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四十七話 準備

ちょっと頭が痛くなったので整理しよう。

 まず、最初のあった時は初対面だったし、もちろんこっちも自己紹介したから覚えていてくれた。あの時は年相応な感じの少女だった印象がある。

 しかし、二回目にあった時は、会うのは初めてだ、と言ってきた。それに対して疑問があって、俺も確かめたが、どうにも嘘をついているような感じでもなかった。そもそもわざわざ嘘をつく理由が分からない。しかもこの時は、初めて会った時のような印象は受けなかった。どちらかと言えば、他人行儀な印象だった。

 ここまでで既に色々と疑問があるんだが、それ以上に分からなくなったのは、ついさっきの発言だ。

 俺の名前を呼んだのだ。これで今の少女が最初に会った時の方の少女であることが分かった。

 だが、それによりさらに二回目の少女の態度と言動が、どうしてあんなに変わったのか、ということに関しての謎が深まった。


「んん? 一体どうなってるんだ………………分からん」

「あれ、イフリートさん、どうしたんですか?」

「悪い、一つだけ質問に答えてくれ。俺とあんた、会うのはこれで何回目だ?」

「えっと、確かこれで二回目ですね」

「分かった、ありがとう」


二回目にあった時の記憶がない。

 まずい、聞くんじゃなかった。さらに分からなくなってきた。

 とりあえずこの話題から離れた方がいいかもしれない。頭が痛くなった原因はそれ以外にもあるわけだし。せめて片方の頭痛の原因だけでも払拭しておきたい。


「なあ、どうして追われてたんだ?」

「追われていた? どういうことでしょうか?」


いや、こっちが聞きたいよ。まさかそっちについても覚えてないのかよ。

 どういうことだ? こいつは関与してないってことか? ってなると、やったのは妹の方の独断。でも、そんな感じはなかったし、嘘をついているわけでもなかった。

 しかも、今こいつが言ってたことに関しても嘘がない。

 どうなってんだよ。


「あ、でもどうしてか揺られていたことは覚えています。寝ているのに揺らさないでください、っと思った気がしますから」

「なるほど」


今の言葉を鵜呑みにするとしたら、なんとなくだがさっきの騒動のことについて分かってきたぞ。

 つまり、これは第三者が、なぜかは知らないが、姉妹のどちらかに刺客を放ち、こいつに対して放った奴らに妹の方が気づき、逃げていた最中に俺らが出くわしたっていう感じかな。

 これなら姉妹二人ともの発言に嘘がなかったことにも、二人して逃げていたことにも納得がいく、気がする。

 情報が少ない、この状況でこれ以上何かを組み立てるのは不可能に近いが、それでもこれだけは断言できる。

 今まで俺が思っていた、この森にある裏。それにこの騒動はつながっている。

 とりあえず今はこいつを匿うのが優先だ。

 妹がいた方が、情報も引き出しやすいだろう。姉は情報源とするには………ちょっと。


「今の最優先事項はとにかく身を隠すことか」


友好条約結んだのに、こんなことになるとは考えてなかったな。さすがに村の大部分とこうして敵対関係のような状況になると、せっかく結んだ友好条約も意味をなさなくなりそうだし、破棄されるかもしれない。

 まあ、友好条約なんて結びたくなくなるようなクソみたいな奴らだったら、こっちから願い下げだが。

 話を戻して、姉を隠そうとしているわけだが、森の中にそんな都合いい場所があるのか、少し心配だ。妹と合流するという約束をしている以上、どれだけ身を隠したくても妹が見つけられるような場所、という条件は外すことができない。

