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百八話 異世界転移者たち

「主様!」


吹っ飛ばされたが、リルファーが受け止めてくれた。

 まさか急に殴られるとは……驚いた。


「大丈夫ですか、主様!?」

「ごめん、あんまり大丈夫じゃない。俺の前に立ってくれる?」

「は、はい」


リルファーの陰に隠れてあいつらに見られない状況になってから、仮面を外し、思いっきり血を吐いた。


「おえぇ!」

「だ、大丈夫なんですか!?」

「『自己再生』があるから大丈夫だけど………死にかけた、もしかしたら死んでたかも」

「殺しますか?」

「いや、大丈夫」


俺は一通り血を吐き出し尽くしたら、仮面をつけ直して、あいつらの前に出る。

 前世で、中学の同じクラスだったやつらの前に。

 あー、足が震える。でもこいつらは空から降ってきた。何かしら事情があるのだろう。こいつらが全員死んだとは考えにくい。あれから1年しか経っていないし。まあ、あっちとこっちで時間の進みが違う、なんてこともあるかもしれないが。

 それでも全員同時なんておかしい。

 放っておくわけにはいかない。ただし、俺が風見 司だとはバレないように。


「嘘………完璧に入ったはずなのに…」

「あの委員長の一撃受けて生きてるとかバケモンかよ!」


どんだけやばいんだよ、委員長。

 龍人である俺の耐久力じゃない、普通の人の耐久力でも生きてられない威力とかやばいだろ。

 俺が知らなかっただけで、もしかしたらあのクラスにはそういう奴らがゴロゴロいたのかもしれない。不登校でよかった。


「えぇっと…………大丈夫、ですか?」

「の、能面が喋った!?」

「あはは、これは仮面です」


なんとか普通に話せている。

 こっちに来てから少なからず俺のコミュニケーション能力は向上しているようだ。

 これならなんとか…!


「空から降ってきたので助けたのですが……お怪我はないですか?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 皆いるか確認しますので!」

