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三十九話 仲違い

村に戻る道中は、正しく森の中に入ろうとした場合の入り口らしい門にいる門番みたいな人に、確認をもらって出るだけだった。

 思ったより簡単だな。まあ、そもそも入ってくる奴がいないと思っていただろうから、入るまでが大変でも出るのが簡単なのは当たり前か。門番も暇そうだったし、暇だったんだろうな。あれで賃金は出ているのだろうか?

 とりあえずそれは今度行った時に聞くとして。

 森から出た後も、全力で気配を消し、狼の姿になったリルファーに乗って、人には見えない速度で走ってもらうだけだったので、やはり出るのは簡単だった。

 ただ簡単だったのはそこまでだった。

 言わずもがな猫人の皆さんからの追及からどうにか逃れようとしていたからである。ほぼ全員に聞かれたが、特にめんどくさ、いや大変だったのはルナか。

 なんでも、起きて準備して倉庫に行ってみたら、もぬけの殻で色々な場所を探したが、まるでいなかったせいでいたるところに足を運んで疲れたとか。そのせいで愚痴を話されているのか、それともどうしていなかったのかを聞かれているのか分からなかった。


「………大変だった」

「だぁぁ! 悪かったって言ってるだろうがっ!」


村に戻ってからずっとこの調子だ。拗ねているのは分かるが、ここまでしつこくしなくてもいいだろう!

 まあ、心配させたのは理解している。反省もしているつもりだ。できればそこまで拗ねないでほしい。

 村には魔弾木の伐採のために戻ってきたはずなのだが、今日はルナのご機嫌とりに尽力する羽目になりそうだ。ルナがいないと魔弾木の伐採が進まないので、どうにか機嫌を直してほしいものだ。


「おい、小娘。主様をこれ以上困らせるな」

「大変だったのは本当。というかついでとはいえ、あなたも探した。少しは謝罪の意を示してほしい」

「なっ!? ………………主様、猫の調理法って知ってますか?」

「ごめん、俺知らない!」


漏れ出る気配と、それに伴う動作が本気だったので、食い気味に否定する。

 だが、動きを止める気がなさそうだ。

 止めようとするが、間に合いそうにない。ルナ、自力で避けて………


「って、いうわけにはいかないよな。ルファー、止まれ!」

「ぐっ! なぜ止めるのです!?」

「お前、本気で殺す気だっただろ!? そんなことしたら、お前は気にしてなくても、俺が罪悪感でここにいられなくなるわ!」

「別に良いではありませんか! このような生意気な小娘がいる村など主様がいるべき場所ではありません!」

「…………………」


ほぉ、言うなぁ。

 ルファー、お前は俺を怒らせた。

 全身から今までにないレベルで殺気を放出する。ルファーとの戦闘でも出ていなかったであろうほどの殺気に当てられ、ルファーが一歩後ずさる。


「ルファー、お前……ちょっと頭冷やしてこい。反省し終えるまで俺の前に顔出すな」

「………し、しかし!」

「返事はどうした? それともお前の返事は『しかし』か? それはそれで別に俺は何にも言わないが、どっちにしろお前は一度この場から離れろ。今、この状況において、会話もできないような奴に意味はない」

