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九話 異世界転生お決まりの『あれ』

とりあえずベッドから降りようとしたが、ムーヤがくっついているせいで全然、降りることができない。


「どうしたものか。起こすわけにはいかないし」

「どこかにお出かけに?」

「ああ、そんなところだ。ムーヤ、どうしよう。どうすればいいのか分からないんだけど」


手間取っていると、ドタドタと足音が聞こえた。

 誰だ?俺なんぞを心配する輩は。


「イフリート目覚めた!?」

「ああ、ルナか。お前にも心配かけたみたいだな。大丈夫だ」

「あんまり無理させちゃだめよ?」

「分かってる。そう…大丈夫だったんだ」


胸をなでおろしているルナ。てか、ルナか。

 ちゃんとこいつらを守る、絶対に。そうさっき誓ったのだ。いや、さっきかは知らんが。寝ている時間知らんかったから。

 そのために自分にできることが知りたいんだけども…ムーヤさん!どいていただいてもよろしいでしょうか!?

 健康!子供は健康でいいんだ!そこをどうこう言うつもりはないんだ!でもね、どいてくれるくらいはしてくれない!?

 ケモミミをチョンチョンつつく。もちろんめっちゃビクリながら。


「ううー、ふへぇー」

「ダメだ、起きねぇ!」

「見事、もういっそ見事」


どうしたものか。

 ムーヤさんが起きない限り、俺、どこにも行けないじゃん。それは嫌だな。

 俺は自由でありたい。

 一応言っておきます。これは引きこもりの発言です。説得力が多少ありますね。嘘です、ゴメンなさい。

 んなことはどうでもいい。

 よし、強行手段だ。


「ルナかミーヤさん、ムーヤちょっと退けてくれない?」

「いいですけど…大丈夫ですかね?この子、起きてからの機嫌の悪さで定評があるんですけど」

「大丈夫だ。なんとなくだけど。そんな気がする」

「そうですか、じゃあ、大丈夫ですね」


あんまし信じないで!適当に言った感が否めないから!

 ここの人、詐欺とか大丈夫なのかな?

 まあ、ないとは思うけど。異世界だしー。

 ミーヤさんとルナが俺からムーヤを引っぺがすために、力を込める。

 思ったよりあっさり離れた。


「ありがとう。これでとりあえず動ける」


検証する場所は……体力調べた場所でいいかな。

 あそこ開けてるし。それでいて面積もあるし。

 立って、動けることを確認する。

 うっし、大丈夫と。体に不調なし。


「ちぃと外に出てきます。すぐに…かは分からないけど戻るから」

「私もついてく」

「おう、ウェルカムだ」


とりあえずは移動も完了。

 準備もできた。それでは、


「検証開始だ。まずは…何から始めようかな?新しいスキルからにしてみるか。取ったのは、えーと『死への執着』と『血への渇望』か。『死への執着』は使ってみたから『血への渇望』の方を優先するか」


『死への執着』は戦闘のど真ん中で、ぶっつけで使った。。これからはそんなことがないように気をつけよう。

 体の変化としては、身長は特に変化なし。声も際立った変化は見られない?いや、聞こえないか。

 髪は伸びた。色も変わった。腰のあたりまでは余裕であるよ。

 鱗がある。あ、あるといえば、角もある。

 あれ、羽がある。異世界来た始めの時は余裕なくて背中までは見えてなかったのか。羽は相当小さい。これは飛行には使えない。

 まあ、飛べたらいいね、くらいで考えておこう。

 身体能力は絶望的。小学生にもかけっこで勝てる気がしません。

 ……なんか虚しくなってきたけど気にしない。次は技能だ。

 『死への執着』の効果は見たけど、『血への渇望』はまだ見てないな。

 ステータス、開け開け開けー。うし、開いた。

 『血への渇望』は、っと。見つけた。凝視すると、詳細な効果が出現する。


技能:『血への渇望』

   効果…血を目視する、または摂取することで一時的に身体能力が向上する。

   目視…2秒間

   摂取…1分間


なんか限定的だな。俺の身体強化系の技能、全部時間制限つきなんだけどね。

 戦いにくいな。

 戦うことがまずないと思うけど、もしかしたらあと少しで倒せるのに、身体強化が切れて『逃げるんだよぉ〜』ってならないよな。

 逃亡するのも手だが、ちゃんと正々堂々と戦って勝ちたいもんだ。

 でも血液を目視するだけで身体強化されるなら緊急回避とかに使えるかも。


「あ?待てよ、この技能『自己再生』と相性いいんじゃ…」


こんな感じでさ。

 意図的に怪我をします。

 流れた血液を目視する、または摂取します。

 『血への渇望』の効果で身体能力が強化されます。

 怪我は『自己再生』で治ります。

 失った血液もおそらく『自己再生』で元に戻ります。

 無限ループできんじゃね?え、すごくね。これで俺も『俺TUEEEEEEE!』できるんじゃね?

