五十九話 冒険者 イスト・ロイス
時系列的には、主人公たちがリビングアーマーに会う前からです。
セリフで『』から「」が使われるようになったら、身の上話終了です。
突然だが、この俺、イスト・ロイスの目の前には天使がいる。
いや、正確に言うならば、天使と見紛うばかりの幼女がいる。
おい、『何言ってんだ、こいつ?』と思ったそこのお前。『うわ、幼女趣味だよ』と思ったそこのお前。
まあ、待て。順を追って説明してやろうじゃないか。
この天使が現れた経緯を。
俺は、こう言っちゃなんだが割りかし裕福な家庭に生まれた。飯にも困らず、家もまあまあ広い。そして親父たち曰く、子宝にも恵まれた、らしく四人兄弟だった。
えっ? 俺が一体どの位置かって? よくぞ聞いてくれた。俺は末っ子だ!
そう、何をしようと小さいから、まだ子供だからと甘やかされ、喧嘩をした時も基本的に力の強い兄たちが怒られていた。
何度繰り返しても、その連続で正直親に呆れたこともあった。さすがに兄たちが気の毒に思えたのだ。
まあ、そんなわけで末っ子でありながら、兄たちを懲らしめられる方法を期間限定ながら持っていた俺は、なんでもできると思えた。
残念なことにそんなことはないのだが、まあ若気の至りというやつだ。ともかく絶好調だった幼少期の俺は、住んでいた場所の近くのガキも、知恵と勇気と…………くそ、俺の語彙力ではどう頑張ってもこれ以上の褒め言葉が見つからない。もっと褒めたいのに。
いかん、話がずれた。同じ年代のガキの中では案外力が強かった俺は、喧嘩でも強かった。
気づけば、俺はそこら一帯のガキどもの上に立つ存在となっていた。ガキ大将というやつだ。
そして褒めまくられた。
『兄貴、最強!』だの、『イストさん、マジパネェっす!』だの、『悪の帝王!』だの、悪の帝王!? おい、待て。俺はそこまで悪いことをした覚えは、そんなにないぞ! えぇと、一つ、二つ、三つ、四つ……意外とあったわ。
その頃の俺は気にもとめずに流していたっけな。だって、正直聞き飽きていたのだ。
幼少期の俺は思った。
『あー、冒険してぇ。強い奴と戦いてぇ。有名になりてぇ』
うーん、今思い返せば、純粋な夢を持つ少年だったんだな。
そして、幼少期の俺は決断する。
最もロマンに溢れ、そして強くなれて、何より職業の性質上、有名にもなれる。そんな好条件の将来を掴もう、と。
そう決めた時の俺の行動はあまりにも早かった。
まず、訓練を始めた。今は強いとはいえ、冒険者になった時、魔獣よりも強い保障がなかったのだ。うん、あの時の俺、マジ賢い。
元冒険者の人を探し出し、頼み込んで、戦い方を教えてもらった。
俺は物覚えも良かった。剣にしろ、魔法にしろ、才能故か、どちらも上手くできた。元冒険者からのお墨付きも貰った。
正直、自分は最強だと思った。
まだガキの頃に喧嘩したヤツと戦っても、拳が止まって見えた。奴が弱くなったわけじゃない、俺が強くなったんだと実感した。
そして16歳の時、家を出て、念願の冒険者という職業に就こうとした。家族は反対しなかった。兄たちは俺がいなくなるということに喜びすら感じていたようだった。別に気にしちゃいないが。
その頃はというと、最強の魔人『殲滅者』とやらが現れてから5年が経ち、冒険者、戦力の増強に、全ての国が尽力しており、級の高い冒険者が何人も現れていた。
俺はライバルだと思った。
『やってやる、俺はこの世界で有名になるんだ』
小さな頃からの夢だったのだ。
全員追い抜かしてやるぞ、という意気込みだけが、胸の中にあった。
だが、最大の問題がここで立ち塞がったのだ。
そう、冒険者という職業は二人以上でないと受けられないクエストが多い。ソロで受けられるクエストなんてたかが知れてる。
俺はそのことを忘れていたから、もちろん相棒なんていなかった。だから、相棒を探す必要があった。
俺は街を探し回り、冒険者になりたいのに、相棒がいなくて、これじゃあ冒険者としてやっていけないよ、という顔のやつを見つけたのだ。
それ以外の状況のやつだと、拒否される気がしたのだ。
