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五十六話 反撃準備ー2

結界の維持に必要なものは、元を辿っていけば人間の体力だ。

 それを結界の維持に必要なエネルギーに変換して、維持している、らしい。

 と、いうことは、体力さえあれば別に犠牲はいらないのでは、と考えた俺は別におかしくないはず。

 男子の夢と希望と、あと色々が詰まった異世界だぞ。なんでもあるだろ。

 そういうわけで、俺は夢と希望を詰め込んだ魔道具を考え、それが実在していると信じた。

 今、グリモワールに聞いた質問にNOという返事が返ってくれば、そもそもの根底が壊れる。

 何を隠そう、俺は内心とてつもなく怖かった。


『体力を吸収して、そのまま貯蔵できる魔道具…………待て、今情報の中から漁っている』

「頼む。これでなかったら、相当な博打をしないといけなくなる」


まあ、俺が望む魔道具があったとしても、それを見つけるまでにもだいぶ時間がかかるだろう。どちらにしろ、大変なことをする必要がある、ということは変わらなかった。

 だが、それでも確実性が僅かにでも勝ったのは、魔道具を探すことだった。

 さあ、結果はどうだ。


『ある、な』

「よっし! どこにある!?」

『ダンジョンの中、最奧だ。しかも、そのダンジョン、強力な魔獣が多いぞ』

「存在が分かっただけで、十分だ! ダンジョンの位置は?」

『ここから西へ二日、といったところか。ダンジョンのすぐそこに大きなギルドの建物がある。目印になるだろう』

「なるほど、西へ二日、か。一日以内で着かないと間に合うか分からないな」

『一日は無理があるだろう』

「無理でも間に合わせるんだよ。助かった! ありがとな!」

『お、おい待て! 置いて行く気だろう!? 連れていけぇぇぇぇ!』


後ろから何やらうるさいのが聞こえるが、知ったことではない。他人だと思うんだ。

 事実、グリモワールがいくら魔道神具だとしても、さすがに動けないくせにうるさいだけの物を持っていくのはただの荷物だ。

 時間が惜しいので、持って行ってやらない。別にあいつのことが嫌いとかそういうわけではない。嫌いだったら、そもそも聞いたりしない。

 『血への渇望』をもう一度発動させ、ルナのいる場所まで走った。

 ルナが見えてくると、あっちも俺を見つけたらしい。


「どうだった、何か掴めた?」

「おう、バッチリ」


スライディングしながら、話したせいで、舌を噛みそうになったが、まあ、それは置いておいて。

 絵はグリモワールに聞いた情報を言っていった。


「どうやら俺の目的は西の方にあるダンジョンの最奥にあるらしい。ダンジョンまで二日かかるそうだが、時間が惜しい。一日以内にダンジョンに到着しようと思う」

「ちょっと待って、不穏なワードが二つほど聞こえた」

「なんだ? 不穏なほどのワードは多分ないぞ?」

「ダンジョンと、二日かかるのを一日で行くっていうところが不穏じゃない?」

「えっ、だってもっと危険そうなワードをたくさん聞いてきたので」

「どういう経験してるの…………えっと、二日かかるところを一日で行くっていうのは分かった。でもダンジョンはどういうこと?」

「いや、だから俺の目的がダンジョンの中にしかないから、ダンジョンに入るぞって」

「うん、もう何も不思議に思わないようにする」


なぜか虚ろな目をし出したルナだが、まあ、そのままでいてもらおう。


「よし、とりあえず今から出発しようと思う」

「もう!? 準備とかはできてる?」

「いや、全く。そういえば、準備とか必要だったな。思いっきり忘れてたよ」


食料とか必要だったな。

 俺、いらないから考えもしなかったよ。

 なるほど、確かにそれは調達がそもそも大変だな。一応この世界で使えるお金は持っているけど、あの硬貨が使えるかは正直言ってみないと分からないし。それに今持っている硬貨で最低一人分の食料何日か分を変えるかも微妙だ。


「うーん、だからと言って、この村から勝手に持っていくのは気がひけるな」

「そういうことでしたら、別に持って行ってもらって構いませんよ」

「うわっ、びっくりした! えぇと、村長。そういうことするのはできればやめてください」

「いや、申し訳ない。しかし、心配をかけたのですから、この程度は許してください」

「う、それを言われると、反論のしようがない。ま、まあ、それは置いておいて。いいのか、食料持って行って?」

「構いませんよ。元から蓄えられていた食料を、そろそろ処分しなければと思っていたところですから」


そんなものがあったのか。

 だが、そういうもんなら別に持って行っても大丈夫そうだな。

 そこで俺はもう一つ問題があることに気づく。

 どうやって持って行こう?

