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五十一話 極狼の実力

できるだけ俺たちに実害が及ばないようにしようと、相当に包んで、しかも遠回りに説明して、硬貨は俺が技能を使って、ここに本当に呼び寄せたもので、そしてルファーの主人が俺であることを伝えた。

 もちろん『強欲』を実践して見せることもした。

 すると、こちらも案外すんなりと信じてくれた。良かった、『強欲』については何一つ文句を言われなかった。

 ただでさえ頭がパンクしそうなこの状況でさらに文句まで言われた日には、倒れる気がした。


「納得してもらえたでしょうか?」

「分かりました。本当に止むを得ず、なんですね」

「おう、当たり前だ。本当なら使いたくない技能だからな。今回に関してはマジで仕方なく、だ」


本気で否定しにかかった。

 だって、『強欲』を使いたくないのは本当だし。そもそも元を辿れば、謎に記憶が丸ごと変わるこいつのせいだし。わざわざ説明しないといけないこっちの身にもなれよ。


「とにかく今、私がなぜここにいるのかも説明していただけると」

「いや、あー、分かった。うん、分かった。もう了解。すぐに説明終わらせるから」


断ったら、また面倒くさいくらい何か言われると思ったので、即答した。

 もうこれ以上何も言われたくない。

 頭に入るギリギリの速度で話した。


「…………………ま、まあ、理解できました」

「よし、良かった。それじゃあ、飯食べよう」


置いてあった袋の中に手を入れると、食べ物を掴む。

 うん、食えれば何でもいいかと思って、適当に買ってきたらパンと果物くらいしかねぇけど。

 まあ、きっと美味しいだろう。


「ほい、仕方なく技能で呼び寄せた金で買った食べ物」


ちょっと技能のあたりを強調して言ってみた。

 事情は説明しているから、食べ物がないと、自分の周りの状況が悪化することは分かっているようだ。今度は何も言ってこなかった。

 ルファーの腹は減っていたらしく、パンを受け取ると、黙々と食べ始めた。

 姉の方も、黙って食べ始めたので、俺もパンを齧った。

 そこで反応した。さっきあんなことがあったばかりだからと、念のために伸ばしておいた魔力が。


「食べ始めたところ悪いけど、静かにしといて」

「敵、ですね。主様、迎撃しますか?」

「いや、しなくていい。バレたらするけど、良い隠れ場所をここで失うのは痛いからな」


息を潜めて、外にいる追っ手がどう行動するのかを伺う。

 いや、早くどっか行けよ。くそ、この森の奴らは、本人が放出してないと思っている微量の魔力でも感知できるような技術を全員が習得してるのか。

 それか、それはこの世界の基本なのか。

 どっちにしろ、今この状況ではその技術はこれ以上ないほど辛い。

 もうダメかもしれないと、若干諦めていると、とてもしつこかった追っ手がようやくどこかへ行ってくれた。

 はぁ、良かったぁ。この場所を失わなくて良かったよ。

 でもまぁ、妹が合流することが、ほぼほぼ無理であることは分かったから、わざわざ妹が分かるような場所に隠れる必要もなくなったんだけどな。

 ここがバレにくいし、でも出入りはしやすい、この場所は相当なことがない限り、失いたくないっていうのは本当だけど。

 とりあえず危機は去った。よし、これでちゃんと食事できる。

 全員、さっきのことがあったので、元から静かだったのに、もはや音すら立てずに食べていた。

 別にそこまで音は立てなくてもいいと思うんだけどな。騒いだらダメっていうだけで。20メートルも離れていたら、騒ぎもしなければさすがに音で気づかれることはないと思う。


