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百十七話 争奪祭決着

「イフリート君」

『一応確認します』


校舎の屋上でそんなやり取りをするのはイフリートとオーグ。

 イフリートは魔力感知で本当に校舎内に誰もいないのかを確認する。


『いないですね。これでいけます』

「よし、それじゃあメリアたちに通信を」


オーグが耳に手を当て、通信する。


『こちらの準備ができた。全員離脱して校舎から離れるか、もしくは屋上と同程度まで跳んでくれ。足場はイフリート君が用意してくれるらしい』

『もう少しクラウス君と遊びたかったー』

『こちらもまだ戦いたかったがな』

『右に同じく』

『右に同じく』

『というかイフリート君が足場を用意してくれるってどういうこと?』

『魔術でどうにかするそうだよ』

『面白そうだからやってみよ!』


イフリートはこの会話を聞きながら、並列思考と直列思考を駆使する。

 本気を出す以上、『自己再生』の再生速度を制限する必要もなくなったので、存分に使うことができる。

 ほとんどの架空脳で攻撃用の魔術を構築しつつ、残りの少しの架空脳でメリアたちの足場用の魔術を構築していく。

 常人であれば、既に脳が焼き切れているであろう負荷にイフリートは耐える。


(よし、攻撃用の魔術の構築は完了。足場用も大丈夫。あとは生徒会長たちが離脱してくれれば…)


『それじゃあ!』


伸ばしていた魔力感知に、四つの反応。

 どうやら四人ともイフリートの用意する足場の方を選んだらしい。

 イフリートは即座に魔力感知で居場所を確認。座標に寸分の狂いもなく魔術を配置する。


『すごーい、よくこんなことできるね!』

『これほどとは…』

『自分には無理っすねー』

『すごい』


賞賛の言葉は聞き流して、イフリートは攻撃用の魔術を発動。

 と言っても、発動させたのは一つだけだ。


「『操風』」


イフリートは風を纏う。

 魔術を調整して宙に浮くと、校庭の真上に移動する。

 そして真下へ向けて手を伸ばすと、纏った風全てをその手に集中させる。

 そして風が全て手に集中した時、メリアたちは、それがどれほどの技量によって成り立つ現象なのかを理解した。

 同時に直感的に悟る。これは自分たちでも受ければ死ぬ、と。


「とんでもないな……」

「そうだね、さすがは『魔王種』と渡り合った『龍人』」

「いやー、敵にしたくないっす」

「いつか戦いたい」


またもや賞賛を聞き流して、イフリートは並列思考をさらに増やして、状況を把握する。


(敵配置……把握完了。制御は順調。込めた魔力も十分。よし、行けるな)


確信を胸に、イフリートは紫色に変色した、集中させた風を、未だ自分の存在に気づいていない校庭の敵に向けて撃ち込んだ。


「『紫風』」


ふわりと、まるで何事もないように、紫の風が校庭全体を覆った。

 あまりに自然なそれに気づいた者はほんのわずか。もし気づいたとしても、もう遅い。

 もう魔術は発動しているのだから。

 突如、紫の風で出来た龍に襲われる。

 膨大な魔力を込められ構成された龍は、一人につき一体襲いかかり、対象が死ぬまで攻撃をやめない。今回は魔力体なので壊れるまで、龍たちは攻撃をやめないのだ。

 ほとんどはなす術もなく喰われる。残りは、龍から逃げたり、攻撃を防ごうとしたり、倒そうとしたりする。

 無論全て無駄。

 龍は逃げられず、防げず、倒せない。

 『紫風』による地獄はすぐに終わった。ほとんどの魔力体は壊れ、砕け散った。

 まだ残っているのは、発動の直前に気づき、尚且つ一瞬で範囲から離脱できたため、かろうじて『紫風』の対象にならなかった者たちのみ。


(残ったのはクラウスさん、ルナ、リエル、エミリーか)