「は、はい。分かり、ました」


行ったか。

 思ったより物分かりが良くて助かる。話も聞けないような奴なら、もう少し手荒くなるところだった。

 っと、そういえば俺、龍人だったな。最弱なのに極狼に手荒くするってのは無理があるか。

 視線をルナに戻してみると、とても心配そうな顔をしていた。


「ん? なんかあったか?」

「どうしてそんなに即座に自然体になれるのか分からない」

「あはは、いつもこんな感じだが? それよりルナ、悪かったな。ルファーがその、色々言っちまって」

「別に。気にしてない」

「そう言ってくれると助かる」

「それで………何があって朝からいなかったの?」

「ちょっと………トイレ行って、その後少し探検を、な」

「そう………やっぱり私はそんなに信用されてないんだ」

「な、何言ってるんだ?」


そこまで嘘を言ったつもりはない。できる限り、事実を隠しつつもルナが気づかないような言葉を選んで、言ったつもりだったんだが、一体何を感づかれたのか。


「何となく、分かるから。そこまで私がイフリートに信用されてないの」

「ちょ、ちょっと待て。いやいや、信用してるって。信用してなかったら、監視役になんて任せてない」

「そうかもしれない。けど、それでも信用されている気がどうしてもしない」

「だから、何だ?」


この先聞くのが怖い。

 何となく分かってしまったから。

 だが、それがルナの答えなら、受け入れよう。


「イフリートが、少なくとも今よりも信用してくれているって分かるまでは、監視役、降りる」

「…………」


分かっていた。分かってしまっていた。

 だから聞きたくなかった。

 機嫌とり、できなくなってしまったな。この後の時間が空いたと、そう思うべきか、それとも…………いや、そんなことを考えてはいけない。

 俺は何も言えずに、黙って頷いた。

 そしてルナはどこかへ行ってしまった。

 これから、どうしよう。ルファーはどこかへ行かせてしまった。ルナもいない。

 ルファーがいなければ、俺は森への移動を自力でやらなければいけない。気配が消せるとはいえ、さすがに俺一人ではどうにもならないだろう。

 ということは、ルファーが反省して戻ってくるまでは、森に行くのは無理か。

 さて、どうしたものか。

 うーん、暇つぶしも兼ねて、少し村を歩くか。

 できれば、あんまり会ってなかった人たちと会ってみたいんだけど、まあ会えるかは分からないか。

 と、思っていた直後に、目の前に知った顔が現れた。

 ムーヤだった。しかも何やら誰か連れている。

 あっ、もしかしてミーヤさんが言っていた、ムーヤの友達だろうか。

 どんな感じの子か見れたのは良かったのか? まあ、いいか。とりあえず話すつもりはない。

 それにしても、何となく分かっていたが、ちゃんと同い年だったな。さすがにまだ子供への恐怖心は薄れていないので、まだ震えてしまう。距離の関係で少しだが。

 全力で素通りしよう。ちょっと気配も消して。


「あぁ! イフリート!」


げっ、ばれた。

 まあ、今から逃げればいいか。『血への渇望』を発動させよう、として誰かに止められた。

 一体誰だ? 俺は急いでいるんだが。


「そ、あ、あの……イフリートさ、さん、ですよね!」

「えっ、あ、はい。どうしたんですか? 何か用ですか?」


思わず敬語で返してしまったが、ムーヤと背丈一緒だし同い年ってことでいいんだよな? ムーヤと違って、敬語だな。ここまで対応が違うとさすがに同い年なのか、気になってくるな。


「えぇと、君がムーヤのお友達ってことでいいのかな?」

「は、はい! ミリーと言います! よ、4歳です!」

「ということはムーヤと同い年か。あー、よろしく?」

「よろしく……お願いします!」


なぜか顔が赤くなっている。

 風邪気味か? こんな状態で大丈夫だろうか?

 ムーヤが変に付き合わせてないといいのだが…………ムーヤならやりかねないな。まあ、心配だけしておこう。


「体調には気をつけて。それでは」

「あ、は、はひ」


むしろさらに赤くなった気がするが、まあ、一応注意はしておいたし、大丈夫だろ。

 というか、それではって言ったはずなのに、ムーヤに止められてしまった。ちゃんと言ったはずなのにな。

 このやりとりも何度もやった気がするのだが、状況的にもう一度言わないといけないのか。


「放してくれない? 俺、ちょっと行くとこあるんだけど」

「ダメ、イフリートに元気ない」

「大丈夫だ、俺はいつも元気だ。だから放して」

「ダメ、放さない」

「ムーヤちゃん、イフリートさんを困らせちゃ、ダ、メだよ」

「これはぜぇったいダメ!」


頑なに俺の手を放さないムーヤ。

 さすがにこれ以上、ここに留まるわけにはいかない。

 いかないんだけど、全く放してくれる気配がない。


「なんで放してくれないんだ? 急いでるんだが」

「だって、イフリート、元気ないんだもん」

「だから、俺はいつも元気だよ。大丈夫だっての」

「ほんとに? イフリートと話してたひと、泣いてたよ?」

「………そうか」

「ほら! 悲しそうなかおする、それでいいの?」


いや、お前それ、4歳児が言うことじゃねぇだろ。しかもルナの名前出さないし。

 なんていうか、とりあえず驚くべき4歳児だ。


「まあ、確かにダメかな、とは思ってるけど……」

「それならちゃんといってくる!」

「はああ、分かったよ。ちゃんと言うから放してくれって」

「ならいい!」


うん、満足そうだ。

 じゃあ、まあいいか。とりあえず俺の手を放してくれたし、一度誰かと合流するか。

 ムーヤとミリーと別れてから、どこへというわけでもなく、なんとなくで歩く。

 気づくと、俺は魔弾木の群生地にいた。

 さらにもう少し歩くと、ルファーが反省しているように木を頭でゴンゴンと叩いていた。やばい、ルファーほどの耐久力のありそうな体からそろそろ血が出そうなレベルで叩いているので、あの異様に硬い魔弾木が折れそうなんだけど。