「空から降ってきた人は全員いるはずですけど…」


委員長と呼ばれた女子が、まだ気を失っている人たちを一人ずつ起こして怪我がないかを聞いていく。

 俺がさっき見たんだけどな。まあ、俺じゃクラスの奴らの顔覚えてないし判断できないか。

 おっ、どうやら確認は終わったらしい。

 委員長が近寄ってきた。


「さ、先ほどはすいませんでした!」

「いえいえ、お気になさらず」

「目が覚めたら友達の顔を覗き込む不審な顔の人がいると思って、思わず……」

「まあ、この仮面が怖いのは認めます。それで、全員いましたか?」

「はい、あなたが助けてくれたんですよね?」

「真上から落ちてきたので止むを得ず。本当はもっと適役がいたのですが…怪我していたら申し訳ないです」


委員長がこっちに来るまでに俺は自分がどういうスタンスで話すのかを決めておいた。

 そう、腰を低く。以上。

 あと自分が転生者だとバラすような内容のことは言わない。


「怪我もなかったです。本当にありがとうございました」

「そうですか、良かった」

「ここはどこなんですか? その、異世界だと……聞いたのですが…」

「異世界? ということはあなた方は違う世界から来たのですか?」

「は、はい。そうなんです」

「えぇっと、一応試させてもらっていいですか?」

「大丈夫です」

「それでは」


もちろん俺は嘘をついているか否かは分かるし、そもそも俺がこの人たちを知っているから、確認する必要なんてない。

 だが、あくまでも俺は異世界から来た人を初めて見た、という体で話を進めていく。


「リルファー!」

「はい、なんでしょうか、主様。というか、最近私がどっちの性別なのかで呼び方変えるの忘れてませんか?」

「あー、忘れてた。悪かったよ、リル」

「それでいいんです、それで、どうしたんですか?」

「ちょっとここで狼の姿になってほしいんだけど」

「別にいいですよ」

「えっ、狼? そちらの方は普通の人のようですけど。すごい綺麗ではありますけど……」

「まあ、見ていてください」


リルが狼に姿を変える。

 委員長の反応を見ると呆然としていた。

 委員長の後ろにいる奴らはというと、委員長と同じように驚いている奴らと、はしゃいでいる奴らの二極化。

 後者の方は多分、ネット小説とかを読んでいるオタクだな。


「主様、これだけでいいんですか?」

「しかも喋った!?」


こちらも反応が先ほどと同じように二極化。

 なるほど………オタクの方に関してもここが異世界だからこれくらいのことはあるだろうと言った程度の認識だろう。

 つまり、この世界についての予備知識はそこまでない、ということか。

 そもそもどうしてこの世界に来たのか、という疑問があるが、まあ今はスルーで。


「なるほど、全く知らないようですね。となると異世界から来た、という話は本当のようだ」

「は、はい…」

「分かりました、あなた方を信用しましょう。すいませんが、責任者のような立場の方はいらっしゃいますか?」

「呼んできます!」


恐らく呼ばれてくるのは先生だろう。

 予想的中、先生だった。

 未だに修学旅行に行くことを決められた時のあの強烈な印象は残っているが、どうやらこの世界に来て色々と参っているようだ。


「な、何かご用でしょうか……?」

「お疲れのところ申し訳ありません。責任者の方にこれからについてお話しできればと思いまして」

「お願いします……」

「まず、先ほどの方から異世界から来た、ということを伺いました。何か目的があってのことですか?」

「いえ、全く。ほとんど強制的で……子供達もびっくりしているようで、私も不甲斐ないことに理解が追いつかなくて………これからどうすればいいのか…」


ふむ、異世界転移だということは勘付いていたが、王城に召喚、という形じゃなかった以上、勇者がいるというわけでもなさそうだ。

 目的なしか………俺としては早めに帰ってもらいたいものだが……。


「せんせー、いつまでここにいるのー!」

「ま、待っててください中村さん!」

「確かに、このままここで話すというのもなんですね。そろそろ日も落ちそうですし。とりあえず私の家にどうぞ。そこで話の続きをしましょうか」

「い、いいんですか?」

「はい、無駄に広いもので……使ってない部屋もあるので、大丈夫だと思います」

「分かりました、ありがとうございます。あっ、私は小野と言います」

「オノさん、よろしくお願いします」


俺はあえて小野の発音を素人っぽくした。

 話しかけられた時点で分かったことだが、完璧にこちらの世界の言葉で会話ができている。俺もそうだったが、言葉の理解と会話はできるのだろう。読み書きについては分からないけど。

