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三十二話 契約

聞こえるのは、俺の息遣いだけ。

 どうにもならないくらい、罪悪感が俺を支配する。

 『蒼炎』は『操炎』を発動している際に纏っている炎を全て一箇所に集中させ、炎の色を赤から蒼に変化させる。結果として威力は爆発的に向上。

 だが、それでも極狼さんの体を消し炭にできるほどの威力かと言われれば、否だ。

 『蒼炎』のために力を残しておいたとはいえ、それでも『炎天龍』には十分な威力があった。それを防がれたとなれば、いくら『蒼炎』とはいえ、消し炭にはできないだろう。

 『炎天龍』と『蒼炎』の時間差攻撃も致命傷とはならないだろう。

 煙がなくなり、影が見える。しかし今までと違いその影は横に倒れている。

 どうやら……倒せたようだ。いや、こっちも魔力の消費量が多すぎた。『自己再生』で戻るとはいえ、それでもだるい感覚は治らない。

 辛いが、それもすぐには治る。ふぅ、やっぱり『自己再生』は神。


「ははは、ぁ。楽しかったぞ。まさかあんな方法で、とは」

「だから謝ったじゃないですか」

「そういうことだとは、思わないではない、か。普通……は」

「まあ、そうだとは思いますけど……一応転生者ですし?」


はぁ、やばい。だめだ。これ以上は立てなさそうだ。尻が地面と激突する。

 戦いは引き分け、か。いや、俺がそう言ったら、極狼さんは全力で否定するかもしれないが、でも引き分けだと思う。


「それにしても、これからどうしましょうか……動けないんですけど」

「私もだ………何か食べたい」

「は? いや、ついこの前食べてたんじゃ?」


いやいや、めっちゃ食ってたじゃん。見てないけど。


「これだけ動くと、腹が空く」

「燃費悪りぃな!」


重い体を起こしてまで突っ込んでしまった。

 仕方ない。このままあることをする。

 倒れている極狼さんの口の前に自分の手を突き出す。


「ん、早く食ってください。ここまで全力で戦った敵に死なれても胸糞悪いんで」

「……………いいのか? お前に再生系の技能があることは分かっているが……それでも痛みは残るだろう?」

「いいんです! 早く食べないと食わせませんよ?」

「すまない」


別に謝る必要なんてないんだけどな。

 極狼さんは目の前に出された俺の腕を躊躇なく食う。

 激痛だが、それでも今までのだるさが案外相殺してくれて、そこまでやばい、とは思わない。

 咀嚼し、飲み込んだ。その動作が終わるまでに『自己再生』で俺の腕は再生する。本当に…種族的にも能力的にも人じゃなくなっちまったな。

 まあ、異世界だしな。


「だいぶ……楽になった。ありがとう」

「礼はいらない。俺も卑怯な方法で一発入れたしな」

「あれは驚いたぞ」


ふっ、知ってる。全力で驚かせようと考えながら、『蒼炎』使いました。

 さて、そろそろルナも心配してそうだし、一度洞窟の奥に戻るか。まあ、だいぶ派手に戦ったし、なんかヤバそうっていう小並感なことは思っているだろうが。

 とりあえず極狼さんにも一度洞窟の奥に戻ると促して、一緒に戻った。極狼さんは俺の腕食ってもまだ力が取り戻せないようで、歩くのもキツいようだった。肩を貸そうにも貸したところで何もできないので隣をゆっくり歩くしかできなかったが。


「大丈夫、だった!?」

「お、おぅ、大丈夫だから。俺は傷治るから大丈夫だって知ってるだろ?」


どうして戻った途端に急に顔近づけるんだ。

 ルナの肩を持つと、遠ざける。

 はぁ、目の保養的な意味があったらいいのに。今、そんなに余裕がないんだよな。

 そういえば、少し気になったことなのだが、極狼さんが自分がフェンリルと呼ばれたことを嫌がったのはどうしてなんだろうか?

