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十七話 そして動きだす

なんやかんやで一番の量書きましたね。長いです、ご了承ください。

 そしてすごく今更ですが、一章は最後の方に戦闘があるだけで大体ほのぼので突き通す予定です。

 催促は受け付けます。ただし終章を早めるかは作者にも分かりません。

使いこなせるか、か。はっきり言って分からない。今までは機能など知らずに羽織っていただけだが、機能が分かってからはそうはいかないだろう。魔力を自動でどんどん吸われることに関しては『自己再生』の能力でどうにかなるだろう。確か魔力は体力に統合されているはずだ。ステータスも再生可能なはずだから特に意味はなかった、と。多分、魔力を異様なまでに吸われるのならばさすがに気づいただろうが。ラノベとかで魔力酔いとかあるから、きっとこの世界にもあるだろう。

 ……なんていうか、俺に優しい機能が満載だね。魔力は別に誰にでも使えるとしても、龍人である俺は街に行く方法を見つけても、種族的な理由で色々と言われるだろう。そんな時にローブの機能で種族が違うように見えれば、そういうことを言われることもない。『自己再生』で魔力を吸収されてもすぐにどうにかできる。


「ん? なんか書いてあるんだが」

「なんか書いてあるんですか? てか全然見えない。どんだけ目良いんですか」

「まあ、そこらへんは鍛冶士だから、としか言えないがな。なんていうか書いてある場所が慣れで分かるんだ」

「スゲェな、それは。そんでなんて書いてあるんですか?」

「えぇと少し待て。

 『この魔道具は龍人に限り使える。また魔力の吸収も能力のある者以外には苦痛である。使う者をしっかりと選べ』

 だとさ。なんだ、この魔道具を作った奴は相当龍人にご執着らしい。よかったな、イフリート、だったか。この魔道具は龍人にしか使えない。使いこなせるか、なんて野暮な質問はできないわけだ。おめでとう、かな? ここまで完成度の高い魔道具をタダで手に入れることができたんだからな」


なぜか悔しげにそう言って俺にローブを渡してくる。どうしてそんな目で見られなきゃならんのだ。

 だがまあ、初めてだな。龍人だってことをここまでありがたく感じたことは。いやー、ローブ作った人に感謝ですぜ。なんだろう、確か龍人が殲滅作戦の対象になったのが30年前のはずだ。その30年前までに龍人と関わり、かつ龍人にご執心の人。ローブ羽織って街に出たら、もしかしたら会えるかもしれないな。今度倉庫で調べてみるか。今、いるとは限らないが。

 少し下から振動が伝わった。なんだと見てみると、俺の考えが分かったのか知らないが、グリモワールが震えていた。なんだろうか、『いや、我いるでしょ?』と言わんばかりの空気だ。

 はっはっは、やはりこいつは俺をイラつかせる天才だ。ちょっと遊んでみるか。


「すいません、この本も見てくれませんかね。さっき倉庫で見つけたんですけど」

「ああ、なんだ、そのぼろっちい本は。こんなもん倉庫に置いてあったか、おい村長」

「いや、なかったはずだが。マルサかムルサが街で興味本位で買ったものを倉庫に放り込んだのかもしれない。仕方ない、あとで注意しておくか」

「あっ、多分そうじゃないと思いますけどね」

「その根拠は?」

「えぇ、と、ですね」


まずいぞ、このままグリモワールの情報を言ってしまうのはまずい。多分、確実に。

 この人は空気で分かる、職人だ。その職人に得体の知れないものを渡すのは徹夜だのなんだのをしてでも、解明するはずだ。こいつがどうなろうとはっきり言ってどうでもいいが、俺とグリモワールの約束が違えてしまう。こいつをこき使うことができないではないか。

 ここは仕方ない。そう、仕方ない。ジョークでどうにかするしかないな。


「なんと言いますか、本から声がした気がしまして、はっは」

「…………ぶは! ぶっはははははははは! おい、村長、こいつ本当におかしいぞ、おい! ああ、面白い面白い。よし、お前気に入った!」

「へっ? ちょっとどうしたんですか? 俺、なんか変なこと言いました?」

「ああ、変なこと言いまくりだボケが。なんだお前、本から声がした気がするとか、面白すぎるだろうが! ああ、大いに笑った」


なんだろう、俺の中のこの人のキャラがぶっ壊れていく。音を立てて崩壊して行っている。頑張って持ち直すんだよ、人間最初が肝心なんだよ。まだ俺の中では持ち直せるから頑張ってくれ!

 俺は何をここまで真剣になっているんだ。この人とは初対面なのに。


「あのぉー、ちょっと落ち着きたいので本と話してきてもいいですか?」

「おお、行ってこいや!」


何でこんなにノリノリなんだよ、この人。

 まあ、それは今の所は大丈夫だろう、放置しておいても。

 グリモワールを顔に近づけ、小声で聞いてみる。


「おい、お前のことは行っても大丈夫なのか? 魔道具でさえ、あそこまで言われるんだ。お前みたいな魔道神具なら何かしらあると思うんだけど、俺の予想は違うか?」

『いいや、合っている。騒ぎまくるだろうさ。我はこの地上では希少中の希少だからな』

「お前に顔があれば絶対にドヤ顔してるんだろうな。殺すぞ、おい?」

『いやー、そんなことするわけないじゃないですかー! 待ってくださいよ、おやびん!』

「誰がおやびんだ、あ”ぁ”?」


こいつ、やっぱり売った方がいいかもしれないな。まあ、少し聞きたいことあるから待ってもらうけどな。聞くのは男勝りさんだけど。


「ああー、終わりました」

「落ち着いたか?」

「ああ、はい。色々と落ち着いた結果、ずっと疑問に思っていたことを聞きたいのですが、いいですかね?」

「おお、なんでも聞け聞け! お前は気に入ったからな!」

「えーと、今のはスルーします。それでですね、魔道具ってなんですか?」


端的に述べよう。すっごく『何こいつバカじゃないの?』みたいな目で見られてしまった。

 仕方ないて。俺、この世界じゃ赤ちゃん当然だぜ! いや体は生前と変わらないぐらいの大きさだけども。あっ、あれだよ。体は中三、知識は一歳、か二歳児! その名もm……ゴフッ!

 何か、強大な何かに意識を吹き飛ばされかけた。まあ、大丈夫だったけどね!