ともかく、そいつは喜んで俺の提案を受け入れてくれた。
もし問題があるとしたら、そいつが女だったことくらいか。正直言って、女には苦手意識があった。
まあ、偶然にも同い年だったこともあり、お互い信頼し合えた。
若手にしては、なかなかの才能に世間も俺たちを認め始めた。相棒の他にも、人が増えた。二人だったのが、四人組のパーティーになっていた。
人数も増えて、バランスも良かったんで、さらに功績にも磨きがかかった。
『お前ら、相当すげぇじゃねぇか』、知ってるよ。『さすがだなぁ、ここらじゃエースじゃねぇか』、ありがとな。
ふっ、やはり俺は冒険者になるべきだったんだ。
だが、どうしても超えられない壁があった。
冒険者に級、分かりやすく言えば、どれだけギルドに『お前すげぇな』と言われているかを表す制度があるのだが、どうしてもB級に上がれないのだ。
これはまずかった。S級なんて、伝説の男になるのが夢だった俺には、何としてでもA級までには上がる必要がある。なのに、その一つ下のB級にすら上がれないのでは、この先が思いやられた。
だから、俺は他のメンバーにこう提案した。
「なあ、一度初心に戻ってみないか?」
「え、どうして?」
こう言ってきたのは、相棒のクリアだった。まあまあな顔立ちの女だ。俺の好みではない。立ち位置は俺と同じく前衛である。
心底何言ってるか分からない、という顔をしている。何年もこんなやりとりを続けている俺だからこそ、耐えられる顔面の怖さだ。
ふっ、今日はまた一段と怖いぜ。
まあ、実際そんな顔をするのも分からないでもない。
C級といえば、言ってしまえば人生勝ち組だ。命の危険がないようなクエストを、そこそここなしているだけで金は困らないくらいに貰える。
相棒はどうやらこれ以上級が上がらなくてもいいじゃん、という考えらしい。
だが、甘い! というか、忘れるな!
「俺は強くなって、有名になりたいんだ!」
「うん、知ってるけど」
「だが、俺たちは最近伸び悩んでいる」
「別に悩んでないでしょ。私たちのパーティー、このままちゃんとクエストこなしていけば、一年以内にB級になれるわよ。ねぇ?」
「ああ、急ぐ必要はないと思うが」
そう言うのは、メガネをかけていて、魔法使いのメガネ・カケマン、じゃなくて、カラだ。
基本的に、俺は頭は良いが、使いたくないのだ。故に、参謀はこいつだ。
「その通りである。私さえ有名になれば急ぐ必要などないのである」
そして、最後の一人が、カラが来るまでは、後衛で魔法を使って援護してくれていたが、カラの方がいろいろと役に立つことがショックだったのか、よく分からない語尾になり、しかもそれがよく変わる、コテルだ。
そう、気づいただろう。このパーティー、俺以外、カ行なのだ!
まあ、だから何、だが。特にカ行のやつを集めた、とかいうわけではない。
「あのなぁ、一応パーティーなんだから、目的くらい一貫させておこうぜ? な? ということで、目的はS級冒険者ってことで」
「勝手に決めない!」
「まあ、一旦置いておこう、その話題は。俺は思うんだ。俺たちはまだ行けるって」
「そうでしょうね、余裕があるから安全策とってるわけだし」
「その余裕が、俺たちがこんな級で収まってしまっている原因だと思うんだよ。だから、俺は提案する」
一晩考えた方法を、俺は高らかに言った。
「俺たちが最初に行ったダンジョンに、このパーティーだけで攻略しようじゃないか」
「え、ごめん。ちょっと何言ってるか分からない」
「まだ行けると、お前たちも賛同しただろう! そしてリーダーは俺だ! 決定だ!」
こうして、俺たちのパーティーは半ば強引に、最初の潜ったダンジョンに、この四人だけで潜ることになるのだった。
だが、すぐにダンジョンに潜れるわけではない。
何故なら、最初に潜ったダンジョンは、その時の状況とクエストとの都合が重なって、俺たちが今いる『憤怒』の魔王が統治する国ではなく、南に行った、最強の『強欲』の魔王が統治する、大国にあるダンジョンが初めて潜ったダンジョンなのだ。
