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ナイトメアモードで異世界生活  作者: 枝節 白草
7/15

コノカ 2

二人で村の端まで歩き村を出る。


出る、というよりは村の延長の様にも感じる。

そして案内されるまでも無く道の奥に家があるのが見えた。

「ねぇ、キール。あの家?」

「そうだぜ、あれが祭司様の家だ。村の方にはめったにこねぇ」


道は直線、遮る物も無く見通しが良い。

「ねぇ、キール。これ案内必要?」

「案内というよりは、一人で村を出るのが危ないんだ、特にコノカは余所者だからな、何か出てきても対処の仕方分からないだろ?」

「あー、ゴブリンとか?」

「そーそー、こっちには出ねぇはずだけどな、祭司様が結界とか張ってるんだとさ」



祭司の家にはすぐにたどり着いた。

他の村人の家と大差は無い、やや大きいくらいなものだった。

キールが扉をノックするとしばらくして扉が開いた。

出てきたのはガリガリに痩せた長身の男。歳は五十くらいだろうか。

長いローブを着ているが継ぎ接ぎだらけで色褪せた部分も目立つ。

「村の子供かなぁ、んん?まつりごとはまぁだ先のはずだがぁ?何用か、いったい何用か」

祭司は明らかに面倒くさそうにしていた。

「ああ、ごめんよ祭司様。こっちのコノカが祭司様と話がしたいそうなんだ」

祭司の顔がコノカの方に向く。

「あ、あの、私コノカと言います。色々と聞きたい事がありまして」

「お、おぉぉ。良いだろうぅ、何でも聞きたまえぇ、君になら何でも答えよう」

君になら、この言葉がコノカを緊張させた。

祭司はコノカが他の世界から来た事を知っているような口振りだ。

「私になら、とはどういうことでしょうか?」

「誠意ぃ・・・、そして敬意だよ」

コノカは祭司を信用して良いのか判断できずにいた。

「・・・前、ここに来た男性の死体はどうしたんですか?」

「埋めたよぉ、せめてもの敬意だ、死体が欲しかったのかねぇ?」

「・・・いりません」

「用はそれだけかなぁ?それなら失礼するがぁ」

祭司は家の中に帰ろうとする。


「待ってください!元の世界に帰る方法はありますか!?」

「有る、・・・いや、待て待て待て待て待てよぉ、・・・無い、無くなったなぁ」

やはり祭司はコノカが違う世界から来た事を分かっていた。

「無くなった、とはどういう事でしょうか」

「食事をとったろう、この世界の物を摂取したろう、臭いで分かるぞぉ」

「帰りたいなら・・・食べるなと・・・、私は手遅れなんですか・・・」

「違うなぁ、飲むのもダメだぁ、ぁあ、君は手遅れだから気にせず飲み食いしたまえぇ」

「・・・そんな・・・」

「これで質問は終わりかなぁ?」

「・・・手遅れじゃない場合、どうしたら帰れるんですか」

「ワタリ様を見つけたまえよ、ぁぁ、場所は聞かれても困るぞぉ?知らないからなぁ」

「最後に、祭司様は移動魔法は使えますか?私を大きな町等に送れますか?」

