十話 なんか重要な話
起きました。
おはようございます、皆さん。そして目覚めて即座に年下が目に入るのはキツイんです。
反省します。調子に乗って年下一人なら俺、寝てるし、大丈夫だろうと思うのはこれからはやめることにします。
なので、起きてください。ムーヤさん。
そんなあどけない顔で寝ぼけながら、抱きつかないでください。死期が早まります。
うーん、熟睡なら昨日みたいに起きないはずだし。俺の力では起こすことはできないだろうし。
ミーヤさん、はまだ寝てるかもだし起こすのは悪いな。
「おーい、おーい。ムーヤ。起きなくていいから、腕をどかしていただけないでしょうか?」
分かりきっていることを言っていいだろうか。
ムーヤ、寝てますね。それはもう当たり前のように寝てますね。
仕方ない、振りほどこうと試みる。
なんでめっちゃ力はいってんだよ!? これ、起きてるよね?起きてるよね! 起きてるよね!?
『身体強化』使ってみるか?朝っぱらからそれは賑やかですね、そうですねごめんなさいやめておきます。
外に出るつもりはないんですよ。なのにダメなんですか?安心してください、外出しませんよ?あなたが起きるまでは外出しませんよ?大丈夫ですよ?
だが、暇だ。ムーヤが起きるまで圧倒的に暇だ。することも特にないしなぁ。
『自己再生』の検証、第二回をするのもいいが、朝から二度もショッキングなもんを見せるのは如何なものか。ダメだろう。
大人ならいざ知らず、子供はダメだろう。
なんで俺、恐怖を覚えるはずの年下に気、遣ってんだろう。
まあ、いいや。そうなると本格的にやることがない。
よし、状況確認行ってみよう!
ムーヤは寝てる。(注、俺の隣で)
俺は起きている。(絶賛暇)
することがない。
何かできることがないかと思い、現在状況確認中、と。
よし、状況確認終了。変わらずすることなし!
あっ?ん?
ムーヤ、は…寝てる?
俺は子供恐怖症。いつかは克服したいと思っている。
ならば、無抵抗の今が好機なのではないか?
起きていれば、多少の反応でもビクついてしまう。しかし寝ているのであれば、寝返りとかそんなので納得ができる。
うん、慣れてしまうなら今しかない!触ってしまうなら今しかないのだ!
いや、言っておくけど俺、ロリコンじゃないからね。なんか思考がロリコンみたいになってしまっているが断じて違う!
あくまでも子供恐怖症であるせいで、そうなっているだけである。そうなのである。他意はない。
ゆっくりと触ってみようと試みる。時速1センチの勢いで。
ビビりまくりだと言えばいい。チキンだと罵ればいい。
だがしかし、俺はこうやって隣で年下と寝ること自体が奇跡みたいなもんだ。
俺偉い。
まあ、俺が偉いのは当たり前だけどな。いや、嘘だよ。引きこもりでボッチの時点で偉くはない。むしろ負け組だ、俺は。
いや、話を戻す。
というわけなので、触ろうとしている。もう一度言おう。時速1センチの速度で、だ。
これ以上の速度を出すのは無理です。
ビビりまくりだと言えばいい。チキンだと罵ればいい。
え?これ二回目だって?あ、はい。そうです。その通りです。
いやー、俺ちょっと調子乗ってますね。
うーむ、勇気を出せ。俺ならば出来るはずだ。速度を上げる、きっとできる。
ツン。
不意に触れた。何が?何が触れた?
答えは決まっている。ムーヤの体に俺の指が触れたのだ。
「ふぎゃぁ!」
ビビったぁ。変な声出ちゃったじゃないか。
どうやら寝ぼけて上に移動し結果、時速1センチで進んでいた指に偶然にも当たったらしい。
何だ、起きたのかと思った。また寿命が縮まった。
そんなことよりも! お、おお、おおお! 触れてるぞ! 俺、今、年下に触れてるぞ! 自分の意思で!
5秒経過! すっげ、俺すっげ!
成長って自分で見ることができるものなんだな。
なんちゃって。
そろそろやめておこう。ちょっと指がガクついてきた。
指を離してから、ちゃんと俺が自分で触ったのだと確認する。
恐怖するはずの年下に数秒間も触れるのだから、異世界転生とは偉大なものだ。
普通の人からしてみれば、何言ってるの馬鹿なの死ぬの?みたいな感じかもしれないが、生まれつき恐怖症だったため、子供を、年下を恐怖していた時期が長すぎた。
これは他人からすれば小さすぎる、それはもう一ミクロン単位の成長かもしれないが、俺からすれば偉大な一歩である!
