五十七話 ダンジョン攻略開始
↓ 下の層に降りる
→ 層はそのまま
という感じです。最初のダンジョンとは作りが違いますので、このような形になりました。
中に入ると、少しの酒の匂いと、そして血の匂いがした。うん、前に入った場所とは大違いだ。一体何が違うとこういう差ができるんだろうか。
そして血の匂い。できれば魔獣の血であると願いたい。
また新人が来やがったよ、みたいな視線でこちらを見てくる、そこらへんの椅子に座った冒険者たち。
俺への視線はまだ、変な格好してるヤベェやつだろう。
でもルナへの視線はそれとはまるで違うんだろうなぁ。
いわゆるナンパが発生しそうな状況だった。
それに気づいているはずのルナだが、視線がそういう類のものだとは気付かず、いつでも臨戦態勢に入れるように準備していた。ここでよくあるイベントをするのはやめてください。
さすがにまずいと感じた俺は、
「急ぐぞ。とりあえずお前の冒険者登録を済ませる必要がある」
「ここ、気持ち悪い」
「それには同意する」
先導して、受付まで案内した。
いたのは、前行ったギルドと違うからなのか、それとも他の理由なのかは分からないが、男の受付だった。
うん、いかつい感じの顔立ちで、ヒゲもちゃんと生えてて、ザ・男、みたいな?
まあ、人によっては怖がるんだろうな、なんて思いながら、話しかける。
俺はこういう人ほど優しいって分かってるから。
「冒険者登録をさせたい奴がいる。頼めるか?」
「あぁ? 珍しいな、お前さん。他にも受付係はいるだろう? 俺と違って女がよ」
「ああ、そうだな。でも、あんたじゃダメな理由もないだろ?」
「そうかよ。まあ、勝手にしな。それで? 冒険者登録だったな。あんたか?」
「俺はこの通り、もう済ませてある」
首から下げていた冒険者を示すカードを見せる。
それを見て、納得したようにおっさんの受付係はルナの方へと視線を移す。
「となると、その嬢ちゃんか。いいのか? 綺麗な顔に傷がつくかもしれねぇぜ?」
ほら見ろ優しい。
良かったよ、こういう人に受付してもらえて。
「別に構わない。それに私は、傷をつけられるつもりなんてない」
「ほぅ、お前さん。なかなか強いな。なんとなくだが、分かるぜ。ああ、分かった。冒険者登録しておこう。名前はどうする?」
「本名じゃダメなの?」
「ダメってわけじゃねぇが。まあ、身分をバラしたくなかったり、自分の名前にそこまで好感が持てないやつとかは違う名前にしてるらしいぜ?」
「それなら大丈夫。この名前に気に入らないところなんかない」
「そうかい、じゃあ名前を教えてくれ」
「ルナ。えぇと、お願いします」
「こりゃ驚いた! 嬢ちゃんが苗字なしだとはな! 親御さんがすげぇことした証じゃねぇか。頑張れよ」
いや、待って。このおっさん、いい人すぎるんだけど。
苗字なしについて何も言わないどころか、むしろ励ましてるんだけど。
良かったな、ルナ。俺の最初の受付は新人だったのか、そういうことは一切してくれなかったぞ。
「じゃあ、カードを取ってくる。ちょっと待ってな」
そう言うと、おっさんは奥へと入っていった。
そのタイミングを狙って、何人かの冒険者がこっちに来た。その中の小太りの冒険者が一歩前へ出てきた。
うーん、もしかしなくてもイベント発生する流れですか?
