三十一話 VS極狼
久々な気がする戦闘回。
まず思わなきゃいけないのは、とにかく普通なら勝てない。そう、普通なら、だ。
正攻法で勝てないなら、全力でズルさせてもらおう。
「『操炎』!」
とりあえずドーピングという名の必殺技を身に纏う。
被弾は出来ない。絶対死ぬ。即死攻撃を連発とか本当にネットで叩かれるレベルで鬼畜だから。
「せめて少しは楽しませてくれるとありがたいぞ、だいぶ待ったからな」
「いや、そりゃ頑張りますけど………多分一度も楽しませられずに終わる気がします…」
無理だろ、本当に。名前からしてヤバい狼様と戦って勝てる気がしない。
うん、勝てる気しないぞ。とにかく回避ぃ! ほとんど俺の戦闘はヒットアンドアウェイだが、もうそろそろ、ちゃんとした戦い方をしてみたいものだ。なんか、こうバトル漫画でありそうな拳で語り合う的な戦いがしたい。
まあ、現実とは非常なもので、俺の身体能力と技能の性能的にどんなに頑張っても短期決戦しかできないわけだけど。
ふぅ、落ち着いていこう。とりあえずその話は置いておいてこのままじゃまずい。それは観客でもいたら一目瞭然。『自己再生』があるとはいえ、与えられた傷が治るという保証が全くない。
とにかく被弾はアウト。かといって長期戦もダメ絶対。じゃあ、俺にできることは短期決戦一本だけ。
今までならどうにも火力が足りないせいでジリ貧不可避だったが、今は『操炎』のおかげで火力は出せる。あと必要なのは………そう、極狼さんの油断だ。一度でもいい、極狼さんが『なんだ、つまらない』と、そう思ってくれればいい。一度そう思ってくれさえすれば、あとは『操炎』の最大火力をゼロ距離から打ち出す。接近し、攻撃さえできれば、俺は勝てる、そう思っている。
さあ、ここからどこまで相手の油断を誘えるかが勝負の鍵だ。油断を誘うっていう意味ではさっきの会話での受け答えはそんな感じで話してはいたんだが、あんまりそういう風には捉えていないようだ。残念。
そして、その間ももちろん俺の回避行動、極狼さんの攻撃は続いている。あちらにそれほど疲労の様子は見受けられないが、こちらはそろそろ『血への渇望』の効果が切れてしまう。もう1分か。思考しながら、戦える(主に回避)っていうのは、だいぶ便利なんだが、いろいろ考えてるとあんまり時間の進み具合が分からなくなるな。
『血への渇望』は補充。早くなった、こう、なんていうか強化された感が出たのを確認してから、できる限りの回避を行う。
あ、やばい。なんかさっきと明らかに雰囲気が違う。極狼さんの中では中の下くらいかもしれないけど俺の中では本当にやばい攻撃が出る気がする。
ああ、うん、もう無理だ。これは回避不可だ。回避はもう無理、諦めるとしたら、ここで重要なのはどれだけ負傷を抑えられるか、だ。ここではもう『身体強化』も使ったほうがいいかもしれない。今まで使っていなかったのは、内緒ということで。
あっ、間に合わない。あ、やべ。『身体強化』を発動させる前に極狼さんの攻撃が俺に当たってしまう。
(………少しくらいなら俺も力を貸してやる)
急に頭の中に響く相棒(自称)の声。久しぶりだったのでびっくりしたが、どうにも力を貸してくれるようなので素直にありがとうと言っておこう。
(気にするな。俺も今無性にむしゃくしゃしているからな)
そうか、じゃあおあいこってことで。
そんなことを、はたから見たら一人で、しかも無音で会話しているから変人極まりない行為をしているうちに、極狼さんの攻撃はもう放たれていた。
『身体強化』を発動している時間もなかった。並列思考と直列思考のおかげで未だに考えられているが、実際はもう一秒も猶予はないと思われる。前世でめっちゃ頑張った甲斐があった。超便利だよ。
とりあえず回避だ。現在『血への渇望』しか発動できていないが、それでも全力で足に力を込めると、回避行動に移る。
ん? あぁお!? やべぇ、変な声出た。
なぜか。明らかに『血への渇望』で強化される以上の速度が出ていたからだ。どうにも足に何か違和感があるので、それも確かめたいのだが、今はとにかく極狼さんの攻撃をできるだけ余裕を持って回避。
避けた後、後ろからすごい音がしたので、ちらっと後ろを振り向くと、バトル漫画でありそうな風に壁がぶっ壊れていた。あの、半球体みたいな感じに。
そして少し距離を取った状態で、下、というか足を見る。すると、今まで赤かったはずの鱗や足自体が黒く染まっていた。
え、どういうこと? なんか怖いんだけど。ていうか色がアンバランスなんだけど。
まあ、とりあえずこの速度なら、もしかしたら極狼さんの認知速度を超えて動けるかもしれない。
よし、今度は『身体強化』も発動して、できる限り早く動く。
「はははっ! やはりお前は私を楽しませてくれるな!」
「だいぶ……手伝ってもらってますけどね!」
本当に俺の力だけではないんだけども、まあなんかあんまり信じていなさそうなので、これ以上は何も言うまい。
だが、舐められっぱなしも嫌なので、そろそろ『操炎』を使ってみようか。
まあ、今から作るからそんなに洒落たのは作れないけどね!