しかし『強欲』の国は、基本的に都にダンジョンが集中している。さすがに、都に入ってまでダンジョンに潜る気は無かった。
よって、都の中央から西へ向かった、ダンジョンに潜ったのだ。
つまり、だ。『強欲』の国にまで移動しないといけないのだ。まあ、俺は別に構わない。
なんやかんやで、他のメンバーも乗り気だ。
手早く準備も済ませて、『強欲』の国へ向かった。
↓
やっぱり『強欲』の国は賑わっていた。
もちろん、都ではないのに、だ。ここまで賑わっていると、もう『強欲』の国に住みたいくらいだ。
そういうわけにはいかないのだが。
「おい、イスト。どうした? もうダンジョンすぐそこのギルドだぞ?」
「あ、ああ。悪い、ちょっとボーっとしてた」
気を引き締めていくぞ。
受付係に声をかけて、ダンジョンに入る許可証を貰って、ダンジョンに潜った。
足を踏み入れて、つい先までとはまるで違う空気に、体が喜んでいるのが分かる。やはり、俺は冒険をするために生まれてきたのだ。
そう感じながら、俺たちは、ダンジョンの奥へと進んでいった。
正直、地下四層までは楽勝だ。
というのも、このダンジョンは五層ごとにボスとでもいうべき魔獣が配置されており、それを倒さないと下の層へ行けないのだ。
面倒な仕様ではあるが、別に苦戦するような敵でもないので、地下四層までよりも、少しだけ力を出してやればいいだけだ。
「ねえ、イスト」
「ん?」
「こんなに簡単だったっけ?」
「それは俺も感じた。ここまでサクサク来られたっけ?」
「それだけ俺たちが強くなっているということだ。レベルが上がったというのもあるが、それ以上に連携が取れている、ということだろう」
「クックック、やはり私のおかげでござるよ」
「おい、またおかしくなってるぞ」
こいつのキャラはいつになったら決まるのやら。
雑談を挟みつつ、ボスへの作戦を立てる。
そこで、カラが一つ試してみたと言い出した。
というわけで、カラの提案をそのまま飲み込む形で、作戦を立てた。
若干のカモフラージュが施された、ボス部屋前で一度、深呼吸。
「ふぅ、行くか」
両手で、扉を開いていく。
隙間から漏れ出る濃い気配。昔ならビビっていただろう。だが、今となっては驚く程度だ。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉッッ!!」
轟く雄叫びを合図に、俺たちはボス部屋に入った。
「全員、総攻撃を仕掛けるぞ! 短期で仕留める!」
「「「おおっ!」」」
そう、カラが提案してきたのは、全員が全員好き勝手する、だった。
正気か、と参謀を疑っても別に怒られないだろう。
だが、このダンジョンに入ってから感じていた余裕が、俺たちを、無謀な作戦を了承するという行動に導いた。
まずは相棒が先陣を切った。何度も魔獣を切りつけて、素早く離れる。
カラとコテルが後ろから魔法を放つ関係上、どうしても誤爆の可能性が生まれてしまう。
ということで、我々前衛はヒットアンドアウェイを繰り返して、後衛は俺たちが離れたタイミングで魔法を放つ。波状攻撃というやつだ。
そこまで考えることもないので、魔獣にダメージを与えられている感覚もあるし、時間はかからないだろう。
何度目かの前衛の攻撃の時に、魔獣が倒れた。
なんだよ、苦戦する要素なんてなかった。
少し休憩してから、下の層に、地下六層に降りる。
ボス部屋で休むのには訳がある。地下六層は留まってはいけないのだ。
一秒でも早く、下の階層へ行かないといけない。
何故なら、地下六層は動く鎧が徘徊しているのだ。
とりあえず面倒だ。しかも、見つかると、まず逃げ切れない。足が速すぎる。しかも相当な力だ。ステータスの低い奴は、一撃で吹き飛ぶ。頑丈で、攻撃してもほとんど傷は付かない。
ここが最難関と言っても過言ではないだろう。
なので、ボス部屋で休み、地下六層では最速で階段を探す。
だが、このダンジョンに初めて入った時から割と時間が経っているため、階段までの道を誰一人として覚えていなかった。
というわけで、一から探しているわけなのだが、嫌らしいことに、この地下六層は想像以上に広い。探すのに時間がかかる。
