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ナイトメアモードで異世界生活  作者: 枝節 白草
4/15

三人目 四十歳 男

四十歳、男。


男は森にいた、獣道に一人で立っていた。

なんでこんな場所にいるのか分からず、ただただ腹立たしかった。

苛々を押さえようと無意識に舌打ちをする。


男は目を閉じ、念じた。


●死亡履歴

一人目、キノコの胞子を吸い込み死亡。

二人目、ダンゴムシに食べられ死亡。

●魂「1」


「はぁ?ダンゴムシ?・・・まじかよ」

男は周りを見渡すとそれはすぐに見つかった。

1メートルほどの半球型の黒い生き物が草をかき分けて歩いているのが見える。

「でけぇ!けど、こっちに興味しめさねぇな」

男はダンゴムシに近づいてみるがダンゴムシは全く男に興味を示さない。

無視している、と言うよりかは見えていない様な反応だ。

試しに大きめの岩を投げつけてやるとダンゴムシの体は簡単に凹み暴れ出す。

どうやら丸まったりはしないらしい。

ダンゴムシはその場から逃げる様に去ってゆく。


「・・・雑魚じゃねぇか、前の奴バカじゃねぇの」

しかし男には関係の無い事だった。

問題は前の奴がどっちに向かって歩いていたのか。

道を戻ってしまう事になるのは時間のロスだ。


そんな時、視界の端で子供サイズの人影が見えた気がした。

「あぁ?子供?人里あんのか、あー、見失った」

男は子供が見えた方角へ歩き出す。

男はそれなりに鍛えた体をしており体力には自信があった、子供にも追いつけるはずだ。


しかしどれだけ歩いても子供の姿が見あたらない。

どこかで急に方向を変えたのか、それとも男に気付いて逃げたのか。

「ちっ、めんどくせぇな。・・・おおい!ガキ!ちょっと話がある!出てこいや!」

男は叫ぶ、しかし返ってきたのは返事では無かった。

何かがすごい早さで飛んでくると男の頬を掠め後ろの木に突き刺さる。

男は頬を撫でると手に赤い液体が付いた。血だ。

後ろの木に突き刺さった物は細長い棒の先端に金属片の付いた物。・・・矢だ。


男はすぐに近くの木の陰へと身を隠す。

矢は明らかに人工物、人がいる。ただし友好的では無い。

「おい!俺は敵じゃねぇ!落ち着け!聞きたい事があるだけだ!」

再び叫ぶが返事は無い。

しばらく待ってみたが何の音もしない。

「・・・逃げたか?・・・そもそも日本語通じるのか?」

木の陰から顔を出し見渡す、誰もいない。矢も飛んではこない。


男は慎重に歩き出す、矢が直撃したらしゃれにならない。

周りを警戒し木の陰から木の陰に移動して矢が飛んできた方角へ進む。


しばらく歩くと川にたどり着いた。見通しの良い開けた場所だ。

そして川沿いに子供の姿が一つ。

貧乏なのだろうか、ボロい布切れの様な服を纏っている。

手には弓、それを見た男は我を忘れて激昂する。

「おい!おまえだな!さっきはよくもやってくれたじゃねぇか!」

この距離なら子供が弓を構える前に接近できる。

男は強気だった。その子供の顔を確認するまでは。


「ゲキャキャキャキャ」

薄黒い肌、醜く歪んだ風貌、悪意しか感じない目が男を見据え笑っている。

「人間じゃ・・・無い」

男はその姿をした生き物を見た事があった。

ただしその生き物はゲームやアニメの中の生き物だったはずだ。

「ゴブリン?そんなバカな」

男が怯んだ隙にゴブリンは男に素早く接近してくる、手には矢を直接掴んでいた。

「くっそ、はえぇな」

男は横に飛びゴブリンを避ける。

「なめんじゃねぇぞ!・・・このっ!」

ゴブリンに渾身の蹴りを入れるとゴブリンはその場で倒れて痛がりだした。

「グギャァ!ギャ!」

・・・弱い、体格に差があるのだから当然の結果だとも言えた。

「はっ、こいつも雑魚かよ。びびって損したぜ」

男は体重をかけてゴブリンを何度も踏みつけた。

何度も。何度も、何度も何度も。


それを繰り返した後にゴブリンは動かなくなった。

骨が折れ、内蔵が破け、血を吐いて死んでいる。

「あー、くっそ。靴汚れたわ。雑魚一匹潰すのにこんな疲れんのかよ」

男は気付いていない。

倒すのに労力を費やす必要のある生き物が武器を持っている、雑魚であるはずが無い。


次の瞬間、男の足に激痛が走る。

「がっ・・・、矢?どこから」

男の太股に刺さった一本の矢。

もちろんさっきのゴブリンはもう死んでいる。

仲間がいる、それぐらい警戒しておくべきだった。

近くに身を隠すような物は何も無い。

激痛で足に力が入らない、走る事も出来なかった。

二本目、三本目、男の腹に、腕に、次々と突き刺さる。