何百人といたはずの校庭には、もう四人しか残っていなかった。

 イフリートは校庭に降りると、四人に殺気を放つ。

 それは四人にとってはこう言われたのと同義。


『諦めろ』


言外にそう言ってくるイフリートに対して、四人は震えていた。

 それは、格上に対する恐怖か、それとも強者に対する武者震いか。

 どちらにせよ、即座に動けるような状況ではなかったのは確かだ。


(動かない。まあ、降参してくれるならそっちの方が良いか)


イフリートとしてはその方が好都合。

 だが、その考えはすぐに変わる。

 何故なら全員が笑っていたから。


(…………まあ、そうなりますよねー)


どうやら武者震いだったらしい。

 全員が構える。

 逃げるなど選択肢にないようだ。


「「「「倒す!」」」」


イフリートが戦闘態勢に完璧に入るまでに仕留める。

 それが全員の共通の思考。

 距離を詰める。狙うは勝利条件である首。


(読みやすい)


『紫風』で倒しきれなかったことも考えたイフリートは、当然のように時間をかけて『身体硬化』を発動させている。

 もちろんこれだけで安心はしきれない。

 四方向から迫り来る攻撃を、イフリートは知覚していた。

 対応のため魔術を構築し、それによって体を動かす。

 右後方から来るルナの斬撃を、『身体硬化』を施した右腕で止める。

 右前方から来るリエルの魔法を、構築した魔術で相殺する。

 左前方から来るエミリーの拳撃を、同じく『身体硬化』を施した左腕で受ける。

 左後方から来るクラウスは接近のみ。しかし危険度は最も高い。並列思考を五つほど回す。

 衝突。


「はああぁぁ!」

「ああああぁ!」


ルナとエミリーが叫ぶ。

 両腕は無くなったが、攻撃への対応は完璧だ。即座に反撃し、二人の魔力体を破壊。

 リエルに関しても、ルナ、エミリーとほぼ同時に魔力体を破壊した。

 問題は、予測した通りクラウスだった。

 左後方にいたはずのクラウスがいない。


「さすがにこれには対応が遅れるか。悪いなイフリート君!」


唐突にしたクラウスの声に、戸惑う間もなく腹に穴が空く。


(背後に回られてたのか……予備動作とかなかったはずなのにな…)


痛覚を抑えたイフリートは、冷静に状況を把握する。

 損傷は十分に致命傷。腹にはクラウスの腕が刺さっている。その上ここまで接近されては、イフリートの速度をクラウスは上回る。


「終わりだ」


そう、終わりだ。

 クラウスが。


「!?」


クラウスの頭の横に魔力の反応。

 その場から即座に退く。

 野生の勘が働いた通り、先ほどまで頭があった場所に魔術が発生。いくらクラウスといえどまともに受けていれば確実に魔力体が壊れていただろう。

 魔力回路が通っていないはずの空中に、イフリートは魔術を発生させた。

 その事実にクラウスは笑った。


「さすがだよ、イフリート君。やはり実力を隠していたようだ。だが、これで終わらせよう」


クラウスは『リミットオフ』を発動させ、身体の制限を解除する。

 地面が破裂するように抉れる踏み込み。そして閃光のようにも見える拳。

 その二つが合わさって繰り出される攻撃が、イフリートを襲う。

 イフリートはクラウスが『リミットオフ』を解除した段階で、『操風』を解除。『操炎』を発動させ、その炎を手の平に集中させ、『蒼炎』を発動させる。

 両者激突。

 その直前。

 二人の間に、割り込む者がいた。


「楽しそうなことしてんじゃーん。俺も混ぜてよ」


イフリート、クラウス、両者が吹き飛んだ。


(何が起きた!?)