「うし、食べ終わった。とりあえずこれからどうするか」

「…………………主様、敵が本当にどこか行ったのか、怪しくなってきました」

「えっ、嘘だろ。ちゃんとどこかに行ったのを確認したぞ?」

「戻ってきた…………もしくは元からこの場所に気づいていたのかもしれませんね。どちらにしろ迎撃体制くらいは取っておいたほうが良いかと」

「分かった。おい、お前はもう少し後ろに下がっとけ」


あいつはこの場で見つかっちゃいけないやつだからな。

 俺も気配は消しておく。ルファーは、そのままか。人型でも十分勝てるってことなんだろうなぁ。本当にこの極狼とかいう種族は意味が分からない。

 俺では役に立つかも分からないというのに。しかもこれより強い魔獣がいると言うんだから龍人をもう少し待遇してもいいでしょうに。

 まあ、それは置いておいて。とりあえず目の前に来るかもしれない敵に集中しよう。

 だが、ルファーにも姉にも気配は消しておくように言っておいたし、そこまで音が響くような場所でもないだろう。そんな場所であるここを見つけたということは、俺に気付かれずに尾行していたか、それか俺と同じように、魔力を伸ばし、しかも俺よりも正確に魔力感知をしてきたか。

 うわぁ、どっちでも俺らにとっては地獄なんだけど。他にも選択肢はあると思うが。

 すぐにそんな思考が消えた。

 一気に増えた殺気。

 おい、この殺気は、俺たちのこと本気で殺しにかかってきてるぞ。


「おい、ルファー。これ、は……」

「安心してください、この程度なら私だけで事足ります」


なんという自信。

 これは安心できる。


「あ、見つけた。おーい、見つけましたよー! あ、あれ? あー、そうかぁ。そういえば今日は仲間いないんだ……っけ?」

「主様、逃げられますか?」

「俺にそんな逃げる手立てはない。一緒に戦ってもいい?」

「逃げ、る? え、え? 別に君たちのことは攻撃、しないよ? そう命令は、されてない、から」


命令されていないから、俺たちは攻撃しない。

 つまり、俺たちを敵対している者とは見ていない奴らが、この得体の知れないやつに命令した、と。

 どういうことだ。俺を傷つけないようにする理由なんて友好条約の他には考えられない。それを知っているのは地位が上の連中だけだ。

 さて、と。どうしようか、これは確実に俺たちスルーで奥の方に行こうとするだろうな。それは避けたい。


「主様、これだけはいくら主様でも聞いてください。手加減ができないとは言いません。ただし、手加減してもここらが消し飛びます。できるだけ離れておいた方が安全です」

「………………」

「もちろん勝ちますよ。あの小娘を助けたい、という主様の意見は尊重しますから」

「分かった。ただし、これだけは言っておく。これで負けたらお前、極狼やめろ」

「それはいけませんね」


さっきのセリフは死亡フラグ、ではもちろんない。

 ルファーなら確実に勝つだろう。だが、俺の安全を取る上で、そうする他ない、ってことか。

 俺はそれを理解すると、ゆっくりと後ろに下がった。


「分かって、くれ……た」

「いいえ、貴方の要望は全て受け入れられません。さあ、少しだけ遊びましょうか」


一気に気配が濃くなった。

 くそ、ルファーとも離れることになるのか。

 とりあえず今すぐ姉を連れて、どこかに行かないと。

 奥にいた姉を見つけると、


「逃げるぞ、今すぐだ!」

「わ、分かりましたが、どうしたのですか?」

「逃げながら話す。急ぐぞ」


姉がいた方から、直進して森を抜ける。

 が、一気に状況が変わった。

 外にも敵が張っていた。いや、まあそうだよな。普通はそうだよな。

 どうして俺は気づかなかった。

 くそ、頭が回らない。ただでさえ、姉のよく分からない状態に脳を使っていたところに、テンパるようなこの事態だ。


「そりゃ回らなくもなるか」


姉を守りつつ、この場を切り抜ける。しかもルファーが戦闘するおかげで、時間制限もついた。

 ………………はっきり言って、できるかどうかで言ったら今すぐできないと言いたい。だが、そうも言ってられない。

 どうにかするんだ、俺が。もう頼れない。全力でこの場を切り抜ける。

 そして俺はできるだけ並列思考で、思考できる脳と手数を増やし、戦闘態勢に入った。


「どっからでもかかってこい」















 さて、そろそろ主様も森を抜けた頃だろうか。匂いからして、多少の敵はいるだろう。

 だが、主様の技能は長期戦向けだ。身体強化系の技能が全て時間制限つきということで嘆いていたが、魔力は無限らしい。魔力を撃ちたいだけ撃てる、という時点で実力はそこらの魔法使いよりも上だろう。