とりあえず回避しつつ…………………………おし、とりあえず完成だ。速い敵用に作った魔術だが、極狼さんに当たるといいのだが。
「『鬼火』!」
俺が魔術の名前を言うと、俺の周りに火球が現れる。火球の目標を極狼さんにすると、全速力で発射する。
極狼さんは、火球が急に現れたことに多少は驚いたようだが、発射されたことを確認すると一気に速度を上げ、回避する。火球の数は10。そのほとんどを避けられたが、それでいい。
この魔術に関しては避けられることが重要だ。避けられて相手の意識から外れさせることが重要なんだ。
『鬼火』の能力は、いわゆるホーミング。相手への誘導だ。もしかしたらそういう能力を持った魔法とかもあるのかもしれないが、生憎と俺は魔法がなぜか使えないのでこうしてロマンを追求するしかなかった。
極狼さんの意識から外れている『鬼火』が空中で軌道を変えると、極狼さんにヒットする。
「ムゥ!?」
確実に避けたはずの火球が体に当たったことがだいぶ驚きだったようで、顔にそれが出ていた。いや、狼の顔から感情を見出すってだいぶ大変だけどさ。
まあ、それは置いておいて。途中から極狼さんも『鬼火』の性質を理解したようで10個中、7個は当たった。
な、俺の魔術が3個も避けられただと!? みたいなことは絶対に言いません。だって、そんなこと思えるほど強くないから。
さて、もう一度『鬼火』を体の周りに出す。警戒させるための威嚇魔術だが、案外ちゃんと効果があるようだ。発射を恐れて、多少の行動の制限が可能になった。
と言っても、発射しないと見切りをつけると、即座に攻撃開始したのでそれほど長くは体の周りには置いておけなかったが。極狼さんの反応と判断が速すぎて、戦闘中に色々考えなきゃいけなくて大変だ。まあ、並列思考のおかげで大丈夫だけど。
とりあえず『鬼火』のホーミング効果はしっかりとあるので、極狼さんの動きを多少止めたり、うまく回避できなくしてくれるだろう。
それにしても極狼さんは俺のよく分からない回避と『鬼火』のダブルコンボにしっかりと対応している。というか完全に適応されて、しかも反撃までされている。俺には無理だな! ステータス的に。
さあ、ここからどこまでうまく立ち回れるか、だ。どこまで極狼さんの油断を誘えるか。
黒い足は未だに気持ち悪いが、回避に一役買ってくれている。しかも何がありがたいって、時間制限がなさそうってことだ。
この数分の攻防で『血への渇望』を何度も再度発動させた。まだ『身体強化』はもつが、どちらにしろ持つのは5分と決まっている。それに比べて、黒い足は急にその高い性能が消えることはなさそうだ。相棒には感謝だな。未だにどんな姿なのかとか、分かっていないがそれでもいつかちゃんと目を見て感謝を伝えたいものだ。
「はははっ! まだ体力は尽きないか!?」
「全然余裕ですね、もしかしてもうバテました?」
「ありえん!」
一瞬の隙を突かれて、腕を切断される。
ギリギリ反応できて、付け根から斬られるのは避けられたが、それでも肘から下は無くなってしまった。
襲い来る激痛を意識を他のことに集中させて、無視して『自己再生』で治るのを待つ。が、片手が半分ほど無くなったせいでどうにも動きにくい。
そのせいで極狼さんの動きに対応しきれなかった。極狼さんの前足から放たれた蹴りをもろに食らってしまう。
重い! ここまで一撃が重いのか! 物理攻撃食らってられないな。勢いが強かったせいで壁にめり込む。体がきしむほどの一撃だった。
しかも俺が衝撃に加え片腕欠損の状態でも、お構いなしに追撃してくる。クッソ! 今までこっちが攻撃してきたのに、回避ができなくなったらこれかよ!
「もう終わりかぁ!?」
「があっ! うおっげぇああぁ!」
あれ!? 肉球ってなかったっけ!? あれ、柔らかいんじゃないの!? まずい、血が出すぎている! 『自己再生』で治るまで回避もできなくなるかもしれない。
くそ! 立て直せ、俺! まだ持つだろう、『身体強化』!
