プギーマン ─ The One ─
─ 前 ─
頭上からミサイルが落ちてくる。先ほどより数は多いが、一度見た技だ。
振るおうとしていた斧を停止しバックステップ。1発、2発、3発と落下し爆発するそれを滑るように回避する。
全てが起爆する前にサイドステップで軸をズラし突貫。ズラす前に斧を頭目掛けて投げるのも忘れない。
装甲が厚い機体であるため牽制にすらならないであろうが、気は取られるはずだ。
そして次の動作への切り替えも遅いため、読み通り斧に気を取られた隙にサイドステップで軸をズラす。
変幻自在の軸ズラしによってどんどん遅れていくドン亀を見ていると笑いが止まらなくなりそうだが、まだ我慢だ。
それは勝利に酔いしれながら行うのがオツなのだ。
バルカン砲が明後日の方向に火を吹いている。
残り時間は10秒弱、お互いのHPもレッドゾーン。
最後の一撃となる予感と共にダッシュで接敵。双斧による刹那の二連撃!
「これですっ!」
げ、初見の踏み潰し!?
斧と足が激突する。
ダメージレートの法則により二連撃が弾かれ、勝利した脚撃が襲う。
HPバーが0になり、俺のヴァンパイアハンター・双斧のリンカーンは敗北したのだった。
隣でコントローラーを握っていた後輩がドヤ顔で言い放ってきた。
「どうですか先輩、私の第47代大統領はっ!」
「私のドナルド・トランプが最強なんですっ、と言ってたお前はどこに消えたんだ」
「死にました」
過去の自分を殺すのはやめなさい。
「つーか、いつの間にアップデートしたんだよ。先週まではメタルでウルフな大統領いなかったろーが」
「金曜日にハードとソフトを渡したので土日じゃないですかね」
創作の大統領じゃねーか、とツッコミたいところだが出来ない。
俺もこのリンカーンを作ってもらうために映画を見せてしまったからな。
しかし、あの双子マジ有能だな。俺らしかやんねぇのになんだこの良バランス。
早く会社立ち上げろよ。
「あ、先輩先輩。他の女のこと考えましたねっ! ダメですよ、こんなに可愛い後輩と二人っきりなんですからっ!」
「おい、次はG07すんぞ。大統領クラッシュブラザーズは騎兵王ワシントン使いの部長が帰ってきてからだ」
「おっと、私の大統領のピンチでしゅがががががががががっ」
カセットを入れ替えながらチビっ娘の頭を締め上げる。これはボディタッチが出来た嬉しさの悲鳴に違いない。
次のゲーム、ギャルズオーセブンは全日本の女子高生が銃火器片手に悪の組織と戦っていくFPSだ。リアルな女子高生、ガングロギャル、スッピンギャル、ヤマンバギャルなど割と多くのキャラがいる。
その中で俺が愛用しているキャラはヤマンバギャル(亜種)だ。
ギャルがヤマンバのような格好をしているのではない、ババァがギャルの格好をしているグロキャラだ。
このゲーム、結構な割合でパンチラがあるのだがまったく嬉しくない。むしろ精神力が減っていく。
「ちょっと先輩、肩パンするのやめてくださいっ。痣が残ったらもらってくれるんですかっ!!」
「すまん、耐え切れなくてな。クーリングオフでよろしく」
「ひどいっ! あまりのひどs!? 4の字固めはやめてくださいっ、銃、銃使ってくださいっ!!」
ヤマンバギャル(亜種)の主装備は寝技である。例え黄金銃であろうと近づけばインディアンデスロックで一撃だ。
その後数戦やったものの、ババァの寝技が華麗に決まり幾千ものグロパンチラの嵐であった。
「せんぱいせんぱーい、他の人来ないんですか?」
「部長は会議だからもうすぐ来るな。双子は即帰ったぞ、寝てねぇんだろうな」
「じゃあしばらくは二人っきりなんですね・・・」
何やらこちらを見上げてくる後輩。
「ちょ、やめてくださいっ。コントローラーを口に入れようとするのはやめてくださいっ!!」
「いや、腹減ってるのかと思ってさ」
「ちがいますーっ! 先輩を堕とすための上目使いですーっ!!」
・・・・・・・・・。
「せ、先輩がいやらしい目で私のことを見てくれてますっ! これは堕ちました、陥落ですっ!」
「薄い胸と細いふとももだよな、ふとってついてるのに失礼だと思わねぇのか」
「失礼じゃないですーっ! 需要があるんですーっ!! これで先輩堕とすんですーっ!!」
世間の一部に需要があったとしても、俺はその一部じゃねぇんだが。。
黙らせるため肩に手を回す。割とポンコツ気味なこいつのことだ。