 おお、おお!夢が広がりますね!やべ、顔がにやける。

 そのために『自己再生』でどこまで出来るのかを調べなければ。


「そういえば『自己再生』には2日間、お世話になりっぱなしだな。今度、DOGEZAしよう。もう様付けしよう。『自己再生』様だ。なんかかっこいいですね」

「何言ってるのか分からない。なぜ技能に…敬語?」

「それが男ってもんなんです。漢と書いてオトコと読むように。本気と書いてマジと読むように」

「全く理屈が分からない」

「理屈なんていらないんです。かっこいいかどうかなんです」


ガラにもなく、熱く語ってしまった。俺の中では、だけど。

 まあ、『自己再生』様の性能を見極めないければ。

 『自己再生』は欠損した部位、消費したパラメータを再生、修復させる能力のはずだ。

 だが、この消費したパラメータという点が引っかかる。

 俺の見ることのできるステータスでパラメータと呼べる能力値は、身体能力と体力のみ。

 しかも、身体能力の表記は体力以外皆無。

 体力は無限。

 ふざけすぎだろ、ここの神!

 あ、種族としているんだった。めっちゃ強くなったら会おうと思えば会えるんじゃない?

 強くなれるかは別として。いや、別にしちゃダメか。

 あと、夢の中に出てきた神種。なーんか見たことある気がするんだよなぁー。

 思い出せないんだけども。


 気を取り直して、検証開始だ。

 とりあえず、自分の指にそこら辺に落ちていた石を使って、傷を作ってみる。

 血は出た。指に血が乗る。血は残った。だが、血を頬に拭ってみると傷は塞がっていた。

 再生までは一瞬。なるほど。血が残ったから良し。

 血まで消えるとかだったら、最悪だったんだけど。

 大きい怪我でもすれば、血がそこらへんに飛び散ることになる。それを少量でも見るだか、飲むだかできれば、身体能力の強化ができる。

 結構使えるね。何がって、『血への渇望』に決まってるだろ! だって強化の手段が二つあるし。目視は難易度が低い分、身体強化の持続時間は短い。摂取は難易度が戦闘の最中なら難しいが、その分持続時間も長い。

 応用が利くのだ。ありがたい限りだ。


「次はどのくらい強化されるのかだよね。『死への執着』は持続時間も体感的には長かったし、強化も強力だったけど『血への渇望』は難易度が『死への執着』よりも低いから、どのくらいかは気になるところだ」


とりあえずは摂取でいいか。試すにしては目視の方は効果時間が短すぎる。いつかはこっちも試すけど。

 先ほど使った石で、また指を切る。出てきた血を舐めてみる。

 視線を感じてルナの方を向くと、『何?こいつ』みたいな顔で見ていた。

 違うの!これは技能を検証するためなんですよ!不審者じゃないから!

 本当に言うのは無理なので、心の中で叫んでおきました。

 そんなことは今はいい。変なこと考えてると効果時間が切れてしまう。

 走ってみる。

 うわー、速いお。

 はい、スンマセン。『お』ってつけてスンマセン。しゃしゃってスンマセン!引きこもりになってスンマセン!15年間生きてきてスンマセン!生まれてきてスンマセン!

 猫人族のスピードよりもちょっと遅いくらいですぜ?これが1分間、だと!?

 チートやんけ、この技能。今更ながらすごい技能を手に入れてしまった。

 『死への執着』もいざとなれば、『自己再生』で治せるかもしれないから、頑張ればものすごい強化できる。


「スッゲェ! あ、もう切れた。なるほど、なかなか短いな、1分間。使い所に気をつけなければ。血を舐めるのも結構隙大きそうだし」


うーむ、まあ、仕方ない、と言えば仕方ないけど。強いもん。

 ただ、犠牲が必要なこの技能たち。

 何か新しい技能を手に入れる必要がある。

 もう、まんま『身体強化』とかないかな。聞いてみるか。


「なあ、ルナさぁ。なんか身体強化できる技能とか持ってない?持ってたら習得方法とか教えて欲しい」

「持ってるけど…あんまりあてにしない方がいいと思う」

「大丈夫だ、問題ない。怪我とかなら心配すんな。治る!」

「じゃあ、腕立て、できるところまで。できれば1000回くらい」

「そんなにできるんですかね、俺は?」

「出来る…と思う。きっと…多分」

「確証はないのね。自信なくなってきた。ただでさえなかったのに…」


とりあえず、やってみるしかないか。

 腕立ての体勢になって、腕立てを開始する。

 おい、待て。腕の筋肉がなさすぎて、全然体が下がらない。

 ぅおし、ようやく下がった。体が下りきりましたよ、みなさん!