 俺がこちらの世界の住人だと思わせるために、これも必要なこと。


「皆さーん! こちらの方のご厚意で自宅のお部屋を使わせてもらっていいそうなので、ついてきてくださーい」


動転はしていたが、それでも教師だな。ちゃんと仕事してる。

 さて、これをリプロやアーノルドにどう説明したものか……。

 考えつつも、


「少し前を歩きますのでついてきてください。リル、お前は人型で最後尾にいてくれ」

「どうして人型なんですか?」

「そっちの方が馴染みやすいだろうからな」

「なるほど、分かりました」


そう言ってリルは最後尾に向かっていった。

 よし、これで大丈夫かな。前の方は女子、後ろの方は男子だ。女子はともかく男子はどこか行ってしまいそうだから、リルに見張らせることにしたのだ。

 俺は通常時では歩くスピードが遅いので、『血への渇望』を発動させ、身体能力を向上させた上で、


「速くないですか?」

「だ、大丈夫です。ありがとうございます」


気遣うフリして、速度がこのくらいであっているかどうかを確認した。

 うん、我ながら上手いことやれている。


「あ、あの………」

「はい? ああ、さっきの…」

「先ほどは殴ってしまって本当にすいませんでした」

「大丈夫ですよ、というかそのことはさっき謝ってもらいましたし」

「私、網代 花凛って言います。よろしくお願いします」


俺としては一切よろしくしたくないが、仕方ない。


「よろしくお願いします、カリンさん」

「はい」


握手を交わして、これで一件落着かと思ったら、


「ねえねえ、角ない?」

「な、中村さん!?」


どう見ても陽キャの女子が俺の容姿についてツッコんできた。

 チッ、面倒臭いところに気がつきやがって。


「これってどうなってるの? つけてるの? それとも生えてるの?」


確かめようと引っ張りながら、俺に問うてくる。

 せめてその手を離した上で質問してもらいたかったよ。

 強引に引っ張ってくるので頭が動くが、あまり気にしないようにして、


「生えてます。ですからあまり引っ張られると折れるのですが…」

「え、嘘まじ!? 見たい見たい」


見たい見たい、じゃねぇ。

 お前、俺が死んでから1年しか時間経ってないんだったら高校一年生だろ。なんでそんな小学生みたいな言動してんだ。


「別に構いませんけど……折ると死にますよ?」


死ぬというかリルに殺される。


「げっ、じゃあやめるよ」


そう言って手を離した。

 ふー、なんとかなかった。


「す、すみませんすみません!」

「気にしないでください。私が説明していなかったのも悪いですから」

「そう言っていただけるとありがたいです…」


この先生、苦労してそうだな。

 なにやら後ろの方が騒がしい気もするが、とりあえずそこまで距離もなかったので家に着いた。


「お、大きい」

「デカっ」

「す、すごいですね」


うん、俺もそう思う。

 いくらなんでも大きくしすぎたなって、反省してます。

 まあ、今役立ってるからいっか!


「おかえり、イフリート」

「ただいま。察して来てくれるかと思ってたんだけど」

「イフリートの思考を再現して、察した結果、行かずにアーノルドたちに説明して準備してもらうことにしました」

「ありがとう」


さすがは『神種』。空気も読んで行動している。


「えっと、こちらのなにやら神々しい方は?」

「リプロです、どうぞよろしく」

「えっ、あ、はい。よろしくお願いします」


またもや後ろがうるさいが、まあ気にしない。


「さっ、どうぞあがってください」

「皆ー! 入るよ!」


この一言で生徒たち全員が俺の家に入っていった。

 はー、良かった。


「主様、大丈夫ですか?」

「大丈夫です、というかお前こそ大丈夫だったのか? なんか時々後ろが騒がしかったけど」

「なにやら変なポーズを取ってくれと言われたので、冷たい目でお断りしたら喜ばれました。あと家に着いた時は前の方を見て騒いでましたね、あいつら」

「なんかよく分からんが、とりあえずありがとう」


俺たちも家の中に入ると、アーノルドが対応していた。

 うん、やっぱり頼りになる執事だ。

 まあ、あんまり真面目に聞いている奴いないけど。

 ほとんどの奴は家の広さなどに目がいっている。というか男子で聞いてる奴ほぼいねぇじゃねぇか、ちゃんと聞け!


