四十二話 どうしてそうなる?
使ったのは、なんだろうか。風の魔法か。
いや、それを考えるのは今じゃなくて。そんなことよりも今、気にするべきなのはリルファーだ。
とりあえず即座に止める。やばいやばい、後ろにいても殺気がすごい伝わってくる。『血への渇望』も発動させて、止めにかかる。幸い『自己再生』のおかげで両腕は完治している。
腕をリルファーの目の前に出す。
「止まれ、リルファー」
「…………主様、止めないでください。さすがに今の無礼を許すわけにはいきません」
「まあまあ、ちょっと待て。あんた、ここに飲食店があるかどうかを教えてくれるはずでは?」
「ええ、教えましょう。あなたが死んだ後で、その狼にでも」
「いやぁ、俺としては死にたくはないんだけどな。実際こうしてあんたが切り落とした腕も治ったわけだし、死にもしねぇだろう」
「あら、それは好都合。ならば死ぬまで魔法でも打ち続けましょうか?」
「………貴様ぁ!」
うわぁ、俺は別にいいんだけどなぁ。リルファーがマジでキレたぞ。
えっと、どうしよう。本気でどうしよう。このままだと、あのよく分からない少女、リルファーに殺されてしまうぞ。あそこまでキレたのは初めてだぞ。
ヤベェ、殺気がさっきの数倍に膨れ上がった。
「主様、本当に殺しても良いですか?」
「だから待て。とりあえず話を聞きたい。なんで俺を攻撃した?」
「まあ、分からないのですか?」
「ああ、もちろん。分からないからこうして聞いているわけなんだが……」
どうにも教えてくれないらしい。
それにしても、俺はこの森に来てから時間がほとんど立っていない。1日弱だ。なのに、ここまで恨みを持たれるとは、一体何をしたんだ。さすがにヒントなしでは原因特定は難しいと思うんだけどな。
うーん、やっぱり無理だ。
「なんか、なんかヒントくれ」
「そこまで甘くはないですよ」
「残念、さすがにそこまで甘くないか」
「まあ、物分かりは良いようですね」
「そりゃどうも」
あれ、ちょっと軽口叩いてただけだよ? なんでこんな険悪な雰囲気になってるんだ? 主にあっち側が。そこまで殺気出さなくてもいいだろう。友達なくすぞ! 怖いだけだぞ、やめておけ!
おい、そしてそれに合わせるように殺気の濃度を上げるな。しかも量も増やして。お前も友達なくすぞ、リルファー。
とりあえずリルファーは止めておいて、もう少し考える。
そうだなぁ、俺が最近したことかな。うん、特に思い当たる節なし!
というわけで、もう聞くしかない。俺は分からないことは聞く人だ。
「もう分からねぇから教えろよ」
「あら、もう諦めるんですか?」
「おう、もう諦めるから、早く教えろよ」
「そうですね………あなたが最近したことですかね」
「よぉし、よく分かった」
やっぱりあれだったか。いや、分かってたよ? 嘘じゃねぇ。本当だ。ここまで計算通りです。
いえ、嘘です。先ほど思いっきり否定してしまいました。
最近したこと、やっぱりあれだよな。
「いやぁ、リルファーも使って、時間稼ぎして、しかも森人の人たちと友好条約を結ぶのはさすがにやりすぎかもしれないとは思った。でも、仕方ない」
「あの………違うんですけど」
「それだけ……………えっ、違うの? ふむ、マジか。じゃあ、分かんねぇわ」
「あなた、もしかしてバカなんですか?」
冷ややかな目で言われてしまった。俺は別にそういうので興奮するような人ではない。というか、興奮することもない。
だが、俺は別にバカではない。そしてやめておけ。またリルファーが殺気増したぞ。
「まあ、構いません。とにかくあなたを殺せればそれで構いません」
「だから、死なないって言ってるだろう。まあ、とりあえずあんたは俺に死ぬような思いをさせられればいいわけ?」
「…………そういうことになりますね」
「主様、何をするつもりですか?」
心配そうにこっちを見るな。安心しろ、ちゃんと俺は無傷になるだろう、きっと。
まあ、力技ではあるものの、ちゃんと相手の要望にも答えよう。
「悪いな、リルファー。今から飯だ」
「はっ? 何を言って……」
「よし、今すぐ俺の腕でも足でも魔法で、斬るなり焼くなり煮るなり好きにしろ。そしてリルファー、お前も処理した後の俺の腕を地面に着地する前に、美味しく頂いてくれ」
「もちろんです、それでは………頂きます」
「え、あの、話についていけないんですけど…」
「おい、早くしろよ。なんだいい感じの高さの方がいいのか? じゃあ、座ってやるから早くしろよ」