偉大な人の偉大な言葉だ。
はい、というわけで自分の成長が垣間見えました。
にしても起きないな。全然。
子供って全員こんな感じなの?俺もこんな感じだったの?いや、誰にも分かんないんだけど、孤児だったから。
またすることがなくなった。今度は何しよう。
体を動かすことは無理、と。検証も無理。
じゃあ、他に何をすればいいと?いや、出てこないんだけど。聞くだけで答えが掲示されるなんて、もう本当にどこの大先生だって話なんだけど。
まずい、大先生を思い出して地球に帰りたくなってきた。
いやいや! あの世界にはもう俺の居場所はない。
だが、帰る理由はある。
妹を面くらわしてやるのだ。ふっふっふ、あのクソ妹が目見開いて驚く様は容易に想像できる。
ケッ! 家の中で会うたび会うたび、外出ろだの、学校行けだの、そのブサイクな顔直せだの、好き勝手言いやがって! 俺だって好きであんな生活してたわけじゃないんだよ! 色々と理由があったんだよ!
クッソ、思い出したら今度はムカついてきた。
てか、あいつと俺、別に本当の家族じゃないわけだし。
まあ、孤児院から拾ってもらったのは感謝してるけども。
あああぁ、うううぅぅぅぅがぁぁぁぁ!
うじうじしても仕方ない。絶対に地球に行く方法に見つけて、妹に一泡吹かせて終わりだ!
「あらあら、仲直り。できましたか」
「あ…い…う…え…お!? お、うおおい! って、ミーヤさんじゃないですか!おお、びっくりした」
「ああ、驚かせてごめんなさい。それにしても一緒に寝る、とは思いませんでしたよ」
「いやいや、滑り込まれました。ホームベースにギリギリセーフで滑り込まれました。抵抗の余地がありませんでした」
以上です。これ以上も以下も言い訳はしません。
ミーヤさんは部屋の扉に寄りかかった状態で話しかけている。
寝て起きてそのまま、この部屋に様子を見に来たような感じだった。
こういう姿を人は無防備というのだろうか。こういう姿に萌える人がいるのだろうか。
いや、あの、俺は断じて違います。そんなことはないです。
そんなことよりも聞きたいことがあるのだ。
動かしにくい体を動かして、手を挙げる。
「はい、質問です!ムーヤはいつもどのくらいに起きているのでしょうか!」
「もう少ししてから無理やり起こしに来ますね」
「あ、はい。そうですか、強引ですか。よぉし、起こすのは悪いと言った数十分前の俺はもう消えた。ミーヤさんが来るまでに起きなかった自分に後悔しろ、ムーヤ」
『身体強化』を使うわけにはいかない。
ならば、『血への渇望』を使うしかなかろう。
両手を動かし、爪を使って傷をつける。傷から出てきた血を見て、『血への渇望』を発動。
2秒という短い時間だが、子供一人の拘束を解くくらいは容易いだろう。
実際そうだった。こんな力が日常茶飯事なら、人間腐りそうだな。
まあ、猫人族の皆さんは大丈夫そうだし、全員が全員そうであることはないと思うけど。
拘束から解放された俺は、ムーヤを起こそうと肩を揺さぶろうとして、やめた。
いや、だって俺、年下触るの無理ですし。
お触り禁止とか言われるまでもなく、しないですし。
よし、ミーヤさんに起こしてもらおう。他力本願、いい言葉だよね!
「ミーヤさん、俺は子供を起こしたことがないので慣れている人の起こした方が目覚めがいいと思うんですよ。なので、ムーヤを起こしてあげてください」
「別に構いませんよ?」
「ありがたやー」
感謝と尊敬の意を込めて、手を擦り合わせて拝んでおいた。
ミーヤさんは俺がやろうとしたように肩を掴むと、高速で前後に揺さぶった。
おい待て。ちょと待て。勢いがありすぎて首から上がぶっ飛びそうだぞ、おい。
毎回、それで起こしているのか?人体に影響があるぞ、確実に!
