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四十八話 引きこもり準備して、隠密行動

とりあえずは店でもなんでも行って、観察かな。

 小さな店じゃなければ、それくらいはできるだろう。

 一番いいのは、市場みたいなところか、もしくは大きな店だ。それはもうデパートみたいな。

 まあ、ほぼ確実にそんな建物はないし、あったとしたらとても目立つ。肉眼で確認できない時点でお察しだ。もう市場であることを祈るしかない。

 小さな店でも最悪、外から相当目を凝らしてどうにかするが。


「行くだけ行こう、うん。あんまり喋りたくないけど」


慣れない緑色の髪が、至近距離でチカチカしている。これだけで既に、いろいろなダメージが蓄積している俺の心を折るには十分だ。もう本当にこの髪の色やだ。龍人の赤い髪も最近になってようやく慣れてきたのに、ここで緑色の髪になると、もう慣れも消えただろうな。

 その話について白熱する前に、市場に着いた。そう、市場に、着いた。

 やったぞ、市場だ! 食べ物の匂いするから、食料は買えるな。

 そして、人で賑わっている。これで観察が容易になったぞ。

 ただ、一つ問題が。俺の身長はローブでは変えられない。つまり、俺の身長ではほぼ確実に観察ができない。いや、観察はできる、ただし胴体だけ。なんていう罰ゲームだ。

 というわけで、木の上に登って上から観察させていただくことにした。

 ふむ…………………なるほど…………………………………うん………………………………よし、大体分かった。

 短時間で分かるくらいには簡単だった。

 こんなに考える必要がなかった。

 そんなもんあるはずがねぇ。

 そうだよね、そういえばそうだったよね! わざわざ買い物するだけなのに、決まり事なんてあるわけないよね! 店員と顔合わせて買い物するの、下手したら十年ぶりくらいだから色々考えすぎただけだよ!


「ふぅ、食料買って帰ろう」


木から降りると、少し恥ずかしくなって、すぐに買い物に移った。

 適当に食べられそうなものを見つけたら、買うことにした。

 多少地球の時と名前は違ったが、見た目的には同じものにしか見えないので、味も同じだと思う。ただし、パンだけは名前が同じだった。これに関しては安心できる。

 あと、何がいるかな。着替え? そういえば着替えっているんだったな。元からそこまで汚れに敏感だったわけでもなかったから、汗もかかないし、ローブのおかげで体も服も汚れないし、でほとんど気にならなかったからな。着替えという概念が消えてしまった。

 そういうわけで服屋にも寄らないといけなくなった。

 そしてここでも問題が。俺は女物の服への知識がほとんどない。どうしようか、俺が知ってるのはスカートとえぇと、あっ、そうだ。ワンピースだけだぞ。

 男の服にはそこまで種類はないくせに、どうして女の服にはあそこまで種類があるのか。というか、ファッションとやらを気にするのが、そもそも疲れる気がする。

 でも、センスが良い服、とかいうのを買ってこないと何か言われるんだろうなぁ。


「うぅん、どうしよう」

「何かお探しですか?」

「おぉ! びっくりした。えぇと、この店の店主さん?」

「はい、悩んでいるご様子だったので、声をかけてみたのですが」

「女物の服ってどういうもの選べばいいのか分からなくて……」

「お客様は男か女かで聞かれたら、女では?」

「え? あ、いや、あははは。今までは親が勝手に買ってきていたもので。そろそろ自分で買おうかと思って、この店に来たのですが…………難しいですね」

「なるほど、見たことのないお客様でしたが、そういうことですか。サイズは?」

「えぇと、自分の服の他に姉にも買ってくるように言われたので、サイズの大きなものも欲しいんですけど」

「承知しました」


細かい指示などは、なぜか試着をしながらさせてもらった。

 まさか、適当にでっち上げただけの設定のせいで俺まで女物の服を着ることになるとは。

 今まではローブしか見えないような着方をしていたので、違う服だと、これまた目がチカチカしてやばい。そして何より俺男だから、女物の服を着ることへの抵抗と羞恥心で死にそうなんだけど!