 うん、本当にグダグダなんだけど。あれだよ、子供だけで遊びに行く時くらいのグダグダ感だよ。

 まあ、俺は同年代の子供と遊びに行ったことなかったんだけどさ。


「持ち運べて、そこまでかさばらないようにするには……………どうすればいいんだ」

「その様子ですと、急いでいるようですね」

「うん、そう。相当急いでる」

「そうですか。となると、少し特殊なものが必要になりそうですね」

「特殊なもの?」

「はい、取ってくるので少し待っていてください」


取ってこないといけないのかよ。

 どうせ食料も持っていかないといけないし、時間はかかるだろうからいいけど。

 俺は待つこと以外に何かできないかと、ルナと一緒に他に何か必要なものはないか、確認していた。

 火は魔術で用意できるし、他の生活に必要そうなものの魔術でどうにかなりそうなので、小道具を持って行く必要はなさそうだった。

 俺の持ち物としては、特にこれといった必需品はないので、姿を変えられるローブとあの能面だけだ。ローブの中にしまってあるので取りに行く必要もない。あ、あとどうしても必要なものがもう一つだけあった。

 ルナも武器などは常時携帯しているらしく、取りに行く必要はなかったようだ。

 よし、大丈夫そうだな。

 ということで、他にすることがなくなった。

 待つことおよそ10分。


「お待たせして申し訳ありません」


村長が戻ってきた。

 手にはポーチが握ってあったが、これが特殊なものなのだろうか?

 首を傾げていると、後ろにいたルナから驚きの声が上がった。


「爺、これ!」

「ああ、ルナ。その通りだ」

「よく持ってこれた」

「こういう時に村長という権限が使える」

「おい、俺を置き去りにしないでくれ」

「申し訳ない。これは見た目以上にものを入れることができる魔道具です」


見た目以上に…………なるほど、あれか。

 アイテムボックス、というやつか。それ、もしかしなくてもとても希少な魔道具では?


「それのおかげで、食料を持っていけると。なるほど、すげえ」

「はい、しかし入手はとても困難です。なので、壊さないようにお願いします」

「りょ、了解です」


やっぱり。

 これは…………できれば持って行きたくない。

 けど、森に色々してやるためには必要だもんな。


「ありがたく使わせてもらいます」


袋を受け取ると、すぐに食料を入れ、出発の準備を整えた。

 何か必要なものがなくても買えるようにしておこう。今の手持ち、『強欲』で手に入れた分だけのお金でどうにかなるかは分からないが。大量にあったとはいえ、ほとんどを森の中に置いてきた。今あるのは数えられる程度の硬貨だけだ。

 これが想像以上に使えることを祈るばかりだ。

 まあ、使わない、使えない、っていうことがいいんだけどな。


「ルナ、大丈夫か? ここから走りに走るぞ」

「大丈夫…………多分。休むよね?」

「………………」

「休まないの!?」

「じょ、冗談だよ。さすがに疲れを取るくらいには、な」


危ない、胸ぐら掴まれるところだった。

 危機は去った。いいのかな、俺休むなんて一言も言ってないんだけど。まあ、大丈夫だろ。

 村から出る際に、俺は村長に謝った。


「すいません。帰ってくるたびにこんな感じで」

「いえいえ、構いませんよ。龍人であるイフリート様の意見を尊重しますから。ただ、一つだけ忠告を。早く行ったほうがいいかと」

「あっ…………分かった。ルナ、今すぐ出るぞ。全力疾走で行って」


こっちにとてつもないスピードで迫ってきてる物体がある。

 寒気もするし、確実に俺の予想通りだろう。

 焦りもあって、魔術をすぐに構築すると放ち、その勢いで速度をつけて、村を離れた。

 後ろから子供の声がするのはきっと気のせいだ。


「とりあえず西へできるだけ速く向かうぞ」

「休ませてくれるよね?」

「気づいたのか…………頃合いを見て」

「もう一声」

「と、とりあえず前に集中しようか!」


待って。俺そんなに信用ない畜生だと思われてるの?

