一話 転生した
いろいろあって投稿が遅れました。
「うわああああ!あ?へ?ええ!?落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる!」
絶叫が轟く。俺から見て上を見ると、もう10数メートルで地上に頭から真っ逆さまに落ちてしまうというところだった。横を見ると、洋風の建物がずらりと並び、町の中心と思える場所には城と思える建造物が建っていた。
うっわ、すっげ、と思った瞬間、頭に衝撃が走った。だが、想像していたより確実に軽かった。
「あえ?」
思わず変な声が出る。そういえばなんか視界が変に緑色なんだが。周りを見るとどうもちょうど木の上に落ちたおかげで草が衝撃を吸収してくれたようだ。
「ふうー、危なかったなー」
とりあえず木の上から降りようとすると、思った通りに体が動かず転げ落ちるという無様な形で落下した。なんでこんなに動きにくいんだ?とりあえず自分の姿が見たいんだがな。
再び周りを見回すと、近くに池を発見。あれならちょうどいいかな。歩いて池の手前まで行くと、水面を覗き込む。すると、そこには見慣れた風見司の顔は無く、あるのは女子のような顔立ちで腰まで伸びた赤い長髪を持つ赤眼の少年だった。
「あれ?俺、なんか目がおかしくなったのかな?どこにいった、俺の顔!?こんな顔のやつはは知らないぞ!?」
顔を思わず両手で押さえるが、その両手にも違和感を押さえる。見ると、引きこもりの時でさえ細かったのに、今度はどうだ?さらに細くなっていた。しかも、肌は無く鱗が覆っていた。爪はあるにはあるが、人間の時とは違いこちらも赤く鋭くなっていた。尻尾まではえている始末である。角もか。はっ、確認しておくのはこんなことじゃない。俺はなぜかズボンを履いていることをおかしいとも思わず、ズボンの中を覗き込む。そして慣れ親しんだ『あれ』を見つけて胸をなでおろす。よかったぁ。
……それはともかくそろそろ現実を受け入れるべきなのかもしれない。
「なんじゃ、こりゃああああっ!?」
嘘だろ?嘘だよね?なんでこんな赤基調にした体になってんだよ!?俺、引きこもりですが!?こんな派手な服は…、服は……着てたー!修学旅行の時に着ちゃったってたわー!
と言うより、ここどこだよ!?死んだよな、俺?
なのに動ける体がある。これはつまり…ネット小説とかでよくある異世界転生、なのであろうか?だとしたら、確実に世界が違う。
世界が違う…。なら、あんな思いはしなくていい、ってことだよな?
失敬!全く関係ないことを考えてしまいました!とりあえず、本当に転生したなら世界が違うわけだから生活するためにも情報が必要だ。空中で見た、あの町を目指していざ、出発!
と思って、町の方向に向けて歩き出した直後、あるものを発見した。フードの付いたマントだ。
「そういえばこの世界の基準がよく分かんないからな。もしかしたら、こういう姿は目立つかもしれないしな。ありがたくもらっておこう」
拾ったマントを羽織ると、フードを被る。これで少しは目立ちにくくなっただろう。まあ、襲われることなんてあるわけないがな。ん?これはもしや、フラグでは?俺、フラグ立てちまったよ!よし、へし折ってくよ!フラグ!