「ああ、お前、本当に転生者らしいな。だが普通の転生者ならもっと貪欲に世界の知識を欲しがるものなんだがな。まあ、人はそれぞれだよな。よし、魔道具について話そうか。魔道具ってのは使い手の魔力を流すことで機能が使える道具、もしくは魔力を用いて作った物のことだ。今回の場合は前者だな」

「なるほど。分かりました。それじゃあこれはとりあえずもらっておきます。それではまた」

「あっ! 少しお待ちください、ミーヤさんにイフリートさんの髪を結ぶための紐を作ってくれと言われておりまして。もう少しで完成なのでもう少し待っていてくれませんか?」

「あの人、別に大丈夫って言ってあったのに。お節介だね、自分のことでいっぱいいっぱいだろうに」


なんてことしてくれてんだ、ミーヤさんは。あとで色々と言っておこうっと。

 まあ、そういうことがあって紐が完成するまで待ってから鍛冶屋から出てきた俺。

 ここで質問です。いやふざけてるわけじゃないんですよ? 素朴に気になっただけです。ムーヤどこいったん? そういえば途中から声も聞いていない。どのタイミングでいなくなったよ? ミーヤさんに一言物申すついでに探しておこう。いや、ついでとか言ったら怒鳴られるか。

 それにしてもムーヤに友達を、しかも同年代の友達を作らせるのは大変じゃなさそうだなぁ。そういえばムーヤ以外にあんな年の子、見たことないな。ちょっとそれも探してみるか。

 ムーヤと最初にあったあの場所に行ってみたら他にもいるだろうか。興味本位だが行ってみよう。ローブを羽織り、紐で長い髪を後ろにまとめる。グリモワールを脇に収めて歩き出した。



 やってきましたぁ、地ーー獄ぅ!

 俺からしてみれば、あそこは地獄でしかないよ。怖すぎて笑うほどに。いや、笑えないが。人間、極限まで追い詰められるとおかしくなるのが普通なんだよ。違うの? なんで笑うのかの方が分からない。


「あらぁ? イフリート様じゃないですか。どうしてここに?」

「いやぁ、ちょっとミーヤさんに頼まれましてね、ムーヤの友達を作ろうっていう」

「それは大変そう。頑張って下さい」

「了解です。それでムーヤと同年代の子供ってどこにいます?」

「ここが一階だとすると二階ですね。階段はすぐそこです」


おお、親切にありがとうございます。

 指をさされた方へ進むと、階段が言われた通りにあった。

 階段を上ってみると分かった。そう、『スワッ! 新手か!』みたいな感じで。悪寒がすごい。年下の群がる感覚だ。まずいまずいまずい、膝が笑ってきやがった。

 上りきった。そして気絶しそうになるんだけど。多すぎる。怖すぎる。

 見ろ! やつらの目を! すべての二つの目が俺に密集してくる。もう気絶していい?

 うーん、同性の方が仲良くなりやすいのかな? まあ、俺は仲良いやつとか誰一人としていなかったから分かんないんだけどさ。

 と考えていると、大人がやってきた。階に一人は大人がいるわけか。むっ、女の人だ。なんだろう、ママさんが交代制で面倒見てんのかな。


「どうなさったんですか、龍人様?」

「いやー、ちょっと探し物をしていたらここまで来てしまって。………………嘘です、ゴメンなさい、ムーヤと仲良くなってくれそうな子を探してました。ただ何をすればいいのか分からなかったので立ちすくんでおりました。以上です」

「なるほど、ムーヤというとあのもう魔法が使える子ですか。ミーヤも少しは考えますね。龍人様なら誰にでも会えますし」


そんな深い理由だったらよかったんだけど、多分違うんだろうな。予想だが、ムーヤと仲良くしてるように見えたから、だと思う。あっ、こいつならムーヤのために動けるんじゃないかと考えたからだろう。

 違ってたら恥ずかしいな。でも、大方合ってるだろう。

 まあ、そういうわけでここに来たわけなんだがはっきり言って、どうすればいいんだ? 俺、友達の作り方もリア充のなり方も知らないぞ? いや、後半はどうでもいいが。まあ、小学校ではぼっち、中学校は登校拒否、引きこもりがそんなの知っているわけがないんだよなぁ。

 仕方ない、ムーヤもいるかと頭の端で思ったので一応探してみたがいるわけないか。ここの居心地が悪くてこの前俺のところに来たわけだし。帰ろう。広場にでも戻ってグリモワールとでも会話しながら腕立てでもしよう。身体能力が上がらないとは限らないしな。というかなぜ俺は、ムーヤに助けを求めたのか。まずい、末期症状か?

 そう思ってそそくさと立ち去ろうとしたら、ローブの端を引っ張られた。おい待て、完璧に嫌な予感しかしないぞ。あっ、これ死にますわ。みなさん、お気をつけて、俺はこれより死地に行かねばならないらしい。


「ど、どどどどどどどどうかいたしましたでしょうか?」


オン待て、めっちゃどもってるぞ、俺。落ち着け、落ち着いて死にいけ! 死に急げ!

 いや、日本語がおかしい。この世界だと日本語がどんな音なのかは知らないけど。てか、俺が今どんな発音の音を出してこの世界の人と通じ合っているのか分からないんだが。まあいい、俺の中の日本語がおかしい。


「あ、あの! 遊んでくださ…い」

「へっ? 遊び?」


今ここで分かった。俺は死ぬようだ。

 二度目になりますがみなさん、お気をつけて、俺はどうやらやっぱりこれから死地に行かないといけないらしい。さようならー、さようならー!




はい、帰ってきましたぜ。えっ、どこからって? やだなー、子供、いや地獄の小鬼の集まる死地からに決まってるじゃないですかぁー。割と粘られて結局、日が沈むまで遊ばされた。とにかく膝が笑って仕方ない。ガックガクだ。『自己再生』でどうにかなるもんじゃないようだ。ただでさえ痛みは消えないくせに。

 あっ、やべ。グリモワールのこと忘れてたわ。


「おーい、大丈夫か? グリさん?」

『小童共に異様に触られて死にそうになった。どうして我がこんな目に遭わなければならない』

「俺の役に立ちたいのならそれくらいは頑張れ。俺だって子供は嫌いなんだ。これがあれだ、ご近所付き合いというやつだ」

『ふんっ! よく分からないものだ! だがまあ付き合ってやらんでもない』


なんなの、こいつ。どうしてこんなに上から目線なの? なんなの、馬鹿なの死ぬの?

 まあ、黙って付き合ってくれたから少しは扱いを上げてやろう。


「よし、今日は水責めの刑だ! 喜べ、今日のご褒美だ!」

『どうしてそこまでお前はキャラが壊れるんだ!? 頼む教えてくれ!』

「黙って水に浸かれや! 役立たずの穀潰しがぁ!」

『役立たずは否定できないけど我、本だよ!? 穀潰しもクソないではございませんかぁ!?』

「静かにしろ、潰すぞおい」


理不尽だって? 知らんな。

 俺はいつだって奴に厳しいのだ。あれだけでは足りないほどだ。なんだろう、油にでもつけておいて後でムーヤに火をつけてもらおうかな。きっと前よりもよく燃えるはずだ。本はよく燃える!

