百十話 異世界人と
すいません、またもや忘れていました。最近物忘れがひどい。
「疲れたー」
「まあまあ、そう言うなよ。アユム君」
「イケメンが爽やかに話しかけてくるのって思ってたより怖いんだな、神野」
「そうだな。分かったからくっつくなよ気持ち悪い」
どうやら普通に馴染めているようだ。
女子の方も同じ感じで。
「カリンさん、運動得意なの?」
「っひゃい! そ、それなりには!」
「別に緊張しなくたっていいじゃない」
「うわー、皆可愛い〜。綾っちもそう思うでしょ?」
「う、うん」
…………多分馴染めてるよな…。
何組もある一年生のクラスに、それぞれ6、7人のグループに分かれて加わった。
残りの一人は矢羽々さんなのだが……ずっとこっち見てきて怖い。
「なあ、イフリート。さっきからずっとお前のこと見てるあの異世界人の女子。どうしたんだ?」
『俺に聞かないでくれ』
「見られてないと分かってる俺の方にまで圧がきて怖いんだけど…」
『だから俺に言わないでくれ』
矢羽々さんがさっき言ってきた、
『違うよ。そうじゃなくて…………………………って意味』
少し聞こえづらくはあったが、
『違うよ。そうじゃなくてもっと知りたくなったって意味』
あれと何か関係あるんだろうか。
とりあえず今は無視しているが、どうしたものか。
「なあ、イフリートさんって学校では喋らないんだな」
「え? 喋ってるのか?」
チッ、確か神野とか呼ばれていた奴が、面倒臭いところに突っ込んできた。
「喋ってる」
「おい、イフリート。どういうことだ?」
『話すには今手持ちの紙では足りないな』
「紙、持ってこようか?」
『ごめんなさい。いつかちゃんと説明するので今はどうか…』
「本当かぁ?」
フィンレー、これで勘弁してくれ。
『何か用ですか?』
俺は話題を変えるべく、そう書いた紙を神野に見せる。
「あっ、いや。そういうわけじゃなくて。イフリートさんが俺たちと同い年だったとか、今まで気づかなかったなーって」
「それは俺も思った!」
「私も!」
「私もだ!」
「わ、私も」
「私も私もー」
『それは悪口ととって大丈夫かな?』
遠回しに小さいって言ってんだろ、そうなんだろ。
「違うよ。まあ、確かに小さいとは思ったけど。それの何倍も大人っぽかったから」
『褒めてるのか煽ってるのかどっちなんだ』
「もちろん褒めてるよ」
「確かにすごい丁寧な言葉遣いだったよね」
『急に空から降ってきた人たちに少なからず警戒してただけだ』
「そりゃそうか」
「……………私、部活見てくるね」
「あっ、矢羽々さん! 本当にマイペースなんだから」
確かにマイペースだったな。
『矢羽々さんってどんな人なんですか?』
「何? 気になるの?」
そう言ってきたのは中村さん、だったか。
ここは無難に返すか。
『ずっと凝視されてたら気になりますよ』
「あはは………矢羽々さんはいつもあんな感じ。でも可愛いから男子からの人気はあるよ。誰にも分け隔てなく接するしね」
『あんな接し方されるの嫌なんですが』
「最初は皆あんな感じなんですけど、ある時突然とっても親しく接してくるから、ちょっと待っててみてください」
『そうですか』
不思議、という第一印象は間違っていなかったようだ。
「それじゃあ、私たちも部活選びに行こうか!」
「部活………どうしようかなー。綾っちはもう決めたの?」
「まだ決めてないの。イフリートさんはどんな部活に入ってるんですか?」
これまた答えづらい質問を……。
さて、なんと答えればいいものか。
「こいつ部活には入ってないよ」
フィンレーさん、そんなおおっぴらに言わないくださいよ………。
「代わりに生徒会に入ってるんだ」
「せ、生徒会!?」
「まあ、イフリートさんならありえるか」
「そうね」
君たちの中で俺はどんな聖人になってるんだ。
