五十五話 反撃準備
どうしてか、敵の味方をしている姉の姿を目に捉えながら、この状況はどういうことかと考え始める。
えっ、本当にどういう状況なの?
追われてたあたり、確実に味方するような間柄じゃないよね!?
なのに、とどめを刺すための俺の攻撃を止めた。
うーん、考えてても分かんないや。こういう時はとりあえず聞いた方が早いと思う。
「おい、どういうことだ! お前、絶対あいつを庇うようなやつじゃなかっただろ!」
「お願いです。何も言わずに立ち去ってください」
「はぁ?」
どういうことだよ。くそ、今どっちなのかがよく分からない。
さて、これどうにかなるのか?
まあ、どうにかするしかないよなぁ。
とりあえずマルフェを殺せば、戻るか。
さっきは止められたが、もうわざわざ止まったりしないぞ。
魔術を構築、発動。
「!?」
さっきから一度も位置関係は変わっていないので、至近距離で魔術を撃ったことになった。
そして、リルファーに止められた。
正直、その防がれ方は想像してなかった。『蒼炎』を受けて、確実にダメージを受けていると思ったんだが、あれから炎属性の攻撃に耐性でも手に入れたんだろうか。まあ、そういう要素がこの世界にあるのかを俺は知らないんだが。
どういうことかは分からないが、確実に厄介なのが増えてしまった。
「面倒くさいな」
リルファー、そろそろこっち戻ってこないかな。
俺一人では、これ以上は無理な気がするんだけど。
とりあえず撤退するか、まだ戦うのかを早々に決めておかないといけなさそうだ。
一瞬様子見しよう。
「すまない、まさかここまで手こずるとは思っていなかった」
「……………謝らないでください」
どういう間柄なんだよ。味方………なのか?
お前、多分殺されるぞ、そいつに。自分の大義のためとかよく分からないこと言いだしながら。
そんなことを考えていたが、特に攻撃される気配がなかったので、別に戦うつもりはないのかな。
じゃあ、俺も一回撤退しよう。
「さて、と。龍人よ。私の目的は大方達成した。もはや、時間稼ぎをする必要もない。戦力も揃った。故にお前の相手をしてやる理由もなくなった。今すぐに去れ」
「おい、お前、舐めてんのか。リルファー返せよ。返してから、ぶっ飛ばされろよ」
「断る。極狼は戦力として必要だ。お前の従魔だということは……いや、従魔だったということは分かっているがな」
「お前……………本当に死にたいのか?」
撤退しようと思ったが、ちょっとは怒ってるんだよ、俺っていうのを見せたかったので少し威嚇してみることにした。
俺は、まるで元から自分のものだとでも言いたげなマルフェに対して、全力で魔力を放出する。
やばい、ちょっとキレてきたかも。
こいつ、俺がどれだけ死にそうになったと思ってるんだ。リルファーとも合意の上で主従契約結んだっていうのに、魔法か何かで、横から奪い去っていきやがって。
何だ、お前は! 悪ガキか!
まあ、そう思うと、俺の方が精神的に上だな。うん、ここで怒っちゃいけない。落ち着け、俺。
「なんてのは冗談で。さすがにそこまで言われたら出て行くさ。でも、その前に一つだけ教えてくれ」
「いいだろう」
「この結界、俺が聞いた通りのやり方で維持してるのか?」
「どう聞いたか知らないが、この結界は森人の体力を変換して、維持するためのエネルギーとしている」
「つまり…………そういうことだよな? あいつの存在は」
俺は姉の方を見ながら、聞く。
マルフェはその通りと言わんばかりにニヤッと笑った。
「お察しの通りだ」
「じゃあ、ここから先はもしもの話だ。もし、そのエネルギーを違う何かが補ってくれるなら、別にそいつはいらないんだよな?」
「ちょっ、何を言ってるんですか!?」
「まあ、待て。なるほど…………何をするつもりかは知らないが、一応答えておこう。もしも、そんな方法があるのだとしたら、我々は一人の犠牲も出さずに結界を維持し続けられるだろう。あるはずがないがな」
「分かった。それだけ聞ければ十分だ。じゃあな」
「おや、お前のご執心の極狼は取り返さなくていいのか?」
「さっきより頭が冴えてる。リルファーがそっちについてる時点で俺はまず間違いなく勝てない」
そうだ。さっきよりも確実に思考できている。一瞬キレそうになったけど、もう大丈夫だ。
力じゃ取り返せない。なら、頭使って取り返すまでだ。
そのための最低限の情報は手に入れた。多少の無茶はしなきゃいけない。でも、俺の今後のことを考えると、街に出るってことを考えるとどうしても必要だ。
なら、そのくらいは当然だ。
「けど、待ってろ。絶対取り戻す。お前ら、俺があとでとんでもないことしても顎外さないように準備しとけ」
「おぉ、それは怖い」
「言ってろ。本当に顎外してやる勢いでやらかすからな」
そう言うと、俺は踵を返して森をあとにしようとした。
すると、姉が止めた。
「待ってください。少しだけ二人だけで話させてください」
「……………すぐ終わらせるなら俺は別にいいけど」
なんでこうも、森人の奴らはタイミングとかを分かってないの!?
