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百六話 飛び級卒業に向けて

目的が決まってから1日が過ぎた。

 レイ先生に飛び級卒業について聞くと、


『チッ、もうその制度を嗅ぎつけたのか。確かにそういう制度はあるな。でもお前じゃ無理だろ。そこまで成績高くねぇし、教師に認められるほどの論文ってどれくらいレベル高いか分かってるのか?』


と言われた。

 まあ、分かっていたことだ。飛び級卒業が今まで一度もあったことがない、という話から容易に想像できた。

 が、その程度でめげる俺ではない。いや、普通ならめげてるんだろうけど、学園生活を終わらせられるなら俺は諦めない。

 と、いうわけで成績の面もなんとかしないとと思いつつ、俺は最初に論文に手をつけることにした。

 成績の方は今まであんまり授業をちゃんとやってこなかったから悪いだけだからな。成績は割とどうにかなるだろ。レイ先生の授業は未だに少し分からないけど………まあ、なんとかなるだろ。


「よし、っと」


その日の放課後。

 俺は今、自分の家の庭にいる。

 論文の内容を考えるために、色々実践しようと思っている。


「主様ー、結界張りましたよー」

「こっちも終わったよ、イフリート」

「ありがとう」


リルファーとリプロに手伝ってもらって、家の庭に結界を張ってもらった。

 これで暴れても多分大丈夫。壊れるとまずいので仮面は外している。


「それでイフリート、何するの?」

「まだ決めてないです」

「『神種』として何か知識を授けたほうがいいかな?」

「んー、とりあえず一人でやってみるよ」

「そう? じゃあ頑張ってね」


と言っても何か良い案があるわけではない。

 とりあえずやってみよう。

 どうせならこの世界ありきの事で書きたいよな。というか他に書くことないだろ。

 この世界でしか使えないもの………まあ、魔力と技能だな。

 書きやすそうなのは…………魔力、かな。

 魔力でできることといえば、


「まずは魔法と魔術」


THE異世界って感じだ。

 まあ、俺片方使えないけど。

 あと他に魔力でできることは………技能で使うことか。『身体硬化』で使ったりしたな。

 し、正直もうない。

 あれ、そういえば……。


「なあ、リプロ」

「なーに、イフリート?」

「降神の時、魔力使ったって言ってなかった?」

「うん、そうだね」

「それはどういうことなんだ?」

「魔力を使って体を作ったの。そこに私の意識を入れて、ね」

「学園で使われてた魔力体と一緒か」

「あの魔王様、もう取り入れたの。手の早いこと。まあ、とにかく。魔力で体を作ることは可能だよ」

「そうなのか、それは良いことを聞いた」


魔力を使って体を作る、か。

 やり方は分からないが、とりあえずこの線で行くか。

 そういえば、だが。トーナメントでオムニヴァーが魔力で俺のこと妨害してきたな。

 あの感じからして魔力は物理的に作用できる。こっちもやり方分からないけど。

 リプロのように触れる体を魔力で作る………うーん、でもこれだけじゃダメだな。


「あっ、そうそう。魔力体を作るのなら、コアを用意した方がいいと思うよ」

「コア?」

「うん、コア。それがないと例え魔力を集めても多分バラバラになって形を維持できないと思うよ」

「なるほど、分かった。ありがとう」


コア、か。

 とりあえずそれっぽいものを使ってみよう。

 これで魔力体を作るというのは、手探りのところもあるだろうが、可能になった。

 でも、やっぱりそれだけじゃダメだよな。

 ここからさらに発展させなければ…………。

 リプロは意識を魔力体に入れた、と言っていた。意識……………頑張れば意識もついでに作れないか? 人工知能みたいに……。


「うーん…」

「どうやら決まったみたいだね」

「えっ、ああ、うん」

「頑張れ」

「主様、いつになく真剣ですね」

「卒業がかかってるらしいよ」

「それでは仕方ないですね」


とりあえずコアに使うのは魔吸石でいいかな。

 コアは魔力体の心臓部ともなるだろうし、魔力を全力で込めてみるか。



   ↓



 『自己再生』の再生速度を最大にして、体力がほぼ0になるのと、体力の最大値になるのを繰り返す。

 それを二時間くらい続けている。魔力切れでダルくなるのも慣れてきたからな。多分今までよりもペースは上がっているだろう。


「主様ー、大丈夫ですかー?」

「ん? ああ、大丈夫」

「あの魔力量、どう思いますか?」

「ただの魔吸石に神器レベルの魔力が込められつつあるね」

「『神種』的にはどうなんですか?」

「まあ、この前神器も作っちゃったしね。私はもう気にしないよ」

「そうですね、主様ですしね」


うーん、まあ、こんなものかな。

 よし、これでコア完成だな。


「主様終わりましたか」

「うん、終わった。コアはできたし、次は魔力体を作らないとな」

「はいはーい、魔力体の作り方教えるよー」

「ありがとうございますリプロさん!」

「よーし、それじゃあ行くよ」


リプロからの説明を一通り受けたので、俺はとりあえず実践してみることにした。


「えぇっと、まずは魔力を集める」


魔力を集める作業だけで、さっきと同じくらいの時間がかかりそうだな。

 まあ、地道に頑張ろう。



   ↓



「多分こんなもんだろ」

「また神器並みの魔力が…」

「今日だけで神器が二つできたようなものだね」


俺は今魔力を手のひらに集中させてそのまま維持している。

 こ、この状態思ったよりきつい。


「この後は確か………!」


これを人の形に整える!

