愛しいなんて
僕がいなくなる、そんな事君は思っていなかったのでしょう?
君は僕がいなくなったら生きていけない。
それくらい周りの人間を遠ざけた。
君が起きる。
「おはよう」
返事はしない。
僕は姿を隠した。
君は朝ごはんを作り終わってから気付いたらしい。
部屋を探し始めた。
・・・あまりバタバタと僕の部屋や父さんと母さんの部屋を荒らさないで欲しい。
少しイラつきつつも、これは計画の内だと思い直す。
最後まで君は勘違いを続けるらしい。
僕がいないなら死ぬ、なんて君は単純だなぁ。
君が屋上から飛び降りた。
痛いのは嫌なんだけど、なんて思いつつ、一瞬だけ君と入れ替わり、なんとか急所や後遺症が残りそうな部分は避けて落ちるようにした。
残ったとしてもリハビリで治るくらいには出来たはずだ。
病院で目が覚めた。
主人格は僕になっているが、なんとなく、君が残っている気がした。
このショックでも消えないなんて、なかなか頑固だ。
なんて、そんな事を考えながら数日。
早く消えてくれないかなぁ。
そんなことを考えつつ、僕は車椅子に乗り、リハビリをする為部屋を出た。
なかなかに動かしにくい身体ではあるが、意外と気に入っている身体。
何としてでも僕のものにしたい。
だってその為に今まで動いてきたんだから。
数ヵ月後、やっと手足が思い通りに動くようになった。
なかなか元の落ち方が酷かったらしいな。
だが、この身体も精神も僕に合うようになってきた。
もうそろそろ、かな。
君が薄くなっていく。消え始めているようだ。
・・・嫌だなぁ。そんな目で僕を見ないでよ。
結局君はこうなる運命だったんだ。
僕がこうなるその前から、君はただの出来損ないだったんだから。
僕の方が君より頭が回る。
僕の方が君より運動ができる。
僕の方がずっと君の身体を有効活用できるだろう?
違う?何が違うんだ。
出来損ないの君が、僕という人格ができてから親に愛されるようになった。
努力もしてこなかったこの頭を僕は変えた。
例え『君』の人格であっても君とは違う。
僕は、頭が悪くて鈍臭くて依存症な君とは真逆だ。
僕という人格は努力をした。
君は頭の造りだけ元から良く出来ている。
それを有効活用出来たのは他ならぬ僕。
何もかも元は良い。
身体の動かし方を理解したら運動だって難無くこなせる。
君はただ、努力をしなかっただけだ。
それで愛され方を・・・いいや、そもそも君は愛されていなかったね。
努力を始めた君の見た目をした『僕』はこの身体にとって初めての愛を知った。
「私の物だ」、「君も私を愛していたでしょう」だって?
笑わせる。愛されていたのも僕。
この身体を使うべきなのも僕だ。
僕は、最初から君なんて愛していない。
君の親・・・いや、僕の、父さんと母さんもな。
君は存在しなかったモノだ。
僕の踏み台だ。
僕は君を踏みつけてこの身体で生きる。
あぁ、ほら、もう消えそうだね?
さようなら。
愛しい君へ。
そんな言葉、ただ暇潰しでやった言葉遊びだ。