面倒くさい。
「いつまで歩くのだー」
「確かに疲れてきたわね」
先に女たちが文句を言い出した。
この層に来てから、かれこれ何時間も歩きっぱなしだが、それも仕方ないんだから、もう少し我慢しろよ。
「少し休みますか?」
カラがメガネをクイッとしながら問いかけてきた。
うーん、確かに休むのも一つの手だろう。この層で体力を使いすぎて、戦えずに死ぬ、なんてことはあっちゃいけない。
だが、休むまでに割と準備がいるのだ。
しかも、使う方法の都合上、どうしても開けている場所でしか、休めない。どうせその場所を探すためにまた歩かなきゃいけないのだから、別に休まなくたっていいじゃないか。
本末転倒だ。
そういうわけで俺は、休まず動く、に賛成だ。
なのだが、
「なぁ、どうせ歩いて場所探さなきゃいけないんだ。別に休まなくてもいいんじゃないか?」
「分かってないわね、無性に休みたくなる時があるのよ」
「その通りである」
「俺は別にどっちでもいいがな。決断は急げ、いつ鎧と出くわすか分からん。俺の体力は無限ではない」
「分かったよ。休む、休みましょう」
何年もの付き合いだと、どうしても甘くなってしまう節がある。
そういうわけで、広い場所を探すことになった。
鎧と合わないようにしつつ、移動すると、思っていた以上に近い場所に開けた場所を見つけた。
女たちが急に動きを早めて、この層でも鎧を気にせず、休むための準備を始める。
まず、休むスペースを決める。そして、その場所を整える。地面がボコボコだと居心地が悪いからな。
そして、整え終わったら、その中央に、魔道具を置く。
この魔道具が、安全に休む上で重要なのだ。
効果は、指定した範囲(上限は半径10メートル以内)を認知しにくい空間にする、だ。
鎧は、実はそこまでしっかりと標的を見ているわけではない。視力というものがあるのか分からないが、とにかくそこまで遠い距離は見えないし、近くも少ししか見えていないのだ。
気配を感じ取って、目標に向かっているわけでもないので、そもそも存在を認識させなければいいのだ。
ということで、この魔道具の出番だ。偶然手に入った代物だが、とても使える。
カラがセッティングを終えると、全員が座り込む。
「10メートル」
範囲を指定すれば、そこまでの場所を覆うように、うっすらと青い壁がドーム状に広がる。
これで鎧に気付かれることなく、しっかりと休むことができるのだ。
快適だ。そこまで休みたいわけではなかったが、いざ休むとどうしてもリラックスしてしまうものだ。
他のメンバーは、何か食べたり、飲んだり、魔力回復のために寝ていた。
魔道具に時間制限はないので、誰かが見張る必要もない。
だが、俺は一応外を警戒しておいた。
→
しばらくして、音が聞こえてきた。
なんだ、他に冒険者が来たのか? 隠密行動が基本のこの層で、ここまで音が響くことは珍しい。
まさかとは思うが、鎧に見つかったのか? いやいやいや、いくらなんでも不用心すぎるだろう。冒険者になるんだから、気配を遮断する方法も、隠密行動もできるだろう。
まあ、俺が気にすることではないか。どうせ死ぬんだから。
同業者とはいえ、基本的にパーティーの仲間や相棒以外に、仲間意識を持つ奴は少ない。だって、死んだらそこで終わりだし。
俺も例に漏れず、そういう人間なのだが、心配になってきた。
何にって?
音がだんだんと良く聞こえるようになってきていることにだよ。
まさか、見つかったやつ、高速でこっちまで逃げてきてるんじゃないのか? 鎧も引き連れて。
おいおい、馬鹿だろう。初見で攻撃見切れるのと、そんな高速移動手段持ってることは素直に賞賛するが、それ以上にツッコミどころが多すぎるぞ。
まず、そんな技術があるなら、そもそも見つかるなよ! というか、なんでそんなに逃げられるんだよ!
まだ色々と言いたいが、それを上回る勢いで、俺を不安が支配した。
そんなことはないはずなのに、心配するしかなかった。
俺たちがいる場所に偶然来ませんように。
心の底から願った。
が、叶わず。
ドガァァァァン!