「無理だ、・・・さぁ、もう良いね、・・・戻らせてもらうよ・・・」

「・・・・・はい」


他に聞きたい事もあった気がするがコノカはひどく落ち込んでおりそれどころでは無かった。

立ちすくむコノカの手をキールが引っ張る。

「・・・コノカ、別の世界から来たのか?俺のせいで帰れなくなったのか?」

コノカはハッとした、落ち込んでいるのは自分だけでは無かったのだ。

「あ、ううん、違うわ。飲まず食わずなんて無理だもの」

「なぁ、コノカ。村に・・・住まないか?」

「・・・帰れないからといって何もしない訳にはいかないわ、情報は集めないと」

「・・・だよな」


「キール、ワタリ様って、どんな神様なの?」

「創造神だって聞いてるよ。この世界を作った神様だってさ」

「他には神様はいないの?」

「いるよ、維持神と破壊神。維持神は多すぎて良く分からない。破壊神は名前すら無い。名前を付けると怒られるんだ」

「ふーん・・・、誰に?」

「みんなだよ」



二人は話しながら村へと歩く。

・・・コノカは、ふと視線を感じ振り返る。

「・・・え?」

「どうしたコノカ?」

「祭司様が・・・」

さっき家の中に戻ったはずの祭司が家から出ていた。

遠くからコノカを見つめている。

不気味に感じたコノカはキールの手を引っ張って村へと急いだ。



しかし、村には行かない方が良かっただろう。

そのまま森にでも逃げるべきだったのだ。


村に着いたコノカに戦慄が走った。

村人が全員槍を持っている。槍を持ったまま黙って立っている。

年輩の女性達が大きな鍋を村の真ん中に置いて火を炊いている。

そしてみんな一様に、首を左右に大きく振り続け眼球がギョロギョロと回っているのだ。


「なに・・・これ」

コノカはキールに目を向ける。

「ほ、ほひゃ、ほのひゃ、うひゃ」

キールの呂律が回っていない、首が小刻みに動き出していた。

「きゃああああ!」

コノカは慌てて後ずさり、その勢いで転んでしまった。

キールと手を繋いだままだったため一緒に転ぶ事になりキールがコノカにのしかかる。


「いてて、どうしたコノカ?」

キールは起きあがる、いつもと変わらない様子だ。

「え?元に戻った?・・・もしかして」

キールの手を引っ張った事で村の敷地から外に転んでいた、関係が無いとは言い難い。

コノカは起きあがるとキールを村から遠ざけるように誘導した。


「コノカ?どうしたっていうんだ?」

「・・・覚えてないの?」

その時、背後から声がした。

「おやおやおやおやぁ、結界から出てしまいましたかぁ。その子供が引きずり込んでくれると予想していたのだけどねぇ・・・」

声の主は祭司だった。

「結界・・・、どういうこと・・・ですか」

祭司の口の端が大きく上がる、そのぎこちない笑顔はコノカに恐怖心を与えた。

「答えよう、あぁ・・・教えようぅ。結界は村に張ってあるのだよぉ、私の術は結界の中で作用する。ちょおっとずぅつ・・・弱い毒のように浸透しぃー、簡単な命令を直接脳にぃ送れるぅぁー・・・その子供にはまぁだ足りなかったのかなぁー」


