百十五話 争奪祭開始
「イフリート、お前またビリかよ」
『ほっとけ』
物騒なワードで身構えてしまったが、どうやらすることはただの運動会と変わらないようだ。もちろん魔法を使ったりと、地球のそれとは違う部分が多々あるが。
ステータスを競い合うためにかけっこしたり(ビリだった)、魔法を競い合うために的に向かって全力の一撃を放ったり(魔法を使えないので強制的にビリに)、魔術を競い合うために的に向かって全力の一撃を放ったり(俺以外に魔術を使う奴がいなかったので、1位ではあるがビリ)、技術を競い合うためになんかしてたり(何すればいいのか分からなくて戸惑ってたらビリに)した。
まあ、その………全部ビリです。
これが序列最下位の弊害か……!
ちなみに一年生トップはクラウスさん。参加した全てで満点を取り、圧倒的だった。
「やはりイフリート君は本当の実力を隠しているようだ」
『そんなことないです』
「何を言っているんだ。君が本気を出せば私なんて瞬殺だろう」
『買いかぶりすぎです』
「はっはっは」
何を笑っているんだ、あんたは。
『午前の部が終了しました。生徒の皆さんは昼食を取ってください』
ようやく午前が終わったのか。長く感じた。
食堂に行くと、誰もいなかった。
あれ、いつもは全生徒がここに集まってるのに……。
まあいいか。とりあえず昼食食べよう。
注文すると、ご飯作ってくれる人が、
「あんた余裕だね。この時間にこんなところで食べるなんて…」
よく分からなくて、俺は首を傾げた。
そういえば昼休憩で校舎に戻っていくとき、全員ピリピリしてた気がするな。食堂にも誰もいないし、もしかしたらそれと関係があるのかもしれない。
まあ、俺にはよく分からないので、普通に昼食食べよう。
うん、美味い。ラーメンみたいなもの頼んでみたけど、こっちの世界の食文化も発達していた。すごい。地球の食べ物と大差ないんじゃなかろうか。
そんなこと考えながら食べていると、不意にアナウンスが流れた。
『時間になりました! それでは争奪祭を開始します! 皆さん、もちろん準備はできていますよね!?』
え………できてないですけど…。
何、これから何が起こるの?
『うんうん、皆さんの元気のよう返事が聞こえてきます!』
返事してないんですが!?
『ではでは! 開始!』
瞬間、悪寒がした。
俺はとりあえず急いでラーメンみたいな食べ物を食べ終え、食器を返して、すぐに気配を極限まで消した。
野生の勘、というやつが珍しく動いた気がした。あのままあの場にとどまっていては危険だということを察知した。
「ここら辺にいるはずだ!」
声が聞こえて俺は反射的に入れそうなロッカーに隠れる。
ゲームみたいだな。
魔力も気配も極限まで消して、多分俺は今肉眼で見ない限り分からない状態だろう。
ロッカーの穴から外を覗くと、ガチムチの男が三人ほど食堂へ入ってきた。
「くそ、ここだと思ったんだが……! あの『龍人』、さすがに逃げたか」
「昼休憩に入る段階で、何も考えていなさそうな顔してたから、絶対ここで飯食ってると思ってたんだが…」
「まあいい。とりあえず探しつつ他の奴らを倒していくぞ」
「「おう!」」
三人が食堂の外へ出たのを確認してから俺はロッカーから出る。
な、何がどうなってるんだ!?
戸惑っていると、ご飯作ってくれる人が、
「あんた、悪いがここからは離れてくれないかい? ここを戦場にされるわけにはいかないんだよ」
そう言われたので、俺はとりあえず食堂から出る。
ん? 戦場? あの人戦場って言ってた?
どういうことだ? 俺には本当に分からないぞ……。くそ、もっとちゃんと生徒会長の話聞いておけばよかった!
頭を抱えて悩んでいた俺を現実に引き戻したのだ、複数の足音だった。
「いたぞ!」
「あそこか!」
「逃すな! 絶対に捕らえろ!」
「最優先だ!」
え? え? 何?
なんで知りもしない人たちが俺を捕らえるだの、最優先だの言ってるんだ?
なんとなく、本当に直感ではあるが、あの人たちに捕まるのはまずい気がした。
俺は『血への渇望』を発動させ、あの人たちが来た方向と逆方向に逃げる。
どうなってんだよ! くそ、何が起きているのか知りたい!
教室に行ったらもしかして、これについて書いた紙でも貼ってないかな………行ってみるか!
