百二話 隠された真実
「あっ、やっと目を覚ました。心配したよ、司」
目が覚めると、視界のほとんどをリプロと名乗った『神種』の少女が占拠していた。
「ここは……」
「まだ教会だよ。皆ー、つか、じゃない。イフリート起きたよぉ!」
散らばっていたらしい他の人たちも集まってきた。
「イフリート、大丈夫だった?」
「急に倒れたから心配しましたよ」
「びっくりしたぞ」
「良かったです」
「面倒くさいからもうやめろよ」
全員に迷惑をかけてしまったようだ。
申し訳ない。本当に申し訳ない。
「もう大丈夫?」
俺は頷く。
「さて、と。イフリートも起きたし、加護の説明しましょうか」
加護……ああ、『神種』からもらえるっていう。
まあ、正直全く知らなかったし、説明してくれるのはありがたいな。
「シスター・リリー。あなたが知っている加護の情報を教えてあげて」
「はっ、はい!」
緊張してるなぁ。
多分俺が見知らぬ人と話す時くらい緊張してるんだろうなぁ。
「加護とは、私たちを見てくださっている『神種』から賜るものです」
「うん、それで大丈夫」
「あ、ありがとうございます!」
「私たちが君たちにあげているものは、ほんの少しの私たちの力。降神板で私たちを呼び出し、許可を得ることでその力を増大させることができるの。それが加護」
許可を得るだけで増えるのか? そりゃまた簡単な。
でも、ほんの少しの力って、どれくらいなんだろう………『神種』からしたら塵芥なんだろうが、俺たちからすると…。
「ほんの少しはほんの少しだよ。うーん、君たちが保有している魔力の大体千分の一くらいかな」
えっ、俺今口に出してた?
「出してないよ。君の思考を『再現』しただけ」
再現……? そんなことができるのか?
「そりゃあそれを司ってる『神種』だからね」
『神種』ってのはすごいんだなぁ。
「話を戻すね。君たちが加護を貰えれば、あげた『神種』と君たちによって、種類は変わるけど、それでも技能や固有技能、もしかしたら神技能がもらえるよ」
あっ、そうだ。
どうせならこの機に聞いてみるか。
「はいはい。皆ちょっと待っててね」
またもや俺の思考を『再現』したようだ。
俺を連れて、他の人から聞こえない位置まで行ってから、
「聞きたいことがあるんだね?」
「どうして俺が神技能を持ってるんですか?」
「敬語はいらないの」
「…………分かった。なんでだ?」
「私が司に憑依するためだよ」
「憑依? どうして?」
「あなたが致命傷を負った時、もしくは死んだ時、私がそいつを殺すためだよ」
致命傷? 死んだ?
ってことは………二重人格のもう一人って!
「うん、私だよ」
「そ、そうだったのか。というか今までに俺は死んだことあったのか!?」
「首飛んだことあったでしょ、森で」
「そういえば……そんな気も」
「そうでしょ?」
『条件を達成しました。神技能『???』の封印を解除。
神技能『???』から神技能『神之怒』へ変化しました』
「うわ、なんか解除された」
「良かった。ちゃんと解放されたね。それでようやく私は完璧な憑依ができるよ」
「どうして俺なんかに神技能なんて持たせたんだ?」
「それはまだ言えないかな……とりあえずもう戻ろう」
言えないのか………ん? 『まだ』?
いつかは言えるってことか?
「ごめんごめん、それじゃあ話続けるね」
まだなんか話があるのか?
「というわけでイフリートに加護を与えようと思うんだけど………実はもうあげちゃってるんだよね」
まあ、だろうな。ステータスに『神の加護』ってあるし。
俺は特に驚かなかったが、他の人は大いに驚いていた。
「降神板もなしに神から加護を!? そんなことはありえません!」
「それがあり得るんだよ。イフリート、降神板にもっと魔力を込めてくれる?」
別にいいけど。それで何が変わるんだ?
とりあえず降神板の前に立ち、俺は魔力を込める。
すると、今度は普通に光り輝いた。
そして映し出されたのは、
「こういうことなんだ」
収まりきらないほどの『神種』だった。
ど、どうなってんだよこれ。
「こ、こんな多くの『神種』の力を受けているというの!?」
「すごい」
「これみんな『神種』ですか!」
俺も驚いてる。
「というわけでこれだけの『神種』から力を受けてるから、降神板なんてなくても加護をあげることができるんだよ。そういうことができる『神種』がいるからね」
やっぱり『神種』ってなんでもありなんだな。
「でもこうして降神板を使わないと技能の方はあげられなかったから今から渡すね」
技能もらえるのか。ありがたい。って、あれ? 嘘? なんでだ?