 あ、でもこの状態維持するの無理っぽい。

 よし、上げなければ!これもキツイです、はい。

 もー、この体イヤ!日常生活に支障が出るレベルで身体能力が低いんだもん。

 なんて考えていたら、ようやく上がった。1センチくらい。

 これを1000回?無理くさくね?てか無理じゃね?

 これ今日中に終わる?無理じゃね?


「今の一回で…どのくらい時間食った?」

「2分くらい…」


はい。確信しました。

 今日中に1000回腕立てするの無理!

 計算してみ?

 Q、2かける1000わる60。

 A、約33時間。

 1日に収まってねぇよ! 約9時間足されてるよ!

 早めに身体強化系の技能習得できればいいんだけど。

 習得できるかな。やるだけやるけども。

 今日中に終わらなかったら諦めよう。他にも時間使わなきゃいかないし。

 ん?あ、なんか間違えた気がする。まずいな、計算できないくらい動揺してしまっている。とりあえず2分で腕立て1回分の時間なのは確実なので別に困らないしいいか。


 現在、15回目。

 つまりは30分経ってます。

 辛い。何が楽しくて30分も腕立てせにゃならんのだ。

 いや、やろうとしたの俺だけども。

 割と本気で、くるものがある。

 引きこもりだった俺には、もう一生分の腕立てをした気がするよ。

 してないんだけども。全くもってしてないんだけども。


「もう帰りたい。帰って寝たい。ルナ、これ終わったら回復魔法みたいなの、かけてくんない?」

「了解。かけるから、頑張って。ファイトー」


他人ごとみたいな風に言うんじゃないよ!

 いや、実際他人ごとだけど。一応『自己再生』で治るか分からなかったから、頼んでみた。



 頑張りました。

 本当に頑張りました。やってやりましたぜ。


『条件を達成しました。技能:『身体強化』を獲得しました』


ゲットしましたぁ!

 あと、割とどうでもいいことだけど習得じゃなくて、獲得だった。本当にどうでもいいけど。

 おっと、そんなことよりも効果はどんな感じかな?

 ステータス、開く開く開く開く。しっかりと『身体強化』の技能を発見。詳細を見る。


技能:『身体強化』

   効果…一定時間、身体能力を強化する。

   効果時間…5分間


………一つ言っていい?俺、頑張ったよね?

 なんでまた、効果時間付きなの?

 そういう運命なの?

 確かにさ!100回目くらいで手に入ったけど!あんれぇー?すっくねぇなー。とは思ったけど!

 これは…戦い方が相当独特になるぞ。工夫も強いられる。どうしたものか…。

 まあ、今考えても仕方ないか。

 それにしても『自己再生』の能力が凄まじすぎた。腕立て中、まるで痛みを感じなかった。これ、勇者が持ってるようなチート能力じゃね?なんというものを手に入れてしまったのだ。

 転生特典みたいなものなのかな?神様っぽいのにはあったけど、妹に会いに行け、みたいなことしか言ってこなかったし。てか、種族をもう少し変えろよ。なぜに最弱の種族にしたんだよ。

 何度でも言おう。無双してぇ!

 もしも、神種に会ったらはっ倒そう。多分無理だけど。逆にはっ倒されるけど。

 むしろ清々しいまでにボコボコにはっ倒されよう。


「っと。『身体強化』の性能はどのくらいなのかを調べなければ」


そういえば、俺が持っている技能って大体、自動で発動するから技能ってどうやったら発動するのか分からない。念じれば発動する?

 まあ、やってみればいいか。為せば成るさ。

 発動発動発動。


『技能:『身体強化』を発動します。終了までのカウントダウンを開始します』


発動した!?

 念じれば発動するのか。念じるの多くね、この世界。

 まあ、いいや。

 いや、考えてる場合じゃない。発動持続時間は5分間。のんびりしてる暇はない。

 とりあえず走る。

 おお、おお!『血への渇望』より遅い。ちょっと、ちょっとだけ。

 まあ、そりゃそうか。持続時間が『血への渇望』よりも長いのに、強化の具合が『血への渇望』より強かったらぶっこわれですよ。あくまで俺の見解だけど。

 取得条件も『身体強化』の方が難易度低いし。

 安心しろ。『身体強化』、お前は明らかに『血への渇望』よりも需要がある。お前の方が発動までの隙がないからな。

 ここまで苦労して獲得したのだ。使わないわけなかろう!