そういえばムーヤって髪、白かったんだな。今まで気づかなかった。猫耳も白い。
髪も猫耳もゆっさゆっさ揺れております。猫耳は取れないんだろうな。いや髪もダメなんだけども。
猫耳が消えたら現在、街に出ることができない俺は、この状況を楽しんでいる俺は楽しみが減ってしまう。
最初に友達になった年下が猫耳なんてロマンがあるじゃないか。待ってくれ、俺はロリコンなんぞではない! 否! 断じて否ぁぁ!
「ふにゃあぁ。ふにぃ?あ、おねえちゃん」
「ようやく起きた。昨日も遅くまで起きてたんでしょう。育たないわよ?」
「むぅー、伸びるもん!」
微笑ましい光景だ。
だが、ムーヤが起きた瞬間に恐怖心が増大しました。
怖い、超怖い、めっちゃ怖い。
なっ! 猫耳が立った、だと!? 確か寝てた時はヘナンって、立ってなんていなかったはずだ。
こんな変化があるのか。面白いな、これは。
いや、こんなこと考えてる場合ではない。俺も挨拶しておかないと。
勘だが、挨拶しておかないとなんかムーヤが不機嫌になる気がする。
「おはよう、ムーヤ。てか、お前毎日あんな起こされ方してんのかよ。首痛くなったりしないのか?」
はいコレェ!
挨拶しつつ、違う話題を入れて挨拶の気恥ずかしさを誤魔化す。
これほど効果的な挨拶の仕方があっただろうか。いや、ない! 俺が知っている中では、だけど。
そう思って、ムーヤに向きなおすと、なぜかにやけていた。
なぜに?
そのあと、目一杯の笑顔を浮かべてから、
「おはよう! いちゅりーと」
いい挨拶を返された。
あのさ、俺の照れ隠しと言ってもいい発言をいとも簡単に無視しないでくれます?
まあ、コミュ力では俺なんか足元にも及ばないと、そういうことですね。以後気をつけます。
よし、ムーヤも来たことだし、挨拶も済ませたことだし、そろそろさっきからずっと気になってたことを聞いてみよう。
「なあ、ミーヤさん」
「はい、なんですか?」
「ミーヤさん。別にムーヤを起こしに来たわけでもないでしょ?いや、それもあるんだろうけど。でも、それが主目的ってわけではないでしょ?」
ミーヤさんの顔が真剣になった。
俺が思ってたことは間違ってなかったわけだ。
さぁて、どんなことが待ってるか、楽しみだな。
「何か…俺に話したいことでも?」
「はい、そうです。この後、朝食を食べ終わった後に、できれば一人でついてきていただきたいのです」
「構いませんけど…ムーヤがいる場で、良かったんですか?」
「大丈夫ですよ」
何が大丈夫なのだろう。まあ、話聞けば分かるだろう。
なぜかムーヤに、シャツの裾を掴まれながら朝食ができるのをリビングで待っていた。
すると、ルナが起きてきた。
寝癖がヒドかった。ボッサボサだった。あれが女子なのだから不思議なものだ。
「お前。ルナ、髪が…ボッサボサになってるぞ。ブッ、ブハハハハッ!」
それを笑うと、ルナに俺も寝癖がヒドいと指摘された。
家のどこにも鏡がなかったものだから、全く気づかなかった。
髪を触ってみると、なんかある長さから直角に曲がり、すごい髪型になっていた。
ムーヤが笑ったのも、この髪型のせいだろうか。
ルナに逆にからかわれ、多少落ち込んだ。まあ、もう気にしてないけど。
悪かったな。こちとら長髪になんてなったことないんだよ。
生前では髪型なんて気にしてなかったし。部屋からは基本出なかったから指摘もなかったし。割と短髪だったし。
この世界の飯はなぜこんなにも美味いのだろうか。ミーヤさんの作った飯が特別美味いのだろうか。でも、キャンプ場っぽい場所で食べたものも美味かった。
それも今度調べてみよう。
日本食も作ってもらえないかな。教えてみよう、レシピ。
なんやかんやあって、朝食をとり終わり、する事ねぇなー、と思っているところでミーヤさんとの事を思い出した。
そういえばミーヤさんについて行く約束があったと。
「あ、あれ?ミーヤさんは?え、待って。どんだけ遅れたの、俺?」
「ミーヤならまだそこにいるでしょ?」
誰に聞いたでもない問いにルナが答えてくれた。
おう、まだ台所に立っていらっしゃいましたか。
全く気づかず申し訳ない。
「ようやくお気づきになりましたか。なぜかやりきった顔をしていたので心配しました。
では、行きましょうか」
「………ミーヤ?イフリートをどうするつもり?」
「いや、ただ話があるだけって、言ってたんだけど。そんな大事じゃないと思うんだけど…」
「そうですよ、ルナ?お話しするだけで、卑しいことはしませんよ。私だって、その…これから色々控えてますし」
最後の一言で俺は思ってしまった。思ってはいけないことを思ってしまった。
リア充、爆ぜろ。
ウッギオヤァー! ごめんなさいごめんなさい! いや、僕だって非リアですし?リア充を見れば嫌悪感と言いますか、なんと言いますかー、まあ、そういう感情が生まれるわけですよ! 思わずにはいられないんですよ! ほんっとごめんなさい!
