四十六話 手がかり
どうにもスイッチが入ると、眠くなるらしい。割と熟睡してたようだ。
そして寝相も悪いらしい。起きたら、なぜかは知らないがなっていた、リルの膝の上で寝ていた。いや、なんで狼の姿じゃないんだよ。俺が寒いだろうが。もしかしたら起きるかもしれないだろ。
というか、スイッチ入ったが、一体何をしていたのか。ちょっと気になる。今までは俺が何をしていたのか教えてくれる人いなかったし、そもそも誰も見てないし。
「なあ、俺何してた? 急にぱって起きて変なことしてなかった?」
「……………へ? あっ、いえ、特に何か不審な行動をしていた気はしませんが」
「そうか、それは良かった」
じゃあ、何でスイッチ入ったんだ? まあ、もとから今かよ、っていうときに限って入るもんだったからな。まあ、今更気にしちゃいられないな。
でも、それはそれとして、
「俺、もしかして寝相悪かったか?」
「いえ、もうとても穏やかな寝方でした。少しこちらが引き寄せました」
「何だ、お前がやったのか。じゃあ、いいや」
「何がいいのでしょうか?」
「まあ、大丈夫。気にするな」
さて、どうしよう。
とりあえずどこか行った方がいいかもしれないな。地べたにずっと座って、ここに居座るのはさすがにダメだろ。
そういうわけで、リルも連れて遠くに向かう。どうしようかな。この森に来てから、目的を持ってどこかに行く方が少ない気がする。まあ、別に持ってない方が楽だから、いいんだけどさ。
「リル、何度も聞いて悪いが、どこか行きたいところあるか?」
「もちろんありません!」
「清々しいな。いや、俺ももちろんないが」
どうしようかな。
えー、もうやることやっただろ? わざわざすることもないだろ? じゃあ、どうしよう?
まずい、無限ループになりそうだ。この話題から、少し離れよう。
この森についても、そこまで分かっていないが、あまり活発に行動するわけにはいかない。だって、森人の上の方の奴らに感づかれるのは出来る限り避けたいのだから。
いくら俺がほぼ個人で森人全体と友好条約を結んでいるとはいえ、秘密について詮索しすぎるのはさすがにまずいだろう。まあ、感づかれないように調べる分には全然大丈夫だと思うけどね。実際、俺は今こうしているわけだし。
さて、やっぱりどうしよう。どんなにも頑張っても良い案が浮かばない。
「朝飯は面倒臭いから別に済ませなくてもいいか」
「そうですね、私のご飯はすぐそこですしね」
「さすがにそんな怖いこと言うなよ。寒気したぞ」
「いえいえ、主様公認ですし」
「まあ、確かにそうだが」
とりあえず怖い。こいつ、本当に俺の従者? 従魔? かよ。ちょっと不安になるぞ。
そしてそれのおかげで一つ、良い案を思いついた。
「そうだ、リル。ちょっと、あれ……………なんだっけ? お前の親? だっけ?」
「はい、そうです。私の忌々しい親です。どこかの神狼です」
「そう、そいつ。そいつが今、どんな場所にいるのか分からないんだろ? そもそもどのくらいの強さなのかも分からないんだから、ちょっと調べに行ってみようぜ」
「え、いや、別に大丈夫ですよ。私を捨てた親として最悪な奴ですが、あれでも神に属するのでいくら調べても手がかりは出てこないと思いますよ?」
「それでもどうせ暇なんだから、調べるだけ調べてみようぜ」
「ま、まあ、そこまで言われたら仕方ないので調べますけど」
少し顔が嬉しそうになったのを俺は見ているぞ。
まあ、自分のことを捨てた親なわけだし、それについて知れるなら嬉しくもなるか。きっとそうだろ。
俺もなんでか親に捨てられたが、わざわざ会いたいとも思わないし。捨てたんだから、あっちも会いたいとか思ってないだろう。なら、別に会わなくていいな。
よし、もうこの話やめよう。面倒臭くなる。
「とりあえず、あの本が異様にあった建物まで行くか」
「あそこ以外に情報のありそうな場所ありませんね」
それを言うなよ。
村でもあんなもんだ。むしろ村の方がひどいから。決して大きくない倉庫みたいな場所に本が置いてあるだけだぜ。
まあ、それは置いておこう。村に行った時に、一応要望として出しておけばそれでいいだろ。
そんな感じに、あの建物に着いたわけだが、俺は建物の中に入りたくなくなった。そういや、司書みたいな役職の人をだいぶバカにした気がする。怒ってた気がするんだよなぁ。これ以上機嫌を損ねて、出禁くらうのは嫌だな。