『恥ずかしいからやめてくれ、フィンレー』
「だって本当のことだろ?」
『そうだけど…』
「生徒会、かぁ。どんなことしてるんですか?」
『まだ入ってほとんど経ってないから何をしてるのかはよく分からないんです』
「そうなんだ。ありがとう、イフリートさん」
クラスの奴らは全員教室から出て行った。
はー、疲れた。
「なあ、イフリート。あいつらとはどういう関係なんだ? 今日急に転入してきてびっくりしたよ」
『昨日空から降ってきた』
「どういうことだよ」
『俺が聞きたいよ』
「あいつらの前だとイフリート、まるで別人みたいだな」
『俺もそう思うよ』
「そういえばクラウスどこ行ったんだ?」
『知らないけど、なんかあるのか?』
「今日、決闘しようって話してたんだけど」
『一緒に探すか』
「ありがたいけど、お前生徒会は?」
『言い訳は考えつくから大丈夫だ。どうせ今は緩いし』
「お前、本当に慣れてきたな。最初は学校嫌だ、っていうのがすごい伝わってきてたのに」
『色々あったってことだよ』
とりあえず二人でクラウスさんを探すことになった。
と言っても、この学園無駄に広いからなぁ。探すのは一苦労だ。
『ちょっと待て。魔力感知で探すから』
「敷地内を全部か? いくらなんでもそれは無理じゃ…」
『倒れたらよろしく』
「よろしくされたくないんだけど」
俺は魔力感知を使って、学園全域を探す。
すると、案外近くにいた。
『いた。けどもう一人いるな』
「誰だろ……まあ、行けば分かるか」
『そうだな。この廊下、右に行ったらすぐ』
「よし、行こう」
行ってみると、口論が聞こえてきた。
片方の声はクラウスさん。もう片方は………何やら喧嘩腰だな。聞いたことあるような、ないような…。
「だから悪いのはそちらじゃないか。走ってぶつかってきのはそちらなのに、どうして俺が謝らないといけないんだ」
「あぁ!? テメェがぶつかってきたんだろうが! 何澄ました顔してやがる! 謝れよ、ごらぁ!?」
「何だ何だ、どうしたんだよクラウス」
「ああ、二人とも。彼がこちらに非はないはずなのに、謝罪を要求してきてね。どうしたものかと困っていたところだ」
意外だな。
『クラウスさんならすぐに謝ってその場を収めるかと思ってたが』
「さすがに自分が悪くない場面で謝ることなどできないさ」
変なところで頑固なんだな。
そういえばあの顔、どこかで見たことあるな。
…………………………あっ!
『風呂場で走ってた人だ!』
「あぁ? 何だ、イフリートじゃねぇか」
「知り合いなのかい、イフリート君」
『空から降ってきた人』
名前は確か…桂木だったか。彼を指差す。
そして今度は、
『助けた人』
そう言って自分を指差す。
「なるほど……よく分からないが、分かったよ。つまりイフリート君の友人、というわけだ」
「友人? んなわけねぇだろ、そんなチビ」
チビって言うな、お前!
失礼な奴だな、全く!
「そんなことよりテメェ! クラウスとか言ったか! 俺と戦えよ、どっちが強いのか分かりやすくしてやる」
「ほぉ、異世界から来た人間の実力、是非知りたいと思っていたんだ。俺は構わない。フィンレー君、悪いが……」
「別に大丈夫だ。頑張ってこい」
桂木とクラウスで決闘をすることになった。
場所は移動して、決闘場。
「それでは魔力体に変換します。じっとしていてください」
特に変化はない。
だが、魔力体に変わった。
あの体にはコアとなる何かがあるのだろうか、とか考えているうちに、始まる。
「開始っ!」
「おおぉらっぁ!」
桂木が空を殴った。
その余波はこちらにまで及ぶ。
すごいな。
「おぉ、クラウスとも張り合えそうだな」
そんなに強かったのか。
クラウスさんはステータスでもトップクラスのはずだから、固有技能は単純な身体強化系?