 何よりも私の主人なのだ。このたかが一文で私から心配なんて概念は吹き飛ぶ。

 今こうして考えている間にも、戦闘は続いている。

 しかし、この男。主様が森からそこまで離れていないために、手加減に、さらに手加減を加えてやっている今の状況でもついていくのがやっとといった感じだ。

 先ほどまでの威圧感や不気味さなんて欠片もない。ただ純粋に戦っている。

 この程度か。

 そんな気持ちが私の中を満たした。もちろん油断なんてものではない。主様ほどの実力者があまりにも少ない、という魔獣契約を結ぶまでに何度も実感した当たり前。それをもう一度噛みしめただけだった。

 主様にああは言ったが、これはすぐに終わるな。どれ、トドメだ。

 ガラ空きの首を手刀で落とす。

 直前、私の耳が敵の言葉を捉えた。


「負け、てしま…う。嫌、だ。これ以……上、落ちた、くない。これ以上………落ちたら、今度、こそ…殺されて、しまう」


なんだ、話すごとに喋り方が上手くなっていっている?


「ダメだ、それはダメ、だ。負けられない、勝つのだ。勝って、帰るのだ」


さらに上がった殺意と気配。

 なるほど、無意識にかけていたリミッターが外れたか。だが、それでもたかがその程度だった。

 悪いが、貴様と戯れていられる時間はあまりない。早々に沈め。


「技能、『森槍』発動」


なるほど、隠し玉か。

 男の手に木でできた長槍が現れる。しかし木の模様までくっきりと見られるそれが、強力な武器にはどうにも見られなかった。

 ここまで追い詰められて発動した技能。何かしらの特殊な効果がないとつまらないな。

 そこまで考えてから、一気に踏み込み、懐に潜り込むと腹に一撃を入れる。

 すると、伝わってきた感触に顔をしかめる。どういうことだ。

 たかが『人種』の血が混じっている種族。強度はそこまでのはず、なのに伝わってきたのは鋼鉄のような硬さだった。

 もちろんこの程度の硬度では私の拳は防ぎきれない。そのまま、強引に腹にねじ込む。すると今度はまるで私の拳の進行方向を変えるかのように何かが邪魔をする。こちらもそれほどの強度だ。だが、確実に、着実にそらされる。

 そして、最後には完璧に軌道をそらされた。

 私は、この目でとらえた光景を理解した。

 槍が変形していた。槍の一部が凝縮されてできた丸盾に、さらに盾を一部変化させ急カーブを描いた道ができていた。


「なるほど、応用の効く技能だな。貴様自身の反応と発想力も素晴らしい。だが、圧倒的なステータスの差には基本的に抗えないと知れ」

「何……………ぐっ!?」


先ほどの攻撃で壊れた木の槍が、二度目の攻撃を変形、工夫もなしに凌げるはずがない。裏拳を食らわせてやった。

 派手に吹っ飛び、そこらの木に叩きつけられ、手をダラリと下げるのを確認すると、私は主様の方向へと駆け出す。

 が、敵がまだ立ち上がってきたこと、そして懲りずに槍を投擲しようとしていることを知ると、敵の方へと向き直った。

 まだやるつもりか。あまり時間をかけたくないのだが、どうやらそれは敵が許さないようだ。


「ひゅー、ひゅー……………ぐあぁ、ゲホゲホッ! まだ、だ。負けられないん、だ」

「そうか、だがそれが俗に言う満身創痍というやつではないのか? 体は悲鳴を上げている。投擲一歩手前のその体勢を維持することさえ、辛い状況だろう?」

「ああ、確かにその通りさ。だが、見せてやろう。我々、『森人』にのみ可能な奥の手をっ!」


奥の手? 『森槍』とやらが奥の手ではないのか?