「やはり変な戦闘方法になりそうだ。今度、何かしら戦術考えとかないと」


上を見上げる。日はギリギリまだ落ちていない。

 もう午後5時くらいだろうか。寝てた時間がありすぎたな。

 明日も検証だの技能獲得にいそしまなければいけなさそうだ。

 暗くなれば、活動しにくくなる。

 とりあえず『身体強化』を解除したい。今日、他に使う機会は…ないと願いたいが念のためというやつだ。

 念じりゃ解除できるかな?解除解除解除解除。


『技能『身体強化』を解除します。効果持続残時間、1分』


残り1分と。割と時間使ったな。だが、持続時間も長い。俺の元の身体能力に比べれば、強化の度合いは大きい。ありがたい限りだ。

 考えていると、ルナが訝しげにこちらを見ている。


「ねえ、イフリート。全然大丈夫そうだけど、回復魔法、本当にかけるの?」

「えっ?ああ、そうか。ごめん!大丈夫だったわ」

「そっか。回復魔法、最近全然かけないから腕上げられると思ったんだけど…大丈夫か」


遠慮している、のは分かる。でも、なんで多少残念そうなんだ?

 よく分からん。

 それはそうとして、この後どうしよう。

 今から冒険者を街に連れて行くには、時間が遅すぎる。てか、俺行けない。かと言って、他に何かするには時間が余るし。

 はっ!そういえばマルサさんとムルサさん!もうジャンケン終わったかね?

 見に行くか。目を慣らす。そう、今から。


「ルナ、ちょっとマルサさんとムルサさん、見に行かない?」

「ああ、そういえば。ミーヤの結婚相手が決まるわけだし。気になる、といえば気になる…かも。でも…ち、ちょっと行きにくい」

「ああ、分かった。気が進まないのは分かった。しかし、しかしだ。お前は乗り越えなければならない。ゆえに行くぞ!」

「くっ! 了解…です」



というわけで、マルサさんとムルサさんがいる場所にまでやってきたのだが、音を聞いてくれ。

 ブオンブオンブオンッ‼︎

 はい。まだやっとるんですよ。

 あいこ、多すぎね!?

 てか、今まで全部あいこでしょ!?ありえねぇ!

 どんな確率!?

 風の被害はすごいが、そんなことよりもすごいことがあるのだ。

 村の人が、全く気にしていないんだよ!

 この騒音が気にならないと?エグいなぁ、おい!


「いつまで続くのやら…。っと、見に行かないと」

「あれ、見えるかな」

「えっ!? ルナでも見えない可能性が?ならば、俺に見える可能性があるはずがない。よし、飯を作るのでも手伝いに行くか」

「いや、イフリートに怪我されたら困るから」

「怪我、治るんだけど」

「そういう問題じゃない…」

「はい、了解です。怪我しないように善処します。そのために飯の手伝いをするのを断念します」

「…よろしい」


という会話があったわけなのだが、結局来てしまった。

 小学生がやるような遊びを真剣にやっている大人二人。

 割とシュール。というかシュール。


「おーい、お二人さーん!そろそろ夕飯ですよー!」

「「それまでに終わるように善処します!」」

「うわー、息ぴったりー」


まあ、終わるだろう。大丈夫だろう。多分…きっと…。

 あ、そういえば夕飯で思い出した。


「今日、どこで夕飯食うんですか?」

「どこでもいいけど…イフリートの希望次第だと思う」

「………いいか?俺の前世には夏に長期休暇が設けられる。その長期休暇では幾つかの課題が与えられる。その一つ、代表としてあげられるのが『自由研究』。その課題のせいで毎年数え切れないほどの数の人間が悩んだ。

 んま!それは置いておいて、俺が言いたいのは自由ほど苦労するものはない。

 自由とは!人間が求める至高の一つであるとともに人間からするべき事を奪う敵なのだ!」

「うん、で?」

「なので、俺に意見を求められると困るわけです!」

「なんで…遠回しに言ったの?それ言っちゃえばいいだけじゃない?」

「そういうもんじゃないんです。まともに会話する機会がここ2、3年なかった俺には会話は相当必要なのです」

「そういうものなの?」

「コミュニケーション大事! 超大事!」


一通り叫んで満足しました。うるさくしてごめんなさい。

 ルナに自由の辛さを分かってもらったところで、問題が解決していません。

 どうしよう。どこで食べよう。

 腕を組んで考えていると、不意に後ろからズボンを引っ張られた。引っ張られた場所からして小さい。

 この位置を引っ張る身長の人間に一人、心当たりがある。ただ、後ろを向くのが怖い。殺気が…漏れまくっている。向いたら殺されるとかありそう。もうさ、向かなくてもいい?いや、向かなくても殺される可能性がある。

 クッソ!後ろを向くしかない。衝撃に備えろ、俺の体! 殺されることを覚悟しろ!唸れ、『自己再生』!