「ありがとうございました、アーノルドさん」

「いえいえ、構いません。旦那様が初めて連れてきたお客様ですのでしっかりとおもてなしさせていただきます」


うっ、アーノルドさん、しれっと俺に刺さる言葉を使うのはやめてくれ。心が痛い。


「えっと、こっちで決めないといけないのは部屋割りかな。部屋はいくつありますか?」


どのくらいだろう。

 正直部屋数覚えてないから、なんとも言えない。

 俺はアーノルドに近づくと、


「どのくらいある?」

「少なくとも一人一部屋、ということは無理かと、おそらく数部屋足りません」

「うわっ、それだけしか足りないことに驚きだよ」

「旦那様が作ったのですが」

「いや、分かってるけど。となるとどのくらいがいいかな」

「30後半くらいの人数ですし、5、6部屋でなんとかなると思いますが」

「そうだな」


こそこそと話して、結論を出すと、俺は先生に、


「6部屋ですが、足りますか? 足りなければまだ足せます」

「じ、十分です! ありがとうございます。それじゃあ男子、女子それぞれ3部屋ずつです。三グループ作って下さい」


わいわいとグループ分けが始まった。

 つくづく俺はあの中にいなくてよかったと思う。絶対に輪の中に入れない。


「さて、と。オノさん、終わったらここで少し待っていてください」

「分かりました」

「お前ら、集合」


俺はリビングを出た、あいつらには聞こえないだろう位置にリル、リプロ、アーノルド、アクトを集めると、


「あの人たちは俺の前世に多少関わっている人です」

「そうなのですか……ならば言ったほうがいいのでは?」

「うーん、プラスの関わりではないからな。言わなくていい。というか言わないでくれ。俺が転生者だとバレるようなこともなしでお願いします」

「分かりました」

「承知しました」

「りょーかいです!」

「分かったよ」

「よし、それじゃあ戻るか」


リビングに戻ると、もうグループ分けは終わったようで待っていた。


「終わりました」

「そうですか。それではアーノルド、案内を」

「承知しました」


残念ながら、俺は自分で作ったというのに構造をあまり理解していない。よって部屋がどこになるのかも覚えていないので、情けないがアーノルドに放り投げた。

 ごめんなさい。


「それではこちらに」

「オノさん、私はここで待っているので時間ができたら来てください。話の続きを」

「そ、それなら今からでも!」

「疲れているでしょう? きっと他の人もそのはずです。まずはお休みください」

「ありがとうございます、本当に何から何まで」

「いえ、これも何かの縁ですので」


先生も部屋に向かっていった。

 俺は完璧に姿が見えなくなるのを待ってから、ソファに倒れかかった。


「はー、疲れた」

「お疲れ、イフリート。飲み物飲む?」

「ありがとう」

「それにしても普段からは想像できないコミュニケーション能力を発揮したね」

「相当無理した」

「だろうね」

「なあ、何であいつらがこの世界に来たんだ?」

「私は今天界とあんまり連絡を取り合ってないから、あんまり分かんないかなー」

「あんまりなのか? じゃあ少しは分かるのか?」

「本当にふわっとしたことだよ。何かが動いたんだろうな、っていう」


嘘はなかった。


「本当にふわっとだなー」

「だからそう言ったでしょ。ほら、アーノルド戻ってきたわよ」

「旦那様。何だその腑抜けた姿勢は」

「疲れたので」

「アクトは真面目に働いているというのに……まあいい。私はこれから夕食の仕上げに入る。出来たら呼ぶ。あと風呂の方も沸かせてあるからな」

「アーノルド様!」

「様をつけないでくれ」


アーノルドはいつも通りな感じで去って行った。

 どんな時でもああやっていつも通りができるやつってすごいよ。尊敬する。