というわけで、なんか急に入りたくなくなった。
いや、誘ったのは俺だから、何が何でも入るけどね。
「よし、とりあえず入ろう」
「そうですね。でもありますかね、神狼についての情報なんて」
「とりあえず信じてろ」
自分でもよく分からない励ましの言葉をかけてから、中に入る。
すると、この前と同じ司書さんがいたので、少し嫌な顔をしつつ、ちゃんと隠そうとした。まあ、隠せてた気しないけど。
「うん、知ってたけどね。まあ、探そう」
「はい!」
さっきまでテンション低かったのに、急に高くなるなよ。びっくりするだろ。
まあ、多分二手に分かれた方が効率良いし、そうなるだろう。
リルが分かれ道で左に行ったので俺は右に行く。
すると、急にリルが進行方向を変えて、俺と同じ道へ歩いてくる。おい、ちょっと待て。
「なんで一緒に来てるんだよ!?」
「いえ、調べようと頼んだのは主様なんですから、一緒に調べるくらいはいいでしょう?」
「まあ、別にいいけど」
なんだよ、効率重視してたのは俺だけかよ。
さすがに本人が別にそういうの気にしてないなら、まあいいか。
割と緩めに探すことになった。
一時間は経ったか。
なのに、リルの言った通り、神狼についての情報は全くと言っていいほど出てこなかった。
リル曰く、
「あのクソ親、あれでも一応神ですから、存在そのものを気づかれないようにするくらいは容易にやってのけます。神ですから、我々とは住んでいる世界が違いますから、そもそもこの地上に降りてこないと目撃されません。何より奴自身が気を配っているはずです。そりゃあ情報は見つかりませんよ」
とのことだ。
まあ、そこまで徹底的に自分の存在を秘匿されたら、確かに情報は入ってこないかもしれないな。
………………それでも一つもないのはおかしいだろ! おい、こっちがどれだけ情報探したか分かってるのか。
仕方ない、もう諦めるか。
もう一つだけ本探して帰るか。できるなら早く帰りたい。
………なんだろ、物欲センサーって本当にあるんだね。特に何も思ってない状態で探すとこれだよ。なんでか見つかった。
だが、さすがにあんまり書いてないだろうな、情報は。
「リル、これどうだ?」
「見つかったんですか!? 嘘ですよね!?」
「いや、ちゃんと見てから言えよ。ほら、これ」
「いくら主様でも見つけられませんよ。どれどれ…………………これ、情報載ってるかもしれないです」
「やったぜ、探した甲斐があった」
割と時間がかかったな。
まあ、リルにはなんやかんやで世話になってるし、これくらいは役に立たないと主としての威厳というやつがないからな。
さて、この本にどれだけの情報が書いてあるかな。そう思って表紙をめくってみる。
すると最初から情報が書いてあった。
なるほど、一応ちゃんとした情報が載っているみたいだな。タイトルからして神狼についての情報があるのは分かっていたが、一冊まるまる神狼について書いてありそうだ。良かった、時間かけて探した甲斐があった。
少し集中して読み進める。
…………………………………………よし、なんとなく分かった。
今回は使えるな。この前、ここに来たときの本の内容がゴミ過ぎてあんまり期待してなかったけど、今回はちゃんと使えそうだ。
「リル、お前もちょっとこっちきて読んでみろ」
「はいはい、どれどれ?」
そうしてリルも本を読む。
少し待っていると、リルも多少驚いた顔で顔を上げた。
「だろ?」
「ですね。これなら重要な情報も載っているかもしれません」
「良かったな、見つかって」
「はい、主様に提案していただいて良かったです」
「まあ、俺もやることなかったしな。どうせ暇だし、お世話にもなってるからな。俺もさすがに主人の威厳とかを見せておかないと」
「は、はい。そうですね」
「おう」
本に書いてあったのは、神狼の戦闘記録だ。どんな技を使ったのか、どういう戦型なのか。そういったことが二桁ページは書いてある。
これがどれだけ重要な情報かは俺たちにとって明白だ。しかも書かれている情報量も多い。
だが、この本の作者、一体どうやってこの情報を手に入れたのか、気になる。考えられるとしたら、作者がすごい長生きで、神狼が現れる度に毎回現場で行って、情報を集めたとか?