 キャラが壊れる件に関しても、自覚特になしなんだけど。俺、今まで隠していただけで、もっと発言力があれば、『死ねぇ、リア充ごときがぁ!』とか言ってたぞ絶対。ただ単に俺が小心者なだけだ。

 というか、今日はどこで寝ようか。今日もミーヤさん家かな。あそこにはお世話になりっぱなしだな。ん?なんか忘れてた気がする。思い出せ思い出せ、なんか重要なことを忘れてるぞ、俺。なんだろう、ルナが言って気がする。

 ………………………はっ! そうだ、ルナが言っていたじゃないか、風呂について! つまりはここに風呂があるということだ!

 どうしよう、入ってみようかな。あの数の村の人がいてこんなに家があったのにも関わらず、風呂のある建物は見当たらなかった。マーヤさんの服屋しかり、ミーヤさん家しかり。あとはー、なんか色々だ。まずい、興奮してきた。俺が何を言いたいかというと! すなわちこの村では風呂が一まとまりでクッソでっかい銭湯みたいな感じなんじゃないのか!? ということだ!

 えっ? どうして興奮してるのかって?

 バッキャロイ! 俺の自己紹介は何度言えばいい! ぼっち引きこもりの中学三年生っだ! というわけで銭湯なんて行ったことなぞなかったわけであります! 語尾までもおかしくなりつつあるがそういうわけで、興奮しないわけにはいかないのです。いやー、アニメとかで見た限りじゃデッケェ風呂があってー、お湯の出る蛇口とかもめっちゃ並んでてー、壁には富士山の絵があってー、ていうあれだろ?

 テンションが上がらないわけないだろうが! まあそういうわけなんでグリモワールを水責めにするにもちょうどいいし、ちょっくら入ってきますか。

 空を見る。日が沈みかけていた。ガキンチョとの遊びで思っていたよりも相当遅くなったな。遊べ遊べってせがまれて挙句、泣きながら縋りつかれた時にゃ『ああ、ここが俺の死に場所か』と本当に思ったぞ。

 ん?なんか騒がしいな。さっきまでここ周辺には俺しかいなかったはずなんだけどな。おい待て、しかも大人数だぞ。


「おい、グリさん。この足音はどういうことなんでしょうか?」

『あのさ、本当にキャラ変わりすぎだろお前。というか、言っておるだろうが。我は知識神の知っていること以外は知らない。こんな村のことなど興味も示さんだろうな。しかも今、知識神は何者かに乗っ取られている。そんなことを知る余裕もないだろう』

「チッ、本当に使えんやつだ。後で風呂に沈めてやろう」

『ねえ、なんでそんなキャラを変えられるの? 何、もうバカじゃないの!?』


うるせー、こいつどんなに騒いでも水責めをやめてやらんぞ。覚悟していろ。必ず息の根? を止めてやる。こいつ、息してんのかな? 魔道神具というくらいだから、何か神秘的な力が働いて動いている、ということを否定できないのだ。俺は神秘もクソもないのに。世の中理不尽だ(なお、この間『自己再生』については忘れていた模様)。

 もちろんのように多数の足音については一切の情報を得られなかった。確実に近づいてくる足音を聞きながらどうすべきかを考える。

 もちろんのことながら即座に考えをまとめることなどできるはずもなく、足音はすぐそこまで近づいてきた。絶対俺に何かしら要があるんだよな?そうなんだよな? 俺、何かいたしましたでしょうか?

 いや、していない。断じてしていない!

 と、いうわけで逃げます。まさか戦闘以外で逃走のために技能を使う羽目になるとは思わなかった。まあ、よかろう。確かまだ今日は『身体強化』は使っていなかったはずだ。5分もあれば逃げ切るには十分すぎるだろう。もう一度言おう。逃げまっす!

 よし、『身体強化』発動! 逃げるか。

 と思っていたら、またもやローブを掴まれたのか、体が動かなくなった。

 おい、待て。この状況、何かデジャヴなんですけど!? 俺はこの状況を今日既に一度体験している気がするんですけど!? しかも体験したのがついさっきなんですけど!?

 よし、結論を言おう。俺、多分死ぬわ。いや、恐怖による、なんて名前の死因だろう。適当に恐怖死にでもしておこう。まあ、その恐怖死で死にますわ。もう既に死にかけのこの体にとどめを刺しに来やがった。ただでさえ子供と遊んでおでの体はボドボドだってのによぉ!

 ゆっくりと後ろを振り返る。すると、なんということでしょー。後ろに俺の苦手で苦手で死んでしまいそうなくらい苦手な子供が、年下がいるではございませんかー。匠(神)もクッソみたいな計らいをしてくれるではありませんか。よし、相対でもしたら絶対殺す、神種。序列1位が何じゃー! 人間舐めるんじゃねー!

 うん、ゴメンなさい。現実逃避が過ぎました。ただ本当に俺が子供が、年下が苦手であることを覚えておいて欲しいんです。そういうわけで死んできます。


「どうしてここに?」

「帰ってる最中だったんですよ、龍人様。うちの娘がすいません、遊んでいただいて」


後ろを振り向くと、あの施設にいた子供の一人と、その母親と思わしき女性が立っていた。しっかりと娘さんを教育しておいてください。あなたの娘さんの何気ないその行動が俺を殺すんです。こう言っちゃなんですが娘さんの手綱はしっかりと握っていてください。

 さらにその後ろに先ほど遊べとせがんできて、この時間帯まで遊ばされたガキンチョ一同とその親。

 いや、それはいいんだ。そんなことよりも、そんなことよりもぉ!