「ぐああぁ!?」


状況を飲み込めない二人。

 イフリートの魔力感知には四人の反応しかなかった。

 だが、実はそうではない。

 『紫風』の際に、相手の位置を完璧に把握した。そして命中も確認した。

 命中を逃れたのがその四人。そして受けて生き残ったのが、この一人。

 いや、生き残ったというのは間違いかもしれない。

 正確には『生き返った』。


「いやー、喰らった時はどうなることかと思ったけど、さすがに『アレ』は付与されてなかったね」


そう、この中性的な顔をした、白髪の生徒は、学園に二人しかいない『再生者』。

 『紫風』を受け、殺され、そして生き返った者の名は、


「君は、誰だ?」

「俺はマリエト・ブラドエル。なーに、しがない『再生者』だよ」

「今、イフリート君と戦っているのが分からなかったのか?」

「いや、だから楽しそうだったから俺も混ぜて?」

「ふざけるのもいい加減にしてくれ」

「ふざけてないよ。俺も遊びたいんだって言ってんじゃん」


殺気が二人から発せられた。

 まさしく一触即発。いつ戦いが始まってもおかしくない。

 だが、前提から間違えていることがある。


『マリエト・ブラドエル。お前は既に退場扱いだ。戦闘に参加することは許さん』

「えー、そんなこと言うなよ。魔王様、別にいいだろ?」

『それを決めるのはこちらだ、マリエト・ブラドエル。今すぐに戻れ』

「うるっさいなー、いいからさー。戦わせろ……よ?」


マリエトの首が刎ねられた。

 次いでクラウスの首も。クラウスの魔力体は破壊された。

 首と体が分離したマリエトの全身は、別々に地に落ちた。

 だが、すぐに首と胴体がくっつき、再生する。


「あー………びっくりした。ねえねえ、イフリート君、だっけ? 俺、魔王様と話してたよね」

(止めを刺せるなと思ったので、止めを刺したんだけど…)

「まあ、なんとなく考えてることは分かるけどね……………………はぁ、今日はもう限界か。また今度ね」


マリエトはそう言って、校庭から去った。

 現時点で魔力体が残っているのは、メリア、サウス、エリット、ミエラ、オーグの五人。そして再生者であるイフリート。

 残っているのは生徒会所属の者のみ。

 つまるところ、


『争奪戦終了です! 勝者は……生徒会!』


イフリートたちは勝ったのだ。

 足場として使っていた魔術の高度がゆっくりと下がっていき、メリアたちは地に足をつける。


「よーし、勝ったわね!」

「ほとんど後輩のおかげっすけどね」

「なっ、エリットそういうこと言わないの! やろうと思えばイフリート君無しでも勝てたんだから!」

「もうちょっと戦いたかった…」

「それは言わないでくれ、ミエラ。全員が同じ意見だ」

「そこまでやりたいのなら僕が戦ってあげるよ、ミエラ!」

「兄貴と戦うのは嫌」

「そんなぁ」

『これで争奪祭は終了! 皆さん、片付けに移りましょう!』


無慈悲なアナウンスが響く。

 生徒たちは不満を垂らす。

 そんな風に、平和に、争奪祭は終わった。

 だけど、裏で少しずつ、けれど進んでいることがある。


   ↓



 王城で、魔王とマリエトが対面する。


「ねえ、魔王様」

「なんだ?」

「あれってさ、本当に………?」

「ああ、お前が思っている通りで間違いない。だが、まだ干渉は許さん」

「なんで?」

「計画がその段階ではないからだ」

「また随分とおっそい計画だね」

「慎重と言ってもらいたい」

「ふーん………彼はそれだけ重要だ、と。良いこと聞いた」

「おい、干渉はするな、とつい先ほど言ったが?」

「魔王様の言うことを聞く義務は俺にはないからさ」

「お前のせいで計画に支障が出れば、お前を殺すことに抵抗はない」

「おー、怖。でもさ、魔王様、あんたに俺が殺せるかい?」

「たかが魔獣程度が……」

「魔獣じゃないさ」


白い髪が、赤く染まっていく。


「ほら」

「………やめだ。これ以上お前に情報をくれてやるつもりはない。出て行け」

「へーい」


追い出されたマリエトは、しかし笑っていた。


「これ以上情報をくれないなら、自分で探るしかないよね」

もうちょっと長引かせるつもりだったのに、主人公が終わらせちゃいました。

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