二十四話 ゆっくり崩れ去る
あのあと、色々あった。だいたい2週間くらいか。
ムルサさん、ルナと一緒に修行した。疲れた。ほとんどが魔力に関してのことで若干飽きかけたが、冒険者にはどうしても必要だと、耳が破裂するレベルで聞かされたのでちゃんと練習しています。
マタタビ酒も、2週間もあればさすがに完成したので、飲ませた結果、カオスになりました。
もちろん魔弾木も切りました。きっと三分の一くらいは切ったと思う。魔力を斧に纏わせることに関してもだいぶ、できるようになっただろう。完璧とはいかないが、それでも5本に一回くらいの感覚で魔力が切れるようにできるようになった。すごく大変でした。
さて、パソコン禁断症状も最近発作が収まってきて大丈夫になってきた。今では寝て起きた時にパソコン本体の電源ボタンを探したりはしなくなった。もう一度言おう。だいぶ収まってきた。
なので、今日も電源ボタンを探さずに起きてきたわけだが、やはりどうにもこの体、あまり睡眠が必要ではないらしい。二日ほど徹夜をしてみたが全く眠くならなかった。元から夜型だったが、それでも不思議に思うほど体調が良かったので、その結論に至った。多分『自己再生』のおかげだろう。ステータスの表記に睡眠に関する欄があるのか、という疑問は残るが、きっとあるんだろうな! だって異世界だし!
途中でやけくそになって決めた結論もあるが、それでもだいぶこの世界について分かった気がする。
それにしても『神種』については謎だった。
「それは街に出てからじゃないと、どうにもならないのかなぁ」
伸びをしながら呟く。
いかんせんここにある情報じゃ、判断しかねることもある。グリモワールも勿体ぶって教えないし。
さて……ん? 今日はいないな。いつもならこの時間はルナがいて組手しろってうるさいんだけど。もちろん断っているが。村長に後でルナが(ここ重要)怒られるのは心が傷むので。
とりあえず、未だに寝ているところが開放的なあの倉庫なので、村に向かう。
あいつ、まさか寝坊か? 一応監視者とか任されてるにしては抜けてるな。
歩きながら、寝癖を整える。この女みたいな長い髪にも慣れてきた…わけではないが寝癖くらいはどうにかできるようになった。女で思い出した、いや本当なら女で思い出しちゃいけないことなんだが…気づいたら『あれ』が消えていました。そうです、下半身にある、というか丹田のすぐそこのモノです。ふと風呂で下を見たら消えていたんです。あの時はもう気絶するレベルでびっくりしました。本当に気絶したけどな。
変なこと考えているうちに寝癖は整え終わっていたので、倉庫でまたもや見つけた紐で適当に結ぶ。
うし、まあこんなもんだろ。これも手馴れてきた。
朝していることは、ルナの組手の申し込み以外は異常なし。
ということはやっぱりルナに何かあったとしか…腹痛か? ステータスでHPとかが決まっていても痛いものは痛いのだ。『自己再生』があっても傷ができれば痛いように。そういう意味では腹痛とかが一番説明がつくな。
…………なぜ俺は女子の腹痛について真面目に考えているんだ。いや! 女子の腹痛について考えているわけではないのか? ちょっとこんがらがってきた。
「とりあえず本人に聞いた方が早いな」
普通ならここら辺でグリモワールが起きてくるんだが、変だな。今日は未だに話し始めないぞ。
うーん、今日は色々と変だなぁ。
「おお、村長! どうしたんだ? 村長はここら辺にはあまり来ないはずだったけどな」
「あっ、イフリート…様」
ん? なんか違和感。本当に今日はどうしたんだ。
そのあと、何度か聞いたが村長ははぐらかして教えてくれなかった。
ここまで教えてくれないとなると、俺に関連すること、ということになる。俺に関連すること……ちょっと分からないな。気になるなぁ。
ルナも関係しているのだろうか? だから今はいないのだろうか?
村長の後ろをついて行っているのだが、これは…村の中心に向かってるのか。
村の中心に行ってみて、驚いた。まだ会ったことのない顔ぶれもいたので詳しくは分からないが、おそらくこの村にいる猫人の全員がここにいるのだろう。
「これはー……どういうこと?」
「これは村に関わることなので、村の住民すべてに伝えます」
「ルナが消えました」
「は? ……………………は?」
気のせいか? 俺の聞き間違いだよな、そうだよな?