いや、さすがにそれはないだろう。どうしたんだろう、俺も疲れたのかな。どれだけ恨み持ってるんだか。
多分、資料とかで調べに調べたんだろうな。
まあ、それはそれとして、
「おい、リル。この本、持って帰りたいな」
「確かにそうですね」
「おい、本気にするなよ? さすがに持って行ったらいくらリルでも倒されるぞ」
「いやいや、そんなことはありえませんよ」
「本当にやめとけよ、俺が知ってる言葉に数の暴力って言葉があるくらいだぞ。ここの人たち、一人一人がそこそこ強いんだから。リルの方が分かってるだろ。物量で一気に押しつぶされるぞ!」
「わ、分かりました」
よし、分かってくれたようだ。
本当に大群で襲いかかってると厄介だからな。いじめは基本的に大勢からいじめられるから、俺は慣れている。精神的にだけだと思うけど。肉体的にってなると、前世よりも確実に弱くなっている俺ではもういじめられたら終わりだけどな。
ただ、どうしてか。そんなことをされた日には、どこかの極狼が暴走する気がする。
話戻そう。とりあえずこの本を持っていくことはできない。
そうなると、やっぱりこの方法以外はできないな。
「さすがに本を持っていくのは無理だけど、まあ方法はあるから安心しろ」
「本当ですか!?」
「おい、そんなに顔近づけるなよ」
リルの顔を遠ざけると、本の中で、俺たちに取って必要な情報が書いてあるページを開くと、そのページを凝視する。
どうしてそんなことをしているんだ? っていう視線が俺に向いている気がするが、そんなことを気にするな。この行動は必要なんだよ。
まあ、簡単に言えば覚えているだけだが。物覚えは良い方だし、忘れても基本的にすぐ思い出せるので、こういうのは変に姑息なこと考えるより、原始的な方法で、詳しく言うならもう覚えた方が早いよなっていう。
さらに簡単に言っちゃうと、ごり押しだけどね! リルもわざわざ突っ込んだりしないだろ。
「もしかしなくても無理やりな方法で情報持ち出してませんか?」
「……………………」
突っ込んできた。
ああ、うん。フラグ立ってたね。うっかりしてたね。
「悪かったな。こうしないと情報持っていけないんだよ。メモできるような物もねぇし、他に方法ないんだよ」
「いえ、この情報を持っていけるなら、別にいいですけど」
「今、頑張ってるのでちょっと静かにしててください」
よし、静かになった。
…………………………………とりあえずだいたいは覚えることに成功した。
本を閉じて、目を閉じてからもう一度思い出す。完璧に思い出せることを確認すると目を開く。
「大丈夫みたいだな。ちゃんと覚えてる」
「忘れませんか? 大丈夫とは思えないんですけど?」
「主人を少しは信じろ」
「もちろん信じていますとも」
「じゃあ、このことについてはもう何も言わない、いいか?」
「分かりました」
さて、目的達成。
またもや、ここからどうするか。
行き当たりばったりでここまで暇を潰してきたが、これ以上はどうにもできない気がする。
とりあえず何かしらすることが欲しくて、外を見ると、あれ、もう日が落ちてる。
えっ、そんなに時間過ぎてた? 確かに入り浸っていたから、時間の感覚は特にないが、ここまで大幅に時間使ってたとは思わなかったな。
「おい、リル。もう夜になりそうだし、泊まるとこ………は確かなかったか。飯はあとでどうにでもなるし、とりあえずこの場所から出よう」
「そうですね…………………うわっ! 本当にもう夜じゃないですか!」
「だからそう言っただろうが!」
「さすがに冗談かと思いました。うわ、まさかこんなに時間が経っているとは」
「集中してるとこんなもんだろ」
実際、集中してこんなに時間経ったわけだし。
出入り口はどのあたりだ? えぇと、今二階だからとりあえず階段探さないと。
おお、あった。というか、なんか外が騒がしい気が………まあ、気のせいだろ。
一階に戻ると、やっぱり外が騒がしい気がする。
「なあ、リル。外騒がしくないか? なんか聞こえない?」
「…………確かに何か聞こえますね。でも、お祭りがあるって言ってませんでした? それでは?」
「そういや、そんなこと言ってたな。確かにそれかも」
