百五話 決闘 『竜人』
生徒会に入った次の日。
朝、俺が正式に生徒会に入るとの発表があり、クラスの奴らに色々と聞かれたが、喋らずにやり過ごした。
レイ先生にからかわれたりもしたが、とりあえず授業をなんとか終わらせることができたのだった。
問題はもちろんここからである。
「俺と戦ってもらおうか、『龍人』」
わー、いつか見たことある気がするなー。これがデジャヴかなー。
なんて考えている場合じゃない!
また来たのか、えぇっと………『竜人』デビット・ドラグルだったっけか。
申し訳ない、人の名前を覚えるのはできるんだけど、会って間もない人の名前と顔を一致させるのが苦手で。こういうのは小学校とかで培うものなのかもしれないが、俺にはそこらへん経験がな。
っとと、とにかく受け答えを。
こんなこともあろうかと、俺は紙とペンを常備することにしたのだ。
『戦うって、決闘がどうのこうのは当分先になるのでは?』
「俺もそう思っていたが、どうやらもう調整とやらはもう終わったらしい」
すぐに受付まで連れて行かれる。
押しの強いこって。
「あー、この前の。もう決闘は可能ですよ。少しルールが変わったので説明を行いますが…………あなたは大丈夫そうですけど、もう一人の方は戦いたくなさそうですけど」
「仮面をつけているのに、溢れ出てくるその『やりたくないです』オーラは一体どこから出てくるんだ」
だって、やりたくないですし。
残念ながら、俺はもう人と戦いたくないんですよ。
『これからは聖人を目指していこうかと思っているので、失礼します』
「おい待て!」
俺は一目散に逃げ出した。
ふー、なんとかなったか。
「ねっ、イフリート君」
うおっ、生徒会長!?
今どこから出てきたんだよ。
「見てたけど、あなた今決闘を申し込まれたんでしょ? ダメよ、断ったら。生徒会に属する人間は絶対に断っちゃダメなの。あと、負けるのもダメよ」
そんな殺生な………俺は普通にしてたいんだけど。
というか、この前話を聞いた限り、絶対に『竜人』の方が格上だ。そんなのに序列最下位の『龍人』が勝てるわけないだろ。
「勝てるわけない、なんて思った? 大丈夫、あなたなら勝てるわよ」
『序列最下位なんですが』
「でも、トーナメントでは『魔王種』とも戦えていたじゃない。その時点で『竜人』よりも実力はずっと上よ」
『心配を拭い切れないんですが』
「まあ、大丈夫よ。どうせなら圧勝してきなさい」
『生徒会を抜けるという選択肢は?』
「そんなことしたらエミリー王女と協力して、あなたが一生後悔するようにするけど?」
『分かりました、ちゃんとやりますので』
はー、この前もこんな会話した気がする。
魔王様に言われたんだっけ…………つまり生徒会長は魔王様と同列?
いやいや、そんなわけないか。自分で思っているより俺は決闘が嫌らしい。
まあ、仕方ない。頑張るか。
『やります。説明お願いします』
「よしっ!」
「それでは説明を始めますので、奥の決闘場にどうぞ」
奥に通された。
開けた空間が広がっている。いや、どんだけ大きいんだよ。構造的には考えられないんだが。
なんて考えているうちに、説明が始まった。
「今までの決闘では生身で戦闘し、怪我をした場合は回復、治癒魔法で治療をしていましたが、これではいけないということで、改装をされ、魔力体での戦闘ということになったんです」
魔力体? 魔力で戦うの?
ごめん、俺には全く分からない。誰か教えてくれません?
「それでは始めましょうか」
あっ、教えてくれないのね。
そこまで知らなくてもいいのかな。
「あっ、一つ忘れていました。『龍人』イフリート君。君は生身でやってください」
えっ? 嘘だろ、いくらなんでもそれは………一応『自己再生』で死にはしないけど。あるなら、魔力体とやらでやらせてくださいよ。
「魔力体は学園内に貯蔵されている魔力を使って作るのですが、再生者であるあなたは再生しますよね? となると、必要な魔力はとんでもないです。生身でもどうせ死なないですし、大丈夫ですよね?」
大丈夫ですよね? ってなんだよ!
痛いものは痛いんだぞ!
「大丈夫そうなので始めますね」
おい、ちょっと待て! 問答無用すぎるだろ!
「それでは…開始!」
えっ、待って。もう始めるの!?
や、やばい! すぐに構えを…!
と思ったのだが、デビットが動かない。
なんだ、どうしたんだ?