ヤベェ、なんでか気配を遮断するのを忘れてしまった。あーあー、猫人の皆さんが引いてるよ。でも、戻せないんだよな、これが。
どうしたらいいもんか、この気持ちは。
ルナが消えた。本当に、村長が言ったことが本当なら………俺はどうしたらいいんだ。
ちょっと待て。落ち着け。落ち着くんだ。一旦、色々整理しなおす時間が欲しい。
例えば。例えば本当にルナが消えたとしたら目的はなんだ? ルナを手中に収めたい輩は何がしたい。ルナの長所は、俺が知り得る中ではあの高い戦闘力。
そうなんだが、もしかしたら奴隷として…とか? 俺はよく分からないが、ルナの顔とか体は地球の女子とは格が違う、気がする。基本ローブみたいなものを羽織っていたからよく分からんな。まあ、俺もそうだが。
いや、それよりも! 奴隷、よくあるネット小説のそれか。そうだとしたらルナは今、どこかで売られているということになる。いや、あるかは知らないがあるとしたら手続きとかは、そんな一日そこらで終わるものなのか? 終わっていないと信じたい。
そして疑問はまだある。どうしてこの村の警備を突破でき、た………………ちくしょー、警備の甘さは女冒険者のせいで裏付けされている! だが、それでも仕事を適任なやつに任せなければ、まず冒険者のマルサさん、ムルサさんに気付かれる。つまり、今回ルナを攫ったか、なんだかしたやつはそれなりの手練れだということだ。
これらを踏まえると、まだ助けには行ける。だが、俺では戦闘面で心もとない。そもそも今、ルナがどこにいるのか。それさえ分からないのだから、どうしようもないと言えばどうしようもないが。
そんなんで諦められるほど、こっちの世界での人間関係を脆くしたくはない。
自己満足でも何でも、俺はルナを助けたい。
………………誰にも協力は仰げないだろう。今は感情が抑えられないせいで魔力も濃いままだ。こんな状態で魔力感知を行うわけにもいかない。どうする、どうする、どうするどうするどうするどうする!?
「イフリート様、行くんでしょう?」
「あ? 何言ってやがる、行かないわけにはいかないんだよ」
誰だ、今話しかけたのは? こっちは考えてんだよ。声からしてマルサさんかムルサさん。どっちでもいい。どうせ後でついてくるように言うから、今は猫人ビビらせないように、ルナの気配を感知する方法考え終わるまで待ってろや。
「そうですか…………ならば自分も一緒に行かせてください!」
「……………」
うるさい、黙ってろ。静かに思考させろ。
「イフリート様!」
「ダァァァ! うるっっせぇ! 黙って、俺に考えさせろ!」
声のほうを見ると、いたのはムルサさんだった。垂れ流しになっている高濃度の魔力が魔力感知の代わりになり、魔力が判別できてしまう。間違いなくムルサさんだ。
何かを決意したような目でこちらを見ているのだが、こっちも余裕がないので睨み返してしまう。
「もう一度言います。自分もルナの捜索に連れて行ってください!」
多分、揺るがない。揺るいではくれないだろう。ムルサさんは連れて行く。元から連れて行くつもりではあったが。
先に協力を仰げたのは良かったが、それでも尚、ルナの居場所の特定方法は分からないままでいる。クッソ、一体どうすれば!
(……………はあ、これに関しては『あいつ』が関わってるから、仕方なく力は貸してやるけどこれ、やっている間は俺、異様に疲れるから早く終わらせてくれよ?)
!? 誰だ!?
頭の中から響いてくる声がある。疲れているせいで幻聴でも聞こえてきてしまっているのか?
(幻聴ではないぞ? うーん、そうだな。お前の相棒とでも思っておけ。気が向いたら声かけるわ)
つまり今は気が向いたから、声をかけられていると?
(うん、そういうことだ。じゃあ、力貸してやるから。方法教えるからそれ実践して)
わ、分かった。
今はこいつの言うとおりにするしかないのだろう。
(その濃い魔力を右目に集中させろ。血が出たら成功)
血が出たら成功て。なんだ、俺に右目を潰させたいのか? 意図が分からないぞ。
どうせ他に頼れるあてもないから、やってみるけど。
言われたとおりに、魔力を右目に集める。数秒間、集め続けていると唐突に右目に違和感が出始めた。
それでも特に止められないので、『自己再生』もあるしいいかと、そのまま集め続ける。
すると急に右の視界が赤く染まる。しかも何かが地面に垂れた。確認するために右目の近くを手で触ると、血が出ていた。
(よし、成功だ。そのまま他の場所を見てみろ。違う景色が見えるはずだ。それ使ってルナ、だっけか? そいつを探せ。必要ではなくなったら自然と引っ込むから安心して使え)
誰かは分からないが、ありがとう。でも……修学旅行中にもお前みたいな声が聞こえたんだけど気のせいか?