やばい、途中からあんまり見てなかったから、こいつの能力分からない。
「おらっ! おらっ! おらっ! おらぁぁ!」
「大振りだな。それで当たるものか」
「くそがっ! なら!」
今度は距離を詰めに行く。
遠距離では一生避け続けられると判断してのことか。
まあ、遠距離だろうが近距離だろうが関係なく、クラウスさんにはまず勝てないと思うけど。
なんかヤンキーっぽいし多分桂木は喧嘩とかよくしてたんだろう。
でもクラウスさんとは経験が違う。確実にクラウスさんの方が上だ。
「この距離なら!」
腹に向かって一撃。
ここからはよく見えないけど、多分………
「甘いな」
「な、に!?」
防御されてるよね。
「単調だ、ひたすらに。君の攻撃はつまらない。もう少し強くなってからの決闘をお勧めするが?」
「うるせぇ」
「ならば今から言うことは助言ではなく命令だ。本気を出せ」
「あぁ?」
「今まで俺と戦っていた驚異的な身体能力は素のステータスだろう」
え、そうなの?
てっきりそういう固有技能なのかと思ってたけど……最近の高校生ってそんなに動き回れるのか。羨ましい。
「それだけなら何も言わないが、先ほどの一撃を防いだ時、君に驚愕の表情は浮かんだが、それは決して絶望ではなかった。何かあるのだろう?」
「あったらどうするんだ?」
「早く出せ。君との戦いは今の所酷くつまらない」
な、なんかクラウスさんの言動が怖くなってきているのだが……。
俺はビビったが、どうやら桂木は違ったらしい。
「はははははははは! すげぇなお前。よく分かったもんだぜ」
「お褒めに預かり光栄だ。つまり君にはあるのだな。秘策が。私を倒せるという切り札が」
「見せてやるよ、これが俺の力、だっ!」
そう言って両手を広げた桂木。
これから何が始まるんだと思っていると、剣が現れた。一本ではない。何本も。
「ほう、これは……………」
「どうだ、ビビったか! これが俺の力、『万物之主』! ありとあらゆる物の主として、全てを召喚できる能力だ!」
「ありとあらゆる物を…………………」
「そうだ!」
「召喚するだけか?」
「は?」
呆れたようにクラウスさんが顎に手を当てたまま首を傾げた。
蔑むとか、馬鹿にするとか、そういった感じは微塵もない。
ただ純粋に不思議がっている。
「なっ、すげぇだろうが!」
「いや、召喚するだけなら大した脅威にはならないと思ったのだが……何か間違っているか?」
「舐めやがって!」
桂木が、召喚したという剣を打ち出した。
クラウスさんはそれを余裕の表情で避けながら、
「そういうことができるなら早く言ってくれ」
「だから今やってんだろうが!」
「なるほど、動かすことも可能と」
「冷静に分析してんじゃねぇ!」
ひょいひょいと避けながら、クラウスさんは桂木の能力の詳細を把握していった。
「なあ、イフリート。クラウスってこんな奴だったっけ?」
『いや、少なくとも俺は見たことない』
「だよな。あれ、素なのかな」
『そうなんじゃないか?』
今まで一度も見せたことのない顔に少々戸惑いつつ、俺たちは観戦を続けた。
「おっらぁ!」
「む、軌道の変更も可能か。他にはどんなことができるのだ?」
「だったらこれで!」
桂木が広げていた手を上に上げる。
するとクラウスさんがいる場所に剣が生えてくる。
これはさすがに危ないかと思っていると、クラウスさんはそれをいとも容易く踏み砕いた。
「ふむ、耐久力はないに等しい、と」
「嘘、だろ…………くそ! 最大出力! いっけぇ!」
「ん? 最大出力?」
今までにないスピードで剣が打ち出された。
反応に遅れたクラウスさんは、少なくとも俺が見たところガードできていなかったと思う。
「っはははは! 勝った!」
大はしゃぎの桂木。
どうやら今ので仕留めたと確信したらしい。
が、
「おい、今お前は最大出力と言ったのか?」
「は? はあああああぁ!?」
「本気を出せと言っただろうが………自他の実力差も分からないのか」
「な、なんで生きてる!?」
「元から死ぬような戦いではない。そのための魔力体になったのだから。そんなことはどうでもいい。お前は、今、絶望的な実力差を知り、尚も、手を抜いたのか?」
怖い怖い、クラウスさん落ち着いて。
「俺も舐められたものだ………もういい。お前は異世界人の中では最底辺に位置する人間と考えることにする。終わらせよう」
「な、や、やめろ!」
殺気を混ぜて圧を送り、そして……………………そして、え? 一瞬で桂木のところまで移動?