と、とりあえず……『神種』の種類に応じてもらえるんだっけ。リプロは確か『再現神』だから『再現』に関することかな?
「あなたに渡すのは私が司っている概念そのもの、『再現』だよ。まあ持ってる人は他にもいるから、ただの技能になっちゃうけどね。はい」
えっ、特に何もされてないけど。
「もう使えるはずだよ」
そうなの? じゃあ後で試すか。
「うん、それでいいと思う。じゃあ他の『神種』は帰っていいよ」
降神板で映し出されていた『神種』たちが消えた。
これであとはフィンレーだけか。
早く帰ろう。
と思っているとレイ先生が、
「もうだいぶ遅いな。お前ら先帰ってろ。フィンレーは俺が連れて帰る」
「分かった」
あー、俺の家に帰りたいんだが。
「イフリートの先生? イフリートは自分の家に帰りたいみたいなんだけど」
「む、そうなのか? あー、なるほど。『神種』を学園に置いておくわけにもいかないしな。よし、明日には帰ってこいよ」
分かりました。
「分かったって」
「よし、それじゃあお前ら解散」
「皆、良かったらまた来てね」
リリーさんにそう言われて、俺たちは各自帰った。
さて、俺たちは……リルファーに頼むか。
「そうだね、極狼ならすぐかな」
えぇっと、近くに人はいない。
じゃあ声出してもいいか。
「リルファー」
「はい、なんでしょうか? って『神種』!? どうしたんですか、主様!?」
「今日降神板使ったら出てきた」
「どうも、『再現神』リプロだよ」
「『再現神』……『司神』ですか! まさかそんな『神種』に加護をもらえるなんて、さすがは主様です!」
「いや、別にどんな『神種』から加護貰っても大丈夫なんだけどな」
「それは聞き捨てならない! 私の加護じゃダメなの?」
近い近い。
距離の詰め方が嫌いなタイプだ。
「わっ、ごめん。でも……ダメなの?」
俺より背高いんだから、上目遣いじゃなくて見下ろすだけだろ。
それで心惹かれるような俺じゃないよ。
「違う、俺が既にできることのような気がしたから…」
そう、俺は前世の状態から、感覚の再現が可能だった。
例えば、車酔いした時に、車酔いしてない感覚を再現することで酔ってない感じにするとか。そんなくだらないことにしか使ってなかったが、数少ない俺の特技だった。
俺が使える特技は三つだけ。
一つ、直列思考と並列思考。
二つ、嘘の可視化。
三つ、感覚の再現と再現のために必要な記憶力。
これらだけはあった。
なので勉強とかは記憶力でなんとかなったりした。
正直残りは日常生活で使えるものじゃない。
「そうでしょうね、だってあなたが前世から使えた、あなたが言うところの感覚の再現は私の加護によるものだもの」
「え?」
「これから先はイフリートの家で話しましょうか。極狼、お願いね」
「わ、分かった」
帰りは狼になったリルファーの上に、前に俺、後ろにリプロ、という感じだった。
「えへへ、司をこうして抱っこできる日が来るなんて………天界から見てる時何度もこうしたいと思ってたんだぁ」
まあ、前に俺、後ろにリプロ、というよりリプロが俺を抱っこしている、という感じだが。
司と呼ばれることについては今は突っ込まないことにする。
というか天界から見てたのかよ。
「司に力を渡してたからね」
そんな理由で人のプライベートって盗み見されるんだ。
これからは気をつけよう。
リルファーのおかげですぐに家には着いたので、リビングで話を再開した。
ちなみにアーノルドたちは驚きはしたものの、普通に接してくれた。
「話の続きを」
「そうだね。まずイフリート、あなたを転生させたのは私」
俺は思わず殺気を放ってしまった。
嘘は吐いていなかった。
「落ち着いて」
「落ち着けるか。なんでだ、どうして俺なんかを転生させた?」
「あなたを放っておくわけにはいかなかったから」
「…………理由になってない」
「……今は言えないっていうのが正直なところよ」
「だから……理由になってないって言ってんだろ!」
なんで言えないんだよ。
正当な理由もなしに人を転生させるなよ。せめて『想定外の死』とか『良いことしたから』とか『輪廻の輪から外れてしまったから』とか、そんな理由でもいいんだ。
言ってほしい。どうして理由もなく、もう一度生きなきゃいけない。大切な人の死を見なくちゃいけない。辛いだけだ。
「ごめん………今は、言えない」
「………そうか。悪い、頭に血が昇った」
「とりあえず理由があって、あなたに私の加護を与えて、感覚の再現を可能にしたの」
言えない理由………なんだそれは。
俺に言えば何か起こる?