リルに納得させられてしまった。
そうだよな、確かにそれ以外はないもんな。
というか、こんなに早く祭りって準備終わるもんなんだな。もしかして、前座みたいな感じの祭りもあるんだろうか? 祭りなんて参加したことなかったから、そういうものがあるのかも分からないが。
まあ、俺は普通の祭りを楽しめれば、あとはどうでもいい。参加する気もないし、俺たちが巻き込まれることはないだろう。
そんな気持ちで建物の外に出ると、どうしてか血走った目をした森人が大勢で走っていくのを図らずも目撃してしまった。
えっ、なに、何かあったの? 怖いよ、皆さん。
「リル、この人たち大丈夫かな?」
「………………大丈夫じゃない気がしますね」
「だよな、どうしよう」
とりあえずどの方向に向かって走っていくのかを確認するために、技能を発動させると、大きくジャンプをする。
そして目を凝らすと、なぜか知った顔が二つほど見ることができた。
「なんであいつらがあんなところにいるんだ?」
「主様ー、何か見えました?」
「うーん、顔見知りっていうわけでもないけど、一応知ってる奴を二人。でも、なんであんな状況になるのか分からない」
「そうですか、じゃあ、ちょっと見に行きましょうか」
「え、何言って…………おい、リル、何する気だ」
「しっかり掴まっていてください。飛ばしますよ!」
忠告がほとんど意味をなさないようにして、リルファーが走り出した。俺を乗せて。
うわっ! フル加速じゃねぇか! 心の準備できてない時にそういうことするんじゃねぇ!
あれ、なんでリルファー、わざわざフル加速するんだ? いつもなら関係ないみたいな態度とるのに。
こんなことに興味が出るくらいリルファーも退屈してたんだろう。
リルファーのフル加速が、たかが人が走った程度の速度に負けるはずもなく、俺たちは無事にでもないが謎の集団の先頭に到着した。
そして、
「おい、どうしたんだ? 集団ストーカーとかいうやつか、あれは?」
「チッ、また面倒ごとに首を突っ込みましたね。でもいい時に来ました。お姉様を頼みます!」
「はっ? っておい! 人を簡単に投げるな!」
声を荒げた後に、つい昨日あった姉妹の妹が、姉を投げてきた。
おい、普通逆だろ。力関係逆転してんだろうが。
ただ、どうにもただ事じゃないのは確かだ。そこまで面識があるわけでもないが、あの妹、いつもならもっと余裕があった。だが、今はその余裕が見受けられない。
つまりはそれだけ大事なんだろう。
俺は姉をしっかり腕で固定すると、妹の方に大声で言う。
「分かった! よく分からんが、お前が迎えに来るまではこっちで匿う!」
「助かります! しかしあまりゆっくり話してもいられません。一言だけ、全速力で逃げてください! 足止めはこちらでします! 後で合流しましょう!」
「聞いたか、リルファー! 全速力だ!」
「了解!」
すると、景色が一瞬で変わる。
リルファーがフル加速した。こうなれば相当の加速力がある魔法を使っても追いつくことはできないだろう。
後ろでは戦闘が始まったようだ。大きな音が聞こえる。あの数を相手に戦うのはきついだろうし、俺のように回復手段はないだろうが、リルファーでも気づかないような気配の消し方ができたあいつのことだ。何やかんやで勝って戻ってくるだろう。
そして案の定俺は思いっきり巻き込まれてしまった。うん、確かにフラグ立ってたね。俺、この騒動が終わらなくてもフラグ建築士になれそうだよ。
「なりたくねぇ」
「何がですか?」
「ああ、いや、なんでもないんだけどさ。不名誉な称号がつきそうだから」
なんて会話をしているうちに、腕で固定していた姉の方が目を覚ました。
最初に会った時には、普通の少女のような印象だったが、二回目にあった時には別人のようになっていたよく分からない人だ。開口一番、どんなことを言ってくるのか、少し怖いが、
「……………うっ、ここ、は?」
「目が覚めたみたいだな。とりあえず姿勢はそのままで勘弁してくれ」
「あっ、はい。というか聞き覚えのある声ですね。もしかして……………やっぱりイフリートさんじゃないですか!」
お決まりのように爆弾を落としてきやがったよ。