今絶対予備動作なかったぞ。どうやって動いたんだ。
こんなこと、クラウスさんがフィンレーと戦ったときにもあったな。
一体どういうことなんだか。
「来るんじゃねぇ!」
そう言って再び剣を召喚し、クラウスさんを攻撃しようとするが、打ち出される前に全て壊された。
「無駄だよ。君の召喚する剣が異常に脆いことは調査済みだ」
もうこの時点で桂木に勝機はない、と思う。
ここからのどんでん返しの可能性もないわけではないと思うが、低い確率だろうな。
「負けたな、あいつ」
フィンレーがそう言うので、桂木の勝機はないようだ。
お疲れ様です。
クラウスさんが桂木にさらに近づく。
その瞬間、桂木がニヤッと笑った。
「かかったな、馬鹿………!」
「見え見えの罠に引っかかる馬鹿がいるものか」
「が……」
「そこまで。勝者、クラウス・エドガー」
最後は魔力体の頭を吹っ飛ばして終わった。
桂木のやつ、クラウスさんが近づいてくると読んで、剣を一本隠し持っていたようだ。それで刺そうとしたが、クラウスさんの速度の方が早かった、と。
案外あっけない終わりだ。
桂木が魔力体から生身に戻ってくる。
「う、俺は……負けたのか」
「そうだ、俺の圧勝だよ。敗因を教えてあげようか」
返事を聞く前にクラウスさんは喋り出した。
「戦闘というものにそもそも慣れていないこと。固有技能を把握しきれていなかったこと。自分の力を過信したこと。そして何より……」
今までに並べたどの理由より冷たい声色で言った。
「俺を舐めたこと」
「く、くそ……」
「だが君は筋が良い。さっきは最底辺として考える、と言ったが、鍛錬すれば確実に強くなるだろう。俺も危ないかもしれないな」
表情をパッと変えて、明るい声色でそう言った。
クラウスさん、切り替えが早すぎて怖い。
これはさすがに桂木も………。
「………なあ」
「なんだい?」
「俺に戦い方を教えてくれ」
そんな心配は無用だったらしい。
根が素直なのか、それともただ単に負けたことが悔しかったのか。
ともかく桂木は大丈夫そうだった。
「もちろんだとも。まずは体の使い方からかな。今から走ろうか」
「なっ、今からか!?」
「ほら、早く」
「く、っそ!」
「悪いがフィンレー君。決闘はまた今度でいいかい?」
「全然大丈夫だ」
「すまないね」
そうして、クラウスさんと桂木は走り込みに行った。
『良かったのか?』
「俺は別にいつでも良かったから」
『そうか。俺たちも帰るか』
「そうだな」
ん? 魔力感知に何か引っかかってる………こっちもどこかで……ダメだ、思い出せない。
『先言っててくれ』
「なんかあったのか?」
『多分忘れ物した』
「何だ、多分って。まあいいや。俺は寮に戻ってるからな」
『ああ』
フィンレーと別れて、俺は魔力感知に反応があった場所に行ってみる。
確かこの辺だったんだが…………気のせいだったのかな。俺も昨日、今日と色々あったし疲れてるのかもな。本当は疲れないはずなのに、魔力感知の反応を間違えるくらいには。
「ばぁ!」
「んざっふ!」
急に掛けられた声にびっくりして、俺は変な声が出る。
………この感じ、覚えがある。
『矢羽々さん?』
「そうだよ、でもわざわざ紙に書かなくたっていいじゃん」
俺は学園では絶対に喋らないと決めている。
正直そこまで守れてないけど。最近破り気味だけど。
『そういうわけにはいかないんですよ』
「残念だなぁ。私はあなたのことをもっと知りたいのに。あなたを知るためだったらなんでもするよ」
『はいはい、簡単に言わないでください』
「本当なのになぁ……ほら」
ちょっ、ちょちょちょちょちょ!