上から音がして、見上げると、そこにはローブを着て、フードを深く被り、そして不気味な仮面をつけた奴がいた。
何をどう取り繕っても、ヤバいやつだ。
そして、そいつは一瞬俺たちを見た後、すぐに飛んできた通路を見た。
まさか、な。
俺もその方向を見ると、そこにはすごい速度で走ってくる動く鎧の姿があった。
迎撃に出るヤバいやつ。
「おい、勝てるわけねぇだろ!」
思わず声が出る。
きっと俺たちがいることにも気づいていないはずだが…………いや、待て。俺はさっき思ったぞ。一瞬俺たちを見た、と。
勘違いでなければ、俺はヤバいやつが俺たちを見たと思ったんだ。つまり、あいつは俺たちがここにいることを魔道具の効果があるにも関わらず、気づいている。
どういうことだ。魔道具が壊れたのか? まずいぞ、すぐそこに鎧がいるってのに。
だが、それ以上にまずかったのは、ヤバいやつが魔道具のちょうど真上にいることだった。
今思えば、早くそのことに気づいていれば良かった。
そうすれば…………うぅ。
「大丈夫だ」
仮面のせいでくぐもって聞こえるが、自信のあるその声が聞こえると同時に、ヤバいやつは降りてきた。
はっ? 何を………。
俺は思わずボーっとしてしまった。
何もせずに、固まったまま。
ガッシャァァン!
俺たちの魔道具が壊れる音だった。
「うわぁぁぁぁっ!」
絶叫した。
しかし、それを気にも留めずに、ヤバいやつが走り出す。
俺たちの魔道具にとどめをさしながら。
うわ、もう直せないところまで。
俺はもうこの事実から目を背けることにした。
ヤバいやつは、もう鎧の目の前。
鎧は剣を振りかぶっている。
何もできずに死ぬのか、こいつは。
そう思っていると、不意にヤバいやつが来た通路と垂直に方向を変えた。どうしてかは分からない。
そして手を前に出し、呟くように言った。
「『炎天龍』」
瞬間、現れた炎でできた龍が、鎧を飲み込んだ。
熱が俺のところにまで伝わってくる。
それだけで察する。嘘だろ、どんな威力の魔法だよ。
だが、龍というには少々変わった姿だったな。
いや、そんなことは関係ない。
あのヤバいやつ、まさか鎧を倒そうとしているのか!? 馬鹿だろ、鎧のことを知らなかったり、倒そうとしていたり、無知すぎるぞ。あんなんで冒険者やってんのかよ。
まあ、知識はともかく、実力の方はあるだろうな。
魔法が消えて、鎧の姿が見えてくる。
地面に倒れながらも、立とうともがいていた。あれを受けて、まだ動けるってすごいな。
しかし、鎧は全体的に焦げているし、四肢は溶けたのか、腕は肘から、足は膝から先の形がおかしくなっていた。大剣は跡形もない。
もう立つこともできないだろうな。
と思っていると、ヤバいやつが鎧のすぐそこに立つ。
「お、おい、いくら重症とはいえまだ動けるんだ。危ねぇぞ!」
「死ね」
「へっ?」
「『炎天龍』」
やつはもう一度あのとてつもない威力の魔法を撃った。
いや、馬鹿かよ!
いくらなんでも鎧が可哀想になってくるぞ!
そして、まだちゃんと形を保っていた部分までもが、高熱によって完璧に溶けた。
あぁ、珍しい素材になるかもと思ったのに。そんなことすら知らないのかよ、本当に初心者だな。
だが、助けてもらった……………いや、別に助けてもらったわけじゃないな。
そこで俺は思い出した。
「ああああああぁぁぁぁ! 魔道具がぁぁ!」
「うわっ、びっくりした」
ヤバいやつが驚いているが、それどころではない!