「いや、大丈夫ですのでこの子を離していただいても?」

「あっ、分かりました。ほら、龍人様が困ってるでしょ?離しなさい」

「……………はい」

「それではそろそろ帰ります。ほら、お礼言いなさい!」

「……遊んでくれて、ありがとう…ございます」

「おう、いいから早くその手を離してくれ。頼む」


そのあと、なんか色々あった、とだけ言っておこう。大して覚えてないんだよ、仕方ないだろうが。何度も言うけど子供は苦手なんです。

 まあ、とにかく時間は相当潰れました。完全に日が落ちている。どうしてこうなった。俺は風呂に入りたいだけだ。銭湯みたいな風呂に、入りたいんだけなんだ。

 確かに一直線に施設から村へ来たんだから、道が同じになるのは普通なんだけどさ。まさか帰る直前まで遊ばされているとは思わなかった。あいつら、侮れんな。

 そう思いながら、俺は先ほどまで立ちすくんでいた足を動かして、村へと向かった。




 そういうわけで、いや何がそういうわけでなのかは置いておいて。

 あの後、村に着いてから村長にあった。どういうわけか俺の帰りを待っていたらしい。出会った瞬間に俺にレベルについての話をしてきたよ。忘れかけていたのに何で思い出させるんだよ。

 まあ、わずかに悪態をついたが、ちょうど良かったとばかりに風呂についての情報を逆に聞き出してやった。どうやらわざわざ一軒ずつに水路を引いてたりしているとメンドクセェらしいので、お前らでっかい風呂作ってやるからそこに仲良く入れ、という感じででっかい風呂ができたらしい。なぜか今は入らないほうがいいと言われたが、風呂に入れるならいつでもどんと来い状態なので別にいい。でも、どうして止められたのかは気になるので、今度気が向いたら聞いてみようと思った。

 まあ、聞けたのはそんなところだ。途中でどうでもいい話が出てきたのはご愛嬌ということで。

 風呂に入っていい時になったら村長が呼んでくれるそうなので、それまではグリモワールとでも情報の(一方的な)交換でもするか。


「おい、そういうわけなのでなんか話せ」

『何がそういうわけでなの!? 我、何も聞いていないぞ!?』

「チッ、ウルセェな。水責めじゃなくて火責めにするぞ。いやなら何か情報を言え」

『分かった。何がいい?』

「それを決めるのはお前だよ、何で俺がそんなことしないといけないんだ、バカなの死ぬの? いや、死ねよ。できる限り苦しんで死ねよ」

『ああ、もうツッコまんぞ。じゃあ、何を話すか………………」

「早くしろよ、圧殺するぞ」

『少し黙ってろ、これでもしっかりと考えている』

「分かった、あと5秒待つ。それまでに話し始めなかったら絶対に圧殺する」

『お前、どうしてそこまで鬼畜なの!?』

「はーい、あと4秒……………3秒……………2秒……………1秒…………」


もう0秒になるだろう。だが、そんなことよりも視線がある。

 明らかにやばいやつの視線がする。これ、前に感じたのよりも明らかにやばいやつだ。逃げようかな、そそくさと。なっ、かっこ悪い、だと!? おまっ! バカ、お前らどこぞの竜のクエストじゃ命令は『ガンガン行こうぜ』だろ! いや、むしろ『ガンガン逝こうぜ』だろ! 俺は『いのちだいじに』じゃ、ボケェ! 命あったらなんでもできるだろうが、そこら辺ちゃんと考えようぜ!?

 と、いうわけで逃げます。逃げて逃げて、この視線が切れるまで逃げます。

 『血への渇望』発動準備完了。それでは…イフリート、行っきまーす!


『おい、どこかに行く気か? 特に何も感じないが』

「チッ、うるせぇな。色々とあるんだよ。とりあえず視線が切れるまで一直線に進むぞ。舌…あんのか? まあ、いいや。噛むなよ?」

『よく状況を把握できんが、分かった。ちなみに我に舌はな……い!?』


何かドヤ顔で言ってくる姿を想像してしまったので、振り切るために『血への渇望』を発動させ、村まで走った。

 建物の立ち並ぶ村の中をできる限り速く、できる限り視線が切りやすいように足を運ぶ。もう1分は走っている。にも関わらず、まだ嫌な感じのする視線は消えない。さっき後ろを振り向いたが俺を追う人影は見えない。クッソ、広場まで追いかけてきたら魔術ぶっ放してやる。

 ……いやいや、どうして俺はそんなに危ない思考に今走った? ダメだろ、この前みたいに範囲攻撃系の魔術は村にまで被害が出る。絶対ダメだ。何かうざったい視線を浴びせられ続けて、思考が変になってるな。てか、どうして俺は広場に行こうとしていた?

 爺さんが風呂が空いたらいいに来てくれるんだぞ!? 村の中で待っているのが探されなくて一番いいだろうが! 今日だぞ、俺のせいなのに爺さんが自分に対して責任感じたのは!

 とにかく広場に行くのはダメだ。違うところに目的地を移せ。

 その時だ。妙に大きく『チッ』と舌打ちが聞こえた。


「!? どこだ?…………絶対に近くにいる。どこだ、どこに?」

『何してるんだ! とにかく逃げてたんじゃないのか!? 追いつかれるぞ!? おい、気配がしたぞ!?』

「いや、さっき舌打ちが聞こえた。聞き間違いじゃない、すぐそこで大きく声がしたんだ。近くに、俺以外に誰かがいる」

『バカなこと言ってんじゃねぇ! 足止めてないで走れや! お前が逃げたってことはそれだけやばいやつってことだろう!? じゃあ、逃げろよ!』

「クッソ、分かった」


あいつに言われるのなんか癪だが、行っていること自体は正論だ。うざってぇが、とてつもなくうざったいが、正論なんだ。

 逃げ切ってやるよ。行くぞ……………あれ? 視線が、なくなった? あの時のバカみたいにしつこかった視線が消えた? おいおい、今までの逃げた努力が完璧に無駄になったぞ、死ねよ。

 そんな感想を持ちながら悪態を吐き、呆然と村と広場までのだいたい中間あたりで突っ立っていることしかできなかった。





「おーい、イフリート様! もう風呂は空いてますよ! 入ってきてください」

「ああ、スンマセンでした。じゃあ入ってきます」

「そろそろ今まで入っていた団体が出てくるので、風呂までは迷わないと思いますよ」

「おお、ありがたい」


至れり尽くせりですな。爺さんには借りがありすぎるな。返せるかな、この借り。

 まあ、大丈夫だろ! それはそうと、着替えどうしよう。俺持ってないんだけど。これ、貰い物なんだけど。俺の所持品とかグリモワールとローブ以外にないんだけど。そういえば俺、汗かいてないな。てことは着替えなくていいんじゃないの? 多分だが『自己再生』のおかげで体温調節の必要がなくなり、汗をかかなくなったんじゃないか?

 そういうわけなのでこのままで風呂に入ります。えっ? グリモワール? 安心なさい、ちゃんと水に沈めるから。あっ、そういう心配じゃない? むしろ沈めるなって?

 ………………………だが断…! あ、スンマセンでした。待ちわびた風呂に入るんだ。今はそんなことはどうでもいい!