 妹が見つけられなかったら、いつまでたっても見つけられない場所でずっと待っていることになってしまうし、かといって分かりやすい場所に隠れては、敵に見つかりかねない。

 うーん、大変面倒臭い条件を承諾してしまったかもしれない。


「なあ、あんた。妹と、二人だけの秘密の場所みたいな場所はないのか?」

「妹? ああ、あの子ですか。思い出の場所となると…………………あんまり入りたくないんですけど、あそこしかなさそうですね」

「そんな人が渋るような場所が!?」


よし、条件クリア! これでしばらくは見つからないだろう。

 なんだよ、割と二人でいろんな場所に行ってるんだな。この状況ではとにかくありがたい。選択肢が多くなることはそれだけ見つかりにくくなることと同じだ。


「いえ、森人全員が入るのを渋る場所、というわけではなく、私が渋る場所なのですが………」

「えぇ、そういう場所なの? まあ、とりあえず案内してくれ」


一体どんな場所に仕上がってるんだ。

 姉の方が渋るってことは確実に妹が何かやらかした場所なんだろうな。まあ、最悪1日でも多く身を隠せればそれでいいわけだし、いいか。


「リルファー、これから言う方向に向かって動いてくれ」

「分かりました!」

「えぇと、ここから右に向かってください」


そんな感じに指示を受けてリルファーが着いたのは、ただの森だった。森の中の森というのか、よく分からないが。

 あれ、普通の場所では? こんなところに隠れるわけにはいかないんだが?

 俺の不思議そうな顔を見たのか、慌てて姉が言い加える。


「この場所からまっすぐ進んでもらえば、すぐ着きますよ」

「え、でもただの木しかないと思うけど?」

「まあまあ、進んでみてくださいよ」

「いや、別にいいけど」


言われるがままにまっすぐ進んでみると、思っていたよりも歩いた先になぜか森の中に開けた空間があった。

 待って、どうしてこんな場所にこんな空間が? 文にするとだいぶすごい場所にいるよ俺。

 森の中にある空間の中にある小さな森の中にまた空間があったんだけど。


「あれ、でもなんでこんな空間が?」

「私とあの子でこっそり作りました」


おい、こっそりって、それでもだいぶマズイことしてるって気付いてるか!?

 こいつ、年相応な少女っていうよりかは、若干子供じみてるんだけど。

 いや、気にしなくてもいいか。この空間ならば、見つかることはほとんどないはずだ。ここに来るまでに木が生い茂って前が見えない中、割と歩いた。方向からしても森の外周にだいぶ近いはずだし、わざわざこんなところまで探す必要もないと感じて終わりだろう。

 追っ手を気にしなくてもいいのは、精神的に困ることはないだろう。

 だが、心配事がないわけではない。飯がない。ちゃんと食べないといけないのに、いくらなんでも飯なしで何日も生活する方が、追っ手におびえるよりもきついだろう。

 となると、食料調達も必須なんだが、俺の顔、思っている以上に知られてそうだしな。リルファーは、好戦的すぎて無理だろ。姉はそもそも追われてる張本人なんだから論外だろ。

 あっ、そういえばローブの能力に確か魔力を使って違う種族に化ける、とかいう能力があったはず。だいぶ前だが、試して大丈夫だったはず。あの能力なら、この場所から出て、食料を調達しても大丈夫そうだ。それに外の状況を知るためにも外には何度か出なくちゃいけなかった。

 うん、『自己再生』の次くらいに、このローブ優秀。

 念じれば変身できるはず。変身するのは森人以外ありえない。しっかりイメージしてから、念じる。

 すると、髪が緑色に変わり、体つきもなんとなく変わった。


「よし、やっぱりローブの能力は使えるな」

「主様、その姿は?」

「ああ、このローブのおかげ。外に出るときはこの姿で出るよ。まあ、今は出るつもりないし、とりあえず休むか」


そう言って、二人をどうにかこうにか寝かせると、俺は魔力放出による感知を常時使った状態を維持するために起きていた。

 行動を起こすのは明日からだ。










 とりあえず夜はやり過ごすことができた。魔力感知で伸ばしていた、半径20メートルの魔力に引っかかることは何度かあったが、さすがに森の奥まで入ってくるようなことはなかった。

 だが、今日を超えられる可能性が昨日よりも低くなっていることは確かだ。

 となると、見つかる前に新しく隠れ場所を見つけなくてはいけない、それと食料も調達しないと。

 と、ここで問題が一つ。


「ここで使われてる金を持ってないんだよなぁ」

「まあ、確かに。この前のお店でも皿洗いで返しましたからね。この森で使えるお金は一文もありません」

「そうなんだが……………まあ、手段はいくつかあるから大丈夫だ。それで、方法が使えるかどうかの質問を一つしたいんだが」


そう言って、姉の方を見るが、まだ寝ていた。

 確か、妹に連れて逃げている最中も、寝てたって言ってたよな。多少ストレスがたまっているとはいえ、ここまで寝るのはどうなんだろう。

 元から朝弱い人なのか? まあ、とりあえず起こすが。

 『血への渇望』を発動させると、姉の肩を掴んで思いっきり左右に振った。

 すると、揺れるのは苦手なのか、すぐに目を覚ました。


「ふぁい、おはようございま………す」

「おい、寝ようとするな。ギネスレベルの二度寝しようとするな。聞きたいことがあるんだよ!」

「………………ん? はい! 寝てないです!」

「質問させろ! ここで使われてる単位を教えろ!」

「はい、ルニーです!」


ちょっとムキになってしまった。まあ、起きると同時に寝るに移行する奴にはもう怒鳴るしかないと思う。

 そして、ムキになった甲斐もあって、しっかりと情報を得ることができた。しかもこちらとしては好都合な。単位がルニー、つまり俺が一応用意しておいた方法が使えるということだ。