地面に座ると、目をつぶって、いつでも大丈夫なように身構える。
すると、思っていたよりも遅れて、魔法か何かで俺の腕が切られた。痛みはあるが、『自己再生』で傷自体は治る。切り落とされた腕は地面に落ちるまでに、リルファーが食っていた。
よし、これで地面が汚れない。
いや、それにしてもあまりにも手加減がないな。本当に友達なくすぞ、お前。
そのあとできる限り耐えに耐えて、気付くと魔法による攻撃が止んでいた。
「主様、ここまで斬られると、さすがにちょっとムカついたんですけど」
おい、リルファー。今は話しかけるな。痛みが収まるのを待ってるんだよ。無理、痛すぎて今、歯を食いしばってるので精一杯だから。
さて、そろそろ………………よし、収まった。
「まあ、そう言うなって。まあ、俺のせいだし、大丈夫だ。傷も治ってるだろ?」
「ダメですって、そう言う風に妥協しては」
「あら、素直でいいと思いますよ」
いや、お前のせいでだいぶ痛い目見たぞ。
まあ、ついさっき言った通り『自己再生』で傷は治るので、別に大丈夫なんだが、やっぱり精神的にはあんまり血は見たくないよね。
まあ、そう言うわけで、もう俺のことを傷つけるのはやめてくれ。これ以上は俺が我慢しきれない。
「まあ、いい感じに頭も冷えただろ。そろそろ理由教えてくれないか?」
「……まあ、その狂った行動に免じて理由を話してあげましょう」
おお、ようやく話してくれるのか。
いやー、ここまで長かったなぁ。わざと腕切られたり、変な考察してみたり…………………うん、別にそこまで長くはなかった。
まあ、話してくれるなら、それでよし。
さて、どんな話が飛び出してくるやら。
「あなたが助けた、と言っている人のことです」
「はっ? え、なに? どうしたの、その人が」
「あなたが助けた、そうですね」
「まあ、そうだな」
「でも、それは嘘でしょう?」
「……………うん? いや、俺が助けたはずですが、どうしてそんなことになってるんですか?」
「あの人が魔獣ごときに負けるはずがありません。……………お姉様が!」
……………………お姉様。へぇ、血繋がってるんだ。うん、髪の色が同じだから、まあそういうこともあるのか。
いや、それはそれとして。おい、なんでだ。どうして俺が魔獣扱いされてるんだ。俺は助けた側だ。俺は絶対にあの少女を傷つけてはいないぞ。
誰だ、そんな根も葉もない噂を流したのは。確実に悪意があるぞ。というか、お前か。
「俺はそんなことしてないぞ。本当に助けただけだ」
「本当なんですかね」
「おい、そんな疑うような目で見るんじゃない、事実だ」
「…………本当、なんですかね」
「おい、間を開けるな。お前がどれだけ疑っているのかだけは分かったから。それなら、そのお姉様とやらに直接聞けばいいのでは?」
「い、いえいえいえ! そんな恐れ多いこと、できません!」
「ええ、めんどくさ」
「面倒臭いなどとは! あなた、愛がありませんね! 私にはあります! だからこそ、聞けないのです! そう、愛故に!」
「うわぁ、愛がおもーい」
思わず棒読みになってしまった。
いや、マジで今までのセリフを全て気持ち悪いほど破顔した表情で話してるんだぜ? もう、気持ち悪すぎて、本当にもうリルファーに乗せてもらって、どこか違うところに行こうかと思うくらいにはもう気持ち悪いと思った。
もうすでに話を聞きたくないんだが、これまだ聞かないとダメかな。もう俺が聞いてこようか? こいつも連れて行って。
「もう俺が聞いてこようか?」
あ、やっべ。考えがそのまま口に出てたぜ。
まあ、実際そっちの方が楽かなとは思ってたから、よし。
「それは良い案かもしれません。でもダメです」
「いや、なんで?」
「それがいけないことだからです」
「なんだ、お前小学生か!?」
いや、俺でも分かるぞ。一応行ってた小学校でよくあった先生からのなんかの質問で、誰かが発言した時の解答だぞ。
…………分かりにくい。さすがに分かりにくい。途中から何を言っているのか自分でも分からなかった。
まあ、小学生がこっちにあるかも分からないから、あっちも何言ってるか分からないと思うけどね。
「しょーがくせー? 何ですか?」
「ああ、やっぱり。まあ、それは置いておいて、何でダメなんだよ」
「先程言った通りです」
「ちっ、本当に言う気ないのか。まあ、いつか自分で調べるか」
やっぱり小学生については知らなかったか。
まあ、一応可能性として考えてはいたから、まあいいか。
いや、それよりも!