ふー、心の中で叫んでスッキリした。
まだルナの警戒態勢は解かれていないが、ミーヤさんがどうにかするだろう。
「ミーヤさん、どこに行けばいいんですか?」
「ルナ。イフリートさんはお話しする気満々ですから、ね?」
「分かった。終わったら私にも話してもらう」
「そういうことでいいなら、後でちゃんとお話しするわ」
話はまとまったらしい。
ミーヤさんはなんですか?コミュ力の塊でいらっしゃいますか?
俺には不可能だ、そんな所業は。
というわけでこれでなんの心配もなく、ミーヤさんと話せるわけだ。
「話もつきましたし、それではついてきてください」
「ほーい。安心しろ、ルナ。ちゃんと話の内容は教えるって」
ムーヤもついてきたそうにしていたが、ミーヤさんに目で、ダメだと言われてすごすごとルナのところに戻っていった。
ミーヤさんについて行くと、家からは出たが、そこまで遠くには行かないようだ。
どこまで行くのかと思っていると、ミーヤさんの家の裏側のすぐ近くに小屋が一軒建っていた。
俺が昨日壊してしまった蔵よりも少し小さめだった。
あの蔵てか倉庫、大丈夫だっただろうか。俺のせいで壊したのだから大丈夫じゃないんだけど。ぶっ壊れたのだけれど。
「ここで話すんですか?」
「そうです。さて、と。どこから話したものですかね」
小屋の中は中央に机と向かい合って配置された椅子があるだけで、他には特になかった。
ミーヤさんは配置された椅子の片方に腰掛け、もう一つの椅子に座るように手で進めてきた。
進められた通りに座って、ミーヤさんが話すのを待っていると、割と早くに話し始めた。
「うーむ、そうですね。言ってしまうと、私の妹、ムーヤは天才です」
「…………はい?」
「あっ、イフリートさんはこの世界での常識を知りませんでしたね。そこからご説明します」
いや、違うんだよ。あっちの世界にも天才とか言われているやつはいるにはいたんだよ。
でもね、家族から天才だ、と言われているやつを俺は知らない。
家族が可愛いと思う人もいるだろうとは思うんだけど、そんな言われた当事者が恥ずかしくなるようなことをいとも簡単に言う人を、俺は見たことがない。
てか、ミーヤさん。会った時と印象が違うんだよな。
なんか、あった最初は、もっとおしとやかな人だと思ってたんだけど、今はなんというかグイグイくる人だとしか思えない。はっきり言って俺の嫌いなタイプである。
異世界人だから、地球の人とは違うから。そんな理由で今は会話が可能なだけである。
「天才と言うにも幾つかあります。
魔法の天才。魔術の天才。格闘の天才。剣術の天才。他にも幾つかありますが、これらは世間において、戦闘の天才と区切られています。ムーヤは魔法の天才です」
あっ、さいですか。言っちゃうんですか。すごい自信ですね。
俺もそこは見習いたい。ただ妹にそういうこと言うのは、ちょっと引く。
でも、魔法の天才?
ムーヤが魔法使ってるの見たことないな。いや、まだここ来て三日目だし、戦闘なんて子供にさせるわけないから見てないのは当たり前なんだけどね。
「あの、魔法の天才ってどういうことですか?魔力が多いとかそういうことなんですか?」
「いえ、魔力は鍛錬次第で増やせます。しかし魔法には適性属性と適性率があります。適性属性はどうにもありませんが、適性率はある方法で増大させることができます。まあ、方法というにはいささか難易度が高いんですけど」
「その…方法というのは?」
「魔法の適性を司る精霊に好かれることです。好かれれば適性率を上げることができます。適性率が上がると魔法を使うための魔力の消費が抑えられ、かつ魔法の威力が上がります。
精霊には鍛錬でも好かれる可能性はありますが…」
「ああ、うん。分かった。可能性低いのね」
「はい、そうです。鍛錬で精霊に好かれる可能性はごくわずかです。なので精霊に好かれるのはある種、才能というわけです」
「なるほど、納得です。ムーヤ、あれでいてすごかったのか。俺なんかに構ってくれていいのだろうか。修行とかないんかな」
ちょいと疑問に思ったことを言っただけでミーヤさんが少し嫌な顔をした。
なぜにそんな顔をする?俺なんか変なこと言った?