 よし、着いたぞ。風呂に。

 すげぇ、全く人がいないぞ。貸切だぞ、どこの金持ちだ、俺は。感動して、声が出ない。いやー、生きてるといいことあるもんだ。ほら、言ったろ? 命あったらなんでもできるって! ふっふっふ、俺の言うとおりになったな。満足満足。

 まあ、満足したのはそれでいいとして、やはり銭湯のイメージ通りに“男”と書かれた青い布と“女”と書かれた赤い布があった。銭湯のイメージは全世界共通だ! いや、全くの偶然ていう可能性も捨てきれないけどさ。でも、あれじゃん? 運命っていい言葉じゃん? お化けは信じない。断じて信じないが、そう言う楽しそうなのは別に信じてもいいではないか。

 服を脱いで、浴場に出る。おお、広い、すごく広い。圧巻だな。生まれて初めての銭湯だぜ! ヒャッハー!

 あ、スンマセンでした。テンションが上がり過ぎました。いやー、初めてってどうしてこうもテンションが上がるのかね? 男のサガなんだろうか? それとも人間のサガなんだろうか? いや、俺は龍人だった。よし、龍人のサガということにしておこう。きっと龍人もこの先生まれるだろう。見つけられたら教えておこう。

 と、言いつつも髪を洗えると思った時が俺にもありました。全くもって洗えないですぜ。ヘッヘッヘ。まだ頭に近いところは洗えるけど、頭から離れれば離れるほど洗いにくくなっていく。まあ、仕方ないと言えば仕方ないんだけどさ。俺、地球でもそんなに長くなかったし。いや、めんどくさかったので切るのは半年に一回くらいだったから男にしては割と長かったけどさ。背が低かったせいでバランスがおかしくなっていた。

 

「それにしても本当に誰もいないな」


シャンプー(多分)が目に入らないようにしながら、もう一度あたりを確認する。本当に誰もいない。やっぱりテンションが上がるな。

 ていうか、本当にこの長い髪をどうやって洗えばいいんだ? 俺、もうこの状態をどのくらい続ければ髪を洗い終われるの?そのあと、この長い髪を避けて体も洗わないといけないんだよ?あっ、こっちは洗わなくてもいいのか?汗出てないんだし。あっ、だめだ。戦闘で絶対土だらけになってる。さすがにこのまま家に入るわけにはいかない。今更だが、思いっきりミーヤさん家の布団を土まみれにしてしまった気がする。はっ、ムーヤも巻き添えじゃないですか、やだー!

 後で謝ろう、誠心誠意謝ろう。誤り倒そう。色々言われる隙を与えずに謝ろう。


「悪かったですね、本当にすいませんでした、ミーヤさん、ムーヤ」

「………………わっ!」

「あっ? えっ? おわっ! うぎゃおーー! 目がぁー! 目がぁー!」


誰かに押されてシャンプーが目に入ったぞ!? 痛すぎるぞ! まずい、どっかの大佐になっている! まあ、シャンプーは洗い流したが、そんなことよりもさっきの声に聞き覚えがあったぞ。というか相当近くで聞いてきた声だ。

 この声は…


「ムーヤ? どうしてここにいらっしゃるんでしょうか?」

「ん? お風呂に入るため?」


いや、そうじゃねぇよ。風呂に風呂関係以外で出向くことないでしょうが。そうじゃなくて、どうしてこのタイミングなんだ? ってことだよ。同年代と一緒に入りたくないのは分かるけど、ここまで遅くなくてもいいだろう。むしろ早すぎても困らないと思うが?

 ん? てかちょっと待てよ? 6歳の体とはいえ実年齢は4歳のはずだ。そんな幼稚園児を親だったりが野放しにするのか? いや、しないだろう。どうして一人で風呂に入ってるんだ、ムーヤは? 危なくないのか?

 後ろを振り向く。誰もいない、よな? なんだろう、一人で飛び出してきたのか?

 そう思い、前を向いて苦戦していた長髪を洗うのを再開しようとしたら、先ほど向いた後ろの方から声がした。


「待ってください、ムーヤ!」


なんだろう、こっちも聞いたことがある気がする。

 もう一度後ろを振り向く。全裸の誰かが、多分女性がいるんだけど。ちょっと待て、視線を戻せ。あれを見てはいけない。見たら俺の意識が飛ぶ気がする。しかも人が人だけに絶対に意識飛ばしちゃいけないんだけど。


「どうしてこのタイミングで風呂入ってるんですか! ミーヤさん!」

「えっ、あの、その、ちょっとありましてムーヤの機嫌が斜めに。なだめていたらここまでお風呂に入る時間が遅くなりました」

「了解しました。出ます! あ、おい、やめろ、掴むな、ムーヤ!」


クッソ、思わぬ妨害がぁ! これ以上ここにいるわけにはいかないんだ! 分かってくれ、頼む!

 あ、ダメすか。そうですか、ならば技能で逃げる! 俺はこんなところで、この人の前で意識を遠のかせるわけにはいかないんだ!


「あのぉ…まだ髪ちゃんと洗えてないと思いますけど、私洗いましょうか?」

「ありがとうございます!」


…………………状況反射です、そうなんです。怖かったからYESと言ったわけじゃないんですよ。そうだよ、そうなんですよ! そういうわけなんでまあ、洗ってもらってから逃げます。どうせムーヤに掴まれているわけでございますしね。いや、勘違いしないでくださいね? これ別にいい訳じゃないからね?

 とにかく前だけ見てろ。ミーヤさんは見るな! だめだ、それは絶対にだめだ! 本当に意識吹っ飛ぶから!

 髪を洗ってもらった。まるでやり方の分からなかったので風呂から出たら、そう風呂から出たら! やり方を教えてもらおう。

 『風呂から出たら』、ここを強調したのはちゃんと理由があります。そう! テストに出るんd……! あっ、スンマセンでした。いやー、極限状態に陥るのが多すぎるせいで逆に調子乗っちゃうんだけど。

 髪は洗い終わった。よし、体は自分でどうにか洗える。もう大丈夫だと言おう。


「あ、もう大丈夫なので。体は自分で洗えますので」

「そうですか、じゃあムーヤ髪洗いますよ」

「いやだ、いちゅ、い、いふ、イフリー、とに洗ってもらう」

「申し訳ございません拒否権はございますでしょうか!?」

「よくわかんないけどない」


よし、逃げよう。ここは危険すぎる。えっ? 体はって? 知らんな!

 もう『身体強化』使おうかな。使ってもバチは当たらないよな? いや、当たるはずがない! きっと大丈夫だ!

 というバカみたいな自信があったせいで、バカみたいに『身体強化』を発動しそうになった時に、気になった。

 どうしてムーヤがミーヤさんが洗ってくれるというのに拒否しているのかと、どうして楽できるのに拒否したんだ? というものだ。いいじゃん楽できるんだから。俺ならさっきのように一瞬でYESと言うぞ? いや、ビビってたのは否定できないけどさ。なんだろう、喧嘩でもしたんだろうか。大丈夫だろうか、今日もミーヤさん家で寝ようと思ってるんだけどあそこの空気が悪くなるのは勘弁ですよ?

