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百十八話 モテ期?

唐突だが、本日手を握られた回数が数え切れない。

 順を追って状況を整理しよう。

 争奪祭終了から1日経って、教室に行くと、その出入り口に人だかりができていた。

 このままだと教室に入れないしどうしたものかと思っていると、人だかりを形成していた人、全員が俺の方を見た。そして目を輝かせた。

 この時点で既にホラーだが、問題はここからだ。

 争奪祭の時のように死に物狂いな感じで、俺を追いかけてきたのだ。

 もちろん逃げるが、追いつかれる。

 そして手を握られたのだ。何事かと思っていると、急に握ってきたやつの手の平から俺の手の平に、何かが流れ込んで来たのだ。

 俺は気持ち悪かったので、魔力を手の平に集めて、流れ込んで来た何かを遮る。

 すると、握ってきたやつは去って行き、また違うやつが俺の手を握ってきた。

 休み時間中、ずっとそれを繰り返して、今、昼休みに至るわけだ。


「頼む!」


いや、頼むなんて言われましても。

 いきなり手を握られて、しかも何かもよく分からないものを流されて、俺に一体何をしろと。

 そういうわけなので、後ろに並んでいる方たちも諦めていただけるとありがたいです。

 俺はまた流れ込んでくる何かを遮りながら、そう考える。


「くそ!」

「お、おい、あれで何人目だよ……」

「こりゃ俺たちも無理かも知れねぇぞ…」

「諦めんじゃねぇ、お前ら。全員平等にチャンスはあるんだ」

「そ、そうだな…!」


何やら話が盛り上がっているが、何の話してるのか全く分からない。

 誰か、俺にも分かるように教えてくれー。

 と言っても、この行列のせいで誰も近づけず、近づこうとすると、並んでいる奴らに殴られるせいで、誰も近づいてきてくれないんだけどね………。

 何故?

 せめて理由が分かれば、対処のしようがあるんだが……。


「ほらほら、退いた!」

「げっ、もうそんな時間か!」

「そうよ、男子共! 時間になったから変わって頂戴!」


女子だけで構成された団体がやってきた。

 そして今並んでいた人たちが蜘蛛の子を散らすように去っていく。

 おっ、これは逃げるチャンス!

 そう思って、席を立ち上がった瞬間、女子たちの目が光る。

 あっ、これまずい、と思ったのもつかの間、女子たちが接近。

 すぐに俺の手を握ってくる。ついでに流れ込んでくる何か。

 あと、なんだろう。なんか近い気がする。

 まあよく分からないし、とりあえず流れ込んでくる何かは全部遮っていこう。



   ↓


ようやく終わりか。

 場所は図書館に移動し、また行列ができていたが、これで最後だ。


「あぁんもう!」

「信じられない、あの子一体どうなってるの?」

「全員断るなんて……」

「それなりに自信あったのに…」


な、なんか悪い気もするが………何を目的として何をしているのかも分かってない今の状況でされるがままになるのはまずい気がして…。

 気づけばもう日が沈みかけている。

 途中から無心になって遮り続けていたんだけど、まさかここまで時間が経っているとは…。


「あれ、イフリートさん? どうかしたんですか?」

『リエルか。あれ、ルナは?』

「ルナさんはずっと決闘してますよ。イフリートさんに負けてから『もっと強くなる』って言って」

『無理しないといいんだけど』

「まあ、心配ですよね。それでイフリートさんは?」

『今の今までずっと手を握られていた。無理やり』


改めて文字に起こすと、変な状況だったな。

 その状況にずっと付き合っていた俺も俺だが。


「手を………………ん?」

『どうかしたのか?』

「て、てて、ててて、てててて、ててててて、てててててて……」

『えぇと、となると次は、ててててててて?』

「手を握られてたんですか!?」


あっ、完璧にスルーされた。

 とりあえず続けよう。


『そうだけど。なんかまずいことだったの?』

「い、いえ、手を握られるだけなら何の問題もないんですけど……イフリートさん、もしかして手を握られた時、何か流れ込んできたりしました?」

『ああ、そういえば何か流れ込んできたな。リエルすごいな、よく分かるもんだよ』

「……………………ぅぅ」

『リエル大丈夫か?』


何か顔が赤い上に、頬が膨らんでる気がするんだが。

 俺なんかまずいこと言った?


『おーい、リエルさん?』

「何でもないです。気にしないでください」


き、急に機嫌が悪くなった。

 そっぽ向いちゃったし、俺やっぱり何かまずいことしたんだ。絶対そうだ。


『何かはよく分からないが、悪かった! お詫びと言ってはなんだが、俺にできることだったら何でも言ってくれ!』

「な、何でも……ですか? 本当に?」

『俺にできることだったら、っていう条件付きで申し訳ないけど』

「い、いえ! そ、それじゃあ手を握っても、いいですか?」


そう言うリエルの顔は先ほどよりもさらに赤い。

 手を出そうか迷っているように、前後に行ったり来たりさせている。


『どうしたんだ? いつでもいいぞ?』

「ひゃ、ひゃい!」


ガシッ、とでも擬音をつけた方がいい勢いで手を握ってきた。

 というか掴んできたと言った方が良い。

 先ほどまでずっと手を握られていたので『身体硬化』で手を硬化させていたが、そうしておいて良かった。多分素の耐久力だったら砕けてた。

 少し肝を冷やしながら、俺はリエルの方を見る。

 まだ顔が赤い。チラチラとこっちを見たり、視線をそらしたりを繰り返している。

 というか伝わってくる手の感触。さっきまで握られていた女子の手より柔らかい気がする。何が違うんだろうか…。

 と、普通を装ってみたはいいが、正直俺は今内心ドキドキしまくっている。

 今までは知らない人だったから、そこまでドキドキしなかったが、知っている人、しかも女子に手を握られるとなると、ドキドキするに決まってるだろう! 俺だって男なの!