コノカはキールを守るように抱え込んだ。

「・・・質問には、答えてくれるんでしたよね。村人にどんな、命令を?」

時間稼ぎがしたかった、僅かでも助かるための情報が欲しかった。

「答えようぅ、それが誠意だよ・・・。んふ、君を見つけ、捕まえ、煮込め、となぁ」

コノカは背筋が凍りつくほどに寒気がした。


祭司が一歩前進し、コノカが一歩後退する。

「私・・・を?どうして・・・」

「生き物を煮込む・・・食べる以外にあるまい?前の男はあまり美味しくは無かったなぁー、君はぁ・・・どうだろぉ」


更に祭司が一歩前進、コノカは一歩後退する。

「埋めたって、言ったじゃないですか。嘘付いたんですか・・・」

「埋めたよぉー、骨とか・・・髪の毛とかなぁ」

「どう・・・して・・・」

「外に、出たいのさぁ。君たちがここの物を食べればぁここに縛られるぅぅぅがっ!しかしだぁ・・・ここの者が外の物を食べればぁ・・・どうだろぉ」

「外、私のいた世界・・・に?」

「試してみる価値はぁ、あるんじゃないかとぉぉぉ・・・どうだろおぉぉ?」


祭司が前進する、コノカは更に後退した。

その時、抱えていたキールが小刻みに震えだす。

「ほ・・・ほのひゃぁ、あがが」

村の敷地まで後退してしまっていたようだ、前には祭司、後ろには村。

コノカは慌ててキールを村の外へと突き飛ばす。

祭司はキールに目を向けもせず、まるで無関心だ。

それは同時に、キールだけは助かるかもしれないという希望でもあった。


「キーールぅぅ!全部聞いてたでしょ!逃げて!絶対村には入っちゃダメだからね!」

「え!でもコノカが!」

「大丈夫!ちゃんと逃げるから!先に村外れで待ってて!私たちの出会った場所!」

「分かった!」

そう言うとキールは村の外を回り込んで走りだした。


そのすぐ後に誰かが村の方からコノカの服を引っ張る。

「そんな・・・おばあちゃん・・・」

それはキールのおばあちゃんだった、その顔は無表情で明らかに正気では無い。

おばあちゃんの手をふりほどこうとするがびくともしなかった。

コノカは掴まれた服を脱ぎ捨てると村の中を走り出す。

本気で走れば村を突っ切って反対側へと出られる、そう思っていた。


村人達はコノカを見つけると走って寄ってくる。

その走り方には理性の欠片も無い。

ただがむしゃらに、時には地面を手で掻いて前進してくる。

身体の動かし方は滅茶苦茶、脳からの指令が身体に上手く行き渡っていない。


「これなら・・・逃げ切れる!」

決して大きな村では無い、運動神経には自信が無いが走り切れる自信くらいは有る。


あともう少し、もう少し・・・。

全力で走るのなんて久しぶりで呼吸が上手くできない。

それでも、あと少し、村さえ出れば大丈夫。


その時、コノカは足の裏に激痛を、文字通り刺す様な痛みを感じ足が止まる。

靴の裏に何かある、何か・・・それは下を見ただけで理解した。

大きな針を巻き付けた有刺鉄線の網が地面に敷いてある。

本来は防衛用の網だが、今はコノカの足を止める為に敷かれていた。


「いったぁ・・・」

コノカは針を抜こうと足を持ち上げる。

しかし肉の抉れるような痛みを感じ上手くいかない。

頑張れば頑張るほど靴と地面が赤く染まる。

「そんな・・・、返しが付いてる・・・」

今この針を抜いても、次は他の針を踏むだろう。

この痛みを繰り返し走り切る事などできない。

コノカは頭が真っ白になってしまった。


村人に追い付かれ、掴まれ、引きずられてゆく。

その時村人達も有刺鉄線を踏んでいるのだが、彼らはお構いなしだった。

村人達は祭司に痛覚も奪われ、ただ命令の通りに動く。

コノカは引きずられながらも抵抗を試みるが村人達はびくともしない。


村の中央まで連れてこられたコノカは恐怖のあまり言葉を失う。

大きな鍋がグツグツと煮えていた。


村人の一人が大きなハンマーを持ってコノカに近づいてくる。

目の前まで来た時点でようやく声が出た。

「うそうそうそうそうそ・・・うそでしょう、こんなのうそよ・・・・むり・・・」


大きなハンマーはコノカの両腕と両足の骨を粉砕した。

一本折られる毎に悲鳴が村に響く。


「ふぐぅ・・・・ふぅ・・・・ぁぁ・・・・ぁぁあああああああああ!」

折られた腕を引っ張られ鍋へと近づく。

服は全て剥がされ、調理の下準備が始まった。

何か・・・助かる術は・・・。


ある、魂を使えば身体が回復する。

また走れば・・・。


・・・それは不可能だと、コノカは理解していた。

身体が治っても、村人の手を振りほどく力など、コノカには無いのだから。

もう一度骨を折られるだけだ、コノカはすでに心が折れていた。


「キール・・・次の人、頼んだよ・・・」

独り言を呟く。


鍋に放り込まれたコノカは全身が赤く腫れ上がり、・・・悲鳴と共に絶命した。



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