「あー、始めって言っちゃいましたけど魔力体にするのを忘れてました。少し待ってください」
えー、締まらないなー。
まあ、こっちとしても心の準備ができるのはありがたい。
「これで大丈夫です。それではどうぞ」
えっ、特に何も変わってないけど。
デビットの方も困惑してる。
「もう魔力体ですよ。生身じゃないので大丈夫です、もし不具合が起きて怪我しても、すぐにでも治療が可能なので安心してください」
「そういうことなら!」
あなたたちの治療への信頼はなんなんだよ。
っていうか急に襲いかかってくるな!
痛いもんは痛いだろうが! 安心してるんじゃない!
デビットはお構いなしに拳を打ち込んでくる。
ちょっ、俺じゃ反応もできないから!
って、グハッ!
「よし、まずは一発」
くそ、ちゃんと腹に入ったんだが。
普通に痛い。
けど、苦しんでいる余裕はない。デビットは確実に追撃してくる。
技能を発動させて、身体能力を強化。そしてその場から離れる。
すぐに魔力感知を使用して、デビットの居場所を探る。
えっ、真後ろ?
「そう来ると思ってたよ」
まずい、もろに入ってしまう。
倒すのに使おうと思ってたが、まあ仕方ない。決闘開始前に構築しておいた魔術を一つ使う。
風の魔術で急降下を試みる。
あっ、これ間に合わない。
結果として、本当に間に合わず、デビットの攻撃で右腕がもげた。
うわー、痛いんだけど。
そういえば『身体硬化』発動させてなかったな。それでこんなに簡単に。
「お、お前、大丈夫なのか?」
あー、お気になさらず。
多分そんなに時間かからずに治るので。
「再生者とはいえ……」
戦闘中だって忘れてるな。
一応君が誘ってきたんだよ?
まあ、俺としては別にそれでもいいけど。
デビットが我に返った時に、後悔しないようにするためには……仕方ない。
俺はデビットに向かって、魔術を放つ。
もちろんデビットはちゃんと反応して魔法で対応した。
それを見て、俺は治った右腕を見せる。
「もう、治ったのか………遠慮はするなってことだな」
そうです、遠慮されて文句言われるのはこっちなんですよ。理不尽なことに。
全く、そっちから誘ってきたんだから。
「じゃあ、行くぞ!」
直列思考も並列思考も使わないが、それ以外では全力で戦った。
危ない場面には何度もあった。というか正直ずっと。傷はいくつもできたし。
「はああぁ!」
顔面に拳が迫ってきたので、俺はなんとか避けるが、かすった。というか仮面の側面を捉えられた。
そして、顔の皮膚も持って行きながら、仮面は外れた。痛みが走るが、『自己再生』が治してくれるのを待つ。
ん、仮面が外れた?
なっ、あ………………うおーい!
俺は仮面の方を向く。見事に吹っ飛ばされていた。取りに行くのは無理か…。
なんて考えているうちに顔の傷は治る。
仕方ないのでデビットに視線を戻すと、
「お前………素顔そんなだったのか。なんというか……女子みたいだな」
俺は反射的に準備中に構築していた魔術を全て放ち、魔力体のデビットを粉々にした。
「えっ、あっ、し、終了です! 勝者、イフリート!」
全く、失敬なやつだ。
体が女だったのは昨日のことだっての。もう違うし。
というか、デビットは大丈夫だったのかな。思わず準備していた魔術全部使ってしまったけど、魔力体とはいえ粉々にするのはダメだったか?
「はっ!」
声がしたので振り向くと、倒れたデビットがいた。
どうやら魔力体とやらは本物らしい。損傷なし、本当の体には一切影響のないのに、実体はある。
どういう仕組みなのかは気になるが、とりあえず今は置いておこう。
俺は仮面を拾ってつける。
ふー、なんとか終わったな。
急に周りから声が上がった。
「すげぇ!」
うお、びっくりした。
周りを見てみると、ギャラリーがいた。
そういえば魔力感知に引っかかってたな。ん? これ、もしかして俺の顔ここにいる全員に見られた?