「おーい、ルファー、大丈夫か?」

「どなたか知りませんが、今話しかけるのはご遠慮ください」


ああ、本気で凹んでんだな。

 でも、まあ主人の言ってることで凹んでるんだから、従魔としては正解なんだろうな。

 でも、面倒臭いから、できる限り早く立ち直ってもらいたい。


「おい、ルファー。お前、いつまでそんな感じになってるつもりだ? いや、悪いのは俺だけども」

「ですから、今は話しかけないでください」


こいつ、だいぶ近づいてるはずなのに未だに俺だって気づいてない。

 さすがに色々言い過ぎたか。ここまで追い詰められてるのを見ると、さすがに罪悪感がこみ上げてくるな。

 まあ、あの時怒ったのは別に悪いことだとは思ってないけどな。


「おい、俺だ。イフリートだ」

「………その、声は…………主、様?」

「おう、主様だ。だからとりあえず血だらけの頭どうにかして、ちょっと話すぞ」

「あっ、はい」


うん、血が出るかもしれないと思っていたら、本当に出ていた。

 思いっきりショッキング映像だったな。

 額に垂れている血を拭って、ルファーは俺の方へ向き直った。


「あの、なんだ。さっきは色々と悪かったな。俺もカッとなっちまって…」

「別に構いません。非があるのは私の方です。それに最近舞い上がっていた感情を静めることもできましたし」

「そう……か。ルファーにここまで言わせたとなると、俺は主失格だな」

「そんなことはありません! 主様以外に私の主人はいません!」

「ありがとな。言ってくれるだけでも助かる」


本心かもしれないが、俺としてはここは反省すべきなのだ。

 今までできなかった感情で動く、という行動があんなにも簡単にできてしまった。これは重大な問題だ。俺が今まで抑えてきた感情たちが、この異世界に来てから、明らかに活発に動くようになっている。これをそのままにしておけば、起こるのは感情のままに動き、何かを失くす、そんなことが起きかねない。それは避けなければいけない。

 だから、ムーヤに指摘されたのは不幸中の幸いだ。

 できる限り迅速に、改善しなければ。

 だが、頭の中でそう考えていても、表に出してはいけない。努めて明るく振る舞う。


「さて、これからちょっと行くことあるんだけど、付き合ってくれるか?」

「よろしいの、ですか? 先ほど失態を犯したばかりの私なんぞを?」

「反省してくれてるんだ。それだけで十分だよ。というかお前がいないと、こっちは行くまでにだいぶ時間がかかるんだよ」

「………ありがとう、ございます!」


深く頭を下げ、感謝の意を示してくる。

 そして、俺の発言から目的地を察してくれたのか、狼へと姿を変えてくれる。

 俺はリルファーの背に乗ると、


「リルファー、森へ全速力だ」

「了解しました」


ほぼゼロからの加速。

 何度目かだが、慣れられないだろう疾走感を肌で感じながら、俺たちは再度森へと出向く。











 今回はそこまで手間がかかる作業はなかった。

 だが、どうにも森の中が騒がしい。何かあったのだろうか?

 近くの森人に聞いてみる。


「何かあったんですか?」

「あ、ああ、友好条約結んだ龍人とかいう種族のやつか」

「はい、そうです」

「それがどうにもこの森の中に魔獣が紛れ込んだらしくてな。それを討伐するために一人だけで向かった奴がいたらしいんだが、もう一時間は待ってるんだが、戻ってくる気配がないんだ。相当腕が立つらしいのに、って色々聞いてるところなんだ」

「へぇ、魔獣が………珍しいこともあるんですね。この森に入るのは難しいと思うんですけどね。無断で入ったからこそ言えますが」

「ああ、だから不思議がってるんだ」


なるほど、森の中に森人のほとんどが集まってきているのはそういう理由か。

 それにしても一人だけで、か。

 どうして一人で行ったのか。いくら腕が立つとはいえ、さすがに無謀ではないか?

 まず情報がない。種類が分からない。数も分からない。その他色々。推測だけでどうにかできるほど強いのか、もしくはただのバカか。

 少し人混みを抜けてから、念のため魔力を放出して探知を試みる。

 森のほぼ外周にまで魔力が広げきったところで、感知する。

 大きな気配、魔獣だろう。少なくとも5体以上。そして話通り、森人らしき気配が一つ。

 問題はそこからだ。森人の方の気配がとても弱い。

 これは………もしかしなくても死にかけている。

 俺以外は誰も気づいていない。気づいていたら、こんな悠長に待っていない。

 まずい。


「リルファー! 俺が指示するからその方向へ全速力だ!」

「どうかしたのですか!? と、とりあえず了解です!」


狼の姿のままのリルファーの背に乗ると、リルファーが走り出す。

 俺は、トップスピードのリルファーがしっかり目的地に着けるように前もって指示を出しておく。

 無事でいてくれよ、知らねぇ森人さん。

ちょっとつまらないと感じてきてしまっている、そこの読者様! 大丈夫、作者も少し思っています。でも、お願いですからもう少し我慢していただきたい。きっと面白くなる………はずですから。

 そういう感じでこれからもよろしくお願いします。

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