(気のせい、気のせい。俺はこの世界にお前が来た時に目を覚ましたからな)
そうか、ならいいが。
相棒とでも思っておけ、と言ってきたやつは話さなくなった。今でも血は出ているが、気にせず周りを見てみる。
すると、すごいことに猫人の皆さんの……なんというか、いつも見ている景色と何か光っているものが体の中にある景色と二つ見えるような感じになっている。どこか3Dみたいで気持ち悪いが、この体の中で光っているものの正体がすぐに分かったため、気持ち悪いはなしだ。
魔力だ。魔力が光って見えるようになった。いつもなら見えないような光景が見えるようになった。ファンタジーで言うところの『魔眼』というやつか。俺が今、貸してもらっているものがこの世界で特別なのか、それとも他にも特別な『眼』があるのか。気になる。でも、それは後回しだ。
光っている量や、場所、色には個人差があった。そして体の輪郭に沿って魔力が流れている。これならもしかしたら…ルナを見つけられるかもしれない! ありがとう、相棒!
このおかげで気持ちが少し落ち着いたため、魔力の制御がまたできるようになった。これで魔力感知もできる。これならルナの位置を完全に知ることができそうだ!
「ムルサさん、準備しといて!」
「はい!」
もちろん薄くして魔力を広げていく。ルナの魔力は覚えている。修行してる時に覚えさせられた。今回は躊躇なしに魔力を伸ばしていく。遠慮している時間が惜しい。
ん? ルナの魔力が何か点々と残っている。地面に。もしかして捕まった時に少しずつ、魔力を落として道取りを伝えようとしてくれたのか! さすが天才、機転が利きやがる!
だが、それも途中で途切れていた。気付かれたのか…? 魔力感知でみたところ、多分洞窟みたいな場所に入っていっている。
「村長、ここらの近くで洞窟! 洞窟はどこだ!」
「ど、洞窟ですか!? えぇと……あっ、おそらくダンジョンです!」
ダンジョンだと? 面倒くさいな。こんなところで鉢合わせることになるとは………もうちょっと運命的な感じで入りたかった。だが、こうなってしまっては仕方がない。
「ダンジョンに入る方法も!」
「冒険者登録です!」
またかよ! だからもう少し運命的な出会いをしたかった! 仕方ないので登録もするけどさ!
とりあえず冒険者組合、言うなればギルドに行かなきゃいけないかもしれない。ああ、本当に面倒臭い! どうにかならないもんか。
「ギルドとか行かないと冒険者登録できない!?」
「出来ません。ただ、ダンジョンの近くと街の中心には基本、ギルドがあるので安心してください!」
なーんだ、面倒くさがらせやがって! じゃあ行くか! ローブも着てるし。
でも、龍人の姿はどうにかしておきたい。ローブだけでも、案外隠せるんだがそれでも不安要素は消しておきたい。ローブの機能で種族変えるか。適当に人種にでもしておくか。
イメージして姿を変える。
黒髪、肌に鱗なし。これで大丈夫だな。出来れば顔も隠したいな。
「仮面とかないですかね?」
「あ、ああ、色々とありますけど……何がいいですか?」
「なんでもいいですけど…顔が完全に隠れるようなものがいいですね」
なんか探しに行った。
あ、戻ってきた。早いな。手にはちゃんと仮面を持っていた。
「これなんかでどうですか?」
「おっ? これは………」
和風の旅館とかの写真で見たことはあったが、本物なんて見たことのなかった能面だ。こんなものまであるとは。もう転生者、転移者は疑うまでもなくいたな。いや、いたっていう話は聞いていたけど。
さて、これで決定だな。男の能面なのだが気味が悪いので、もう顔に着装しておく。うぉ、なんかひっつかれてる気がする。
一応、着装していることは確認しておいた。いや、こんなことしてる場合ではない! 急がなければ!
ちゃんとローブを着ていることも、姿が人種であることも確認してから、
「ムルサさん! 行きましょう!」
あれ? なんか返事がこない。
どうしたんだ?