というわけで、町の前まで来たのだが門までデカイなー。てか、門番いたわ。でも全然気づかれてないわ。マント、あざーす!後で、マント脱げるぐらい事態が落ち着いたら地面に置いて感謝の土下座しよう。
「んで、最初に何をするかと言えば通貨と世界観か。これが分かんなかったら話にならねえよな」
さてと、調べるか。とりあえず行き交う人を観察する。人間は全然いるな。他には亜人が何種類かいるのか。さらに魔法もあるみたいだな。上に魔法らしきものとホウキを使って浮いている人がいるんだが。建物は洋風、ってことは中世的な感じか。どうも、普通に会話ができる、理解はできる。というのに文字は何一つ分からない。どういうことなんだろうか?まあ、今は気にしてもいられないか。
通貨は、っと。屋台の近くに行って耳を傾けると、
「このルプは今日仕入れたばかりで新鮮だよ!一つ、5ルニー!さあ、買ったもん勝ちだよー!」
どうやら、ルニーという単位のようだ。そして、近づいた屋台はどうやら八百屋らしい。店員が持っているのはリンゴのようなものだがヘタの部分が紫色だった。面白いもんだ。
路地裏などもあった。たむろしている人間もいるようだ。俺は金なんて今は持ってないからな。どうにかして金とかをゲットする必要があんな。
そう思っていると、
「なあ、そこの兄ちゃん。ちょっとこっち来いや」
「ん?俺のことか?」
「他に…誰かいる?」
不意に呼びかけられたので、戸惑ったが路地裏から呼ばれたようだ。
「えーと、何の用だ…ですか?」
「はっはっは、タメ口で構わん。それより兄ちゃん、もしやここに来たのは最近か?んん?」
「あっ、はあ」
どうも声をかけたのは、この中年オヤジに見える男性と、その近くにいる少女のようだ。
少女の方は俺と同じくフードで顔を、というより体全体を隠しているので表情は分からない。
それに対して男性の方はヒゲが生えていて言っちゃえば、おっさんである。もうこれからはおっさんと呼ぼう。
「おい、ちょっとこっちゃ来いや。色々教えてやるよ」
「あ、ありがとうございます」
素直にありがたい話だ。これで少しはこの世界について知ることができるだろう。俺もおっさんのいる路地裏まで向かう、といきなりおっさんが言ってきた。
「おーし、じゃあここで生きていく中でとても、そりゃあとても重要なことを教えてやろう」
「なんですか?」
「それはな…」
そこで一度、言葉を区切り、続けた。
「誰も信用しないことだ。そうすればお前がこれから死ぬこともなかった」
「はっ?」
問おうとすると、馬車のようなものが通り路地裏を大通りからは見えないようになった。瞬間、左腕の肘から下の感覚が消え失せた。不思議に思って左腕を見ると、感覚が無くなった肘から下の部分が切断面をくっきり残して消えた。
「へあ?ああ、うあああああっ!」
骨と血管、筋肉を完全に残していた切断面から血が噴水のごとく勢いよく噴き出た。
圧倒的なまでの痛み。元の世界で刺された時とはわけが違う痛みだった。一瞬痛みを感じさせなかった。刺された時にはジワジワくる痛みだったのに対して、鋭く突き刺さるような痛みだった。
なんて感心してる場合じゃないか。つまるところ、こいつら二人組は俺の命を狙っているわけだ。俺を殺した時に何があるのかは分からないが、死にたくない。それだけは確かだ。
ヤバいヤバいヤバい!逃げる?でも痛みのせいで全く体が言うことを聞かない。死ぬ?1日に2回も?それは遠慮したいな。
そう思った矢先、心臓に何かが突き刺さった。無言で見ると、ナイフが正確に心臓の真下に刺さっていた。おっさんが投擲したのだろう。その反動でマントごとフードが取れる。見えた俺の顔を見て、おっさんが感嘆の声を上げる。
「ハハッ!やっぱり!でも、念のために鑑定してくれ」
「了解……技能『鑑定士』発動。…………………鑑定完了。『構成成分、50パーセント『人間』…残りの50パーセント『龍』。この個体は序列、最下位の種族『龍人』であると考えられます』」
途中から機械のような音声が流れたが、つまり俺は超弱い種族だと?えっ、てか俺龍人だったのか。なるほど、鱗に尻尾、角と。こりゃ確かに龍人だな。いやいや、そこ気にしてる場合じゃ今はないな!
「やっぱり龍人だったか!なんやかんやで30年ぶりだっけか?絶対捕獲すんぞ、相棒」
「…了解」
まったく何を言っているのやら。でも、これってさらに団結深まったんだよね?俺、さらにヤバくなったのでは?
