
「そんなはずがないだろうが。どれだけ被害を出したと思っている。おい、ツカサとやら。詳しいことは自分で調べろ」
無愛想、じゃないか。
信用してないのに、わざわざそんなことしないよな。
なんやかんやで、相当面倒見が良いと思う。
30年前にそんな大層な事件があったのか。
「とんでもなく強い魔人が現れた。どうしてか龍人の角と鱗は根こそぎ消えていた。被害もとてつもなかった。以上だ」
「ん? 魔人って魔獣と何か違うんですか?」
「調べろとさっき言っただろう。話も聞いていなかったのか」
なんか当たり強くない?
まあ、さっきの段階でもう面倒見が良いって分かってるから。
いわゆるツンデレというやつだろう。デレはそこまでいらないが。
「悪いな、ツカサちゃん。あいつ、そんなに人と話すのが得意じゃねぇんだ」
「そうなんですか」
俺もです!
うーん、なんとなく同士って気がしてきた。
さて、成り行きで自分の種族と顔をばらしてしまったのだが、これからどうしようか。
「んでもって、ツカサちゃん。これからどうするんだ? さっきので実力があるのは分かってるけど」
「このまま下に降りていこうかと思ってますが、それが何か?」
「いやぁ、実力があるのは分かってはいるんだけど、それでもこんなに可愛い子を猫人の子と二人でダンジョン攻略させるのは大人として気がひけるっていうか」
ふむ、確かに俺とルナだけじゃ、この先対処しきれない事態が起きるかもしれないな。そして俺は別に可愛くないと思う。
となると、戦力は欲しいところではあるが、魔道具も壊したのに、イストが許しても、他の奴らが許さないんじゃないか?
メガネの人は良い人だって分かってるけど、他の女の人二人が怖い。
「何言ってるの、足手まといになるだけよ。やめておきなさい」
「でも、あの鎧を倒したんだ。火力は多分俺たちの数段上だぜ? 戦力になると思うんだが」
「でも、魔道具ぶっ壊したじゅか」
そうなりますよね。
やっぱり俺たち二人だけでどうにかしないといけないのか。
別に無理してでも、この人たちについていく必要もないわけだし。
「それは確かにそうだが…………」
「おい、リーダー。少しは頭を冷やせ。こいつは確かに鎧を跡形もなく壊した。でもな、あれがまぐれだったって可能性もないわけじゃない。しかも、あの龍人だぞ? 情報が本当なら、ステータスはとんでもなく低い。クリアが言った通り、足手まといになる。コテルもやつのことは好きではない。もちろん俺もだ。ここでパーティー全体の士気を下げる必要はどこにもない」
うん、もっともだ。
メガネはまともなようだ。本当ならイストもまともなんだろうが、なんというか、趣味が暴走でもしてるんだろうか。
ともかく、俺たちがあの人たちについていく可能性は限りなく低いようだ。
「あ、あのそういうことでしたら、別に連れて行かなくても大丈夫ですよ?」
「わざわざ連れて行かなくていい。迷惑をかける気はない」
「ツカサちゃん、猫人の子………! お前、いいのか!? こんなに良い子たちを危険なダンジョンで二人だけにして!?」
「お前の趣味で俺に訴えかけようとしたところで何も出来ん、諦めろ。そもそも自己責任でダンジョンに入ったんだ。俺たちが面倒を見る必要などどこにもない」
おい、イスト。諦めろ。口論で勝てる相手じゃないぞ。
というか俺はともかくルナに至っては、多分イストたちと行動するのが純粋に嫌なだけだと思うんだが。すげぇ嫌そうな顔をしながら言ってたぞ。
それでも引かないイストはどうかしてるんじゃないだろうか。
「それは! そうだが…………でも、だからって子供を見捨てるのは違うだろ!」
「冒険者になったんだ、覚悟だってあるはずだ。無いならこんなところにはいないだろう!」
二人が声を荒げて言い合っている。
それを俺は一歩引いたところから見ているだけ。
正直、どっちでもいいから早く決めて欲しかった。なんでここで足止め食らってるんだ。
呆れていると、不意に念のためと広げておいた魔力感知に反応があった。
なんだ、魔獣か? いや、それにしては速いな。
おい、待て。この移動速度は、まさか!?