他のメンバーも、さすがに起きている。そして、状況を察しているだろう。
この悲惨な姿になってしまった魔道具を。
「ね、ねぇ、これもう一度買おうとすると、どのくらいになるのかしら?」
「…………………恐らく、何十万ルニーとかかるだろう。初めて出てきたものだったおかげで、何故か安く買えたんだ」
「ちょ、ちょっと待つのじゃ! と、ということはもうダンジョンや外で安心して休めないということかじゃ!?」
「語尾がイカれ始めてるが、確かにそうだ! くそ、今の俺たちにそこまでの貯金はないぞ!」
慌てふためく俺たち四人。
しかし、仕方ないのだ。
何年も一緒に冒険を共にしてきた、いわばパーティー全員の第二の相棒なのだ。
それが壊れた、いや壊された。
当然恨みは、壊した張本人に向けられた。
「おい、そこの仮面つけたヤバそうな見た目のやつ!」
「ん? はい」
「お前、自分が壊したものがどれだけ高いか分かってるのか!?」
「え、なんか壊したっけ? えぇと………あっ、本当だ。そんな高かったの? うわぁ、ごめんなさい!」
「ごめんなさいで済むなら、こんなに怒ってねぇよ! どうするんだ、もう一つ同じものがあるかも分からないんだぞ!?」
「そうよ! せめてお金だけでも置いていきなさいよ!」
「悪いが俺も、今回ばかりはキレている。死ぬ覚悟はあるだろうな」
「私たちの安息の地を奪うとは、いい度胸じゃこ…………血祭りじゃかぁぁ!」
「お前は本当に語尾をどうにかしろ。だが、言ってることは正しい! そもそも誠心誠意謝らなきゃいけない状況で、仮面なんてつけてるんじゃねぇ! 今すぐ外せ!」
俺たちは大声で、思いっきりキレた。
鎧をここに連れてきたのはこいつ、魔道具を壊したのもこいつ。
全ての元凶はこいつなのだ。
殺してしまっても誰も文句は言わないだろう。
だが、ヤバいやつは俺たちの殺気よりも先に、俺が言ったことに反応した。
「か、仮面を外せ、ですか? ちょっと無理です、でも謝りますから、それで勘弁してください!」
「はあ、ふざけんじゃねぇ! ちょっと実力があるくらいで調子乗りやがって、その仮面がかっこいいとでも思ってるのか、ダサいよ、外せぇ! そのフードも脱げぇ!」
「うわぁ、勘弁してください!」
俺が追いかけ、ヤバいやつが逃げる。
そんなやり取りが続いた。
が、どうやらヤバいやつはステータスがそこまで高くないようだ。
すぐに追いつき、フードを掴む。
逃げるのに必死なのか、気付かず走り、フードが脱げた。
すぐに見えるようになったのは、鮮やかな赤色をした、長い髪だった。
しかし、その時の俺は深く考えていない。この髪の色や長さから性別を判断するなどもしなかった。
そして、仮面も掴もうとしたその時に、何者かが今俺たちがいる場所にやってきた。
鎧かと身構えると、そこには猫の耳が生えた少女がいた。
「猫人、か。珍しいな」
「ルナぁ! ちょっと壁にさせてくれぇ!」
ルナと呼ばれた少女の後ろに逃げ込むヤバいやつ。
逃げるな、その仮面を取ってやるぞ。
少し近寄ると、
「分かった! 分かりました! 仮面は取るから、ちょっと待ってくれ!」
大声でそう言ってきた。
自分から仮面を取るなら、その方が良いだろうと、若干冷静になった俺は、承諾した。
何度か深呼吸をしてから、ヤバいやつが仮面を外した。
そしてもう何度か、深呼吸をしてから、壁にしていた少女の後ろから出てきた。
瞬間、俺の時は止まった。
そこにはとんでもなく綺麗、かつ可愛い幼女が立っていたのだ。
背は120センチ程度だろう。フードを取った時に分かった赤く長い髪は腰のあたりまで伸びていた。
体は、ローブからでも覗く、細い首から、抱きしめたら折れてしまいそうなほど華奢なことが分かった。
そして極めつきは顔だ。整った顔立ちには思わず惚れ惚れしてしまう。しかし幼さがまだまだ残っている。さらに、くりくりとした赤い目が愛嬌を生んでいた。
しかも、恥じらいか、頬を赤く染めている。
「ヤバい、可愛い」
俺は故郷を離れて何年も冒険者を続けてきて、ある境地にたどり着いていた。
誰にも理解されないであろう、孤高の境地に。
すなわち、幼女が大好きなのだ! 理由は幾つかあるが、それを隅から隅まで語ろうとすれば、もしかしたら世界が滅亡してしまうかもしれないので割愛する。
だが待ってくれ、好みすぎて死ねてしまうぞ。
気を確かに持て、落ち着くんだ。
一度深呼吸をして、落ち着こうとすると、
「あの…………大丈夫ですか?」
澄んだ声が耳に届く。
そこで俺は意識が遠のいていくのを感じた。
倒れそうになりながら、あることだけを考えていた。
声まで可愛いとか、反則だろ。
天使……か、よ。




