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四十三話 ちょっとでいいから

こうして考えるのにも、理由がある。

 前回の戦闘で痛感したのだ。俺には『自己再生』という上手くやろうが、上手くやらなかろうが、無限に攻撃ができるというのに、それを龍人という種族の特性のせいで、耐久的な面で問題がある。

 百の手数でも、拳が硬さ的に普通と脆いでは、敵が受けるダメージの量もだいぶ違いがあるだろう。

 だから、もしかしたらリルファーと戦ったときも、同じ手数でも倒せていたかもしれない。まあ、リルファーと肉弾戦したこと少ないから、あんまり分かんないけどな。

 まあ、多少話がずれはしたが、とりあえず俺が欲しいのは自分の攻撃でも壊れない体が作れる、何とも好都合な技能だ。

 もちろん、普通に鍛えて、耐久力を手に入れるという方法もある。だが、俺としてはすぐにでも強くなる必要がある。なら、異世界特有のご都合能力、技能以外には方法がないだろう。

 そういうわけで、先頭の訓練もついでに、という感じでリルファーに頼んだ。


「ふふふ、もちろんです。世界の誰よりも強くさせてあげましょう」

「いや、別にそこまで強くはならなくてもいいんだけど」

「そんなことを言っても、主様も男の子ですし。やっぱり強くなりたいのでは?」

「全く、だ。俺は目立たなければ、それでいい。頑張って、目立たないようにして、それでも戦うことになったときのために少しだけ強くなっておきたいっていうだけだ」


どうしてそこまで俺を強くしたいのか。俺はさっき言った通り、目立たず暮らせればそれでいいんだよ。

 全く意味が分からない。この世界の奴ら、戦闘狂すぎて怖い。大丈夫だ。俺はそんなことにはならない。


「さて、とりあえず何をしようか」

「少し待ってください。姿を変えます」


そう言って、リルファーが、ルファーに姿を変える。

 まあ、俺としても狼の姿で特訓するのは、分かりにくい。

 そういう意味ではだいぶありがたい。


「さて、この姿の方が教えやすいので」

「うん、俺もそっちのほうがいい」


とりあえず何から始めるんだろうか?

 うーん、特に俺はないぞ。

 もうここは戦闘の達人であるルファーに任せよう。

 あっ、でも一つだけやっておきたいことがある。


「ルファー、一個だけ先にいいか?」

「はい、別に構いませんよ」

「じゃあ、ルファー。弱めでいいから、最速で攻撃してくれ」

「………冗談でもやめてください」

「いやいや、ちゃんと目的あってのことだから。打たれ強さと痛みへの耐性が欲しいんだ」


『自己再生』のおかげで傷が治るとはいえ、治るまでの痛みに耐えられないようなら宝の持ち腐れだ。そもそも攻撃された段階でノックバックされてるようじゃ、全然ダメだ。攻撃に繋げられない。

 そういうわけで目的あってのことなんだが、そんなに睨むほど?

 おいおい、待てよ。これは俺の体だぜ!?


「頼む! これは後々重要なんだ!」

「……分かりました。速度だけ上げます。速度だけですからね!」

「おお、ありがとう! 安心しろ、傷は治る、致命傷じゃなかったらきっと」

「少し曖昧な返事ですが了解しました」


そうして、ちょっと血塗れの特訓が始まった。

 俺はただただ耐えるだけ。ルファーは俺に攻撃を当てるだけ。全くもって、お互いに簡単なお仕事だ。

 ただし、どちらも苦痛で顔を歪めている様子。

 はっ? おい、待て。ルファー、なんでお前も辛そうなんだ。おかしいだろ、きついの俺だけだろ!? 何がそこまでの顔させるんだ?

 まあ、分からないし、いいか。

 それにしても、割と受けるのって難しいな。いい感じに衝撃を後ろに逃がさないと、ふっ飛ぶ。いや、ふっ飛んだわけではないが、ルファーが上げるのは速度だけっていう割にまともに当たったら致命傷食らいそうな威力なんだけど。それでも俺がギリギリ見られるくらいの速度だから、だいぶ手加減されてるんだろうなぁ。

 できる限り目を見開いて、全力でルファーの攻撃の衝撃を逃がす。

 『自己再生』で体力は無限だ。それでも、これはマジできつい、精神的に。

 そうこうしている内に、数分は経ったようだ。そこでルファーが止めてきた。


「主様、そろそろやめませんか。疲れますよ」

「いや、まだまだ大丈夫だけど。俺はいくらでも動けるぞ」

「まあ、確かにそうかもしれませんが、こちらが疲れるんですよ」

「そうか? じゃあ、これはやめるか」


そりゃまあ、あんなに体動かしたら、さすがに疲れるか。

 そうなると、次は何するべきか。

 さっきの数分間で、どうやら条件とやらを達成したらしく、技能『衝撃吸収』を獲得した。

 どんな技能なのかと見てみると、名前のまんま衝撃を吸収できる技能らしい。

 試しに『衝撃吸収』を発動させた状態で、地面を思いっきり、『血への渇望』と『身体強化』を重ねて発動させ、殴る。

 すると、何事もなかったかのように拳が砕けた。

 ………技能よ、せめて少しは仕事してくれ。少しも技能が発動した兆しが見えないまま砕けたぞ。

 どういうことだ?