 茶番はここらへんにして。後ろを今までに比べ、さらにぎこちない動きで向いていく。

 やっぱりいたよ。殺気ムンムンで立ってるムーヤさんが。


「……………」

「……………」

どうしよう。この静寂が怖い。もうヤダァ!

 なんていう?なんて言えば殺されずに済む?ここはむしろ別人を装ってみる?やってみるしかない。ただでさえ年下との会話回数は少ない。経験のない状況になれば俺は賭けに出るしかない。


「や、やあ。僕と君とは初対面だけどー、何か用かなぁ?」

「……………」


まずい、沈黙だ。いや、分かってたけどさ。こんな意味分かんないこと言ったら沈黙が支配することくらい分かってたけどさ。

 残り時間の少ない『身体強化』の発動をいつでもできるように調節。かつ、『血への渇望』発動のため、いつでも怪我を作り、血を摂取できるようにする。

 ものすごい愛想笑いを浮かべながら、頭で考えていく。これならば、逃走は可能。

 ならば、次俺がするべきことは、交渉だ。


「あの…本日二度目になるのですが、なして怒ってらっしゃるのでしょうか?」

「うぅー!ううううううぅぅー!」

「怒んないでください! 完璧に非は僕にあります! スンマセン! ムーヤ様に何も言わずにベッドから一人抜け出して色々しててスンマセンでした!」


だからお願いだから、有無を言わさずこっちに近ずくのやめて!

 ビクビクしながらムーヤ様から目を離そうとしていたが、凄みだけで目線を戻させられてしまう。

 猫人族、怖すぎな。街に出ても怪人奇人のオンパレードかも。それはやめていただきたい。

 まあ、ないとは思うんだけど。

 いや。そんなことはどうでもいいのだ。

 何かないのか、この状況を打開する方法は!

 10数秒間、考え続けたがグッドアイデアは出なかった。時間の無駄でした、はい。

 そして!凄みを出せるだけ出して、未だ言葉を発しないムーヤが! ようやく口を開く!

 多少ふざけた感は否めないが仕方あるまい。安らぎが欲しいのだ。余裕はないのだ、今の俺に。

 まあ、口開けたのは本当なんだよ。


「なんで…いなく、なったの…」

「え?あ、ああ。悪かった…とは思っている…ます。でも、目が覚めた時に、決めたことがあったんだ。それを実行するために時間が惜しかった。申し訳なかった。そんなに心配されているとは知らず…」


今にも泣きそうな顔だ。なんでそんな顔するんだよ。

 お前らのためなんだぜ?

 分かるはずがないのは分かっている。人間がそれほど万能でないことは分かっている。身をもって実感した。

 うぅー、うがぁー! 大丈夫だ。クヨクヨすんな。これから何をするかを考えろ。

 俺は…何をすればいい。考えろ、俺。

 とりあえずムーヤの言い分を聞こう。聞いてから考える、とは言わない。考えつつ聞いていこう。


「いちゅりーと、なきながらどこかいっちゃった、から。ムーヤが、ムリさせちゃったんだ、とおもって………ひぐっ!」

「ぅ、ぅおいおい。な、泣くなって。さっきも言ったと思うけど明らかに悪いのは俺だから。なっ?」


多少の抵抗はあったものの背に腹は変えられない。しゃがんで、泣きやませようと試みるが、泣き止む気配はない。もう助けを呼ぶか?

 ミーヤさん、ヘルプ! とかマーヤさん、ヘルプ! とか言ってみるか?