「なんでお前だけ行くんだよ! 俺だって行かせろ!」
「駄目だ。ここまで簡単にルナを誘拐できるほどの手練れだ。下手をすれば死んでしまう。お前も行って死んでしまっては、ミーヤさんに失礼だ。それじゃあ駄目なんだ。それなら自分だけ行く。お前は残れ」
「分かってるけど! 分かってるけどそれじゃあ……そっちの方が駄目だろ。相棒として一体どれだけ練習してきたんだよ、どれだけ夢語ってきたんだよ、どれだけ!」
「ミーヤさん、マルサを頼みます。ちゃんと帰ってきますからそんなに泣かないでくださいよ」
「分かり…ました」
泣きながら言っていた。うーん、リア充だ。頑張れ、リア充。
「すいませんでした。行きましょう」
「あ、はい」
見せつけられると、ちょっと。
まあ、そういう余裕があるだけ、持ち直してきたとポジティブに考えることにしよう。
「それじゃあ、とりあえず行きましょう。早めに行かないとルナが街に行ってしまう」
「とりあえずついてきてください! あそこのダンジョンの近くには行ったことがあります!」
それは心強い。ムルサさんについていこう。
待ってろ、天才。勝ち逃げは許さん。
ちなみにグリモワールは置いていく。うるさそうだから。
さて、とりあえずギルドにきたわけなんだが、なんか俺、めっちゃ見られてるんだけど。分かるけどさ、こんな奇怪な格好してる奴はそりゃ目立つけどさ。
俺は急ぎたいので、変に絡まれるというテンプレは全力で阻止したいんだが。
あ、そうだ。あれだな。魔力を濃くしてそのまま放出したら、ビビって絡まないんじゃ。よし、そうしよう。
おし、放出したな。うぉ、なんか能面に違和感が。
「彼の冒険者登録をしていただきたい」
「あ、は、はい、登録者名は、どうなさいましょうか………?」
「どうしますか?」
「うーん、そうだ……あ、間違えた。うむ、俺の名前は………………」
ヤベェ、どうしよう。名前とかイフリートしか考えられないんだけど。でも、さっきも思ったがやっぱりちゃんと正規の方法で冒険者登録したいんだよなぁ。
というわけで、イフリートという名前とはまったく違う名前を考えたい。
んー、もういいや。うん、面倒臭いからもう風見司の、司だけ使うか。
「うん、司だ」
「ツカサ、ですか? 分かりました、その名前で登録しておきます。少しお待ちください。冒険者に必要なものを発行しますので」
ん? 何が必要なんだ?
気になったので小声で聞いてみる。
「何が必要なんですか?」
「ああ、身分を証明するためのカードみたいなものです。首にもかけられますし、だいぶ丈夫にできているので壊れたりはしないと思いますよ。もちろん無くすと再発行に時間かかりますし、お金もかかりますけど」
「俺、種族も年齢も何も言ってないんですけど……」
「そこらへんは、こちらから何も言わなければ見た目で判断されます」
「適当かよ、最悪だな」
うぅ、そして俺を見る視線が気になるんだけど。俺はどうしてこんなに見られるんだ。もうこっち見るんじゃねぇよ! がぁぁ! 恥ずかしい。こんな変な仮面つけてるから余計に恥ずかしい。
それにしても非常時に地球での名前が出てくるとは…俺も色々あるんだな。どうにもあっちの記憶はそんなに思い出したくないからな。
さっきの受付の人が戻ってきた。手にはしっかりとカードらしきものを持っている。これで俺も冒険者か。あんまり喜べないな。
「よし、それでは行くか」
「はい、分かりました」
とりあえずギルドの外に出る。そのままムルサさんについて行って、ダンジョンの入り口に行く。
ここは俺は全く何をしていいのか分からないので、ムルサさんに任せよう。
ダンジョン入り口の少し前には、受付のような場所があり、そこで入る手続きなどをするらしい。
「本当ならここに受付の人間がいるはずなんですが……」
「うむ、いないな。一体どうしたんだ?」
「人手不足ですかね? とりあえず呼びましょうか」
悪いが俺には、店員がいない→困る→店員を呼ぶ、という感じにならないんだが。行動力のある人は尊敬できると同時に恐怖が湧いてくるな。
しかもちゃんと呼んでしまうとは…怖い。怖すぎる。
「は、はいぃぃ!」
「む、貴様はさっきの…」
「あ、あなたは……」
「ダンジョンに入りたいのだが」
「あ、そうですか。登録してすぐに、とは最近の初心者さんはすごいですね」
「うむ、そういうことでいいから頼むぞ」
「そうなのですが…本当に大丈夫ですか? ギルドの職員なので初心者さんがダンジョンに入るのはあまりお勧めはできないんですけど」
「言っていることはごもっともだが……俺は急いでいる。心配は無用だ」
そう言って、魔力の放出を強める。心配してくれるのはいいが時間がないので力技で行かせてもらおう。
怯えさせてしまったようだが、別にいいか。この場所に来るのは、司としてではないからな。
「本当に行くのでしたら、団体さんと、四人組のパーティが先に入って行ったので、暴力沙汰はできればないようにお願いします」
「承知した。それでは行こうか」
「はい」
受付の人が、俺とムルサさんの冒険者名を記録したのを確認してからダンジョンの中に入っていく。
案外明るかったものの、視界はあまり良好ではない。
だが、関係ない。隠密に、かつ最速でルナがいる場所まで向かう。
待ってろ。人種の姿を解除し、龍人の姿に戻ると、そう思いながら技能を発動させた。
前回あんな事言って、しかも投稿こんなに空けたのに、諸事情により、とりあえず一話だけしか投稿できないし、しかも次は多分年明けという。いや、本当に申し訳ないです。
というわけで遅めのメリクリ、そして早めのあけおめ! 来年も宜しくお願いします!