「わ、わわわわっ!せんぱいが、せんぱいがわたしのかたにてを・・・・!!」
そら、少し静かになる。
完熟トマトのように熟してしまった後輩はあわあわと現状を端的に語っている。
静かに静かに噛み締めるように、小さく口を動かしている。
「・・・・・終わります、これは世界終わりますよ」
そうだな。あぁそうだな。
笑いを噛み締めながら指を顎に伸ばす。
数回撫でると完熟トマトが茹で上がってしまった。
「終わらせたのはお前らだがな」
顎を掴み一気に引く。
90度を超えた辺りで指を放すと紅を撒き散らし肌色が挽き切れる。
白色を軸にぐるぐる回り、やがて遠心力を失い頭がコロリと落ちた。
─ 後 ─
顔にベタリと付着した血液を拭い、紫煙をはいた。
目の前には頭部のない肉袋が直立不動で存在している。一年経っても薄い身体だな、こいつ。
自分の体を見下ろしてみても学生服ではない。うわ、すげぇ真っ赤じゃねぇか。
そして周囲も違っている。部室ではなく、マンションの一室。窓から見える月の角度からかなりの高層だとわかる。
見える景色が変わったのには当然カラクリがある。
俺にそういう能力がある、わけではない。
眼前にそびえる肉袋、足元に転がる頭部。
元後輩であった、蔵風伊里夜の能力である。
一年前の世界振動<スクラッチ>により薄れた神秘性。
薄れていてもなお強力な神秘を操る特化存在である、術師。
蔵風伊里夜はその中でも幻術師として名を馳せていた、らしい。
「随分早い決着じゃったのう」
背後から声がする。
振り向けば視界に収まるのは巨漢。2m近くあるであろう上背に隆々とした筋骨。ぴくぴくと動く豚鼻に天をむく牙。
幻想存在キングオーク。オーク種の中で1体しか存在しない唯一個体。
王者の威圧を添えて扉前に立っている、首からタオルを下げて。
こいつ、シャワー浴びてきやがったな。
「別にお前みてぇに一発ヤってたわけじゃねぇしな」
「やればよかったじゃろう、一年ぶりの再会じゃろ? まぁあの召喚術師と違って薄い体しとるからワシも手を出す気にならんが」
「右に同じく。てぇかどーだったよ、再誕者は」
「マグロかと思っとったが随分素直でな。思いのほかハッスルしちまったわい」
世界振動は第A級討伐指定種との戦闘の余波とされているが、俺は知っている。
術師による大規模術式に失敗したために起こったことだと、俺は知っている。
異界へのゲートを出現させたはいいものの、閉じるのに失敗したのだ。
生贄の一人だった俺と召喚個体だったキングオークがタッグを組み、ゲートキーパーに設定されていたゲーム部顧問であったロリ巨乳の召喚術師を嬲り殺したために、失敗したのだ。
大体俺のせいだったりするのだが、人を生贄にした顧問と後輩が悪い。してなけりゃ、こんな結果にもならなかったのに。
「妹の願った奇跡が今じゃ白濁か」
「もっともっとと懇願するあやつとわがままバディが悪い」
「え、お前が褒めるとかマジもんじゃねぇか」
叶うなら第2ラウンドといきてぇところだが、無理だな。
キングオークの背後の扉から怒号と大勢の足音が聞こえてくる。
幻術師を匿っていた、おそらく占術師の配下がこの騒ぎに気がついたのだろう。
「おら、迎撃の準備してんじゃねーよ。背中貸せ、ズラかるぞ」
「しかしのう、そこに貴賎なく出入りさせてくれるという扉があるんじゃぞ?」
「扉さんが聖人だったとしても、その旦那さんまで聖人だとは限らねぇだろ」
「NTR属性持ちじゃったらどうするんじゃ!」
「どうもしねぇよ!! さっさと裏口から出てくぞ」
しょうがないのうとぼやくキングオークのベルトに足を引っ掛け、鎖を掴む。
しょうがなくねぇよ、どんだけ俗世に染まってんだお前。
踏みしめた両足からの助走。オーク種最強の筋肉から生み出される運動エネルギーによって瞬時に窓を突き破る。
重力に喧嘩を売りながら、向いのビルへと飛んでいく。
「ところでその首はどうするんじゃ?」
「どうもこうもねぇよ、依頼完了の証拠がいるだろーが。俺の恨みとお前の欲望果たしにきたんじゃねぇぞ」
「そーいやそうじゃったわい、危うく今日の娼館代を失うところじゃった」
これは、幻想が身近になった、神秘性の薄れた世界での話。
これは、筋肉密度が異常な青年とアイドルグループと遊びたいキングオークの話。
これは、真っ直ぐにしか進めない二人が角度を変えて世界を抉る、そんな物語。