「全員俺の近くに寄れ!」
「何? お前、少しは立場ってものを考えて話せよ? 俺はあまり心は広くないぞ?」
「いいから急げ!」
「ツカサちゃん? ………………! 全員言う通りにしろ! リーダーとしての命令だ!」
その言葉で、元から近かったルナ以外の全員が俺のすぐそばに寄った。
これで指示が出せる。
魔力感知でやつが来る道を辿って、どの道から来るのかを把握する。
「全員右に! 左からの衝撃に備えろ! あと色んな意味で身構えろ!」
良かった、全員言う事を聞いてくれた。
俺は左の通路を見る。
まだ見えないが、すぐやってくる。
俺は一歩進むと、俺と他の全員との間に魔術で壁を作る。
衝撃はできる限りこれで抑える。
そして、全力で迎え撃つ。
一瞬の静寂の後、姿を見せたのは、リビングアーマーだった。
大剣を振りかぶった状態で迫ってくる。
さっきみたいな出待ちじみたことはできない。
今俺ができる全力は…………
「『操炎』」
これ以外にない。
リビングアーマーはとにかくリーチが長い。鎧自体の腕が長いし、大剣の大きさも相当だ。そのため、もう遠距離攻撃のような攻撃になる。
だから、最初にそのうざい腕を破壊する。
「『鬼火』」
念のために四つ用意した『鬼火』をリビングアーマーに撃つ。
それぞれが変な軌道でリビングアーマーに向かう。だが、リビングアーマーはそれを気に留めていない。
『操炎』のおかげで威力の上がっている『鬼火』をスルーするとは。これ、俺しか見えてないのでは?
まあ、いいか。好都合だし。
俺は『鬼火』二つを動かして、リビングアーマーの腕を溶かしにかかった。
あっけなく命中して、しかもあっさり溶けた。
肘から下が溶けて、剣が持てなくなったリビングアーマーは、それでも止まらなかった。
それは無策というやつだろ。それとも何か策があるのか。
どっちにしろ、近づかせるようなことはしない。
ただ、今度も『炎天龍』だと避けられるかもしれない。なので、違う魔術を使う。
「『暴炎・乱』」
ただでさえ暴れに暴れる『暴炎』をさらに暴れさせよう、という狂った発想の元、構築した魔術なのだが想像以上に暴れているぞ。
大丈夫かこれは……魔術で壁を作っているとはいえ、いくら何でも暴れすぎだな。
さすがにふざけすぎたかもしれない。何というものを作ってしまったんだ。
まあ、暴れてるってことは命中精度は低いが、その分高火力の魔術が拡散しているってことなので、リビングアーマーはひとたまりもないだろうな。
そしてリビングアーマーは跡形も無くなっていた。
ふぅ、これで脅威は去った。余った二つの『鬼火』は消しておく。
「な、何だその威力は!? さっきもそうだが!」
「そんなことより、今は次のやつが来る前に、下の層へ行きましょう! この層以外にはあいつ出てきませんよね!?」
「ああ! 行こう!」
俺は魔力感知で下への階段を探す。
すぐに見つかったので、そこまで全力疾走(俺以外)。
下への階段も駆け下りて、地下七層へ。
↓
この層はリビングアーマーは出てこないという話だった。
なら安心できるだろう。
イスト達がずっとこっちを見てくるので、きっと一息つきたいんだろう。
「休みますか?」
「いや、休むが、休むんだが! お前、いくら何でもどういう火力をしてるんだ! しかもそのあとも魔法を使っていただろう! 死にたいのか!?」
えぇと、ゲーム風に言うところのHPとMPはリンクしているということだったはず。
そう言われると、確かにあんな威力の魔術を使って、しかもそのあとも魔術で移動してたから、死の危険があったということになるだろう。
でも、俺には『自己再生』がある。どうしてか、体力も回復していくこの固有技能にかかれば、魔術の使いすぎで死ぬなんてことは万が一にもありえない。
まあ、それを言うことはできないんだが。猫人の人たちに言った時とは状況が全く違うわけだし。
「まあまあ、死んでないわけですし、そのことは見逃してください」
「そうは言ってもだな!」
「落ち着けよ、カラ。らしくないぞ。ツカサちゃんを心配してくれるのは良いと思うが」
男二人に心配されて、喜ぶようなやつではないんだがな、俺は。
それはそれとしてメガネ、やっぱりお前は良いやつだったな。
「なあ、あんな魔法が使えるんだ。戦力として数えてもいいだろ? なっ?」
「確かに魔法はすごかったけど…………私たちに龍人なんて足手まといを連れていく余裕はないわ。諦めなさい」
「ツカサは足手まといじゃない」
「そんなわけないでしょ、龍人よ?」
おい、ルナ。突っかかる必要はないだろ! やめとけ!