 む、というかムーヤの俺の名前の発音がちゃんとしたよ。ようやくだよ、今まで……特に苦労してないや。まあ、いいや。そうだよ、俺イフリートなんだよ。誰だよ、いちゅりーととか言ったやつ。あっ、ムーヤだった。ウエッフォン! ゲッフォン! ああ、うん。気を取り直して、そうだよ、俺イフリートなんだよ。もう風見司じゃないんだよ。

 そうなんだよなぁ、俺の名前はイフリートなんだよな。うんうん、どうして風見司なんて名前を捨てきれないのかが分からないんだよ。俺はもう一度死んだだろうが、どうしてここまで生前の名前を捨てきれないのかが分からないんだよ。はあ、どうしてだ。全くもって分からない。俺なのに。

 あれ? ムーヤに掴まれているはずなのに恐怖が失せた。おお、すごいな。やはり極限状態は人を変えるんだよ。そういうわけで変わった俺を見せつけるために今までうざくてうざくて仕方なかった視線の奴らを潰そうじゃないか。だいたいの見当はついてるんだよ。裁きを受けろ。どうしてかは分からないがものすごく眠くなったので湯船に浸かりながら少し寝ることにした。



『技能『??』を技能『??』に変更しました』


技能の取得の際に聞こえる天の声が響いた。

 にも関わらず、割とゆっくりと湯船に浸かる彼ら。その中で明らかに様子のおかしいものがいるのだ。

 気配が変わった。わずかではあるものの確実に変わったのだ。言わずもがなイフリートだ。

 比喩でもなんでもなく彼の中の何かが内側から蠢き、イフリートの精神を乗っ取った。いや、その表現はおかしいのかもしれない。だが、乗っ取ったとしか言いようのないやり方なのだから仕方ない。きっかけとしては名前に対しての価値観の変化だろう。

 この世界では魂は神聖視されている。

 魂とは? そう聞かれればほとんどの人が、『命』と、そう答えるだろう。この世界では脳や心臓、内臓など、生きるための器官は全て魂として解釈されている。魂こそが我らが命を司るものなのだ! そう言われているのだ。

 そしてその我らが魂には名前があるのだ。そうステータスでは固有名として表記されている欄だ。

 あの欄に表記されている文字の並びは、つまりは魂の名前なのだ。その仕組みはイフリート、いや風見司の生きた世界、地球でも変わらない。言ってしまえばイフリートは魂に名を二つ持つのだ。

 だがしかし、イフリートに憑依した神種も言っていたではないか。現在とは、未来とは過去に依存するものなのだ。過去に何をしたのかが重要なのだ。今の一瞬で何をした、それすらも刻からしてみればすぐに追い抜かれる『行動』でしかない。そんな行動の積み重ねが今を作っているのだ。そう思えばイフリートが地球で死んだことにも過去のどこかに起こした行動がイフリートを殺したのかもしれない。

 浴場でイフリートは思った。自分の名はイフリートであると。そんな殺されたという過去を振り切るための過去の行動で彼の中のなにかが起こされたのだ。イフリートは考えた。地球での名前を『風見司』という名前を忘れれば地球に帰ることはできなくなるのではないか、と。それは少し正しい。魂に名を二つも持つのだから、負担もかかる。その状態で世界を超えるなど、常識からして無理である。

 しかしイフリートの体を使う『何か』はイフリートと同じように世界を渡ろうとは思ってないようだ。行動が違う。淡々とするべきことをこなす。浴場を出て、所持品を確認。そして顔に出さなかったとはいえ驚愕した。要因は一つだ、魔道神具。これをイフリートが、風見司が所持していた、これに限る。

 まさか今まで一度も見たことのない、まさに伝説の一品を見ることのできたのは感動モノだ。

 しかしグリモワールの『何か』への第一印象は最悪だ。自分の見つけた者を乗っ取られたのだからその反応は正しいだろう。


『貴様、イフリートではないな。一体誰だ?』

「いやー、伝説の魔道神具に出会えて感無量だ」

『誤魔化すな、イフリートをどこへやった』

「馬鹿なことを抜かす奴だ。俺はイフリートだぞ? まあ、いい。とにかくついてこい。多少ショッキングなもんを見せることになるがお前にも聞きたいことがあってな。証人は多いに越したことないからな」

『勝手に話を進めるな。我は賛同などしていないぞ』

「チッ、細かいな。うざったい、静かにしてろ」

『お前、その態度……まさか!』

「よし、行くか! おい、魔道神具静かにしろ、潰すぞ」


イフリートは目的地に向かって歩き出した。目的地があるように思えるのには理由がある。イフリートは未だに猫人の村の建物の位置などを覚えていないのだ。なのに迷いもなく歩いていく。それは村の構造を完璧に把握しているからと言わざるをえない。イフリートは自分にしか分からない目的地へ向けてゆっくりと歩いた。





 大浴場からさほど離れていない位置に建物が一軒のみある。そこは賑やかだ。明かりも付いており、大声も出ている。

 そこには小さな組織がある。そう、その名も! イフリート『ちゃん』をラ(ピー)にして愛でたいの会! である。

 かいつまんで言うならものすごく気持ち悪い奴らの集まりだ。リーダーは先ほどイフリートに男勝りな女とともに魔道具について説明した小太りなメガネくん。こちらも、言うのならキモオタくんだ。

 (ピー)という放送禁止音を入ればければいけない表現できないのだ。


「俺は今日会うことができたぞ! イフリートちゃんに!」

「「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」

「お前らも会いたいだろう!? イフリートちゃんにぃ!」

「「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」

「ならば! 魔法の腕を高めろ! 捕縛系の魔法だ! 彼女を捕獲するのだ! そして愛でるための人形にするのだぁ! さあ、努力しろ! 貴様らも彼女を愛でたいのなら!」


なんということだろう。気持ち悪すぎて吐きそうだ。

 どうやったらここまで気持ち悪くなれるのだろうか。もういっそ見事だ。確かにイフリート自身は自覚していないがイフリートの体全体は少女のようだ。少女と言えば騙される者がほとんどだろう。しかも顔も中性的なのだ。むしろ女寄りと言っていい。そして何より可憐だ。赤い長髪に本気で握れば折れてしまいそうな腕、足。さらに細い体躯。地球の者ならば一目惚れは避けられないだろう。美女、美少女、美幼女を見慣れたこの世界の住人ですらこうしてファンクラブもどきができているのだから。

