十一話 ある魔王の休日に
十話まで書きました。
キリがいいというか、なんというか……まあ、そういうわけなんで物語が分かりやすくなればいいなぁ、なんて思いながら書きました。
三人称は苦手です、はい。一人称も下手なのに…申し訳ない。できる限り頑張りましたが楽しんでいただければ幸いです。
時間は、イフリートが、滞在する猫人族の村にて魔術『炎天龍』を行使する前にまで遡る。
イフリートが転生してから、初めて訪れた国は世間では王都、もしくは帝都などと言われている超大国だ。
この世界には国など数多あるにも関わらず、この国が王都にまで大きくなったことには理由がある。
国の中にも大小は存在する。大国には必ず一人、序列3位『魔王種』が君臨し、王族の政治の手伝いなどを行う。
その魔王種の存在、魔王種の中の力関係が関係し、国の大小が決まる。魔王種は七大罪のいずれかの名を持った技能、魔王技能を所持している。この魔王技能を所持しているか否かで魔王種かどうかを判別するのだ。そして、その魔王技能の数と同じく、七つの国はいずれも大国である。その中でも王都は、魔王種の中でも最強と謳われ、序列1位の神種にすら届くと言われている『強欲』の魔王が君臨する。
その最強の魔王、その休日は、仕事のない日はこう過ごす。
「ねえ、秘書くん。仕事ない?」
「ございません。今日は休日でございますので」
「うーん、暇だなぁー。仕事がないと冒険者の成長ぶりでも見た方がいいんだろうけど、いないんだよなぁ。すごく調子いい子」
そう、最強の魔王は、仕事がなければ無職と変わらず、ニートと変わらず、グダグダと過ごすだけなのだ。
これが最強の魔王であり、王都を支えるものであると考えると、庶民はどう思うだろうか。
頭を抱えたくなるだろう。
しかしこの姿はあくまでも仕事がない休日だからこそ垣間見れる姿であり、普段では絶対に見ることのできない姿だ。仕事に依存しているのだ、仕方あるまい。
「王様もケチだよねぇ。僕もいいじゃないか、冒険者として活動しても。そう思わないかい、秘書さん」
「ああ、どうりで。今日はこちらなのですね。なぜ我儘が多いのだろうか、と考えていたところです」
意味ありげな言葉を多く発する、魔王の秘書。
秘書でありながらメイド服を着る、この姿を見た王族の護衛や爵位の高い貴族は、この姿を見て鼻の下を伸ばすという。
こんな彼らは休日はいつもこうである。
故に彼らは休日の間、ずっと、一日中、考えるのだ。
この日を充実させるためには何をすればいいのかと。まあ、一日をそのためだけに費やし、次に何をするかまでを固めるのだが、仕事が忙しく、結果として固めた考えを忘れ、この状態をループさせる。俗に言う無限ループだ。
序列3位よりも上の種族は、すべて不老であるため、無限ループはある意味可能なのだが。
「じゃあ、面白いことないか、調べてみるとしようか」
「それを街中を範囲にずっとしていればいいのでは?」
「それを言うのは、僕じゃない。ーーにしてくれないか?」
「ああ、はい。かしこまりました」
「僕も本当ならやっていたいところだけど、こういう時間はなかなか作れないからね」
魔王は、自分の魔力を、街の人間に、そして冒険者にすら気づかれないほどに薄め、円状に広げていく。
これは冒険者の中では、魔力を使った探知法として用いられる。
『強欲』の魔王の魔力は、果てしない。魔力量も相当だ。しかし、特筆すべきはその濃度。
常人ならば変わるはずのない魔力の濃度が、決定的に濃いのだ。王都にて、魔王が魔力を本気で開放すれば、すべての人間が…
『死ぬ』
冗談でもなんでもなく、魔力の濃さに恐怖し、死ぬのだ。
そんな恐ろしいことを今、平然とやっているわけなのだが、前述の通り、気づかれないほどに魔力を薄くすることで、魔力による探知が可能となっている。一重に技量の問題なのだ。イフリートもまた、魔力の質が濃いが、今のところは操作はできない。しかも広げることもできないだろう。