俺の腕を掴んで、胸に持って行く。
や、柔らかい感覚が伝わって………考えるな!
片手で書き辛いが、俺はそれでも書いた。
『やめてください』
「でも、まんざらでもなさそうじゃん」
『違いますから』
「頑なだなぁ。私はあなたを知りたいだけ」
『どうして?』
「合わなかったから。初めてだったんだよ? 私と合わなかったの」
『なんなんですか、合わないって』
「おっ、興味ある? 興味あるの?」
『あるからとりあえず離してください』
「分かったよ」
そう言うと、矢羽々さんは俺の手を離した。
はぁ、寿命が縮むかと思った。というか絶対縮んだ。
「じゃあ話すね。私が貰った技能は『共有』」
『共有?』
「そう。他人の感覚や思考を共有する技能」
『なんでそんな技能を?』
「私が望んだから」
『望んだ?』
「うん。私には相手が何を感じているのか分からない。相手が何を考えているのか分からない。だから知りたいと思った。人と感覚を、思考を共有できれば、知れると思った」
『いつから、いつから知りたいと思ったんですか?』
「小学生の頃から、かな。私は小学生の時から分からなかったんだ」
一瞬俺と似ていると思って、その考えは失礼だと思った。
何故なら、相手が何を感じているのか、何を考えているのか分からない。そう思ったのは本当だ。
でも、そこから先を俺は考えなかった。
知りたいとは思わなかった。知るための方法を考えなかった。
その点で、矢羽々さんは俺とは違う。
『貰って何か変わりましたか?』
「貰ってすぐ、全員と共有してみた。楽しかった。他人が何を感じているのか分かった。何を考えているのか分かった。だから、もっと分かりたいと思った」
『それで俺にも共有を?』
「うん、さすがに友達以外に無断で共有するのはダメだと思ったから。許可を取ってあなたに『共有』を使ってみて、私は…………私は………」
言い淀む矢羽々さん。
俺と『共有』して、何を見たのだろうか。俺には知る由もない。
矢羽々さんの言葉を待つしかなかった。
「あなたは、とても悲しい人だと思った」
ダブった。
思い出したくもない人と、ダブってしまった。
『君は、悲しい人だね』
言うな、言うな。
言わないでくれ。
「人の何倍も感受性が豊かで、傷つきやすい。人の何倍も考えて、思いやりがある。
だからこそ、人の何倍も抱え込んでしまう。人に頼るべきところで自分だけで何とかしようとしてしまう」
『やめろ』
「不憫な人だね」
また、ダブった。
『可哀想な人』
思い出したくもない記憶が蘇る。
きっと、一生思い出さないと思っていた記憶が鮮明に。
「何かあったら頼っていいよ」
『私なんかでよかったら頼ってよ』
「いつでも力になるからさ」
『君の力になるよ』
「困ってるなら相談してよ」
『話くらいなら聞けるよ』
「やめろ」
「え?」
「俺は抱え込んでない、誰かの力はいらない、困ってなんかない、不憫でも可哀想でもない」
「い、イフリートさん?」
「俺はもう違う。あの頃のただ弱かった俺じゃない」
「イフリートさん!」
「………………あ、え………………………………矢、羽々さん」
「イフリートさん、大丈夫?」
「大丈夫……………ごめん。変なこと言いました。忘れてください」
俺はその場を去った。
切り替えられなかった。沈んだ心はそのままだった。