 情けねぇからやめておこう。

 だが、そうなると本当に打開策がない。というか俺はなぜに、戦闘中の決め手に欠ける状況みたいな思考をしているんだろう。

 いや、気にすまい。どうせ異世界転生で浮かれているのを引きずっているのだろう。

 状況確認。ルナはムーヤが泣いて、オドオドしているので助けを求めても、役に立つかは分からない。失礼だが本当のことだ。

 周辺に俺、ムーヤ、ルナ以外の人はいない。

 ん?気配がする?森の方向からだ。見られている?魔獣の類だろうか。侵入はしない、と信じたい。

 それはさておき、近くに村の住民はいない。さっきも言ったように自分から助けを請うつもりはサラサラない。

 改めて思った。経験は大事だ。実力者でさえ、不測の事態に陥った際、慌てて死に至る、なんてことがないとは限らない。

 だが、これを乗り越えればこのような事態に少なからず、対処可能だ。

 そのためにもここでは死ねない。


「ごめんなさい、しようとおもっ、て。でもおきた、ら、いちゅりーと、いなくて。さがそうと、したけど。ひぐっ!おねえちゃんにダメ、っていわれで…しんぱいぢ、て。まってたのに。いちゅりーと、ごはんのおはなし、してるから…」


訂正しよう。

 この状況でも十分、情けねぇじゃねえか。

 年下の少女、心配させといて。自分は大義名分で好き勝手やって。

 情けねぇ、不甲斐ねぇったらありゃしない。

 反省はした。後悔も今、した。

 守ると決めたんだ。

 なのに、なぜ俺は守るべき対象を悲しませている。

 これを情けない、と言わない人間がいるだろうか。

 俺が知っている限りではいないね。

 謝ろう、とりあえず。許してもらえるかは分からない。もう勝手に外には出るな、と言われるかもしれない。だが、今そんなことは関係ない。


『一度言ったことは通せ、曲げんな』


ありふれたセリフだ。

 血が一応繋がっているにしては口数が少なすぎた家族の、その中でも特に少なかった父の言葉だ。

 そうだ、曲げるな。曲げちゃいけないんだ。


「……ごめん。反省してる。これからはなんか入ってから出かけるよ。それもダメなら…ムーヤ、お前が判断してくれ。………ただ、外に絶対出るな、は勘弁な」

「……」


返事はない。

 まただ。割とこの時間きついんだぜ?

 さらに1分近く。多分1分。

 もう返事してくれないのかと思っていると、クゥ、と可愛らしい音がした。

 なんだ、この音。

 見れば、ムーヤの顔が赤くなっている。

 ………………あ、なるほど。


「腹、減ったんだな。悪いな、全然気づかなくて。うし、今日はムーヤん家で飯食べさせてもらうよ。話はその後、でもいいか?」

「……うん」

「ルナはどうするんだ?」

「私はイフリートの監視役。答えは決まっている」

「ああ、そうかい。じゃあ、行きますか」


先延ばしでしかない対処だが、今浮かぶ案がない。仕方あるまいて。



 とりあえずムーヤの家に着いたはいいが、想像していた物件とは違った。

 説明しよう。ミーヤさんとムーヤはマーヤさんの娘さんたちだ。ならば、同じ家に住んでいるのだと思っていたが、まるで違う場所にある、まるで違う物件に住んでおられたのだ。先ほどお邪魔した服屋ではないのだ。