階段を駆け上がって、自分の教室へ入り、至る所を探してみる。
が、特に何もなし。これといったものは見つけられなかった。
これからどうすれば……………。
「おい、こっちの方に『龍人』が来たって話だ! しらみ潰しに探せ!」
さっきの人たちか? それともまた別の人?
分からない、とりあえずあいつらに捕まるわけにはいかない。それは分かる。
ここでやり過ごすか……いや、しらみ潰しに探せと言っていた。徹底的に探されたら見つかってしまう。
それなら隙をついて違う場所に逃げた方がいいな。
魔力感知で奴らの場所を特定する。
まだ近くにはいない。出るなら今か。
教室の扉をギリギリ俺が出られる程度開け、『身体強化』も一瞬発動させて、階段まで突っ走る。
止まると同時に魔力感知でもう一度場所を特定……………どうやら気づかれてはいないらしい。
よし、次は生徒会に行ってみるか……ルナやリエルに頼るという手もあるが、魔力感知で場所を調べた結果、生徒会の奴らの方が距離が近い。
そう思って、階段を使おうとしたところで、誰かに止められた。
「ま、待って!」
まずい、見つかった。どうする?
そう考えながら、声のした方を見ると、そこにはドク・エイターと名乗っていた、ローブを預けた先輩がいた。
「ご、ごめん。今まで返せなくて。こんな時で悪いけど、これ」
ドク先輩がローブを渡してきた。
ろ、ローブ! 久しぶりだなお前!
「あ、ありがとう。とっても参考になった」
『忘れてました。ありがとうございます、ちゃんと返してくれて』
「や、約束は守るさ」
「こっちから気配がする! 恐らくこっちだ!」
やばい!
「は、早く行きな。生徒のほとんどは君を狙ってる。気をつけなよ」
なんで狙われてるのかについては……くそ、聞いてる余裕ないか!
『それでは!』
「うん」
俺はローブを羽織りながら、生徒会に向けて走った。
後ろからいくつもの足音が聞こえてくるが、俺は後ろを振り向かずに走り続ける。
そして、ついに生徒会室に辿り着いた。
魔力感知での反応はまだある。よし、これで生徒会長達に話を聞けそうだ。
そう思った矢先、また人が来た。
「あっ、いたぞ! こっちだ!」
「捕まえろ! 全員呼んでこい!」
なっんでこんなに人が集まってくるんだよ!
くそ、後ろには多分今人がいるだろうし、前にも人がいる。生徒会室の入り口は前にいる人たちで塞がれてる。
どうすれば…………。
「はーい、邪魔っすよー」
緩い声が聞こえると同時に、前にいた全員が吹き飛んだ。
……………は?
「ミエラ、後ろの奴らは頼むっす」
「任された」
誰かが通り過ぎたと思ったら、後ろから悲鳴が聞こえた。
振り向けば、男たちが何人も倒れていた。
「あー、後輩君。生徒会室にいないから今から探しに行こうと思ってたんっすよ。ダメじゃないっすか、せっかくのお祭りなのに遅刻なんて」
「おかげで出遅れた」
『あのどういうことなんですか?』
「………生徒会長ー、どうやら争奪祭についてもまるっきり知らないみたいっすよー」
「えっ、嘘!? 絶対説明したよ!?」
「思い出せ、お前は体育祭に興奮して争奪祭の名前は出したが、説明はせずに去ってしまったぞ」
「あー……………言われてみれば?」
そんな呑気な声が生徒会室内から聞こえてきて、俺はホッとした。
そしてすぐに生徒会室に入り、問い詰めることにした。
『どういうことなんですか!』
「落ち着いて落ち着いて。話すから、サウスが」
「どうして俺が……まあ良い。
争奪祭というのは、体育祭午後の部を全て使って行われる行事だ。学園に存在する全ての部活に属する部員全員が参加し、他の部の者を倒す。倒したものの中から好きなだけ選んで引き抜ける、というものだ」
『でも生徒会って部活じゃ…』
「残念ながら、生徒会に限り部活扱いなんだよ」
え、誰? 知らない人の声なんだが。
見れば好青年がいた。誰だこいつ。背丈的に三年生かな。
「そんなに警戒しないでくれよ」
「オーグ嫌われたんじゃない?」
「本当かい? それは悲しいな」
『どなたですか? 知り合いみたいですけど』
「メリア、君もしかして僕のこと紹介してなかったのかい?」
「その時いなかったから忘れてたわ」