 うーん、心当たりはないんだけどな。労働させたといえば、魔弾木切らせたくらいだけど。倒れるまでやれとは言ってないし、させてない、はず。

 答え出てこないし別にいいか。


「イフリート、ダンジョンの中にある目的って何なの?」

「ん? ああ、ついてくりゃ分かるよ」

「焦らす必要ある?」

「特にないけど、お楽しみ要素がある方が頑張ろうっていう気になるのが人間じゃないの?」

「まあ、頑張ろうとは思うけど」

「ならいいじゃん。そうだ、あともう一つ聞きたいんだけどさ。魔獣の肉って食えるの?」

「知らないけど、食べられるのもあると思う」

「ふーん、じゃあ食うか」

「待って、私も?」


急に不安そうになるルナに、思わず苦笑する。


「そんなわけないだろ。食うとしたら俺がだよ。今持ってる食料の方はルナにやるよ」

「な、なるほど、って大丈夫なのそれ?」

「まっ、大丈夫だろ」


腹痛、幻覚、その他色々は多分『自己再生』で治るし、そもそも食べる必要がないので、相当な緊急事態の時以外は食べないだろう。

 それに、今ある食料は十分を通り越して、余分なほどあるのだ。なくなることがまずありえない。言ってしまえば、ルナ一人分の食料さえあればどうにかなってしまうんだから。

 その後も淡々と移動し続けていると、


「イフリート………………そろそろ、止まって」

「ああ、分かった」


魔術の使用をやめて、止まる。

 辺りを見回して、そこまで遮蔽物がないことを確認すると、俺はローブについているフードを被った。

 人影は見受けられなかった、が今の俺の体の色だと、どうしても遠目からでも目立ってしまう気がして、自重した。

 さて、今絶賛バテているルナだが、時間が勿体無いのでごり押しな感じで疲労を回復させてもらおう。


「水いるだろ。持ってくる」

「ありがと」


コップとかあったっけ。

 ちょっと探すと、あった。

 まじかよ、すげぇな。ルナが一応と用意しておいてくれた共用のリュックの中にコップが入っていた。

 あいつ、有能かよ。まあ、いい。この中に魔術で水を入れると、若干抵抗はあるが、それでも仕方ないと思って血を一滴垂らす。

 うーん、変態みたいで嫌だな。ルナ、ごめん。でも安心しろ。疲れは吹っ飛ぶと思うから。


「はい、水」

「ごめん。さすがにずっと走り続けるのは辛い」


いや、本当はこっちが謝りたいんだけどね。申し訳ないです。

 顔には出ていなかったようで、ルナは特に不信感もなく飲んでくれた。

 うぅ、罪悪感がすごい。

 なんて思いつつも『譲渡』を発動させ『自己再生』の劣化版の効果を発動させる。


「あれ、なんでか疲れが、取れた?」

「どういうことかは知らないが、良かったんじゃねぇの?」


うん、ごめん。

 異物混入させて、騙して、挙句知らん顔してごめん。

 でも仕方ないので許してください。

 あと、これから言うことなどにも許してください。


「じゃあ、行くか」

「え? もう? まだ10分も休んでないよ?」

「疲れが取れたんだから別にいいだろ?」

「うぅ…………あと一時間」

「疲れてるのは分かってるけど、もう少しだけ我慢してくれ」


あとはこれの繰り返しだ。とてつもない罪悪感だが、それでも森の気に食わない部分や、マルフェの顔を思い出すと、本当にムカついて、少しは畜生になろうと思えた。

 そんなわけで移動すること数時間。

 日が暮れてきて、このままだとギルドに到着しても、ダンジョンに潜るところまでは行けないだろう、とルナに何度も説得され、仕方なく、というわけでは勿論ないがその場で休むことにした。

 森で一悶着あったせいで、出発そのものが遅れたからな。仕方ないと言えば仕方ないか。しかし予想以上のルナの移動スピードと、疲労してからの『譲渡』の効果が異常な働きをしてくれたおかげで、それでもダンジョンの相当近くまで来れたのではないだろうか。