 さて、と。先生にああ言っちゃった以上俺はここで待ってるしかないか。



    ↓



先生が来た。

 あれからそこまで時間は経っていない。


「すいません、少し寝ていまして」

「もっと寝ていても構わなかったんですけどね」

「待たせておくのが忍びなくて…」

「いえいえ、それでは話の続きをしましょうか」

「はい、まず私たちがこの世界に来た経緯ですが…」


要するに、俺の墓参りに来てたら、急に転移させられ、よく分からない人影に技能を渡され、特に目的も言われずにこの世界に送られた、と。


「なるほど………」

「帰る方法はある、と言われました」

「その方法というのは…」

「そこまでは教えてくれませんでしたけど…」

「そうですか」


本当に帰る方法があるのかも定かではない。

 さて、どうしたものか。


「私はあなた方に協力したいと考えています」


早く帰ってほしいから。


「あ、ありがとうございます」

「そのために一つ聞いておきたいことがあります」

「なんでしょうか?」

「これだけは絶対に守ってほしい、ということはありますか?」

「生徒の、あの子たちの安全です」


即答された。

 教師とはいえ、一人の人間だし、命がどうのこうのはもう少し考えるかと思ったのにな。


「……分かりました。彼らの安全は保障します…………と言いたいのですが、私はそこまで権力があるわけでもありません。この家にいるのは彼らにとって退屈でしょうしね」

「はあ」

「ですのでこの国のトップに相談して、もしよろしければ、ではありますが、この世界の学校に入ってみてはいかがでしょうか?」

「この世界にも学校があるのですか!? というかこの国のトップと面識がある時点で権力をお持ちでは?」

「ま、まあ、言われてみれば………少しありまして」


俺はあの魔王様を国のトップだと思いたくないので。

 とりあえず学校に入るというのは良い案だと思う。

 あいつらにも学校に入ってもらえれば少なからず監視はしやすい。


「少し変わり者ですので、異世界から来た、といえばおそらく快く引き受けてくれると思います」

「そうですか……良かった」

「ただ、その場合、オノさんはどうするのか、という問題がありますが…」

「私は別に大丈夫です!」

「ただ、一応相談はしてみましょう」

「ありがとうございます」


よし、とりあえずの方針は固まった。

 これでなんとかなるだろう。

 そう思っているとアーノルドが声をかけてきた。


「あー、話は終わったか、旦那様。それなら夕食ができたと伝えに行ってくれ」

「夕食までいただいていいのでしょうか?」

「今日は何故か作りすぎてしまったので3、40人増えた程度問題ありません」

「3、40人増えた程度……ですか」


さすがです、アーノルドさん。

 慌てた様子で先生は生徒たちを呼びに行った。


「旦那様は食器を並べるのを手伝ってください」

「分かった。なんかこれだとどっちが雇い主か分かんないな」

「気にしたら負けです」


自覚はあるのかよ。

 俺はそう思いながら、食器を並べるのを手伝った。



   →



「なあ、飯美味かったな、神野」

「そうだな」


あの人影に異世界転移させられた時、俺たちは気絶したらしく、空から落ちてきたところをイフリートと呼ばれている小学生くらいの身長の人に助けてもらったらしい。

 そのまま家の部屋を幾つか借りて泊まらせてもらい、しかも夕食まで。挙げ句の果てには風呂まで入らせてもらえるらしく、至れり尽くせりだった。

 正直あの人が何者なのかは気になるところではある(なにやら能面のようなものもつけているし)が、風呂に入って疲れを取りたいという誘惑に負け、俺たちは風呂に入る。


「なっ」

「ひ、広い。しかもめちゃめちゃ風呂だ……」


本当に一体何者なんだ、あの人は……?