いや言っていない。絶対に言っていない。断固として宣言しよう、俺言ってない。
「修行も何もないんですよね、ムーヤの場合。なぜって彼女、精霊に好かれていることに気づいていないんですよ」
「えっ、マジですか?村の他の人は気づいているんですか?」
「はい、気づいています。というかあの歳で魔法使える子なんていませんよ」
「あー、そういえばムーヤって何歳なんですか?」
「4歳です」
「………ぱどぅん?」
「ぱ、ぱど?え、あの、なんですって?」
「いや、気にしないでください。そうか、そういえば猫人族の人は成長早いって言ってたもんな。ああ、そうか。絶対5歳か6歳だと思ってた。てか、4歳であの大きさか。皆さん、育ち盛りというやつだな。ちゃんと食って育つんだぞ。早く俺より年上だと思わせてくれ。そうすれば俺はお前らを怖がらなくて済むからな、多分」
おっと。心の声がだだ漏れだった。失礼。もう大丈夫だ。
それにしても英才教育とかあったと思ったんだけどな。4歳では魔法を使うことは許されてはいない、のか?
そういうことにしておこう。
まあ、それは置いておいて疑問が浮かんだ。
「魔法って普通はどのくらいの歳から使えるようになるんですか?」
「だいたい、6歳くらいから魔法適性率が増えてきます。それまでは魔法適性率が低すぎて魔法は使えません」
「普通は使えないほどに低い魔法適性率が精霊に好かれているおかげで上がり、魔法が使えると。なんだよ。精霊ってチートなのか。俺も欲しいものだ。チート要素が一つくらいあってもいいはずだ」
俺の設定、箇条書きしてやろうか?
種族は最弱の龍人。
異世界の代名詞、魔法が使えない。魔術は使えなくもないけど、使うまでに時間がかかるから大して意味ないし。
特殊能力は自分を治す能力と身体能力を強化する能力のみ。他の能力は全然使えない。『?』だけで他は何も見えないし。
身体能力も最弱の種族のせいか、クッソ低いし。
こうやって並べて、整理してみると虚しくなっていく。
この世界に来てから虚しくなることばかりだな。
気にせんでよし!
「精霊に好かれたいのは世界の誰にでもある願いなんですが、精霊にも好き嫌いがあるので、誰にでも好く、ということはないようです」
「そうか、残念。でも諦めはしないでおこうっと」
「期待しておくだけ無駄なんですけどね」
「アッハハ、そうですね。まあ、夢があることはいいことだと思いますけどね」
ただし俺、テメェはダメだ。
俺は夢を諦める、どころか夢なんて考えてもみなかったからな。子供恐怖症のせいで将来を考える余裕がなかった。
俺に夢を語る資格はなかろうて。まあ、それゆえに言えることもあるだろうが。
皆、夢はちゃんと考えておけよ。俺みたいな人間のクズになるから。食うだけ食ってグータラしてる最悪な奴に成り下がるから。こうなっちゃいけない。
「イフリートさん、ちぃと、と言うものが何かはわかりませんがなんとなく分かりますよ。すごいってことですよね?そうですよね!」
「おう、おう。グイグイ来ますね。はい、そうです。すごいって意味です」
「やはり! イフリートさんにも分かりますか! ムーヤはすごいんですよ! 私なんかが姉でいいのかって思うときはたまにあるんですけどね。でも、あんなにすごい妹をもてたことを誇りに思います!」
まくしたてないでください。
分かったから、最初に話聞いた時にもうすごいのは分かってるから。
にしてもここまで言われると、これぐらいは分かるな。
「ミーヤさん、ムーヤの事、大好きなんですね」
「はい! ……………ただ、才能がある、というだけで起こる問題も少なからずあるんですけどね」
「よーしよーし、ようやく本題に入れる。それで?多少予想はできるんですよね。やっぱり天才というのは罪なもんですね」
「予想できますよね。言っていただいても?」
「立場逆ですね。まあ、いいですけど。ムーヤが抱えている問題は…友達がいない、じゃないですかね?」
「ご名答です」
やっぱりか。あの子供がめっちゃいる地獄の建物内では年齢ごとに分けてあった。
その中で一人でピョンコピョンコ俺のところに来た時点である程度予想できていた。
本当ならば平凡でいいんだよ。なのに神様め。何人かに一人を非凡な才能を秘めた奴にしやがって。そうやってたまに特別扱いするから、そういうことしちゃうからダメなんだろうか。
特別扱いした奴がイジメられるんだよ!