 気になったことが思わず口にそのまま出た。


「極狼さんって、なんで初めて会った時にフェンリルって言ったら怒ったんですか?」

「ん? ああ、私の魔獣としての種類は『極狼』だ。狼系の魔獣のほぼ最上位に位置する」

「ほぼ?」

「ああ、あくまでもほぼ、だ。狼系の魔獣の最上位に君臨しているのは『神狼』だ」

「しん…………ろう?」

「神の狼だ」

「ああ、それで神狼か。ほぉほぉ、なるほど。それで?」

「軽いが、まあ良かろう。神狼は、魔獣でありながら創造主たる魔神と同格となった狼系の魔獣全ての始祖、母であり父だ。実力は『龍種』をも凌ぎ、魔獣中最強との呼び声も多い」

「へぇ、なんかかっこいいな!」

「格好いいものか。生まれた頃から子供を捨てる親などいてたまるか」

「いや、まあ俺も本当の親知らないけどな。同じ同じ」

「その話はまた後で聞くとして、とりあえず話がここから逸れるが気にせず聞け。

 神狼は極狼の一つ上の個体だ。私はそれになりたいと思っている。そして極狼となって、まだ日が浅かった頃、珍しいことに一度だけ神狼に会えたのだ。だから、私は聞いた。どうしたら神狼になれるのかと。

 返ってきた答えは『主を探せ』だった」


うん、一切話が合わないんだけど。


「まあ、何が言いたいかと言われれば、お前、私の主になれ」

「いや、本当に話が逸れ過ぎてると思うんですけど!?」

「………そういえばそんなに理由はないな。神狼には多少の憎しみはあるが、それでも圧倒的な強さを尊敬しているしな。ムキになった、というのもないわけではないが」

「じゃあ、怒んないでくださいよ。というかどうして極狼さんの主にならないといけないんですか?」

「だから、神狼になるためだ。あとなんとなくでキレたのはすまなかった」

「じゃあ、主にはなるのでこっちからも一つ頼ませてもらいましょうか!」

「いいだろう、なんでも言ってくれ」

「俺の従魔になってくれ!」

「…は、え?」


俺に言われたことがどうにも相当驚愕に値するようで、硬直している極狼さん。

 別にそんなに驚くことでもないだろう。強い奴に、自分の主になってくれと言われているのだ。むしろ自分から頼むだろう。まあ、若干省略したので分かりにくかっただろうが。


「いい、のか………?」

「え、むしろなんでダメって言われると思ってたの? 極狼さん、強いでしょ? 俺、龍人でしょ、てことは弱いでしょ? 好都合でしょ。良いことしかないんだけど」

「今まで主になってくれ、とそう言ってもいいと思えるくらいの強者は何人かいた。だが、その全ての返答が拒否だった」


ん? なんでだ。いいじゃん、むしろさらに強くなれるんじゃないの?

 その疑問を見抜いたのか、俺がそれを口にする前にさらに言葉を紡ぐ。


「誰もが今の生活に満足していたのだ。程よく強者であり、順風満帆な生活を送っており、これ以上ないほどに幸福だったそうだ。これ以上の幸福はいらなかったそうだ。だから拒否された」


ありゃまあ、それは運が悪い。

 となると、まあ残りがどうなっているかはなんとなく分かった。


「強者になりたい者は確かに少なくなかった。だが、私を満足させてくれるほどの強者ではなかった。残念ながら私に主従の話を持ちかける前に殺してしまった」


うん、知ってた。

 それにしても極狼さんに認められるほどの人が何人もいるんだから、昔にはだいぶ凄い人がゴロゴロいたんだなぁ。負けた人にしても相当な実力は持っていただろうし。それでも負けるってんだから、本当、極狼さんは化け物だ。

 いや、俺はセコい手しか使ってないから。セーフ、強者ではないし化け物なんて論外です。


「だから今回も拒否されて終わりだと思っていた」

「ちょっと、待ってください! 転生したと思ったら、何が何だか分からない世界で、しかも序列最下位の種族にされてたことのどこが幸福なんですか!? ふざけてるんですか!? 不幸ですよっ!」

「ま、まあ落ち着け。それでも、いいのか?」

「何がです? こっちはウェルカムですけど? まさかそっちから、やっぱなし、とか言わないでくださいよ?」

「違う、私が従魔になったらただでさえ目立つのにさらに目立つことになるぞ?」

「ああぁ、まあいいんじゃないですか? むしろ極狼さんのおかげでそんなに目立たなかったりして」


ちょっと気分が浮ついたせいか、思わず、思ってもない冗談が口から出てしまう。

 でも、最強に近い魔獣から主になってくれって頭下げられてるんだから、このくらいのテンションの上がりは仕方ないと思う。

 冗談は案外笑えたようで、極狼さんは口を少し歪ませて笑った。


「ははは、そうだといいな」

「おっ? そうだといいな? と、いうことは?」

「ああ、よろしく頼むぞ……いや、宜しくお願い致します。私の主様」

「おう、よろしく頼むぜ、俺の従魔」


極狼さんは前足を伸ばした。殺意は感じられなかった。

 俺は答えるように片手を極狼さんの前足めがけて勢い良く突き出す。

 トン、と音がしてグータッチをした。

 良い雰囲気で大変結構……………なのだが、もしかしてこれで契約成立だったりしないよね? いやだよ、こんな簡単に終わったら。この世界案外簡単に物事進むんだから、ありえてしまう。