 意外でした。はい、そうなんです。絶対に服屋だと思っていたんです。

 まあ、この話はいいや。

 家の中に入ったら、ミーヤさんに出迎えられました。

 ものすごい驚いた顔をしていました。なんか…申し訳なくなった。

 ルナに事情は説明してもらいました。

 僕は、その。ちょっとそういうのは無理ですので。

 いくら異世界、地球とはまるで違う世界だと分かっていても、喋るのはまだやっぱりツライもんがあんです。ごめんなさい。


「そういうわけだから今日、ここでご飯食べても?」

「いいですよ。イフリートさんもいることですし。断る理由がありませんよ。ムーヤを泣かせてわけですし…それくらいの配慮は必要ですよ」

「その件に関しましては、大変反省しております。後悔もしております。ただ理由があった、ということは覚えていただきたい」


ミーヤさんの声が途中からキツくなってきたのを機に、土下座する。土下座しながら謝りつつ、言い訳をした。

 無様極まりない。だが、後悔はしていない! 反省はしています。ごめんなさい。

 未だにムーヤは許してくれそうにない。ふくれた頬を戻してはくれないようだ。

 ミーヤさんは手早く料理を机に並べ、食卓を賑やかに彩っていく。

 なんか変な表現だが、俺にはそう見えた。

 そう考えると、お母さんという存在は魔法使いのようだな。ぐぬぬ、俺にはまるで使えない魔法を使うとはやるな。


「はい、できましたよ。ムーヤ、ルナの話を聞く限り、イフリートさんが一概に悪いとは言えないんだから少しは機嫌直してちょうだい」

「いや、悪いのは俺ですよ。ムーヤ、ごめん。まだ近づくと怖いんだよね、俺。直そうとは思ってるんだけど」

「……」


やはり、返事はない。

 嫌われてしまった、ということだろうか。

 せっかく年下で馴染めるかもしれない人材を早くも無くしてしまった。


「さて、と。食べましょうか」


並べられた料理は美味しかったが、それ以上にムーヤが気になってそれどころではなかった。

 食べ終わって、戻ろうかと思っているところだったが、ミーヤさんに止められた。

 なんでもこのまま状況が戻らずに日が変わるのは、マズイそうです。

 なんでなんですか。僕に年下と話すのは任務が重要すぎるんですよ。帰っていいですか。帰らせてください、お願いします。そうですかダメですかごめんなさい。

 ミーヤさんの家に泊まることになりました。うっわー、初めての女子の家でのお泊まりだー。

 普通なら喜ぶべきことなのだろう。

 だがしかし! ムーヤが居る時点でものすごい高難易度の潜入ミッションになっております。あれだよ、SSS難度だぜ。

 ごめんなさい、ヘタレで。もうね、○イ○ハ○ードみたい。怖すぎ。

 空いている部屋に泊まらせてもらうことになった。

 布団だのを部屋に入れてもらい寝る。

 ………………寝れないんだ、これが!

 なんか知らんが、ソワソワして寝れないんだ。

 部屋にベランダが付いていたので、なんとなく外に出てみる。

 隣の部屋はムーヤの部屋となっていた。

 つまりは、ムーヤさん、いらっしゃいました。

 おい、待て。なんて言えばいい?

 月が綺麗ですね?それでは後で、とりあえず殺し合いになりかねない。やめておこう。

 …………他に何も考えつかないんですが、どうすればいいんでしょうか?


「……」

「……」


やはり無言である。この空気をどうにかしたい。

 なんて言おう。なんて言えば、少しは口を聞いてくれるだろうか。

 てか、なんで1日に二回も怒られなきゃならんのだ。


「なあ、なんでそんなに怒ってるんだ?いや、怒られた理由は分かっているんだ。でも、俺なんかを気にかける必要はないはずだ」

「いちゅりーと、はじぶんのこと、ひくくみしゅぎ」


噛んだ!

 今はシリアス展開のはず!なのになぜ!?

 おい、神様、出てこい。

 なんだ、この展開は。ダメだろ、これ。だが、多少和んだ。てか、難しい言葉知ってんな。

 よし、頭がちょっと冷えてきた。言葉が出てくるぞ。


「俺が…自分のことを低く見過ぎ?そんなこと、あるのか?」

「………ある」


言い切られた。

 ナンテコッタイ。子供にまでそんなこと言われるのか。

 自分に自信がない、か。その通りといえばその通りだろう。転生しても序列最下位の龍人だし、コミュ障だし、引きこもりだしぼっちだし、身体能力クソだし、これを低く見ない奴はいないだろう。


「自信、はない。俺は自信というものが他人に比べ圧倒的に足りていない。分かってはいたつもりだった」


認めても何も変わらないが。

 今、ここで認めて何が変わるとも思わないが。

 状況は変わらなくてもいい。

 とりあえず彼女に、ムーヤに分かってほしいのだ。

 俺は別に悪気があったわけではないと。それを分かってくれれば少しは、話を聞かせ合う仲にはなれるだろう。


「ごめんな。直そうとは思ってるんだけど、どうにもな。頼む、こんな自信もクソもない奴の言うこと聞くのは気に入らないかもしれないけど君に許してもらいたい。俺の部屋に入ってきてもらえないだろうか?」


返事はなかった。まただ。

 何も言わずに部屋に入っていった。ダメか。

 ミーヤさんには悪いが、今日中に仲を戻すことはできなさそうだ。

 部屋に戻って、壁沿いに座り込んだ。


「へっ、戻すほどの仲でもなかったのに」


呟いた。

 あーあ、子供にまで幻滅されるとは。

 地球でも仲がいい奴なんていなかった。

 全員が全員、俺をいじめるか、無視するだけの奴らだった。ろくなやつらがいなかった。

 それはそういう世界なんだと思い込んで、世界が違えば、きっとあんな奴らもいないんだと思ってしまった。

 後悔はしよう。後悔だけでどうにかなる問題でもないはずだが。

 明日からどう接していこうか?

 なんでもない、他愛ない話で誤魔化してみようか。

 コンコン。

 扉を叩く音がした。

 誰だ?こんな時間に。

 ムーヤは寝てるはずだ。ミーヤさんか?俺らの仲が戻ったのか、確認しに来たのか?