「おい、お前ら。冒険者になったばかりらしいな。コツ教えてやるから、女はこっちに来い。男はそっちに行け」
俺が言われた方向は、武器を構えた男どもが配置されていた。
俺はそんなことよりも、一つのことに嬉しさを覚えていた。
初めて男扱いされた気がする。うん、やっぱり俺は男なんだよ。
それにしても、ルナ大丈夫かな。コツがどうのこうのって、絶対嘘だから、変なことされないといいけど。
「おい、話聞いてんのか、変な仮面被った野郎! この場でその体バラバラにしてやってもいいんだぞ!?」
「あー、俺は別に話を聞いてないわけじゃなんだが、今すぐ取り消したほうがいいかも」
「アァ!? なんだと、もういっぺん言ってみろ! その四肢もいで魔獣の餌にしてやろうか!?」
「分かった。じゃあ、一言だけ。ご愁傷様です!」
俺が手を合わせて、お祈りのポーズすると同時に、暴言吐いてきた小太りの冒険者の首にナイフが突きつけられていた。
いや、ナイフが突きつけられているだろう。
森にいたせいですっかり見てなかったな。やっぱりチートだと思うのは俺だけですか?
固有技能『色彩操作』を使って、他人から見える色を操作して、ナイフを保護色に。そうすることで、見えない凶器の完成だ。
うん、怖い。
見えないせいで、ナイフが突きつけられているということは分かっていないだろう。でも、腐っても冒険者なようで、ルナから放たれた殺気で、自分が動けば死ぬことは分かっているようだ。
ちなみに俺は棒立ち。ルナのステータスに追いつけるような技能は持っていません。反応はしたけど、体がついて行かなかった。
「今すぐ発言を取り消すか、もしくはここに首を置いて去れ」
「お、おいルナ。さすがにそれはダメだ」
「ご、ごめん」
俺が止めると、さすがにまずいと思ったのか、ナイフを引っ込めた。表情が殺気を帯びたものから、普通にパッと戻る。
良かった、死者とか出なくて。まあ、出ないとは思うんだけど。
そして、首に凶器突きつけられた冒険者はというと、悔しそうにルナを睨んでいた。この後、変なことにならないといいけど。
これ、大丈夫かな? なんて思っていると、おっさんが戻ってきた。
「おう、できたぞ。って、もう一悶着あったのかよ」
「申し訳ない」
「ごめんなさい」
「まあ、いいんじゃねぇか? 傷はねぇから、撃退したってことだろ? 実力は示せただろ」
おっさんは笑いながらそう言ったが、いくらなんでもやりすぎなのでは?
どうやら俺以外は、そんなことを思っていないらしく、話題を変えて、おっさんはルナにカードを渡していた。
「とりあえず実力はD級冒険者程度はあるのか。規定上、まだF級だが、将来が楽しみだ」
F級、という単語に反応してしまって、思わず声が出た。
「え、最初の級ってFなの?」
「あ? なんだ、ルナより先に冒険者登録してるのに知らねぇのか?」
「悪いが、そんなことは聞いていない」
「あー、そりゃ多分こっち側のミスだろうな。最近人出が少なくてな、どうも経験不足のやつが派遣されてたりするんだ。通常の仕事はこなせるはずだが、テンパったんだろう。悪いな」
「なるほど」
冒険者登録した時の受付係は、経験不足だったのか。ハズレくじを引いたみたいなものだろ。今更嘆いても仕方ない。
とりあえず、知識が増えた。
そして、男子である以上、どうしても気になってしまう。
「どうやったら、級は上がるんだ?」
「魔獣の一定数討伐、とか、ギルドが出してるクエストの一定数クリア、とか色々あるが、まあ、危険度の高い魔獣を倒してりゃ自然と、級は上がるぜ」
「分かった」
危険度の高い魔獣。えぇと、リルファーとかかな。
うげ、できればこれ以上相手したくない。
さて、そろそろ本題に移るか。
「冒険者登録を終わらせて、すぐに頼んでしまって申し訳ないが、ダンジョンに潜りたい」
「もうかよ。ルナの方の実力はもう分かってるが、あんたは大丈夫なのか?」