 ぎににに! ちょっ、これ難しいんだけど。

 けど、脳をもう一つ分でどうにかなりそうだな。

 並列思考で脳を増やして、一つはそのまま人の形に整えるのを続けてもらい、増やした方には俺自身の体を魔力感知で正確に把握する。

 俺の体を完璧に把握したら、それを型としてそこに魔力を流し込む。

 これでなんとかなるはず………あれ、上手く流し込めない。


「! リルファー、逃げるよ!」

「分かっています!」


ま、まずい。なんか爆発する……!

 すぐに目の前に閃光が走る。

 さらに激痛も襲ってきて、俺は意識を手放す。

 何がダメだったんだ………。


「司、司!」

「ぐ………う」

「良かった、目が覚めた」

「な、何があった?」


ちゃんとできてたはずだったのに、なんで爆発したんだ?


「多分だけど、神器級の魔力をスムーズに人型にするには時間がかかり過ぎたんだと思う」

「タイムリミットがあるのか………」

「もっと魔力少なくしても大丈夫なんだよ?」

「どうせなら強い魔力体にしたくて…」

「体はどうあれ、精神はやっぱり男の子なんだね」

「もちろんだ」

「リプロ、壊れかけの結界をもう一度張り直しましょう」


極狼と『神種』が協力して張った結界が壊れかけるほどの爆発が起きたのか…………本当に申し訳ないことをした。


「待って、やっぱり今日はこの辺にしよう。イフリートも反省してるみたいだし。これに懲りたらもうしないんだよ?」

「分かった」


はぁ、やってしまった。

 やっぱりもう少し加減、というか手抜きを覚えた方がいいのかもしれない。

 変なところでこだわっちゃうんだよなぁ。


「主様、これからは気をつけてくださいね」

「気をつけます」

「ならいいです」


今回は強力な結界があったから良かったものの、極狼と『神種』が逃げるほどの威力の爆発が起きるのは、絶対にやばい。

 想像しただけでやばい。頑張って建てた自宅がぶっ壊れるのは嫌だ。


「俺、ちょっと外出てくる」


とりあえず落ち着かなければ。


「じゃあ、私もついていきますね主様」

「私はここで待ってるよ」


俺はリルファーと一緒に家の外に出た。人がいるかもしれないので一応仮面はつけている。能面だけど。

 開けた場所まで歩いていくと、しゃがみこんだ。


「はー、やっちまった」

「主様、あんまり落ち込まないでください」

「そうはいかないだろ。お前らを危険に晒したんだから」

「主様がそこまで心配してくれるのは嬉しいですけど、それは主様には似合わないのでやめてください」

「………………分かったよ」


俺は立ち上がると、空を見た。

 飛び級卒業を絶対にしなければならないんだ。落ち込んでる余裕なんてないか。


「悪かった、頑張る」

「それでこそ主様です」


そんな会話をした直後だった。

 空にいくつもの点が見えた。

 あれなんだ?


「なあ、リルファー。空になんかあるんだけど見えるか?」

「空、ですか? えぇっと…………………あれ、人ですね」

「人!?」


嘘だろ、空に人が浮いてるのか!?


「落ちてきてますね」

「落ちてきてる!?」


落ちてきてるの!?

 や、やばいじゃねぇか! 俺の真上………ってことは俺が対処しなくちゃいけないのかよ!

 と、とりあえず2、30人はいるようだし、空中でバラバラにならないように魔術で範囲を絞る。

 そして地面に激突せず、なおかつ怪我がないような魔術の構築を始める。


「主様、どうしますか?」

「一応準備しておいてくれ! 対処できない奴は地面と激突する前に伝えるから救出してくれ!」

「分かりました」


怪我がないようにするには……………柔らかくするか。

 低反発だな。

 ………………………………よし、構築終了。

 ギリギリだったが、間に合った。


「『風枕』っ!」


絞った範囲全てに、魔術を発動させる。

 耐久性もしっかり確保したので、落下の勢いは吸収され、怪我もなかった。

 全員が落ちてきたのを確認して、俺は魔術の厚さを薄くしていき、最終的に地面に下ろした。


「ふー」

「お疲れ様です、主様」

「疲れた」


怪我はしてない様にしたけど、もしかしたら怪我してるかもしれない。

 一応全員に傷がないかを見ることにした。

 えぇっと……この人は大丈夫。この人も……。


「主様、どうしたんですか?」

「怪我がないか調べてる。多分全員大丈夫だと………思、う」


思わず言葉が詰まった。

 この顔……………見覚えがある。


「主様? 大丈夫ですか?」

「え……っと、ごめん。ちょっと待って」


まずい、理解が追いつかない。

 どういうこと………どういうことだ!?

 だって、俺がこの人の顔を見たのは一年以上前。もっと詳しく言うならば地球にいた時だったからだ。

 そう、落ちてきた全員が地球人、しかも同じ中学のやつだった。

 今俺が見ているのは、俺が死ぬきっかけになったストーカーにストーキングされていた、確か『綾っち』とか呼ばれていた女子だった。


「なんで…………こいつらが……」

「綾香から離れろぉ!」


声のした方向に振り返りざま、俺は一撃を喰らう。

 派手に吹っ飛んだ。



   →



「予定より早い。やっぱり干渉してきたか」


リプロがそう呟く。

 『強欲』の魔王が動き出したように、何かが動き始めた。


「これから大変になるな」

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