 まあ、ファンクラブもどきと形容するのすらおぞましいのだが。


「うっげぇー、きっもちわる。前からだったけどどうしてこうも気持ち悪い奴らに好かれるんだかね」

『我、知らないからね。蹂躙されても』

「誰に向かって言ってやがる。俺がそんなことされるわけないだろ?」

『いや、知らんがな』


どうやら意見は本人も同じようだ。

 しかしそれを見たキモオタくんたちは何を言うか。

 もちろんのごとく言うことに予想の付いていたイフリート。自分でも悲しいらしい。顔が少し歪んでいる、ように見える。それすらも可愛く見ることのできるのか、顔を恍惚に満ち溢れさせている。心なしか鼻息も荒い。


「はあ、はあ、ハアハアハアハアハアハア! おい、お前ら見ろ。イフリートちゃんだ! 神の思し召しだ! 今すぐラ(ピー)にするんだ! 今までの努力の成果を見せつけるんだ!」

「「「「おう! 『風縛』!」」」」


不可視の檻がイフリートの周りに風で形成される。

 しかしイフリートには効かないようだ。普通に動いている。多少煩わしそうではあるが。

 この反応を見るに分かるが、イフリートの実力は格段に上がっている。龍人の耐久度では『自己再生』の恩恵によってどうにか体の形を維持できるかどうかだろう。その強度を物ともせずに普通に動けているのだから、実力は上がっているとしか言えないだろう。


「うざったい。このくらいの魔法でどうこうできるわけないだろうが。バカじゃないの死ぬの?数人がかりで発動させてこれかよ。どんだけ低レベルなんでございますか? お使いの脳みそは最新ですかぁ?」

『ああ、なるほど。こいつのせいでああいうキャラなんだな。よし……………死ね! お前のせいでイフリートの元のキャラがおかしくなってるんだよ!』

「お前も死ぬか? 殺すぞ? 何、殺されたいの? 潰すよ? 圧死させるよ?」

『よし、ちょっと面貸せや、殺してやるから!』


自覚症状なしなのだがグリモワールも、知識神に創造されている時よりもキャラが違ってきているのだ。数百年も人に会っていないせいで人肌恋しいのだ。きっとそうなのだ。そうじゃなかったらなんだというのだ。

 会話中でも気を緩めずに周囲を警戒しつつも、拘束系魔法の解除を試みる。努力がなんだと言っていたにしては魔法の詰めが甘い。腕を大きく上げると数人がかりの拘束魔法をいとも簡単に解いた。

 そして威嚇のために一つ『魔法』を発動させた。


「当てないから意識をしっかり持てよ? 『炎天龍・小』」


巨大な『炎天龍』と違い、その『魔法』は『炎天龍』に比べ手の平サイズ。言うなればイメージの足りなかった時に発動させた魔術の『炎天龍』と同じような小ささだ。それでも、その小さな龍の熱は高い。近くを通っただけで顔に汗を相当な量出すことになるだろう。

 龍に近づかれた猫人はブワーと汗を吐き出した。


「よーし、お前ら。これで少しは大人しくなっただろう。さあ、ちょっとOHANASHIしようか」


声は冷たい。さらに顔が鬼の形相だ。

 キモオタの皆さんは怖すぎて仕方ないのか、震えていた。なぜか全員体育座りで。まるで鬼教師を怒らせた時の生徒のようだ。……あながち間違っていない。


「とりあえず、だ。そこのお前」

「は、はひぃぃ!」

「二枚の布で隔てているにも関わらず主張を止めないそのいきり立った肉棒をどうにかしろ。どうにかできなかったら潰す」

「も、もももももももももも申し訳ございません!」

「分かったらあと5秒以内にどうにかしろ。はい、5……4……3……2……1……0。よし、できてないね。潰すね、いいよね? 俺言ったからね」

「あ?あ、アアアアアアアアアアァ! アアアァ!」

『おい待て、なんちゅうもん見せてくれてるんだ!? ああ、ズボンがぁ! 息子がぁ! え?あれ大丈夫?大丈夫だよね!?』

「大丈夫なわけないだろうが、バカか? 塵一つ残さないことを信条に今潰したからな」

『鬼畜ぅ! お前もう鬼じゃないよ。魔神だよ!』

「ああ、そういえば、魔神殺したことあったな。俺が綺麗だなんだと命乞いしてきたうざかったから殺した」

『えぇ………』


今現在龍人の姿とはいえ、実力者であることは確か。その圧倒的実力を持ってしても序列1位『神種』を相手にし、挙句勝利するなど冗談でも言う奴はいないだろう。そんなことを言う奴は相当な自惚れているか、もしくは序列3位『魔王種』の中でも強者、序列2位『龍種』の実力者? 龍だけだろう。

 まあ、序列2位と序列1位の実力差は相当なものなのだ。それでも言う奴など龍種の中でも自惚れている、というか『お前、大丈夫か?いや、強いのは分かってるんだけどさ?』状態だ。

 序列の差があったとしても神種に対し善戦できるのは、王都の魔王種、『強欲』の魔王くらいなものだ。序列3位までの魔王種、龍種はしっかりと分をわきまえているのだ。

 そういうわけでこのイフリートの体を使っている『何か』は序列2位までの地上に現存する種族たちでも勝つことが不可能な最強の種族を打ち破ったということだ。それも普通の神種ではなく、魔神だ。グリモワールが驚くのにも納得がいく。


「まあ、そういうわけなのでお前ら、懲りろ。懲りなければもう一度俺が出てきてお前らの肉棒全てすり潰すから。分かったな?」

「「「「「……」」」」」


どうにも答えづらい質問らしい。どう答えればいいのかと考えていたところなのだが、わざわざ待つ気が起きないのか、穏やかな顔(先ほどの鬼の形相に比べて)から一瞬で先ほどよりも、酷く怖い表情へと変貌させた。


「分かったなら返事しろって、学校の先生に習わなかったかぁ!? おら、返事ぃ!」


ノーモーションからまた一人の息子がすり潰された。

 キモオタ一同の見る目が酷く同情に満ちていた、とだけ言っておこう。

 そんなことなど無視してイフリートが続ける。


「おお? 返事がないなぁ? じゃあ、もう一本逝かしてみようか!?」

「「「「「把握いたしましたぁ!」」」」」

「よーし、じゃあこの組織今すぐ廃止! 解散!」


軽く手を叩き、その場を去った。

 この瞬間に廃止された。齢一週間だったそうな。








天界では騒がれていた。ある者が唐突に顕現したためだ。

 上位者のみが集まる天界の会議にてある天使が言った。


「この反応は明らかに奴です! 即座に殺すべきです!」


その催促のような提案を受け、他の天使が反論する。


「奴に匹敵する戦力があると? そうお思いですか? そんな戦力があるのなら魔神との戦いで消えているでしょう。

 いいですか? 奴は、魔神をも殺したのですよ? 我ら天使では足元に及ばない種族を! 地上に存在する弱者が、ですよ!?」

「言葉を慎んでくれよ。君は何が言いたいんだ? 僕らでも殺すことのできない魔神を殺せる奴なんて、神種にもいないだろうって、そう言いたいのかい? 天使ごときが調子に乗ってんじゃねぇよ、死ね」