しかし、時は案外早く経つようだ。無機質に頭の中で響く『身体強化』の効果残時間10秒の知らせ。思わず『身体強化』を解除する。
だが、それが良かった。回避する速度が下がったせいでむしろ極狼さんの反応が遅れた。肉球のコンボから外れられた。もしかしたら『自己再生』で治すために動けなくなるギリギリのラインだったかもしれない。
音など立てずに傷が再生していく。それに伴って動きやすくなる。痛みはまだ尾をひくが、それでも確実に楽になる。片腕が戻ったのは特に。
まだ、舞える。集中しろ、全力で。反射の域にまで、神経を張り巡らせろ。そしてさらに延長させるために、あるものを魔術で作る。
「『炎剣・長剣』」
手に出現するのは、質量を持たない長剣。ステータスが低く、尚且つ剣の心得なんて俺が、剣を使いたくて考えていた結果だ。
たどり着いたのは、質量を持たせない、だ。
そしてそれは正しかった。高めた集中力で極狼さんの攻撃を遅く、だが、確実にいなす、弾く。
張り巡らせた神経が、極狼さんの攻撃の軌道を感知する。そして望んだ通り反射にも近いスピードで反応する。さらにタチが悪いとしたら、長剣の性質が斬ったものを燃やす、という炎で形成されている故の当たり前のものだからだ。
だが、そこは極狼さん。すぐに性質にも気づくと、思わぬスピードで対応してくる。しかし、プライドがあるのか、執拗に長剣を持つ手を狙ってくる。
「面白い、面白いなぁ! これほど楽しい戦いは久しぶりだぞ!」
「それは良かった!」なんて答える暇すらない。そんなことしてる暇があれば全力で神経を張り巡らせろ、いなせ、弾け、剣を振れ、戦え。今できる全力をこの場で!
だが、不思議だ。こんな高揚する戦いが始めてではない、そんな気がする。
いや、無駄なことに思考を回すな。並列思考の一つも無駄にはできない。極狼さんが全力で戦ってくれている。それを無駄にはできない。
その後も何度も剣と爪が打ち合う。金属音にも似た音が洞窟内に響く。
そして何度目かの打ち合いで、材質故に絶対に起きないはずの現象が起きる。
バッキィィィッッ!
ありえない、どうして炎の剣が折れる? 剣が、どうして?
いや! 考えるな! 今するべきは、全力で現状を俺の方へ傾かせることだ。どうすれば傾く? 傾かせろ、今すべきはそれだ。
もう一度『炎剣』を出現させるのはリスキーだ。なぜならもうすでに極狼さんに手の内を知られている。今までよりも上手い対処法を立てられる。それは今の状況では悪手も悪手だ。
俺が極狼さんに対して有効かつ強力な攻撃を当てるために必要なのは新しい魔術だ。攻撃方法だ。
じゃあ、作ろうか。今から。回避は並列思考に託す。被弾は多少は受け付ける。全力で仕事しろ、『自己再生』よ、こっからが正念場だ。
完成した直後にはもう、口が言葉を紡ぐ。
「『暴炎』『炎柱』」
武器の攻撃が目線でバレるのなら、俺にも分からなければバレない! もはや徹夜テンションと化した頭で考えた、そんな魔術。
無差別範囲攻撃炎属性魔術。
こんな難しそうな並べ方をしたら、凄そうな感じがするが、分かりやすく言うのなら、敵味方問わず高い火力で燃やす、だ。
だが、ここにいる二人だけに限定するのならば、それは無差別範囲攻撃炎属性魔術などではない。『操炎』のおかげで炎属性の魔法、魔術は効かない。さあ、燃えろ、極狼さん。怯んだところに俺は最高火力をぶっ放す。
炎の柱が洞窟中に立つ。荒れ狂う炎が空間の中を燃やし尽くすかのように赤く燃える。
どこまで保つ、極狼さんは? そう思いつつ、用意するのは今持てる力の集合体、最高火力の魔術。俺の知っている世界の中の最高峰。
機を伺う。どこだ、どのタイミングだ?
魔術によって立ち昇った煙をかき分けるように大きな影がのそりと動く。
きた! もうすぐだ。手のひらから思わず準備していた魔術の一端がちろりと出る。手が動く。だが抑えろ。今はまだダメだ。
「くぁ、はぁはぁはぁ。ふははは、フハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!」
「!?」
洞窟の中に響く大きな笑い声。まるで愉悦に浸るかのように長い間、笑いを媒体に何かに満足している、そんな気がした。しかし……まだそれだけの余裕があるか。
攻撃が甘かった、とかそういう次元じゃない。もしかしたら一度くらい気絶したかもしれない。だが、それでも気合だけで持ち直したんだ。やっぱり強いな。
どんなに頑張っても正攻法じゃ勝てない、やはり。
だからこんな方法で勝ってしまうかもしれないことを謝罪しよう。
「すいません、楽しかったです!」
「なぁにを、謝る必要がある!?」
まずい、まだ目が死んでいない!? まっすぐ目を見据え、こちらを捉えている。
だが、こちらもここまで戦ったらどうしても勝ちたいと、そう思ってしまった。
だから勝つ。何かを削れ、今できる最大を、最高を、最良を、最強を!
極狼さんは前足を突き出し、爪で斬ろうとする。
そして俺は……
「『炎天龍』!」
右手を突き出し、それを叫ぶ。
放たれた龍は、しっかりと極狼さんに向かって空を行く。
激突。そして、衝撃。
俺はその隙を見逃さない。
極狼さんに接近すると、左手を突き出し、そして……
「『蒼炎』」
蒼い炎を放出させる。
幻想的に洞窟内を照らし、炎は爆発する。