「まあ、問題ない。生き残るという点ではこいつよりも優れている」
「自信あり、か。よし、分かった。ダンジョンに入ることを許可する。何度も悪いが、もうちょっと待ってろ」
「ああ」
また奥に入っていくおっさん。
ふぅ、さすがに心配されたな。やっぱ良い人だった。
ダンジョンという単語で少し怖がっているのか、ルナが不安げだった。
「まあまあ、お前なら魔獣くらい大丈夫だって。さっきもあんなことしたし」
「戦うのが怖いっていうよりも、ダンジョンそのものが怖い」
「一人じゃないんだし、大丈夫だろ」
ちなみに俺は一人で入ったことない。
ま、まあ、いつかは一人で入る時がくると思う。
それでも今は、赤信号、みんなで渡れば怖くない、で行こう。
「あー、あとルナ。できれば、構えておいて」
「え?」
「ちょっと気配を出す」
「分かった」
俺は加減して、気配を放出する。もちろん、威嚇以上の効果はないようにした。
すると、比較的人が多くいる場所から武器を投げようとしていたやつが、手元が狂って近くのやつに武器を刺した。うわ、痛そう。
「な、なんだてめぇ、その気配は!」
「いつもは抑えているだけだ。これくらいで騒ぐな」
全力で、強敵感を演出していく。
どうせ、見た目が不気味なんだし、少しは調子乗ってもいいだろう。
ちなみにおっさんが入っていった奥の方までは気配は届いていない。なんか怒られたら嫌だったから。
「くそ! 化け物かよ! おい、誰かそいつ治療してくれ!」
「今回はこの程度で許すが、次はないと思え」
「分かったよ。くそ、覚えてろ!」
だから次はないんだってば。
そう言う前に、小太りの冒険者は怪我したやつを置いて、どこかに行ってしまった。
気配の放出を止め、周囲を見てみれば、今までの不気味なものを見る目から、強者を見るような視線と、好奇の視線が入り混じったものが向けられて、一瞬どこに隠れようかを考えてしまった。
さすがに隠れたりはしなかったが。
「悪いな、待たせて。あ? 何かあったか?」
「まあ、少しな」
「そうか、やってもいいが自己責任で頼むぞ。そして、これがダンジョンに入るための許可証だ。使い捨てだから、もう一度使おうなんて考えるなよ。ダンジョンの出入り口の門のところにいるやつに渡せ。出入り口はあっちだ」
「ああ、分かった」
「了解」
「そして、もう一つ。絶対生きて帰ってこいよ」
「もちろんだ」
「死ぬわけない」
自信満々に言い放つと、おっさんが指差した方向へと向かった。
おっさんが言っていた通り、ダンジョンの出入り口と、人がいたので、許可証を渡して、ダンジョンの中に入った。
前に入った時とは全く違う雰囲気。ダンジョンが違うと、ここまで感じも変わるのか。
とりあえず少し歩いて中に入ってから、ルナに話しかける。
「ルナ、大丈夫か?」
「大丈夫。いざ入っちゃうと、もうそんなに怖くない」
「そりゃ良かった。やることは移動してた時と変わらねぇ。全速力で最奥を目指す。疲れたら休む。今度は1時間くらいは。飯も食う。唯一変わったのは、敵がいるってことだけだ」
「うん、分かった。あと安心した。休めるんだ」
「あ、うん。安心して。魔獣も大した強さじゃない。気軽に行こうぜ」
「了解、頑張る」
そうして、俺たちのダンジョン攻略が始まった。
最初に出会った敵達は、雑魚だったので俺は魔術で明かりを出している状態から一切動かず、ルナの戦闘勘を少しでも取り戻そうとした。あんまり戦っていなかったらしい。
『色彩操作』もちゃんと使えていたし、魔獣の急所だったりをちゃんと狙っていたので、大丈夫なのではないだろうか。上から偉そうに何かを言えるほど、強くもないんだが。
このダンジョンは下に降りていく仕様で、しかも迷宮みたいな感じのダンジョンらしく、歩き回っていると、下に続く階段を見つけた。何層まであるかは知らないが、どうやらここが最上層らしい。できれば半分以上は下の階層からスタートしたかった。疲れるんだけど。