別に俺がどう言われても気にしないくていいんだがな。俺は慣れてるし。思い出したくもない経験を経て。
とりあえずイストのパーティーと一緒に行くにしろ、俺たち二人で行くにしろ、下の層へ降りる階段は見つけておいた方が楽だろう。
そういうわけで、魔力感知で階段を探す。
むっ、さっきの層よりも広いな。何層まであるかは知らないが、地下七層目でこれだと、この先が思いやられるな。
ルナと女の人が言い争っていて、正直うるさい。男二人、止めろよ。
んでもって、もう一人の語尾がおかしかった方の女の人は、一歩離れた位置でブツブツと何かを言っていた。どうしたんだろうか。
「ツカサ、ちょっとこっち来て」
「うわっ! なんだよ?」
「あいつがツカサのこと、邪魔だって言うから違うって証明する、してきて!」
「いや、俺は別にそんなことしなくていいんだけど」
「とにかくしてきて!」
「なんでムキになってるんだよ!」
俺は引きずられて、女の人の前まで連れてこられた。
全く、背が低いとはいえ、そんなことをする必要はないぞ。
というか、何をすればいいんだよ。さっき言った通り、俺が名誉を挽回する気はないし、必要性を感じないんだが。
「あの、何をすれば?」
「魔道具を壊した弁償代は貰ったわ。でも、あなたみたいな足手まといを連れて行く余裕は、先から言っている通り全くないわ。連れて行くなんてことはしないから」
「その通りなので、こっちも無駄なことはしたくないんですが」
「なら、別にいいじゃない。やめましょう、この不毛な争い」
「そうですね、じゃあそういうことで」
交渉終了。
これ以上ないほど平和的に解決した。よし、これで大丈夫だろう。
そういうわけでさっきまでと同じように二人でダンジョン攻略するぞ、ルナ。
だが、ルナは納得していない顔をしていた。そんな顔をされても、これ以上何をしろと言うんだ。
「ツカサ………」
「ルナ、諦めろ。俺は別に気しないから、な?」
「………………分かった」
「よし、じゃあ行こう」
「待て」
なんで止めるの? おかしくない? もう話終わったよね? 平和的に終わったよね?
なのにどうしてそんなことするんだ!
俺が仕方なく振り向くと、メガネをクイっとしているメガネ、もといカラがいた。
「なあ、クリア。やつは確実に戦力になるぞ」
「はぁ? 何言って」
「あれだけの火力の魔法を使っても息を切らさないほどの膨大な量の体力があれば、ステータスの低さなど些細なことだ」
「だからって、連れて行くのはどうかと思うけど」
そうだよ、お前さっきまで反対派だったじゃねぇか!
一体何があったんだよ! 俺は連れて行かなくていいの!
面倒くさいやつだなぁ。
「お前はさっき言ったな。連れて行く余裕はない、と。だが、やつがいればそれは逆転するぞ。あそこの猫人もいるんだ。戦力増強は必然だ。このダンジョンを攻略する上で必要なことだ」
「でも……」
「コテルはどうだ?」
「別に魔道具の分のお金を貰えれば、割とどうでもいいじゃし」
「らしいが? イストもやつを連れて行くことには肯定的だ。あとはお前だけだが、どうする?」
「……………あぁ、もう! 分かったわよ! 連れて行く! 連れて行くわよ! これでいい!?」
えぇ、嘘でしょ。なんで急に話が逆転したの?
さっきまでイスト以外全員反対してたじゃねぇか! なんでこうなるんだ!
くそ、話が決まると同時にイストの視線がこっちに全力で向いている。
「ツカサちゃん………一緒に行けるって! 俺が守るから安心してくれ!」
「いや、別にいいんですけど」
俺は普通にダンジョン攻略して、魔道具が欲しいだけなのに、どうしてこうなるんだよ。
意味が分からない。
そんなわけでどうしてか、イストをリーダーとしたパーティーと一緒にダンジョンを攻略することになってしまった。
正直、心底嫌である。
どうして連続投稿したのかというと、調子が良かったのと、夏が終わるから。