これが序列3位、魔王種の中の最強の存在の技量だ。
大国たる王都を支える魔王の実力だ。
秘書はそばで魔王を支える身として強制的にでも実力を伴わされている。もちろん、どれだけ近かろうと魔力で恐怖することもない。
その秘書は魔王の暇つぶしには付き合わず、魔王の部屋の掃除を行い始める。
あくまで休日は魔王のものであり、秘書は休まされない。
しかしこれは秘書の仕事というよりもメイドの仕事に近しいものだ。
そんなことはつゆ知らず。魔王は着実に魔力を広げていった。
魔王はここまでの短い時間、数字にすれば10数秒たらずで王都の端にまで魔力を広げた。
「うーん、面白そうなことはとりあえずこの国の中では、今、起こってないな。なーんだ、つまんない……ん?」
「…!」
唐突に空気を変えた魔王に合わせて、秘書もまた反応を見せる。
部屋にいる両者が窓から外を見据える。
まるで今、何か、唐突にものすごいことが起きたような、そんな印象を受ける。
「秘書さんも気づいたの?」
「はい、私にはそういう固有技能がありますので。しかし、この魔力量は固有技能を使うこともなく気付きますね」
言った通り、秘書は希少技能の固有技能『探索者』を持っている。その効果は、絞った条件の中でどこでも探し出すことが可能。脳内に情報が伝わってくる、というもの。情報は情景、そしてそこにいる魔獣、人の気配の二つが主となる。
また、脳への負担は大きいが、条件を絞らなくとも探すことは可能である。
今回は感知した魔力量を元に固有技能『探索者』を発動。魔法、魔術問わず、魔力は付いて回る。
魔力がどれだけ入れているか。それが魔力の威力を決める要素になる。
そして魔王から言ってしまうと魔力が大して入っていない常人の魔法、魔術は遠ければ、感知は一部を除き、出来ない。いや、出来なくもないが、その程度の魔法、魔術をいちいち感知していてはめんどくさくてたまらないだろう。
しかし今の魔力の入れ方は、国の端から端までの距離があろうとも魔王にかかれば感知が可能だ。
それだけの魔力が、今しがた発動されたものにはあった。
そのことが分かった瞬間に、魔王は形相を変えた。
口をニタァと開け、笑った。凶悪に笑ったのだ。
「あはぁ、まさかこの国にここまでの使い手がいるとは気づかなかった。秘書さん、今から僕が何を君に指示するか、分かる?」
「念のため、指示の内容を聞いても?」
「あの魔力量を叩き出したやつをここに連れてこい。手段は何でもいい。四肢満足じゃなくていいよ。別に死体だけでもいいよ。僕の技能でどうにかなる。秘書さんのことだ。魔力の残りで探知済ませて、もう場所はどこら辺りか特定できてるんでしょ」
「かしこまりました。暗殺者集団を派遣しましょう」
「あ、最初は様子見で。そのために冒険者ギルドに依頼出しといて。ええと…秘書さん。場所は?」
「あの景色…そしてあの気配…場所は猫人族の村だと思われます」
「りょーかい。さあ、楽しいショーの始まりだ。そろそろ『あれ』を維持しておくのも限界だしね。余興も必要だ。僕ら魔王は、いつまでも退屈なんだ。さあ、どんなやつか、今から楽しみだよ。秘書さん、そういうわけだから頼んだよ?」
「必ずや、あの者を魔王様の手に」
秘書は、頼もしく、魔王からの要望を受け、そしてメイド服をたなびかせながら、くるりと振り返り、この部屋を、魔王の自室を後にした。
それに対し、魔王は高揚を隠せずにいた。まるで今までよりも絶対に面白いおもちゃを目の前にした子供のように。
ずっと退屈だった休日に、否、この生活に終わりが来る。
そう思うと、夜も眠れないだろうと予感しながら秘書の報告を待つばかりだった。
この行為が後にイフリートをある場所に追いやり、窮地へと導くのだが、それはまた別の話。
仕方ないのだ。知る由などあるはずもないのだから。