最上層から既に、二層降りた。現在地下二層。
暇である。ルナに、やばいときは言うようにと言ってあるのだが、どうにもルナがやばいと感じる時がないようで、未だに俺は魔術で明かりを出し、魔力感知で索敵しているだけだ。
なんてことを考えている間に、また索敵に引っかかった。
「ルナ、右斜め前からくるぞ、三体!」
「分かった!」
今のところ、魔力感知による索敵をくぐり抜けて、接敵した魔獣はいない。
俺の魔力感知が優秀なのか、この層はまだ序盤も序盤なのか。
できれば、前者であってほしい。
すぐにルナが首を切って、動かなくする。うん、達人技。もう作業に近いんじゃないかな。
ちなみに斥候などはいない。ルナがやってもいいんだが、元から二人しかいないのに、離れたら迷子になりそうじゃん、という懸念からやめにした。
いつでも戦闘ができるように俺も準備はしているが、ルナが前にいるので、戦闘に参加しようとしたら、もう終わってる、みたいな。
もう何度も経験したので、いい加減慣れたいんだが、無理だった。
「イフリート、階段!」
「ん? おお、やったな。よし、もう一層潜るか」
↓
地下三層目。
とにかく俺も戦闘に参加できるくらいの敵が出てくるのを待つだけだ。別に戦闘狂ってわけじゃないよ?
魔獣が出現する数そのものが多くなってきた。
ルナだけではどうしても捌ききれない、ということで、俺も後ろから魔術で援護することになった。
確実に暇が減った。
でも、もちろん満足するほど戦えずに、次の階層への階段を見つけた。
「ふぅ、行くか」
↓
地下四層目。
出現する数はそのまま、魔獣の強さが上がってきた。
でもまあ、ルナも今までで本気出してるわけないし、俺の援護の頻度は大して変わらず。
ルナの魔獣への対処の速度も上がってきて、むしろ魔獣が少しかわいそうになってしまったのは内緒である。
そんなわけで、特に苦労もなく階段を発見。
↓
地下五層目。
なんとなくだが、この層には強い奴がいる気がする。
よかった、どうやら活躍の機会がありそうだ。
なんて思いながら、ルナが戦闘してる後ろで、魔術で援護した。
魔獣の数も強さも上がったわけではないようだ。援護の頻度変わらず。
このまま大した活躍もなく、地下六層目、と思ったが、問題発生。
階段が見つからない。あの階段以外で下の層へ行く方法はないので、ない、ということはないはずだ。
ここが最後の層というわけでもないだろう。いくらなんでも敵が弱すぎる。
そういうわけで、見逃したかもしれないと、もう一度探すことに。
どんなに探しても見つからない。
「どうなってんだ」
「うん、おかしい」
「ちょっと待ってろ」
魔力感知で何かないかを探してみる。
特に見つからず。うーん、どうなってやがる。
詰んだか。
「きゃっ!」
「ルナ、どうした!?」
「いてて。後ろに何もないと思ったら、硬いのがあってびっくりした」
「硬いの? 岩か何かか?」
そう言いながら、ルナの手を引っ張って、立たせる。うわ、意外と持って行かれる。『血への渇望』を発動させ、一気に引っ張った。
パンパンと汚れを払うと、ルナは首を横に振った。
「違う、もっと硬かった。岩っていう感じじゃない」
「岩よりも硬い。まさか……!」
俺はルナがぶつかった場所に向かって、魔術を放つ。
「『風刃』」
ガキンッ!
弾いた? いや耐えたのか。直撃しても耐えたとなると、下手をすれば魔法、魔術を弾く魔弾木よりも耐久性的に厄介だぞ。
そして、魔術の影響で周りから砂やら、汚れやらが飛び散り、残ったのは、金属だった。
なるほど、と一人納得する。
そりゃダンジョンだし、こういうのもあるよね。
「ボス部屋ってやつか」
目の前には、まるで入ってこいと言わんばかりに金属でできた扉があった。