 ……………ちょっと確かめるか。もしかしたらゴミ技能かもしれない。


「ルファー、もう一回でいいから、ちょっと殴ってくれない? 獲得した技能の能力が使えるかを試したい」

「また技能取ったんですか? いいですけど」

「ステータスで優位取れない分、俺は技能と戦術の多さで勝負するしかないの」


少し話した後に、ルファーが拳を打ち込んでくる。

 それに合わせて『衝撃吸収』を発動させると、あら不思議。衝撃なんてやってこないではありませんか。

 なるほどなるほど、よく分かった。

 つまるところ………………獲得しなきゃよかった、このクソ技能! 俺が受ける側のときだけ衝撃を吸収するとか、本当に意味ないクソ技能じゃねぇか!

 俺が求めていた技能とはまるで違うんだが。はぁ、ルファーに手伝ってもらった時間を返して欲しい、切実に。

 まあ、今更嘆いても仕方ない。ルファーには悪いが、この事実は隠させてもらおう。


「どうでした、主様?」

「全くもって使えない技能だった…………あ、やべ」


言っちゃったぜ。

 いやー、なんだろう。クソ技能に対する不満が口から漏れ出たんだろうな。

 うん、とらなきゃよかった。あーあ、もう一回、技能取らないといけなくなってしまった。時間が無駄だ。

 仕方ない、もう一度とるか。

 だが、今度も同じような方法で技能は取れるのだろうか? 気になるな。でも、さすがにルファーが許さないか。さっきの段階で、すでにだいぶ嫌がってたしな。もう無理か。

 となると、先の手段以外でってことになるわけだが、他は特に何もなしだな。

 さて、どうするか。一応聞いてみる……まあ、ダメか。

 うーん、他にできることといえば、もう自分自身で耐久するしかないか。

 となると、少し逃げないといけないな。ルファーから。俺がそういうことするって分かれば、絶対に止めてくる。そうなると、だいぶ面倒臭い。

 そんなわけで『血への渇望』発動。一気に加速して、ルファーを引き離す。

 まあ、分かってたけどね。当たり前のようにルファーは追いついてきた。


「どうして置いていくんですか!」

「いや、ちょっと用があったから」

「黙っていかないでください。急にどこか行ってびっくりしたじゃないですか」

「とか言いつつ、ちゃんとついてきたあたり、お前やっぱ強いんだなぁ、と思う」

「まあ、一応極狼ですので。それで用というのは?」

「言うと思うか? …………よぉし、仕方ない。言ってやろうじゃないか。さっき獲得した技能がまるで役に立たない能力だったからもっとまともな技能が欲しい」


言ったな、言ったよな、言っただろ!? だから、今、喉元に当てられている見えない何かを消せよ!

 あ、消えた。良かった。

 全く、主人の首にナイフ(のようなもの)を突きつけるのはやめてもらいたい。だいぶ怖かったぞ。


「なあ、ちょっと一人でやりたいんだけど」

「一緒に行きます。他にすることもないですし」

「できれば一緒は遠慮してもらいたいんだけど」

「遠慮せずに行きます」

「…………分かった、分かった。一緒に来い。ただし、俺がすることに関して口出しするなよ」

「了解しました」


すごいなんか言われそうなんだが。まあ、言われたら、今度は『身体強化』と魔術と、全て使ってでもルファーを撒いてやろう。よろしい、戦争だ。

 多分そんなことにはならないとは思うが。

 少し移動して、場所を移してから、俺はしようと思っていたことを実行する。

 魔術を構築して、自分に向かって放つ。使うのは切り傷多発間違いなしの風属性。傷はもちろん『自己再生』で完治。

 これを繰り返すだけ。まあ、なんと簡単な作業でしょう。痛みはあるものの、さっきのこともあって、だいぶ慣れつつある。

 だが、なんであんなよく分からない技能を取ってしまったのか。技能を獲得できる基準でなんなんだろうか。さすがに今は分からないが、いつか『神種』を殴りに行った時に聞いてみるか。

 さて、まあ暇だな。そりゃあ、こんな単調な作業していたら暇ですとも。魔術もそこまで大変ではない。だって、並列思考を使っているから、普通に考えられるし。うーん、風の魔術は片手で事足りるし、もう片方の手で新しい魔術でも考えようかな。