いや、表面上は平静を保ってるけどさ。内心、恥ずかしいし、面倒くさそうだしで、もう今すぐにでもこの森でたいんだけど!?
というか、そもそもマルフェが許すわけないだろ。
「いいだろう」
えぇ、いいの!?
ま、まあ、いいや。少し姉と話したいこともあったし、ちょうどいいと考えよう。俺、ポジティブになれ。
姉は俺の方に近づくと、話し出した。
「どうしてこうまで私に構うんですか?」
「ん? 気に入らないから」
「それだけ、ですか?」
もうこの段階で顎外しそうな姉を見て、こいつ俺がしでかすことを目の当たりにした時に大丈夫かな、なんて考えてしまった。
まあ、俺が言ったことは本当なんだけどさ。
「この森自体が気に食わない。引きこもりたいなら、自分だけでどうぞ。種族まで巻き込んで引きこもるのはどうかと思う。あと、お前もお前だ。なんで、なんの抵抗もせずに言いなりなんだよ。言いたいことがあるなら、本当に嫌いな奴以外には小声でも言え。大丈夫だ、本当に小さかったら絶対聞こえないから」
「あはは………………何知らないから、そういうこと言えるんですよ」
「おい、今のはダメだぞ。普通に聞こえてる」
「聞こえるように言ったんですよ!」
「ああ、そうなの? まあ、いいや。とりあえず俺は一旦いなくなって、この森の気に入らない部分を直すための方法を探しに行く。お前には聞きたいことが色々とある。でも時間がないから、方法を見つけたら聞く」
「分かり、ました」
とりあえず俺が現時点で言いたいことは言えたな。
っと、そうそう。大事なこと忘れてた。
「一つだけ。お前が犠牲になるのは、いつだ?」
言いにくいし、答えにくいだろうが、それでも本人に聞いた。
少しだけ迷った後に姉は言った。
「一ヶ月、もないはずです。三週間ほどではないかと」
「分かった。それまでに戻ってきて顎外してやる」
「顎に何か恨みでも?」
「特にないが、一度見てみたい光景なんだよ。そこらへんの奴らが、全員顎外してるの。まあ、そんなわけだ。えぇと………………お前名前なんだっけ?」
「そういえば言ってませんでしたね。私はリエルです。リエル・メーディス」
「間違ってもさっき言った期間よりも早めるんじゃねぇぞ、リエル。それじゃっ!」
そう言うと、俺は『血への渇望』を使って、森の外へと一気に走って行った。
さて、久しぶりな気がするけど、そこまで久しぶりでもない村に帰りますか。
うーん、猫人の皆さんはちゃんと俺のこと覚えてるだろうか?
全然大丈夫だった。むしろ過剰に覚えてたよ。
「イフリート様ぁ! ご無事でしたかぁ!」
「あっ、うん。大丈夫、この通り元気です。元気だから、お願い。離れて、むさ苦しい上に吐き気を催しそうだから」
村に着いて早々、群がってきた年上の男性の皆さんに抱きつかれ、感慨もクソもない状況になってしまった。
できれば、もう少し静かが良かったんだけど、まあそれだけ心配させたってことだろう。
男どものタックルのようなハグを受けて、少し吐きそうになるのを堪えながら、脱出し、村の中を散策した。俺が会いたい人物を捜すためだが、それ以上に心配していたという声がそこかしこから聞こえてきて、恥ずかしくなってきた。
もう声かけないでくれ、お願いだから! とか思っていると、探していた人が見つかった。
「帰ってきたって聞いて、一応顔合わせようかと思って」
「あはは、ご心配をおかけしました。ごめんなさい」
「ねぇ、話す気にはなった? イフリート」
「そのことについて話があって、ここに来たんだ。聞いてくれるか、ルナ」
村で色々とあって、監視役を降りられてしまったが、今回の、リルファーがいないという今の状況では、ルナの協力が不可欠なのだ。
それに、その色々について謝りたかったし、説明もしたかった。
「また、言わないつもり?」
「いや、今度は隠す気一切なし! 誰がどんな妨害しても言うつもりでここに来てる」
そして、俺は森についてのことを、俺が知り得る限りの情報を話した。
ある森の中に、長い間引きこもっている種族がいる、ということ。
その森には結界が張ってあって、普通の人には存在を認識することすらできない、ということ。
引きこもっている種族は、どうしても自分たちのことを知られたくない、ということ。
俺が何も言わなかったのは、その種族と友好条約(今はもう無効と同じだ)を結んだせいだ、ということ。
途中でリルファーが敵に回ったこと。
など、他にも幾つか。
そして、最後に。
「…………と、いうわけなんだが、その結界にはどうにも犠牲というか、体力をエネルギーに変えて、それで維持しているみたいなんだ。俺はそれが気に入らない。だから、どうしてもそのルールみたいなものを壊したいんだ。そのための協力をお前に頼みたい」
「どうして今になって言ったの?」
「そりゃ、最初は友好条約はちゃんと守らないといけないと思ってたから。でも、ついさっき分かった。あいつら、欲しかったのは俺じゃなくて、リルファーの方だ。俺はどうでも良かったみたいで、俺に攻撃してきた。そんなわけで、俺も約束なんて破ってやろう、と思って」
ついさっきのことのように思い出せるぞ、というかついさっきなんだけどさ。
まさか、リルファーが自分のものだ、なんて言うとは思ってなかった。絶対にボコボコにしてマルフェ自身に洗脳解かせてやる。覚えてろよ。
そんなわけで、本当にルナの協力が必要不可欠なんだけど、返事が返ってこねぇ。
大丈夫かな、これ。俺、もしかして無視されてない?