 とりあえずちょっと準備しないと。

 少しスペースを作ると、ルファーに指示して、上げた俺の手の下に、さらに掬うような形で両手を準備させた。

 そして、俺はイメージを固めると、あんまり使っていなかった技能の名前を言う。


「『強欲』」


俺の手から光とともに出てきたのは、硬貨だった。

 いやー、転生してからすぐの時、屋台のおっちゃんがルプを宣伝してる時に、客が来てくれてよかった。遠目で若干分かりづらかったけど、ルニーとして使われている硬貨が視認できたのだ。

 おかげで『強欲』を使えば、この通り、俺の魔力を使って世界のどこかから巻き上げてきてくれる。

 一応、巻き上げられちゃった人は悪いとは思うけども、まあ、俺が街に出ても分かるはずないし、黙っていよう。


「うわぁ、主様、これ大丈夫でしょうか!?」

「あ、止めるの忘れてた……………よし、これで大丈夫か」


ルファーの両手に大量の硬貨が残った。

 よし、これでどうにか食料を買い揃えられるだろう。

 1名ほど、大量の硬貨に目を奪われている奴がいるが気のせいだと信じよう。

 けど、この馬鹿みたいな量の硬貨、どうやって持って行こうか。とりあえずローブのどこかにこの量を入れられるポケットがあるか調べてみたが、見つからなかった。

 仕方ない。


「『強欲』」


あまり強欲の力は使いたくなかったのだが、まあ、仕方ないか。巾着袋を用意して、その中に入れられるだけ硬貨を入れた。

 にしても、この硬貨、案外デザイン凝ってるな。俺にはこの世界の常識がよく分からないから、このデザインは何がモチーフなのかは分からないが。

 そんなことを考えながら、硬貨を入れていったが、全部は入らなかった。まあ、そりゃそうか。入らなかった硬貨は置いていくが、1名ほど金に目が眩んで取って行ってしまいそうな輩がいるので、ルファーに一応言っておく。


「ルファー、こいつにこの金とらせないようにしておいて。俺が帰ってくるまででいいから」

「分かりました!」

「いいじゃないですか、1枚くらい!」

「ダメだ。じゃあ、ちょっと行ってくる」


魔力感知で近くに人がいないことを確認してから、『血への渇望』を使って一気に森を抜けた。

 技能を使っているおかげもあって、すぐに森は抜けられたが、出入りしているところを見られるとまずいので、抜けてきたスピードのまま、一気に食料調達に向かった。

 少し走ると、人の気配を感じた。すぐにローブの効果で森人の姿に化ける。無意識でしたことだが、感覚からしてさっきまで龍人の姿で走っていたことになる。危ねぇ、隠密行動もクソもない。

 気配が近づいてきて、しっかりと視認できるようになると、やっぱり昨日探していた奴らだった。こいつらに見つかるわけにはいかないので、できる限り気配も消す。これでどうにかスルーしてくれ。

 ちゃんと俺には気付かず、通り過ぎて行ってくれた。

 ホッとしつつも、ここからなんだよなぁ、とも思う。

 何がここからなのかと言えば、買い物のことだ。

 ここが違う種族が行き交う、街ならまだやりようはある。しかし、一種族しかいない場所だとしたら、それが一気に崩れ落ちる。

 だって、ネット小説なんかでよくある、世間知らずだから、が通用しない。なぜなら一種類しか種族がいないんだから、どんなに馬鹿でもこの場所での常識くらい知ってる。だが、俺はそれを知らない。

 この姿で歩き、何かを買う以上、常識知らず、というのはとにかく目立つし、不審がられる。今、一番しちゃいけない行動だ。

 さーて、これまででもしかしたらぶっちぎりで大変な仕事が待っているかもしれない。

 腕の見せ所だ。

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