強大な力に抑え付けられて言えない? いや、それはないか。序列1位の『神種』だぞ。それ以上はない。
『魔神』側にメリットがあるから言えない?
…………………まあ、今のこの状況じゃ判断なんてできないか。
「そういえば司、ローブはどうしたの?」
「ローブは学園の先輩に貸してる。どうせ龍人以外使えないし、使えても体力が再生する技能でもないと死ぬから大丈夫かなって思ったんだけど、ダメだった?」
「ううん、全然。あれ、一応私がイフリートにプレゼントしたものだから、どうしたのかな、って」
「そうだったのか……何度もお世話になりました、あのローブには。ありがとう」
思えば寝るとき以外ほとんど一緒だったからな。機能もモリモリだったし。
『自己再生』に次いでお世話になってるかもな。
「良かった、使いにくいとか言われたらどうしようかと思ってた」
「すごい使いやすいぞ」
「そっか……使いやすいか。えへへへ」
よく笑う神様だな。
この後どうしようかと思っていると、後ろから急にアーノルドの声がした。
「旦那様、久しぶりにこの家の風呂に入るといい」
「ありがとう、でもあんまり驚く登場の仕方をしないでほしい。寿命が縮む…」
「む、旦那様なら常時魔力感知をしているかと思っていたのだが…違ったか」
「まあ、たまにすることもあるけど、ほとんどしないよ」
「了解した。『神種』リプロ様もいかがでしょうか?」
「入る!」
ということで風呂に入ることになった。
久しぶりの家の風呂だ。
寮だと皆一気に入るし、俺男のアレがないから気づかれないようにしてて、あんまり長く入ってられないから、今日は長風呂しよう。
脱衣所で制服脱いで、浴場に行く。
「久しぶりの我が家の風呂だ」
よーし、一人でゆっくりするぞ。
髪と体は手早く洗って、俺は湯船に浸かる。
「はー、気持ちー」
俺、今日このままここで寝れる。
眠くはならないが、眠くなってきた気がしてきた時、声が響いた。
「司! そっち行くね!」
「何、どういうことー?」
「その通りの意味だよ!」
女子風呂と男子風呂の間には、なかなかの距離がある。
が、リプロはそれを飛び越えてきた。
眠くなった気など一瞬で吹き飛んだ。
「なっ!」
「司!」
盛大に水飛沫が飛んだ。
しかし、俺はそちらにそれほど意識を向けられなかった。
「な、ななななななななななななな、何してんだあんた! 離れろ! 離れてください!」
リプロが抱きついている。
裸の女子が………だ、だめだ考えるな!
で、でも……当たってる……いや、やめろ! こんなところで鼻血出して神様困らせるな!
「せっかく顕現したんだから、したかったことしないと」
「せめて何か言ってからにして欲しかった……」
「だから言ったじゃない。そっち行くねって」
そういう意味だったのか。
いや普通はそう思わないよ!
「どう、司? 私、スタイルには自信あるんだけど」
「ぬぐぐ!」
お、押し付けないでくれ!
離れてくれ! そろそろ限界が………!
「ごめんね?」
「え?」
「何も言わずに転生させてしまったこと、本当に反省してる。いくら神でも問答無用で転生なんてしていいことじゃない。でも、これは必要なことだったから」
「なんで必要なのかは……言ってくれないんだろ?」
「あはは…ごめん」
「分かってたけどさ。まあ、こっちでの生活が全部悪いものだったとは思ってないよ。悪いこともあったけど良いこともあったから。しかも良いことの方が多い。転生したのも悪くないって思ったのも確かだよ」
偽りなしの本心だった。
前世より、今の方が格段に充実している。
「そう……良かった」
「ああ………それで、いつ離れてくれるんだ?」
「もうちょっと」
「おい」
「司、髪綺麗だね」
「あからさまに話を逸らすな。そうだ! ちょっとこの体に文句があるんだが! あとなんで俺の前世の名前知ってるんだ!」
「名前については私が転生させたんだから、当たり前じゃない。イフリートよりこっちの方が馴染みがあるでしょ?」
「まあ、それはそうなんだけど。じゃあ体についてなんだけど! なんでこんなに小さいんだよ!」
「前世の身長と同じにしただけだよ?」
俺は何も言えず、リプロに抱きつかれながら脱力した。
確かに身長は前世とほとんど変わらない。
「赤ちゃんからとは違うから、極力動きやすいようにしたんだよ」
「なんで俺は転生なのに赤ちゃんからじゃないんだ?」
「それは……まあ、その偶然?」
「そんな分かりやすい嘘を吐くな。俺に嘘が通用しないことも知ってるんだろ? どうせ言えない理由がまたあるんだろ?」
「あはは、その通り」
これにも言えないような理由が。
だあぁ! 気になる! けど聞けない!