 ま、まあ、とりあえず服は買えた。下着も買わなくちゃいけなかったので、抵抗がすごくて遅くなったが。

 それでも、どうにか昼前には終わらせることができた。


「うーん、先にこの荷物置いてこようかな。情報収集は手ぶらの方が動きやすいかもだし」


日がどの辺りにあるかを確認しながら、そう呟いた。

 言ったはいいが、既に不審がられて尾行されている可能性が皆無ではない以上、さすがに軽率かな。

 でも、服と食料とで、両手が袋でかさばっている。動きにくい。

 考えた結果、一度荷物を置いてくることにした。少し歩いてみて分かったが、いくらなんでも隠密行動とは無縁の動き方しかできなかった。

 下手をすれば、この森の秘密を探るために、相当危険な場所に潜らないといけないかもしれないので、こんな動き方しかできない今の状況はだいぶまずかった。

 尾行も魔力感知で対応すれば大丈夫だろう。うん、こういう時にネット小説で見たような空間魔法のような収納能力が欲しい。

 一応ステータスも確認してみたが、そんな技能はもちろんなかった。諦めて運ぶしかなかった。

 荷物のあるので、歩いて隠れ場所まで向かった。











 隠れ場所に着いた。ここまで移動してきた際に俺を尾行してきたような動きをしたやつを見つけることはできなかった。

 よし、とりあえず尾行はなしだな。

 森の中に入っていくと、しっかりと二人がいた。未だに硬貨を争っているようだった。こちらに気づいてすらいない。ちょうどいいので、荷物だけおくと、俺はこの場を後にした。

 さて、ローブに備わっているフードを深めにかぶると、気配を一気に消す。

 これで視認される以外ではほぼ確実に俺の存在がバレることはないだろう。

 とりあえず情報収集しなければいけないのだが、一人ほど、どうなったのか気になる場所があるのでそいつだけ探してみようと思う。さっきわざわざ気配を消したばっかりなのに、魔力感知をしないといけないとは。


「うーん、いる範囲すら分からないからな。とりあえず円形に伸ばしてみるか」


もちろん魔力の濃度は気付かれないレベルまで薄めておいた。これで、逆探知じみたことをされることはないだろう。

 いや、調子に乗って魔力を伸ばしていた時に一度だけ、俺の魔力を這うようにして逆探知のようなことをしてきた奴がいるのだ。あの時は本当に焦った。怖くて、それから数日は魔力感知はしなかった。なんでこんなことしたのか、いつか問い詰めてみたいが、俺もやっちゃダメそうなことをしたのは事実なので、そこまで強く言えないという。

 まあ、とにかくちょっとしたトラウマがあるせいで少し慎重になってはいるが、魔力感知で妹の方を探す。

 なかなか見つからない、と思っていた時に限って見つかるもんだ。

 あれ、なんであんな場所に? おかしいな、一体どんなことをしたら、あんな場所に隠れる必要が出てくるのか。

 うーん、とりあえず妹がいる場所まで行ってみるか。あそこならすぐに着くだろう。

 技能を使って、妹がいる場所に向かった。

 思っていた通り、すぐに着いたが、やっぱりこの建物だよな。うん、どうしてこんな場所に隠れているのやら。

 確実にこの森に来てから、最初に交渉した建物だよな。


「うーん、今の状況じゃ正面から入るのはさすがに無理か。となると、どこか違う場所から入れる場所を探さないといけないんだけど」


そんな場所あるだろうか。

 まあ、最悪壁でも登って、侵入でもするか。もちろん魔術を使って、だが。俺は壁を登る技能は持っていない。

 さて、と。ここで魔力感知をするのはどうにもまずい気がする。

 それなら、この建物の周りを見ていくしかないな。別に時間はかかってもいいわけだし。ただし隠密で。

 気配は極限まで消した状態で、物音立てずに歩く。これが案外精神的にくる。肉体的には一切辛くないけど。やっぱりずっと同じことするのって大変だよな。


「ありゃ、もう一周してたか。特にそう言った出入り口も見つからなかったし、こうなるともう…………登るしかないか」


うーん、魔術使うのが大丈夫なのか、ちょっと分からないし、実験的な意味も込めて、技能を使ってやってみるか。

 『血への渇望』を発動させて、壁の小さなとっかかりに指をかけ、足もちょっとした窪みにかけると、登ってみた。

 すると、案外簡単に登れた。体の小ささもあったかもしれない。掴みやすかった気がする。ちょっと悲しくはなったものの、ここで悲しさのあまり手を離すと落ちるので、そんなことはなかったことにした。


「よし、このまま登って行こう。どうせなら、このまま上まで」


一気に登っていって、建物の屋上のような場所に着いた。

 なんとなく下を向くと、そこには下の階の天井がくり抜かれた吹き抜けのような空間があった。これなら潜入できる。誰かいるわけでもないし、気配も消してある。何より、魔力感知で見つけた妹の居場所からすぐそこだ。