え、そうじゃん。俺、死ぬじゃん。
その時、言葉がよぎった。
『お兄ちゃん…行ってらっしゃい』
妹が、修学旅行に行く前に行ってくれた言葉だった。思い出した。自分が転生する前に思ったことを思い出した。『ただいま』だ。ただいまと言う。そうだ、死ねないんだったな。
立ち上がった。おっさんたちが驚く中、俺は笑った。
「何を笑っているのか知らないが、あんた、これから俺らに殺されるんだぞ?」
「いやぁー、今まで大事なこと忘れてたのがおかしくなっただけだ。面白かった面白かった」
「ウザイから早く殺…そう」
俺、何でこんなにスラスラ言葉でてんだろう?生存率上がるわけでもないのに。
「そうだな」
「分かんないよぉ?生きて逃げられるかもね」
「へらず口…いらない」
その通り。だけど、
「ああ、そうだな。でも、あるやつと約束したんだよ。家に帰るってな。だから帰んなきゃいけないんだよ。だからさ。悪いが死ねないね」
そう言った瞬間、激痛に襲われていた左腕の痛みが消え、ほのかな熱が生まれた。何が起きた?手を見てみれば、そこには"あった"。切断されたはずの俺の左腕の肘から下の部分が。
「ありえねぇ!嘘だ、完璧に切断したはずだぜ!?なぜ部位が戻っている!?」
「知らねぇよ。それよりさ、本当に俺、殺すの?」
「うる…さい!静かに…しろ!」
自分でもなんで治ったのか分からないが、これは使えそうだな。
「無理だね、黙らせたいなら早く殺せばいいだろ?」
「ああ、いいだろう。要望通り…ぶっ殺してやるよ。技能『リミットオフ』発動。これを発動したら、悪いが理性が飛ぶから手加減はできねぇぞ?」
「しなくていいさ」
そう言った途端、おっさんが消えた。どこにいるかは問題じゃない。さっき傷が治ったのが、偶然じゃないなら俺にはあいつらが言ってた『技能』が備わっている、はずだ。それを信じろ。死んだら、その時考えればいい。首元で声がした。
「減らず口叩いた割に反応もできないんだな。アシストが必要ないくらいだぞ?だが、死ね」
時が止まった気がした。これが走馬灯かな?1日に2回も死にそうで、しかも少年漫画みたいなシーンも2回か。これはすごい厄日だな。俺は首を切られることを覚悟した。あっ、死んだわ、と。
話は変わるが俺が引きこもり出したのは中学1年のときだ。そして引きこもってゲームをする際、たまに意識が飛ぶことがある。本当に何も覚えていないのだ。
その「たまに」というのはHPの概念があるゲームで、HPがレッドゾーン、または即死攻撃を受けた時の危険域に達した時だ。そのすべての状態で先のようなことを思う。あっ、死んだわ、と。そう思った瞬間、めまいがして意識が薄れる。
そして気づけば、ダメージを与えた敵が、どんなにHPが少なかろうと敵との戦闘が完全に勝利を収めて終了しているのだ。記憶が一切ないのだが、そうなると、気がついたすぐ後にドアの外からキーボードを叩く音がうるさい、と言われる。
俺は俗に言う二重人格だと推測していた。そして、何かしらの条件を満たすと違う人格が表に出てくる。そんな感じだと思っている。どうしても条件を意図的に満たすことはできなかったが、意識が薄れる直前に二重人格だと自覚してから、もう一つの人格が出てきた時に一つ、条件を満たしたと理解することができる"音"がある。
カチッ、だ。このスイッチが入ったような音が鳴った時、二重人格が発動したと思えるのだ。
確かに首を切断された時に、鳴った。カチッ、っと。つまり、発動したのだ。二重人格が。
確かにとった。あの小僧、あんな偉そうなこと言ってたくせに本当になにもできなかったな。だが、これも仕事だ。情けは無用。俺の刀は確実に小僧の首を掻っ切った。落ちた首を回収しようと首の方を見ると、回転している頭部はあった。が、流れるような長髪の赤髪の端を何かが掴んでいた。
「なんだ?あれは」
何か、を辿ると奴の腕だった。頭部を首に繋げる。さらに首を回してから、
「やれやれ、この世界では『自己再生』があるから、私の出番はないと思ったんだけど。つくづく、君は不運なことに巻き込まれやすいんだね」
「何を言っている?というより、お前はちゃんと俺が首を掻っ切ったはずだが?」
「マスター…こいつ急にヤバくなった。これは逃げ…た方がいいかもしれない」
確かにその通りだ。消えた、気が。龍の血を受け継いでいるがため、嫌が応にも気配が消せないはずの龍人の気配が、気が消えたのだ。まずありえない。しかも、完璧に。
「申し訳ないが、お名前と種族の2つ、念のために教えていただきたい」
「ま、マスター!?」
「さっきとは格が違う。ありえないほど気が静か、もはや一切感じられない。はっきり言って実力に天と地との差がある。勝てる確証がない」
「そ…それなら、なんで!?」
「それでも強い奴と会ったら戦いのが、冒険者なんでな」
「ほう、貴様のような下種でもその程度の心構えはあるのだな。私は序列1位、神だ。名前は特にない」
なるほど、気が全く感じられないのは俺ら人間には感知が不可能なほど高密度の気、ということか。
「なるほど、申し訳ありませんが、見逃していただけないでしょうか?」
「貴様、我が眷属を傷付けておいて、そのような甘い考えが通ると思うのか?」
「おっしゃる通りで」
そして、一度下を向いてから神と名乗る小僧が言った。
「私は今、すこぶる機嫌が悪い。故に…許すことはできない。できるだけ、苦しみを味わえ。そして、眷属を傷つけた罪…」
殺意が瞬間的に増幅し、姿が消えた。
「償ってもらおうか」
俺はその言葉を聞いた時、死を連想した。