「い、イフリートさん……」


こ、声が甘ったるくなったな。

 これから何が起こるんだ…。


「そ、その……」

「あれ? 誰かいるのか?」


急に男の声が聞こえてきた。

 恐らく図書委員。そろそろ図書室を閉めないといけない時間だから、誰もいないのか見回りに来たんだろう。そこでリエルの声が聞こえたのだろう。

 問題は、咄嗟に隠れた結果、リエルとの距離がとんでもなく近くなってしまった、というこの一点だけだ!

 近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い!


「イフリートさん、我慢してください」


小声で話しかけてくるが、息が耳に当たって……!


「んー、誰もいないか。気のせいだよな」


そう言って、男は去っていった。


「はー、危なかったです。イフリートさん、大丈夫ですか?」

『大丈夫です』


先ほどまでとはまた違った緊張感だった。

 が、俺はここで一旦冷静になり、疑問に思っていたことを質問として投げかけてみた。


『結局手を握られる、ってまずいことなのか?』

「い、いえ、手を握られることはまずいことじゃないんですけど……問題はその後なんです」

『その後?』

「はい、イフリートさんは手を握られた後、流れ込んできたものを感じましたよね?」

『まあ、うん』

「それ、魔力なんです」

『魔力?』


いや、分かるよ。

 魔力ってあれだよね。でもさ、なんでそんなのを他人に?


「魔力とは体力、いわば生命力です。それを他人に流れ込ませることで…………その、『自分の命を捧げる』という意味になります」

『ということは主従の?』

「はい、それに使われることもありますが、どちらかと言うと…………恋人に、その、結婚を申し込む時などに……使われています」


………………………………………………?

 えぇっと、つまり? プロポーズに使われていると?

 ってことは何か? 俺はさっきまで相当な人数にプロポーズされた、と?

 は? え? え、えぇ?


「あっ、で、でも、その魔力を遮れば断ったことになります」


良かったぁ、何も知らない状況での対応だったけど、正解だった。


『ちゃんと対応できてたみたい』

「それは良かったです」


ん? ちょっと待って。


『意味知ってたのに手を握ったのか?』

「………………」

『リエルさん?』

「他意はないんです!」

『その返答は違うだろ』

「うぅぅ………帰ります!」

『あっ、おい!』


帰っちゃった。

 まあいいか。俺も帰ろう。

 それにしてもなんで急にプロポーズされることになったんだろうか…………もしかしてモテ期? いやでも、男にもされたし………………どういうことなんだ?

 考えながら寮に向かっていると、生徒会長に会った。


「イフリート君、今日はすごかったね」

『大変でした。理由は分からなかったですけど』

「昨日の争奪祭だよ? 他に理由なんてないでしょ」

『争奪祭で何かありました?』

「他を圧倒して勝ったじゃない。あの時に発した殺気とか、魔法とか、圧倒的だったじゃない? 基本的に強者に惹かれるものだから、あなたに惚れた人がたくさんいたってことよ」

『惚れたって、嫌だな。男にまで惚れられるのは』

「あなた女子に見えるもの」

『認めたくない』

「私だって惚れてはいないけど、あなたと戦いたくなったわよ。今度戦ってくれる?」

『嫌です』

「つれないなー。とりあえず求婚されるのはまだまだ続くと思うから頑張りなよ」


そう言って生徒会長は去っていった。

 惚れるとかなんとかって……………仮にも序列最下位の種族であるということを忘れないで欲しいのだが。

 ちょっと手のひら返し過ぎじゃない?

 いくら魔王様に、本気出さないと分かってるな、なんて言われたからって、やりすぎたかもしれない。『操風』も『紫風』も使っちまったしな。『操炎』と『蒼炎』も使ったって言って差し支えないし。

 はぁ、もう少し考えて動いたほうが良かったかなぁ。

 まあ、魔王様に何されるか分かったもんじゃないから、仕方ないのかもしれんが。

 部屋に戻ると、フィンレーに話しかけられた。


「おう、イフリート。遅かったじゃん」

『フィンレー』

「それにしても昨日のお前、すごかったな。クラウスが認めるだけあるよ。この感じだと『魔王種』と戦ったのも本当らしいな」

『残念ながら、な』

「すごいことだろ。俺じゃ無理だしな」

『これで序列がもっと戦ったら誇れたんだろうけど、最下位だからな』

「むしろ最下位だからこそ、すごいんだろ」

『今日も急に求婚されるし』

「き、求婚!? お前の近くに人がたかってるのってそういうことだったのか!?」

『そういうことだったんです。疲れました』

「あはは………お疲れ」

『他人事とはいえ冷たいな』

「頑張れ」


くそ、フィンレーのやつ。

 まあ、俺がどうにかするしかないんだけどさ。


「そういやイフリート。一学期は半分終わるだろ?」

『そうだけど、それがどうかしたのか?』

「そろそろ中間考査だ。お前大丈夫なのか? 飛び級卒業狙ってるんだろ?」


中間考査……………そうか、そろそろそんな時期なのか。

 いや、今までに一度たりとも受けたことないんだけどね。


『忘れてた。これから頑張る』

「あんまり無理するなよ」

『分かってる』


よし、少し出遅れたが、これから頑張るか。

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