「らしいといえばらしいが………サウス、ちゃんとしてくれよ」
「悪い、こちらもいっぱいいっぱいでな」
「そうかい。じゃあ改めて。僕はオーグ・イスタッド。生徒会の書記をしているものさ」
『イスタッド?』
それって確かミエラ先輩の……。
「勘が鋭くてよろしい。そう、僕はミエラの兄さ」
『ミエラ先輩、兄弟いたんですね』
「………いなくてよかった」
「そんなこと言わなくたっていいじゃないか!」
そう言いながらオーグ先輩がミエラ先輩に抱きつく。
あっ、殴られた。ミエラ先輩、容赦ないな。
なにやら恍惚の表情を浮かべるオーグ先輩に俺は問うた。
『生徒会は部活扱いってどういうことですか?』
「そのままさ。生徒会は学園の生徒間トップとしての威厳を保つために必ず争奪祭に参加しなくてはならないんだ」
『それは分かりました。けどどうして俺が狙われるんですか?』
起き上がりながら、オーグ先輩が答えてくれた。
「まあ、色々と理由はあるけど……あいたた。大きいのは二つ。トーナメントで活躍したこと、そして生徒会に入っていること」
『生徒会に入っているとなにが?』
「本当に何も知らないんだね。メリア、君少しサボりすぎじゃない?」
「いいじゃない、聞かれなかったんだから!」
「はぁ。生徒会は、部活に比べて専門的ではないんだ」
『専門的…』
「例えば、真逆の種類の部活どうしが戦って、一人引き抜いたとしよう。その一人がどれだけ才能に恵まれていたって、元の部活に慣れていれば、急に種類を変えるのは難しい。
けど、生徒会と部活なら多少変更が簡単だ。元から生徒会には優秀な人材が揃っているしね」
それについては全力で否定したいのだが。
俺が優秀なはずないだろ。
「だから、生徒会というのは無理やり参加させられているのに、よく狙われるんだ。まあ、先輩がいつも守っているから、最近狙われる確率が低くなってきてはいたんだけど……そこで君がやってきたんだよ、イフリート君」
『俺?』
「そう、君。トーナメントでの活躍はほとんどの人が見ている。それに生徒会に入っていて好都合。格好の的ってわけだ。どうやら君は学校では本来の実力を出さないようだしね」
そ、そんな理由で……。
「と、いうわけで全ての生徒が君を狙っていると言っていい。だから僕たちで守る」
『ありがとうございます』
「気にしないで、可愛い後輩を守るのも先輩の務めだ。どうやら僕がいない間にその先輩たちが迷惑をかけたようではあるけれどね」
全員目をそらす。
………まあ、トップがあれだしな。
「今失礼なこと考えられた気がする」
「気のせいだよ。さて、争奪祭の話に戻ろうか。今年から戦う際は魔力体で、というルールが追加されたけれども、基本は変わらない。開始位置は開始時間にいた位置、相手を倒せば欲しい人は引き抜ける。ただし再生者に限り、一度首を落とせば倒したと判定される」
く、首落とされるのか……。
よかった、捕まらなくて。捕まってたら間違いなく首切られてた。そしてリプロ出てきてた。
「まあ、学園内に再生者は君と、後もう一人しかいないんだけどね」
「! 兄貴、そろそろ」
「そうだね、集まってきている。ここに留まるのはダメだね。場所を変えようか」
「じゃあ私、倒してくるね!」
「俺も行こう」
「自分も行くっすー」
「私も!」
「お前ら……」
「「「「ストレスが溜まっているから!」」」」
「ああなるともう止められないのは新入りの君でも分かるだろう」
『はい』
四人はバラけて何処かへ行ってしまった。
「君を守るのは僕だけになってしまったか」
『えー、ここで連絡でーす! 魔王様より『龍人』イフリートへ』
「君に?」
魔王様が俺に何か?
『この争奪祭、本気でやらなければ分かっているな? とのことでーす!』
俺は倒れ伏した。
あの……あの! あの魔王、本当に!
「どうやら逃げるという選択肢は無くなってしまったようだね。どうしようか」
分かっているな? はめっちゃ怖い。
本当に何されるか分かったもんじゃないから。
仕方ない。
………………………………よし。
『とりあえず校舎から人を追い出したいです』
「分かった。どうやら作戦があるようだ。それじゃあ動き出そうか!」
不本意ではあるが、俺は争奪祭に本気で挑む。