「どうして言わなかったかも分かった。もし、私が一緒に行っても戦力として期待されるかは微妙だから、きっと私だけ断られるかもしれないから、連れて行かなかったことにも納得がいった。でも、イフリートが、その結界っていうのを犠牲を出さずに維持させる方法を見つけたら、私はまた要らなくならない?」
「えっ、なんで?」
「え?」
「ん?」
待って、どういうこと? なんで捨てられる前提で話進めてるの、この人?
そんなわけないじゃん。
「だって、俺、森人っていう種族に怒ってるようなもんだよ? もう秘密を守る気もないわけです。そういうわけなので、森のことをバラして、そんで普通にこの村でまた特訓だの、魔弾木切ったり、今までやってた普通のことするつもりだけど? 少なくても今はそう思ってるよ?」
「……………………」
「いや、そんな驚いた顔すんなよ。大体、お前以外に同じ年齢で話せるような友達なんて全然いないのに、わざわざこっちから距離取るようなことしようと思うわけないだろ」
「友達……………ま、まあ、確かにそうかも」
「なっ? リルファーがいないと、お前も………張り合う相手で合ってる? まあ、いいや。いないし、つまんないだろ?」
うーん、まだ納得しきってないかなー。
俺、これ以上ないほど頑張ってる気がするんだけどな。
まあいい。最終手段をとろう。
「頼む! お前以外に適任の監視役なんていないし、お前以外に頼れるやつがいない! そもそも、この村の中でさえそんなに人脈がない! お前だけが頼りなんだ!」
俺は、秘技土下座を繰り出して、おでこを地面にこすりつけた。
…………いや、これ客観的に見たらどういうヤバい状況だよ。俺が肉体的にはどっちか分からないけど、精神的に男だからできることだな。もし、俺が女だったら、絶対やらないと思う。
「…………分かったから、早く立って」
どうやらルナもそう思っていたらしい。
そして、これは了承ととっていいよな? いいよな!
「ありがとう!」
「別に……………こっちもムキになってただけ、だから」
「いやぁ、そう言われると、罪悪感しか感じないんだけど」
「この話題はもういい。それで、具体的には何をするつもりなの?」
「ああ、とりあえず情報収集が先なんだよ。すぐ戻るから待っててくれ」
「分かったけど、どこに行くの?」
「ん? あー、まあ、本見に行くだけだから」
俺はルナに一言言うと、『血への渇望』を使ってまた走り出した。
魔力感知で、あるものを探す。
すぐに見つかるほど、魔力が分かりやすいので、簡単に目的地まで行くことができた。
たどり着いたのは、ほとんど崩壊した倉庫。そう、あいつと初めて出会った場所だ。
「おーい、いるかー!」
『いるに決まっているだろう。ここに置くように猫人に指示したのはお前なのだから』
「おっ、ちゃんとしまっておいてくれたか。久しぶりだな、グリモワール。そしてお前にちょっと聞きたいことがあってここにきた」
視線の先にいるのは、無造作に立てかけられた本だ。しかし、ただの本ではない。普通の本に動く顔はありません。
ということで、わざわざ時間がない中、会いに行ったのはグリモワールだ。初めてダンジョンに潜って、その色々あった後に、どこかに行ってしまったので、見つけたら、この倉庫にしまっておく、もとい、放り投げておいてくれと猫人の皆さんに頼んでいたのだ。
見つけてくれているかも分からなかったが、ちゃんと放り投げておいてくれたらしい。良かった。
そして俺はグリモワールの返事を待ってから、本題を言った。
『ほぅ、聞きたいこと、か。一体どんな用件だ?』
「魔力でも、体力そのものでもいいから、吸収して貯蔵できる魔道具がある場所を教えてくれ」
ここに来て、ようやく森人の主要人物の二人の名前が明かされました。まあ、一人はひとつ前の話で、なんですけども。
早く名前出したいな、なんて考えつつ、どうしても機会がない、ということでこんなタイミングで明かすことになりました。書いていてやりにくかったし、そもそも読者の皆様に『あれ、こいつ誰?』という違和感などを与えてしまったかもしれません。
作者のせいです。ただひたすらに謝ります。ごめんなさい。