 とりあえず妹が隠れているであろう場所まで一気に行ってみるか。

 気配を察して、すぐにルートを変更したり、道の天井には張り付いたりしながら、妹が隠れている場所の入り口、扉まで到着した。


「変な事態になってませんように、ただ隠れているだけでありますように」


一種のまじないもしてから、俺は音が出ないようにゆっくりと扉を開ける。

 まるでつい最近使ったかのように年季が入っている見た目にしては、扉はすんなりと開いた。

 そして、俺の予想だけはしていた、変な事態、はどうやら起こってしまったようだ。


「…………よう………………何があった?」


目の前には所々に傷ができ、両腕に枷がはまり、動けないよう拘束された妹の姿があった。

 間違いなく、監禁、拷問されている。


「どうしてこんなことに、って聞く必要もないくらいに察しがついてる」

「ごほっ………その通りです。それより、よくこの場所が分かりましたね」

「えっ? そんなに分からないもん? 魔力広げてったら、お前の場所分かったけど」

「そこまで魔力が持ちません」

「なるほど。一応、俺らと別れた後のことを聞いてもいいか?」

「私はできる限り時間を稼ぐつもりで、でも勝算はないだろうと思いつつ戦いました。結果はこのざまです」


妹曰く、途中までははっきり言って雑魚だったので、簡単に捌けていたが、それ自体が敵の狙いだったらしく、体力が30パーセントを切ったあたりで、新戦力、しかも今までの雑魚よりも格段に強い者が出てきたため、捌ききれなくなり、この通りだそうだ。うむ、とても戦略的だ。

 それでも二時間くらいは時間を稼いだらしく、だいたいそのくらいの時間で俺たちが隠れる準備まで整えた時間と同じくらいだ。よくそこまで時間を稼いでくれた。


「とりあえず、ありがとう。この枷はどうにかして、俺が外す。逃げるぞ、お前の姉様が多分待ってる」

「多分でも、待っていてくれるのはありがたいです。帰ることができれば、ですが」

「何言ってるんだ。お前も帰るんだよ」

「無理ですよ。バレてしまいます」

「どういうことだ? ここには誰もいないぞ?」

「いわゆる魔道具です。壊れると、持ち主に知らせがいくような作りではないかと」


そういう魔道具もあるのか。ローブとグリモワール以外には滅多に見ないものだからな。そう言った性質はほとんど把握していない。

 くそ、面倒臭いな。何より隠密性を重視しないといけない今の状況では、誰かに逃げることが知られるのは避けないといけない。

 どうしたものか。妹を逃がそうものなら、確実に追われてしまう。ここに捕まっているということは、つまりここが敵の本拠地、そうでなくとも兵士が十分に待機している場所であることは確かだ。

 ここに俺たちを追える人間がいるということはつまり、追跡されているのに気付かれていないと思い込んでしまい、隠れ場所に入り、その場所を相手に教えてしまう、という可能性があるということだ。

 俺には魔力感知があるし、気配も消せる。妹にしても、気配を消す能力に関しては一級品だとは思うが、それでも敵がそれ以上の人材を持っているという可能性も考えられる。下手な慢心で動くようなことはダメだ。


「わたしは置いていってください」


俺の、どうやって二人で逃げ切るか、という思考を遮るように、いや実際遮る目的で言ったのだろう。

 なぜ置いていく、という質問は野暮にも程がある。俺以上に戦闘の知識がある妹には分かっているのだろう。

 自分を追い詰める戦略と戦力を備えた敵を相手に、一度敗北し、手負いの自分とたかが龍人程度の戦力が合わさっただけで、隠れ場所が露見しないように逃げ切ることなどできないと。

 確かに、俺を戦力として数えるのはバカのすることだろう。火力も戦闘経験もないような俺では役立たず以外の形容ができないだろう。

 一瞬、俺の『譲渡』を使って、妹を万全の状態にまで戻すことができれば、という考えが俺の頭をよぎった。だが、それをしたところで、戦力差は覆らない。

 最悪の状況に押し込まれつつある。

 このままじゃ全員の位置が知れてしまう。一人でも多く生かすためには、誰かを犠牲にするしかない。


「分かった。悪い、必ず迎えに来る」

「最悪、来なくても構いません。お姉様さえ、守ることができれば」

「おい、どうしてそこまでその、姉様を守ろうとするのか、聞くためだけにお前を迎えに行ってやるから待ってろ」

「……………分かりました。ですが、その前に一つ、あなたに話しておきたいことがあるのです」

「今のは俺が颯爽とこの場から立ち去るような状況だっただろうが。どうして止めた」


ちょっとキレ気味になりつつ、しっかり聞く姿勢は取っておく。


「あっ、すいません。しかし、これだけは頭に入れておいたほうが良いと思ったので。この森に棲む、森人という種族について、そして代表としてこの森のトップにいる者について」

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