 その心配も見透かされて、教えられた。


「心配せずともこの程度の動作で契約は成立しませんよ」

「よかったぁ。このくらいで終わったら、そろそろ俺、神ぶん殴りに行きそう」

「おお、いいですね、今から行きますか?」

「さすがに勘弁してくれ」

「それはそうですね」


軽口をたたき合うくらいには回復したが、俺は魔力酷使による精神的なものが、極狼さんは重傷と疲労で、まだ倒れそうなはずだ。

 まだ人が来るかもしれない。油断はできない。ルナがいるとはいえ、さすがに一人だけでどうにかできるほどの戦力差ではないだろう。ギルド長を俺が殺してから、だいぶ時間も経っている。警戒の度合いも随分と上がっているだろう。早めに洞窟から出ておきたいところだ。

 まあ、先に契約だな。


「まず、両者が相手に対して与えられるものを口にします」

「それだいぶ簡単じゃね?」

「両者の承諾がないと出来ません。無意識下に行えるというわけでもありません。意識して行う必要があります」

「ふーん、なるほど。順番とかある?」

「はい、従者が先に、主はその後になります。

 では私から。あなたに忠誠を」


そう言うと、俺と極狼さん、いや極狼の間に光が生じる。紋章のようなそれは、極狼の前まで移動するとそこで止まる。

 どうにも俺が契約に必要な『相手に与えられるもの』を言った時にも同じことが起こるらしい。


「じゃあ、次は俺の番だな。

 えぇと、一緒に戦うのと、あぁとぉ、後は………必要な時に俺の体の一部をお前の食料として提供」

「ちょ!? 何言ってるんですか!?」


ツッコミが聞こえたが、それさえ上回る勢いで目の前が激しく光る。

 『強欲』を発動させた時に発する光よりもいくらか強かった。

 目を細めて、状況を把握しようとすると、極狼が言ったときの現象と同じように、俺の目の前にも紋章のようなものが一つ、浮いていた。

 そして、二つの紋章は少しずつ近づいていき、そして……え、合体?

 まるでこのために描かれたように、ぴったりと紋章が一つに合わさる。そして一度今まで発していた光よりもだいぶ強い光を一瞬発したかと思うと、すぐに収束する。

 ようやく目を開けられるかと思い、目を開けると、満足そうに少し笑った極狼がいた。


「改めて、もう一度言わせてください。

 これから、私の身勝手な目標のために何度も無理をさせるかもしれません。それでも、宜しくお願い致します」


はあ、全く。

 わざわざそんなこと言わなくても、俺の言うことはもう決まっているのに。

 簡単だけれども、それでもきっと今の極狼には必要な言葉だ。

 だから言おう。精一杯の俺の感謝の意を込めて、


「こちらこそ、改めて。これから一緒によろしく頼むぜ」


そう言って、もう一度グータッチ。

 こうして俺と極狼の主従契約は完了した。

 そして満を持して、口を挟むのはもちろんこいつだろう。


「あんまり無視すると、帰ってから色々、するよ?」

「待って、色々って何かを具体的に教えてくださる!?」

「組手千本とか?」

「ルナ、あんた俺を殺す気か!」


精神的に、だけど。

 まあ、凄い戦闘した後にボロボロで帰ってきて、ずっと無視したのは本当に悪かったよ。

 でも、千本も組手するのはさすがに鬼畜じゃない? 俺がほとんど負けて終わりじゃねぇか。


「じゃあ、ちょっと行きにくいけど、帰るか。仲間も増えたし」

「………うん、仕方ないから。でも、どうして助けに来てくれたの?」

「……うーん、まあそこら辺に関しても聞きたいし、手っ取り早く帰ろうぜ。理由は帰ってから話す。

 悪い、早速仕事だ」

「何なりとお申し付けください」

「猫人の村に、案内するから全速力で俺とルナを連れて向かってくれ」

「承知!」


さあ、色々の内容は言わないが、色々と吐いてもらうぞ、村長。

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