 そう思いつつも、手早く全身を洗って風呂浸かって疲れを癒す。


「極楽だー」

「神野、お前爺かよ」

「うるせぇ、田中。お前だって表情筋から力が完全に抜けてるぞ」

「仕方ねぇだろ、すげぇ気持ち良いんだから。あのイフリートって人には頭が上がらなくなりそうだ」

「そうだなー」


親友、田中 歩とそんな他愛もない話をしていたところで、俺は桂木が目に入った。


「桂木のやつ、なにしてるんだ?」

「知らね、俺が知ってるわけねぇだろ」

「そりゃそうだが…」


竹のような材質でできた仕切りのようなものに耳を押し当てている。端から見たらただの不審者である。

 他の奴らも桂木の不審者じみた行動を見て、どうしたんだと寄って行った。


「静かにしろお前ら。聞こえねぇのか」


聞こえる、ってなんの話だろうか。

 気になったので、俺も仕切りに耳を押し当ててみた。

 すると聞こえてきたのは、


「委員長、大きくなったねー」

「そんなはずないだろう!」

「ほれほれー」

「遠藤さん、肌キレー」

「あ、ありがとう」

「何たって綾っちだからね!」

「なんであんたが自慢げなのよ」


そんな女子たちの声だった。


「聞こえただろ、お前ら。つまりそういうことだ」

「お前、やめておけって桂木。死ぬぞ」


俺もやめたほうがいいと思う。

 女子たちって基本的に怖いって知ってるだろ。バレたら何されるか分かったもんじゃない。自分の身が可愛ければやめておけ。


「いや、俺は行くぜ」

「あっ、おい、桂木」


桂木は勢いをつけるために助走距離を確保する。

 そして走って跳ぶ。

 というところで、


「湯加減どうですか? ってなにしてるんです、危ないですよ?」


イフリートさんが様子を見に来た。

 予想の範囲外から来たイフリートさんに意識を向けてしまった桂木はタイミングを外して、派手にこけた。


「ほら、言わんこっちゃない。危ないですからやめてください。怪我は? ないですか?」

「怪我してるとしたらお前のせいだよ」

「だって風呂場で走ってたら危ないでしょ、注意もしますよ。というかどうして走ってたんですか?」

「男にはやらなきゃならない時があるんだよ」

「そうなんですか? よく分かりませんが……怪我は無さそうですね。皆さんくつろいでいるようですし、湯加減も大丈夫そうですね。それではごゆっくり」


そう言ってイフリートさんは風呂場を出た。

 なんだったんだ。


「まあ、残念だったな。覗きは諦めろ」

「うるせぇ、神野。俺はまだ諦めねぇからな」

「懲りないな、お前は」


諦めない、とは言ったもののさすがに少しは失敗を引きずっているようで、桂木はとりあえず大人しくなった。

 くつろぐ時間が戻ってきた。

 と思ったのに、どうして桂木はまた仕切りに耳を押し当てているのか。


「おい、どうやらリルさんが入ってきたようだぞ」

「なんだって!?」


田中が反応した。

 リルさんって確か……あの巨乳のメイドさんだったか。

 まあ、確かにすごい魅力的な人ではあったけど、どう考えてもイフリートさんのメイドさんだろうし、手を出すのはまずいだろ。

 そう思いながら再度視線を桂木たちに向けると耳を押し当てている奴が増えていた。

 そ、そんなにリルさんって人気あったのか。まだあって1日なのだが……。


「俺たちもやるしかないようだ」

「おい田中、戻ってこい」

「悪いが神野、男にはやらなきゃいけない時があるんだよ」

「それはさっき桂木が言ってたよ」


他の奴らも準備を始める。

 おい、嘘だろ。お前ら異世界来て1日目にして帰る気か、土に。


「お前ら、やめ!」


そう言い切る前に奴らは走り出した。

 止められなかった。そう思った直後だった。

 全員気絶した。

 仕切りの上には、確か…………リプロとか呼ばれていた少女が見えた。もちろん首から上だけ。


「覗こうとする勇気は認めるけど、せめてバレないようにやってね。えっと…」


そう言ってこっちを見る。

 ニヤッと怖い笑みを浮かべて、


「君も覗こうとしてたのかな?」

「いえ、全く」

「ならいいや。彼らは君がなんとかしてね」

「分かりました」


その後、俺が田中達を風呂から出し、目が覚めるまで近くで待機していた。

 途中で、イフリートさんが来て、


「どうしたんですか、この人たち?」

「大罪を犯したんです」

「? よく分からないですけど気にしないほうがいいですか?」

「正解です」


と言って去って行った。

 そして田中たちが目覚めたところで、女子たちがやってきて説教していた。ちなみにリルさんとリプロさんはいなかった。

 田中たちはこっぴどく叱られて泣きながら寝ていた。うるさくて俺は寝れなかった。

 こうして、異世界生活1日目が終わった。

これからは、主人公であるイフリートと神野君の目線での話が増えるかと思います。

 よろしくお願いします。

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