いや、あの、その……転生して、神の加護とか貰ってる奴が何を言っているんだろう。スンマセン、ごめんなさい。まあ、なんで神の加護持ってんのかもなんで転生したのかも分かんないんだけどね。
「それで俺にどうしろと?友達になれと?ムーヤはあくまで同年代の友達が欲しいはずだ。そんなことでムーヤの問題が解決するとは思えないね」
「さすがイフリートさん。その通りです。なので、イフリートさんに協力していただきたいのです」
「協力…ですか?例えば、どういう風に?」
「そうですねぇ。同年代の子に、ムーヤと友達になるように声掛けしていただいたり?」
そんなんで解決するほど小さい問題かね?
全くもって違うと思う。軽くないぞ、そんなに。声掛けしただけで解決するものか!
友達ができないからって他の奴に声掛けしてもらってる本人のことを考えてみろ。
嫌で嫌で仕方ないと思うぞ。
というわけでそれは却下したい。断固として却下したい。あと、俺がムーヤの同世代の人と話せるわけないじゃないですか、やだー。
「やめておいたほうがいいと思いますよ?やられた側は精神的に多少くるものがあります。俺は前例があるんですよ。そうですよ、俺です」
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「安心してくださいな。もう乗り切りましたから」
そうだ、世界が変わったのだからもうあんなことは起きないのだ。
大丈夫だ。俺はこっちの世界ではコミュ力のある人間なのだ。あ、いや、龍人だった。
異世界チートなんてなかったんや。最弱の種族になっちまった。しかもユニークだぞ! さらに何だ!? 鱗は宝石に、角は蘇生薬に使えるだと!?
何でこんなに珍しいもんが揃い踏みなんだよ! ふざけんなよ! 絶対狙われんじゃん!
おい、死んだ時に出てきた神様、出てこい。出てこなかったら俺から出向いてやろう。絶対にボコしてやるからな。
しかも俺が吐いて、倒れた時にも夢に出てきやがって、偉そうに。
ああ、ムカつく。種族なんか関係あるかい。必ずぶっ潰してくれるわ。
「そうなると…どうしたらいいですかね?」
「ほとんど意味はないと思いますけど、俺からも友達を作るように言っておきます。ミーヤさんの方からも言っておいてください。こういうのは本人に解決させた方がいいんじゃないですかね」
でもまぁ。
ムーヤはいいよな。将来には役立つもんじゃないか。
精霊に好かれているからって理由で魔法が使いやすいなんて。
俺は子供恐怖症のせいで友達作れなかった。しかも改善のしようがないマイナス要素だ。
羨ましいな。頑張れ、お前ならきっといい友達作った挙句、幸せになっていけるはずだ。
「そうなんですか。じゃあ、そういうことで」
「了解です。頑張りましょうか。ムーヤのために?」
「何で疑問系なんですか?ムーヤのためですよ」
「ちょいと問題が俺にもありましてね。話は以上ですか?以上ですね。じゃあ、戻りましょうか」
小屋から出ようとすると、声が響いた。
大声だ。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!イフリート様ぁぁぁ!」」
誰だ、この声は?俺を呼ぶこの声は。
うるさいんだけど。近所迷惑なんだけど。
何ぃ?暴走族?やーねぇ、最近、ここら辺の治安は悪いわ。
あ、スンマセン。分かってますよ、二人一緒でここまで息が合ってるのはあの人たちだけだろうさ。
「ほいほい。ミーヤさん、勝負終わったんですかね。見に行きましょうか。家に一度戻ってから」
「そうですね。家に戻りましょうか」
いいね、これが日常か。素晴らしい。
地球ではこんなこと不可能だ。
いやー、転生してよかった。種族が種族だけど。そこは許そう。
あっ?許しちゃダメなんだっけ?ボコボコにするんだっけ?
まあ、どうでもいいや。
とりあえず今は。