 ルナは魔法で水を出して、器用なことにシャワーだなんだを自作し、そして汗を流していた。

 俺は別にいい。特に汗もかいていないし、疲れがたまっているわけでもない。常時全快状態みたいなものだし。ルナへの罪悪感で、むしろ食事を良いものにしようという考えしか出なかった。


「さて、と。料理っていうほど、食材をどうこうするわけじゃないし、簡単に終わるだろ」


村長が、できるだけ保存がきき、しかも焼いて、味付けするだけ、みたいな感じの食材などを用意してくれたので、俺は実質簡単な調理をするだけなのだ。

 薪木は………特にいらないか。並列思考で片手のひらから魔術で炎を出し、そしてもう片方の手で食材を持って焼く。串に刺してある食材からはいい匂いがしてくるのを待って、ルナが用意してくれて皿の上に乗せる。これだけ。

 もはや無心でやっていてもいい気がしてきたところで、ルナが戻ってきた。


「ごめん、遅くなった」

「別にいいよ。だいぶ無理させちゃったみたいだし」


そんなことを言いつつ、焼いた食材が乗った皿を渡す。

 いくら『譲渡』で疲れを取っておいたとはいえ、育ち盛りな年頃ということもあり、腹が案外豪快に鳴っていた。

 うん、それが普通なんだろうな。適度じゃないけど、運動して腹減らないわけがない。俺がおかしいだけなのだ。いや、良い意味で『自己再生』がおかしいだけ、ということでもあるけど。

 ルナは夕飯を俺が想像していた以上のスピードで平らげると、すぐに寝た。

 明日への体力を温存しておくためらしい。確かに、いざダンジョンに入って、寝てなくて実力が十分に出せなかったら大変だな、なんて思いつつ、いざとなれば『譲渡』でいくらでも復活させてやる、なんて思っていた。


「ちゃんと寝た、かな。よし、じゃあ俺も新しい魔術でも作るか」


ダンジョンでは何があるか分からない。イメージだけで即座に新しいものを作れるので、適応能力はあると思うが、どうしても最初の一回は遅くなってしまう。少なくとも俺は。

 そんなわけで今のうちに、使うかも、と思った効果の魔術をあらかじめ構築して、頭を慣らしておこう、というわけだ。

 最初に必要そうなのは、光かな。けど、それだと魔獣にもバレる気が。なら、俺とルナだけ見えるような魔術を。いや、さすがに無理か。となると、普通に『光球』とか? うーん、面白みに欠ける気がするな。

 えぇと、攻撃用の魔術もいくつか準備しておく必要があるかな。

 あれも、これも、それも。







 気づけば、朝だった。

 さすがに熱中しすぎた。『自己再生』のおかげで寝なくても全然大丈夫とはいえ、少しは寝た方が良かったかもしれない。

 ま、まあ、途中で寄ってきた魔獣で試し打ちはできたし、良しとしよう。


「おい、ルナ。起きろ、そろそろ行くぞ」

「うぅん、あと…………5時間」

「寝すぎだ!」


俺は、貧弱なステータスと分かっていながら、思いっきりルナを蹴飛ばした。


「へぶっ! 痛い」

「起きたか? 起きたな。ルナ、そろそろ移動しないと」

「分かった。もう、起きる。起きるから………あと4時間」

「1時間しか減ってない上にまだ寝ようとするな!」

「爺、イフリートがいじめるー」

「おい、言い付けるな。誰もいないぞ!」


ルナを起こすことに、時間を取られつつ、それでも移動を開始。

 また『譲渡』で疲労を回復させながら移動し、2時間程度。

 そして見えてきたのは、


「あれが、ギルド」

「すごい」


巨大な建物、ギルドだった。

 人の気配もしてきた。間違いなく、ここがギルドだろう。通算移動時間は、一日、24時間も経っていない。つまり、どうにか一日以内の移動ができたというわけだ。


「よし、ルナ。ここから俺はイフリートではなく、ツカサという冒険者になる。仮面つけるけど、俺のこと見失うなよ?」

「分かった。頑張ろう」

「もちろんだ」


能面をつけると、ローブについているフードを深く被る。

 俺たちは、入り口から堂々とギルドの内部へと入っていった。

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