その言葉を聞いただけで、会議に同伴した天使全てがその身を震わせた。超常の存在、神が殺意をチラつかせたのだ。それだけで地上の種族ならば死んでしまっているであろう蹂躙される恐怖が室内に充満する。

 そして先ほど反論を述べた天使が、神によってその身を消滅させられた。

 天使が消滅させられた。その事実を理解するまでにおよそ20秒の時間を要した。


「あああああっ! うわああああああ!」

「うるさいな、お前も殺すぞ? いいの? それでもいいの?」

「ひいいいいいぃ! も、申し訳ありませんでしたぁ!」

「この場所から出て行け、話が進まない」


先ほどとは違う神が会議室からの退室を促した。

 その言葉を待っていたと言わんばかりに会議室にいた天使が全て流れるように出て行った。

 それを見て、ある神が率先して立ち上がり、神種たちは話を再開した。


「さて、と。悔しくも天使どもの言ったことは正しい。奴がもう一度顕現した。あの魔神すらも殺した狂人が、先ほど顕現したのだ。覚えているだろう、あの地上で言うところの30年前の悲劇を。我らが作り上げた人の国を三日にして打ち滅ぼし、天界にまで乗り込んできてきた奴を。

 確かに我らに奴を殺しきるほどの戦力はないだろう。だが…………『あの御方』ならばどうだろう? 我らが宿敵ならばどうだろう?」


その言葉を聞いた瞬間に、全ての神種が驚きで体を硬くした。

 なんということだろう、我らなどのために『あの御方』の御手を煩わせるつもりなのか、と。神種すらもその手の中に収める最強を超えた最強の存在に。

 しかし揺れた。神種たちは揺れた。

 もしかしたら『あの御方』ならば奴を殺せるのではないか、と。

 その葛藤すらも予想していたのかのように薄く笑ったのち、言葉を続ける。


「奴がいつ、どんな手段を持ってあそこまでの力を手に入れたかは不明だ。だが、しかしそれでもやりようはあるのだ。さあ、我らの天敵を殺そうではないか。

 我らが天敵、『殲滅者』を」


そして席に座った。

 まさかの演説を聞き、神たちは立ち上がった。その高貴な容姿からは想像できないほどに闘志を燃やして。

 その反応を見て、神はニタァと口を半月のような形に変形させた。

 

(思考の誘導はできましたっと。貴方の言うとおりにすれば成功すると信じていましたが、まさかここまでチョロいとは思いませんでしたよ。

 いやはや、それにしてもどうしてこうも疑わないのでしょうか。どうして敵がいるとは思わないのでしょうか? 魔神がここにいるというのに)


そう、先導したのは神種の敵、魔神なのだ。

 予想と多少違うところはあったものの、それも予想圏内だ。

 どうして神なんて、我ら魔神よりも下等な存在に『あの御方』が御手を貸すというのだろうか。

 それが魔神の考えだ。どこまでも傲慢だ。

 そんなことなど知らずに神たちは天敵『殲滅者』をその名と逆に殲滅することのみを考えた。

 一部を除いて。


(この程度の思考誘導にも気付けないのか、やはりもう少し奴らを強化しておく必要があったか。

 しかしこれは…魔神の手腕は賞賛に値する。魔神ごときがここまで鮮やかに思考誘導を行うとは思わなかった。

 後で消滅させるにしても少しくらいは褒めてやるか)


この思考は、神の中でも高位に位置する司る神、『司神』であり、さらに『司神』の中でも高位に位置する神だ。

 名をゼウス。彼よりも高位の存在がいなければ、『全能神』となっていただろうに。現実とは非常で、ゼウスよりも高位の存在がいるせいでそこまで位の高くない『司神』に成り下がってしまっている。

 彼はそれでも能力自体は高くない。良性能の神技能も所持している。勘も鋭く、身体能力も神の中でも相当高い。

 会議は終了した。紛れ込んだ魔神を殺すために席から立ち上がり、迅速に行動を開始し…ようとしたところであることを思い出した。そういえば、と。

 そしてその続きを思わず口にした。


「会議中に何かを言っていたが、何の話をしていたのだ? 魔神の思考誘導を回避しつつ、色々と考えていたせいで話を聞いていなかったな」


…………この残念な性格だったりがなければ、もしかしたら『全能神』になれていた…のかもしれない。







そして一人が寝ぼけながらもこう言った。


「ふわぁーあ。なんとも面倒くさい役を魔神共に押し付けられたもんだ。どうして神を僕が殺さなきゃいけないんだよ。自分たちで頑張ろうよ、勝たせてはあげるんだからさ。

 いや、本当に面倒くさいな」


この軽く言った一言が、ただの一言が運命を変えた。あるバッドエンドへと、ゆっくりと運命を動かしたのだった。







ーーーーーおまけーーーーー


俺は現在湯船に浸かっている。極楽極楽というやつだ。

 不意に物音が聞こえた。おん待て、どういうことだ。今回も爺さんに頼んで人が一人もいない時に入れるようにしてもらったというのにどうして誰かが入ってくるんだ!

 そしてこの感じ、一度経験したことがある。よし、逃げよう。


「さーて、出るか…おぎゅあぁ! 待って、ストップ! 俺の髪を掴むな、痛い痛い痛い!」


やっぱりこの人、達か!

 どうしてこうタイミングよく風呂に入るんだ、彼女らは!

 予想通り入ってきたのはムーヤとミーヤさんだ。

 そして見てしまったのだ。ミーヤさんの、その、あれを、うん。

 あっ、やばい。鼻血出てきた。しかも…これは………相当勢いが良いだろう。


 ブッシャァァ!


 血で虹を描くことになった。地球でなら貧血になって気を失っているだろうが、『自己再生』で血は使った端から復活する。俺はどんな状態であろうと死なんぞ。

 だが、俺のことはどうでもいいとして、ミーヤさんとムーヤの見る目がえぐい。仕方ない、言い訳するか。



「申し訳ないです、ちょっと風呂に入りすぎて湯あたりしたらしいです」

「いや、今のは……」

「湯あたり…したんです。そうなんです!」

「あっ、はい」


よし、ゴリ押せた。でも鼻血が止まらない。


 そのあといろいろあってどうにかして鼻血を止め、どうにかして無事に? うん、無事に風呂を出ることに成功した。

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