「集中してるところすいません。先ほどなんと言ったのかもう一度言ってもらってもいいですか?」

「俺がすることに関して口出しするな、だ。思い出したか?」

「チッ! やっぱりそうでしたか。…………どうにかできませんか?」

「いや、どうにもできないな。まあ、我慢してくれよ」


確実に何かしらの妨害をしてくる気だったな。さすがにこの状況で邪魔されると、効率が……ねぇ? 早めに技能を手に入れたい。

 さて、作るとしたら何だろうなぁ。今も使ってるし、風属性の魔術でいいかな。うーん、そうだなぁ。炎属性の魔術は広範囲に攻撃を届かせるものもあったな。『鬼火』とかいう魔術もあったが、あれは炎属性の時よりも簡単だろう。炎属性の魔術にあんなホーミング機能を持たせるのがあれだけ大変なのがおかしいんだよ。

 ちなみに『鬼火』に持たせたホーミング機能の種は、並列思考で俺から離れた炎球をまだ操作できるようにして、軌道を変えたい時に、ターボをかけていただけだ。並列思考さえあれば簡単なんだよなぁ。

 話が逸れた。とりあえず新しい魔術は風属性の広範囲攻撃魔術かな。

 うーん、この森は風属性の魔法がよく使われているので、やっぱり風属性の魔術で作りたくなる。そういうわけで、そろそろあれも試した方がいいかもしれない。

 まあ、あとで試そう。

 …………………え、なんで新しい魔術を実践しないのかって? よく聞いてくれました。

 あれ? 俺は誰と話していたんだ? まあ、いい。俺は気づいてしまった。

 ここで広範囲に攻撃できる魔術使ったら森に少なからず被害が出るじゃないか、と。これ、試せねぇ。

 さて、となると試すのは広範囲に効果を及ぼす系の魔術以外になるのか。なんだろうなぁ、ホーミング機能が備わっている魔術はダメだな。

 うーん、風属性の魔法、魔術系で定番といえば定番の真空にする魔術でも作るか。作るだけ作って効果は確かめずに行こう。いつかロマン魔術として使ってみよう。

 片手を出して、並列思考も使って魔術を構築する。

 ただ俺の周囲を真空にするだけじゃつまらないな。しかも、そうなるともう自爆魔術だ。俺の場合は『自己再生』があるからそうはならないが、複数人で行動している時は使っちゃダメ、ってことになるか。それじゃダメなんだよなぁ。

 となると、範囲が指定できるようにしないとか。でも、物理的に塞ぐなら、放置したほうが楽だしな。あくまでも風属性の魔術で構築する必要がある。


「………………難しい。どんなに頑張っても風属性以外の魔術の方が良いんだよ。でもそれじゃダメなんだよ」


思わず気持ちが口に出る。そして喋りづらい。

 あっ、口裂け女みたいに口が切れてる。魔術で傷つけたところを、偶然にも『自己再生』で治る前に動かしてしまったらしい。違うことに没頭してると痛覚なんて吹っ飛ぶな。

 これが前世の段階で気軽に使えるようになっていればよかったのに。学校でも授業受けつつ、違うこと考えられて楽しかっただろうな。もう無理だけど。

 魔術とは違う話題を少し考えたおかげか、そういえば、と一つの案が浮かんだ。

 そうだよ、風属性でよく使った魔術があるじゃないか。それをそのまま流用すればいいんだ。その魔術というのが『風球』だ。

 あれは対象に負担をかけないようにと考案した魔術だったが、それも使い方次第では凶悪な魔術になるだろう。

 『風球』の大きさを体に完全に合わせつつ、動けないほど密度を上げる。そしてどうにかして中の空気を抜いて真空にする。おぉ、これだ! 我ながら名案だと言わざるをえない。

 あとはこれを構築して試すだけだ。

 と思っていたが、それよりも先に神の声が俺に告げる。


『条件を達成しました。技能『身体硬化』を獲得しました』


いや、これは来たでしょう! 名前からして俺の求めていた技能ですよ、絶対。

 とりあえず効果を見ると、俺は思わずガッツポーズをする。

 発動したい体の場所に魔力を込めることで、込めた魔力の量に応じて、その部位を硬化する能力。

 どこかの『衝撃吸収』とはまるで違う。攻撃を受ける側である時だけ、衝撃を吸収する使えない技能とは違うぞ。

 よし、これで戦闘が楽になるぞ。殴ったはずなのにこっちの方がダメージ受けてるなんてことはないはずだ。

 というわけで魔術を解除する。


「目標達成。ルファー、ちょっと試させて」

「今度は使えない技能じゃないといいですね」

「痛いとこついてくるなよ。でも安心しろ、今度は使える……………多分」


ちょっとの会話を挟んで、俺たちは向かい合う。

 主従の関係になってから、久しぶりの戦闘になりそうだ。

令和最初の投稿です。元号が変わってもぶれずに土日投稿ですが、大目に見てください。

 そして用事があるので、投稿早めです。驚かせてしまったらごめんなさい。

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