「おい。それもそれとして、今すぐ昼飯食えるところまで案内しろ! 腹が減っているようで減っていないんだ!」
「それは別に私が案内しなくても良いのでは?」
「お前が言ったんだ。ちゃんと案内しろよ」
「そういえば、そんなことも言いましたね。では仕方ないので案内しましょう」
よし、これで昼飯食える。食べなくてもいいけど、それでも食べられるのと食べられないのとではまるで違います。天と地、まではいかないが。
それにしても、俺と同じくらいの身長なのに、言葉遣いが大人なんだよなぁ。俺とは大違いだ。もう15歳なのに、乱暴な言葉しか使えない。なんとも負けた気分になった。
「いやぁ、悪かったな、リルファー。まだ飯食えるか?」
「半分くらいしかお腹にたまってません。まだまだ食べられます」
「そりゃ良かった。俺の腕はそこまで腹にたまるものではないんだな」
新事実だぜ。自分の腕なんて食う機会ないからな。食いたくもないが。
それはさておき、さっきまでで来ていた道とはまるで違う道を歩くな。へぇ、こんなところに道があったのか。まるで分からなかったな。うん、知る人ぞ知る、知る………知る……………知る、なんだろう? 名、名道? うん、名道だな。やっぱり地元の人じゃないと分からない道ってあるんだな。
ふっ、俺にはまるで縁のないことだったぜ。だって、俺は別に外に出ることがなかったのだから、そもそも道なんて知らなくても良かったのだから。
…………やっぱり外に出るくらいはした方が良かったかもしれない。今になって出てくる後悔は本当にやめてほしい。
まあ、今からはどうにもできないわけだし、頑張りましょう。そうだ、これから頑張ればいいんだ。
「ここです」
「へぇ、こんな感じの店なのか」
うん、すごい。やっぱり異世界ってこういう感じだよな、っていう感じの店だな。それ以外には特に言うことなし。
入っても、和風要素一切なし! まあ、予想はしていたけど。
「おお、ちゃんとした作りになってるな。何あるんだろう」
「これがメニューですかね」
「案内終わりましたね。では私はこれで」
そう言って、帰って行きやがった。名前も言わずに帰りやがって、姉妹そろってダメだなぁ。
その後、適当に料理を頼んだ。興味を惹かれる名前の料理があったので、とりあえず頼んでみたけど、どういう感じの見た目なんだろうか。すごい楽しみなんだけど。
「主様、頼みすぎでは?」
「まあ、『自己再生』のおかげでどれだけ食べても腹一杯にならないからな。できる限り食ってみようと思ったんだけど」
「まあ、主様が食べられるというなら別にいいんですけど」
そんな会話をしているうちに、料理が運ばれてきた。
そして思っていたよりも、奇抜な見た目に驚いた。なんだ、この芋虫みたいな見た目した料理は。あれ、これちゃんとした素材でできているよな!?
とりあえず食べてみることにした。
あらまあ、普通に美味しい。さすがに食レポなんてできない。こういうところだけ未だに口下手治らず。見た目に騙されちゃいけないな。
まあ、異世界なら見た目はやばくないのに美味しくない料理とか、見た目やばいし美味しくないのもありそうだ。
いや、それはともかくとして。食い終わった。身長が、あの……小学生だったから、口も小さいので、食べ終わるまでにだいぶ時間がかかるかもしれないと思ったが、だいぶ早く食い終わることができた。
リルファーももう食べ終わってるので、そろそろ店から出るか。
と思っていた時期が俺にもありました。
「お客様、お金は?」
「…………あ」
やっべ、忘れてた。
そういや、猫人の皆さんの村では飲食店なんてなかったし、金は基本的に村長が出してたから、何も困ることはなかったのか。恵まれてたんだな。
だが、今ここではどうすることもできない。
そういうわけで、
「皿洗いか何かで必ず返させていただきます」
「はい、そうしてください」
憧れの皿洗いで、料理の分の金を払うこととなった。
リルファーはどちらかというと、料理を運ぶ方で返すようだった。
俺は皿洗いしつつ、少し考えを巡らせる。
やっぱりやらないととダメだな。この前の戦闘で実感した。
働いて料理の代金分は返した。
その後、俺はリルファーに言う。
「リルファー、ちょっと強くなりたいんだ。特訓手伝ってくれ」