ムズムズする。
「じゃあなんでこんなに髪長いんだ?」
「それは私の趣味」
「さらっと嘘つくんじゃねぇ!」
「うわぁ、暴れないで! ごめん」
「これもか………よく分からんな」
何故俺を転生させたのか、何故神技能を与えたのか、何故『再現』の加護が前世から与えられているのか、何故転生なのに赤ちゃんからでないのか、何故髪が長いのか。
それら全て、何故なのか、その理由を話せない。
もしかしたら繋がるのかもしれないが、今の俺の情報量では確証にまでは至れない。
「まあ、これから少しずつ話せていけたら、とは思ってるよ」
「そうか。じゃあ楽しみに待ってるよ」
「うん。えへへ、司ちっちゃくて可愛い」
「ちっちゃいも可愛いも言わないでくれ。男だから」
「でもアレないじゃない」
「そうだ! それも! なんでだ?」
「こんな可愛いのにアレがあるのもどうかと思ったから私が取った」
俺は『血への渇望』を発動。
が、解けなかった。
「どうしたの急に?」
「お前だったのか! 許さん! そのせいで俺は色んなことに気を遣わなきゃいけなくなったし、女と言われても否定しにくくなったんだぞ!」
「だって、そんな可愛い顔なのに、アレがついてると思ったらちょっと…」
「ううぅぅ」
「あー、泣いちゃった。よしよし」
「泣いてない!」
「泣いてるじゃん、大丈夫?」
「あなたのせいなんだよ…」
よしよししないでほしい。
これ誰かに見られたら、俺は生きていけないかもしれない。
と思っていると、ガラッと扉が開いた。
その方を恐る恐る見る。
「あー、その、なんだ。すまない旦那様。まさかそこまでの関係だったとは知らず。だが、出来ればそういうのは我々が入らない女湯でやってほしいのだが」
「あわわわ」
「あああああああああああっ!」
俺は羞恥で死にたくなった。
だというのに、リプロに抱きつかれていて顔を隠すこともできない。
「だって。どうする司? あっち行く?」
「俺はもう出る!」
「何してるんですか主様!」
リルファーの声もしたが………もう知らん!
というかリプロは羞恥心とかないのか!
「離してくれ!」
「う、うん分かった」
俺はスタスタと早歩きで脱衣所に行くと、体拭いて服着て、自分の部屋に入ると、鍵をかけて布団に潜り込んだ。
「つ、司? 大丈夫?」
「大丈夫……でも今日はそっとしておいて。今日寝る部屋はアーノルドに聞いて」
「分かったよ、ごめんね?」
「うん、気にしてないから」
リプロの気配が無くなったのを確認してから、俺は盛大にもがき苦しんだ。
「うがああぁ!」
死にたい! 死にたい!
男としてあるまじき姿を! もう男としての尊厳なんてなかったし、もう女にでもなってしまえ!
俺はそう思いながら、俺はふて寝した。
↓
「……様! ……………様! 主様!」
「司!」
大声が聞こえてきて、俺は起きた。
あれ? なんか服が脱げてるんだが。俺そんなに寝相悪かったっけ?
「起きましたか主様! 一体どうしたんですか!?」
「どうしたんだよリルファー。そんなに慌てて」
「司、驚かないでね」
「驚く? どういうことだ?」
とりあえず服を着ようとして立ち上がるが、どうにも体が動かしづらい。
何があったんだ?
「主様………ゆっくりと視線を下に下ろしてみてください」
「下に? 別にいいけど」
俺は言われた通り視線を下げる。
すると、ありえない光景が広がっていた。
「ど、どうなってるんだ?」
「こっちが聞きたいですよ主様!」
「い、いや俺も何が起きてるのか…」
僅かにではあったが、胸が膨らんでいた。
昨日までこんなものはなかった。
気づけば………股間の辺りに違和感も……。
おもむろに触ってみると、どう考えてもおかしかった。
これも昨日までこうではなかった。
よく思い返せば、鱗も角もない。龍人としての特徴の一切がなくなっている。
「え………え? え!?」
「司、落ち着いて! お願い!」
この体の特徴。
そして心なしか、低くなった目線。
も、もしや…………………いや、昨日思ったからって、さすがにそんなことは!
「主様が………女の子に……」
その一言で俺は全てを完全に理解した。
理由は分からないが…………体が女になっている。
「いや、どういうことだよ!?」