 まだあるのか。だが、問題ないな。あの程度の実力の男だ。いくら単身で突っ込むことを許される程度の実力があるとはいえ、私に傷を与えることさえ不可能だろう。

 そう思っていたが、敵の気配の濃度の上がり方に思わず身構えた。

 どういうことだ? この上昇の仕方は……………届くかもしれないぞ。あの『神種』に。

 そして、その懸念は一気に現実味を帯びて、私に襲いかかってきた。

 先ほどまでとは大きく異なったステータス。体の一部から溢れ出る神々しさにも似た気配。

 私の目の前に対峙しているそれが、半端者か何かは知らないが、確実に『神種』の一端を持つ者であると、本能が告げてくる。


「『森槍・弐式』」


先ほどと変わらないはずの槍も、敵が持っているはずなのにひしひしと、私に圧倒的密度と、その脅威を伝えてくる。

 面白い、面白いぞ。

 これは、過去の私が言った通り、手加減してもここら一帯は吹き飛ぶな、確実に。


「その状態が、何か詳しくは聞きません」

「言うつもりもない」

「はい、それでもあなたが本気を出している、ということは分かります。どういうことか、分かりますよね?」

「ああ」

「私も手加減の手加減をやめることにしましょう」


一気に普通の手加減まで気配と魔力、そして殺気を放出する。

 この状態に怯まない。なるほど、それだけあの状態に自信があると見える。

 だが、私も手加減まで力を戻したのだ。多少の技能は使うさ。


「『風爪』」


それは言うなれば、不可視の死神の鎌。

 敵に気づかれず、首に這いよる、死の宣告だ。

 さあ、これを種明かし一切なしでどう凌ぐ!

 四つ展開した『風爪』の一つを高速で移動させ、そして槍を破壊させようとする。

 が、それに一瞬で反応し、槍で対応するわけでもなく、回避する。

 なるほど、正解だ。槍を破壊させようとした攻撃に、槍で防ぐのは悪手だ。その攻撃には、槍を壊せるという信頼があるのだから。

 周りがよく見えている。しかも、判断力も上がった。

 これは、四つ同時の攻撃でも、対応されるかもしれないな。

 そう思いながらも、躊躇いなく『風爪』を四つ操り、敵へと移動させた。


「ふっ!」


先の部分を凝縮し、硬質化させ、その槍で全ての『風爪』をはじき返した。

 素晴らしい、主様を除けば、今まででダントツに強い。

 さて、次は五つか。

 防がれる。

 六つ。

 防がれる。

 七つ。

 防がれる。

 八つ。

 防がれる。が、対応が少し雑になりつつある。

 九つ。

 防がれるも、余裕は消え失せた。

 十つ。

 防がれない。手数で押し潰してしまった。

 つまらない。よく見れば、今の少しの攻防で『神種』に近づいていた、あの状態は消えてしまっていた。

 持続時間があったか。残念だ、それさえなければ、もう少し楽しめたというのに。


「く、くそ!」

「なかなか楽しませてもらった。だが、主様の方が何倍も強いな。そして足りない」


そうだ、足りない。魔力も身体能力も、その全てが。『神種』には遠く及ばない。仕方ないことかもしれない。『神種』に迫る実力者など指で数えられるかも分からない。

 それほどに稀少かつ、最強に近い種族なのだ。

 だからこそ焦る。私はこんな実力で、あの私を捨てた親に、『神狼』に勝てるのか、と。

 不安は募るが、考えても仕方ない。

 だが、それよりも主様だ。

 早めに終わらせるとしよう。


「さらばだ。名も知らぬ者よ」


敬意も込めて、『風爪』で首をはねる。

 脱力し、そして地に伏せたその体を見ると、すぐに私は主様のいる方向へと駆け出した。

リルファーの実力が、ようやくちゃんと明かされました。本気ではありませんが。

 この先、きっと本気を出すことがあるはず。待っていてください。

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