 とりあえず扉開けないと。

 重い腰を上げて、扉を開ける。


「ご苦労様です、ミーヤさん。ムーヤとは無理だったみたいで…す?

「おねえちゃんじゃ…ない。はいって、っていったのはいちゅりーと」

「あ、ああ。うん、俺だ。とりあえず入ってくれ」


とりあえず部屋に入れたはいいが、あかん、もう諦めてたから話そうとしてたこと、全部忘れてもうた。

 ムーヤを部屋に座らせて、俺も座って。

 えーと、あーと。


「……俺は、何をすれば許してもらえる、かな」

「……」


やっぱりダメだよな。

 俺が年下相手に言える言葉の無駄遣いをしてしまった。次、なんて言えばいいんだろう。

 マズイ、今日の戦闘よりも明らかに頭使っとる。

 全然関係ないことを考えていると、ムーヤが口を開いた。

 正直驚いた。


「いちゅりーと、べつによわくない、もん。みてたもん」

「えっ?見てたの、今日の朝の騒動?」


首肯された。

 いかん、朝っぱらからショッキングなものを見せてしまった。

 あれは子供が見ていいものじゃないぞ。いや、俺も子供だけども。まだ15歳だけども。未成年だけども。

 戦闘面では強い、とは言えるギリギリかもしれないが、精神面では弱すぎだ。

 ボロ負けするだろう、そういう方面の戦いでは。

 まあ、それは置いておいて。ムーヤは俺の質問に答えてくれてないんだよなぁ。もう一回聞いてみようかな。

 言葉を出そうとして、止める。

 ムーヤが何かを言おうとしていたから。


「これから、は。どこかにおでかけするときはムーヤもつれてって」

「はい?え、冗談抜きで?本気で?」


またもや首肯。

 あ、はい。マジですか。どうしましょう。

 危険、はないと思うがミーヤさんがOKしてくれるだろうか。

 ………でも、決めるのは俺じゃないわけだし、別にいいか!


「大丈夫だろっ、多分。よし、いいぞ!」

「……」


固まっている。

 状況が理解できてない?まあ、仕方ないよな。まだ、5、6歳だし。


「とりあえずミーヤさんにも話さなきゃいけないし、今日の話はここまで、ってことでいい?いいな!では、寝よう」


強引に話を終わらせた。

 布団に潜り込み、目を瞑る。

 おい、待て。なんか布団に何かが潜り込んでるぞ。なんだこの物体は。

 確認してみる。

 ムーヤがおりました。

 ねえ、君ぃ?自分の部屋に戻らない?お兄さんね、子供が苦手ってレベルじゃないくらいの勢いで無理なんだ。分かってくれないかなぁ?

 目で訴える。

 スタッフさん、無理ですって。

 俺の墓は布団の中か。ダサいな。

 仕方ない、諦めよう。


「おやすみー」

「おやしゅみなさい」


ムーヤさん、変なところで噛むのがクセなのかね。

 疲れた。

 あれ、別に疲れてないや。眠くもないんだけど。

 でも寝れそう。原因はまた今度、見つけるとして。

 この2日、色々あったな。

 死んで、

 転生して、

 おっさんにボコボコにされたと思ったら逆にボコボコにしてて、

 猫人族の皆さんにお世話になって、

 ヤバい魔法使っちまって、

 本読んで、

 寝て起きたら冒険者出てきて、

 戦って勝ったはいいけど魔力切れで倒れて、

 気がついたらもう一人と戦って、

 勝って、やったぜ!って思ったらマルサさんとムルサさんに連れてかれて、

 ジャンケン教えたらブオンブオンブオンッ‼︎ってうるさくて、

 ミーヤさんに会って、のんびりしてたら子供のところに連れてかれて、

 赤ん坊たちに群がられて、異様に怖がってムーヤに会って、

 何か知らんが泣いて逃げて、神種に会って忠告だか何だかされて、

 寝て起きて、決意して特訓して戻ってきたら、ムーヤに色々と言われて、

 ミーヤさん家で飯食って、部屋に行って、今に至る、と。

 相当濃い2日間だった。

 ここまで記憶に残る2日間はなかったぞ。

 うーむ、子供恐怖症は今後どうにかして治そうとは思っているが、まだ、すぐそこに年下がいると思うと足がすくみますなぁ。

 情けないことこの上ない。仕方ないんだけど。


「ほんっと…濃い、二日間だ……った、な……」


ゆっくりと眠りについた。

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