ま、まあ、多分大丈夫だろ。
「ありがとう、『龍人』イフリート。戦ってくれて」
急に丸くなったな、お前。
決闘開始前の、あのトゲトゲした感じはどこに行ったんだよ。ギャップがすごいな。
「正直ここまでとは思ってなかった。トーナメントもマグレだと思ってた。悪かった、これからはよろしく頼む」
差し出された手を掴む。
あんまり関わらないとは思うけども、これからよろしくお願いします。
という感じで、決闘は終わった。
今度魔王様に会った時に魔力体の仕組み聞いてみようかな、なんて考えながら教室に戻ると、クラスの奴らが押し寄せてきた。
「なあ、その仮面取ってみてくれよ!」
「取ってみて!」
「可愛かったー!」
あー、見られてたかー。
さすがに甘く見過ぎていたか。
はー。
俺は紙を取り出すと、文を書いて見せる。
『嫌です。あれは不慮の事故なので』
「えー」
不満の声を上げるな。
あれは本当に不慮の事故だったんだ。二度とあると思うな。
おい、やめろ。仮面を無理やりにでも取ろうとするな。
『今日は失礼します』
「あっ、ちょっと!」
俺は技能を使って身体能力を強化して、教室から出た。
よし、危機からは脱した。
と思っているのに、一難去ってまた一難。
「よくやったね、イフリート君。ちゃんと生徒会の威厳を示せたようだね」
『面倒臭かったです』
「まあまあ、そう言わずに。とりあえず生徒会室に行きましょう。活動するわよ」
『活動、ってなにするんですか?』
「それは言ってみてのお楽しみね」
どうしてそこで勿体振るんだよ。
別に言ってくれたっていいだろうに。
とりあえず生徒会長についていく。
あれ? 見知らぬ人が一人いる。
『生徒会長、あの人はどなたですか?』
「あー、昨日はいなかったもんね。紹介するね、二年生の生徒会役員よ。ほら、自己紹介」
「…………ミエラ・イスタッド。よろしく、『龍人』」
『あ、どうも。よろしくお願いします』
なんか冷たい感じだな。
まあ、別に大丈夫だけども。
「今日の決闘見てた」
『はい』
「私とも決闘を…」
『謹んでお断ります』
「即答?」
『1日に二度も戦いたくないので』
本心です。
残念ながら俺の体は1日に二度も戦闘を行えるような体ではないのだ。
『もう今日は無理ですので』
「そう、じゃあ明日ね」
『いや、そういうわけじゃなくて』
「いつならいいの?」
『ごめんなさい、無理です』
「そんな……」
そこまでショックを受けなくても………。
罪悪感を感じつつ、俺は話題を変えることにした。
『それで活動ってなにするんですか?』
「あー…………まあ、ね」
『つまり………特になにもないと?』
「あちゃー、言っちゃったか」
『いや、言っちゃったか、じゃないですよ』
「諦めろ、イフリート。そこの生徒会長はそういう人種だ。気にしたら負けだ」
サウス先輩、仮にも生徒会長になにを言っているんだ。
まあ、恐らくその通りなんだろうけど。
「失礼だなー、サウスは。まあ、ぐーたらしてて大丈夫だよ」
『なんだこの組織』
「生徒会長がやる気を出せばしっかりした組織になるのだが、生徒会長がこの有様だとな…」
「あははー」
馬鹿そうな顔してるな。
こんなんが組織のトップで大丈夫なのか。
「そういえばさー、イフリート君。君の素性調査してて分かったんだけどさー」
『今素性調査っていうとんでもない単語飛び出しませんでした?』
というか素性調査されるほど情報量ないと思うんだけど。
『猫人』の村はともかく、『森人』の森からの情報漏えいはない。
「まあ、冗談だけどね」
本当に冗談だった。
良かった、さすがに大丈夫だろ。
「学園での生活を少なからず見ていたのは本当だけどね」
本当だった。
ただまあ、学園での生活の方を見られているのは大丈夫か。
「あなた、学園の事嫌いでしょ?」
『まあ、そうですけど』
「もしかして知らないの?」
『何がですか?』
「飛び級卒業のこと」
『飛び級卒業?』
「この様子だと本当に知らないみたいっすね」
何? そんなに有名なものなの?
俺は全く知らなかったので、困惑しながら話を聞く。
「飛び級卒業は、三年生相当の学力、実力を持っていると判断され、なおかつ教師が認める論文を提出すると受けられる制度だよ。例え一年生であっても卒業できるの」
「と言ってもあんまりおすすめしないっすよ。今までに飛び級卒業できた人は一人もいないっすから」
『関係ないです、頑張ります』
そんな魅力的な制度があったなんて! 俺としたことが見落としてしまっていた!
やらなくては! できた人が一人もいないなど関係ない!
この学園生活を1秒でも早く終わらせられるならしなくては!
「まあ、お前がするというなら応援する」
「頑張りなさい」
「頑張れーっす」
「その前に戦って」
『ありがとうございます』
よし、目的が決まった。これを決められただけで生徒会に入った意味があったというものだ!
目指せ、飛び級卒業!