だが頭に刺さらなかった事だけは幸運だと言えた。


「魂だ!使う!回復しろ!・・・早く!」


男の体から痛みが消える、傷も消え、体内に残る矢も消滅した。

男は回復と同時に走り出した。

ゴブリンの矢はもう一本も当たらない。

ゴブリン達は動く標的に当てる程の技術は持ち合わせていなかった。


男は大きな木の陰に身を隠し、矢の飛んできた方向を慎重に覗く。

もう矢は飛んでこないし物音一つしなかったがそれが逆に恐ろしい。

どこに潜んでいるのか分からないという恐怖に呑まれる。

「はぁ・・・はぁ・・・っく、くっそ・・・」

恐怖は脳から体に伝染し身が竦む、しかしそれは決して情けない事では無い。

今まで男が生きてきた四十年の間で体に矢が刺さるなんて初めての経験なのだ。

木の陰から出ようとすると体が痛みを思い出し言うことを聞かない。


どれだけ経っただろうか、景色は暗くなり始める。

静寂の中、自分の心臓の音だけは鳴り止まない。

ゴブリンに見つかれば今度こそ死ぬかもしれない。

今もまだ男を見張っているのかもしれない。


そして、その時は訪れる。


「ゲキャキャ」

「キャッキャッキャ」

「グゲキャキャキャ」

嫌悪感を掻き立てる声、一つや二つでは無い。男は囲まれていた。

仲間の復習?いや、違うだろう。ゴブリン達は皆、楽しそうに笑っていたのだ。

もう隠れて弓なんて撃つ必要は無い、手には粗悪な剣や斧が握られていた。

刃が欠け、錆の浮いた武器。切られれば傷口は抉れ破傷風となるだろう。


ゴブリンが一人、前に出る。一人だけ。

他のゴブリン達は皆武器を掲げはやし立てていた。

男はこの光景をなんとなくだが理解した。

現実世界でも珍しい事ではない、一人前となる儀式。

「くっそ、もう・・・頭にきた」

男は向かってくるゴブリンに対し構える。

自分の死を目前にして男は興奮状態にあった。


ゴブリンは知能がそこまで高い訳では無い。

真っ直ぐ向かってきて、斧を振り上げ、ただ真っ直ぐ振り下ろす。

男はそれを避けるとゴブリンの顔面を力いっぱい殴りつけた。

怯んだゴブリンから斧を取り上げ、その斧でゴブリンの首を強打した。

首の骨が折れたゴブリンは息絶え、それを見ていた他のゴブリン達が動き出す。

皆一様にニタニタと笑っている、仲間がやられた悲しみや憎しみは一切感じない。


いくら単純な攻撃しかして来ないと言っても数が多い。

剣で切られる、刃こぼれの有る刃物はまるで鋸だ。

肉にひっかかり、血が飛び散る。

「あがっ、はぁー・・・はぁー・・・。うああああああ!!!」

男は反撃する、目の前のゴブリンに斧を叩き付ける。

すると違うゴブリンに攻撃された。斧が男の足の骨にヒビを入れる。

しかし男は怯まない、興奮状態にある脳は痛みを麻痺させていたのだ。

ゴブリン達の武器が粗悪であった事も幸いしてか、男の体に深く刺さりはしなかった。


その後の光景は凄惨な物だった。

男はゴブリン達に肉を削られ、血を噴き出しながらも斧を振り回し続けた。

「ふはぁ、ふーーーー!あああああ!!」


男の振り回す斧が次第に何にも当たらなくなる。

周りにはゴブリン達の死体。しかし数が合わない。

思わぬ反撃を受けたゴブリン達は数が半分に減ったあたりで退却していたのだ。


「どおこだぁ!クソどもがぁぁぁああ!!」

男はボロボロになった体を動かしひたすら歩いた。

体の動くうちにやらないと殺されるのは自分だ、男は狂った様にさまよい歩く。

体を血に染めて狂気に満ちた形相でフラフラと歩く、男は既に正気など失っていた。


歩いて、歩いて、足が痛みを思い出しそうになった時、それは姿を現した。

「そこかぁ!!!」

血走った目でゴブリンに斧を振り下ろす。

ゴブリンの腕から赤い血が飛び散る。

「うわああ。痛い!痛いよぉ!」

ゴブリンは泣き叫ぶ、聞き慣れた言語で。

さっきのとは違う種だったのか、肌は色白い。

綺麗な服を着ており、整った顔は恐怖で歪んでいる。

間違い無い、それはゴブリンでは無く人間の男の子だった。


「くそがぁ!さっきの威勢はどぉしたゴブリンがぁ!」

男はもはや正常な判断など出来ていない。

男の子は必死で逃げ出す。

「助けてぇ!誰か助けてぇ!」

すぐ近くに民家が立ち並ぶ、ここは人里のすぐ傍だった。


「まてやこらぁ!逃げてんじゃねぇぞ!」

「助けてぇ!殺されるよー!」

二人の大声は村に響き渡りゾロゾロと大人達が出てくる。

すぐに状況を理解し、男の子を保護すると槍を持って集まってきだした。


男の体は既に限界に達している、もうまともに動ける状態では無い。

「死ねやゴブリンども!」

最後の力を振り絞り斧を投げつけると村人の成人男性の頭に当たり頭蓋骨を砕いた。

「ざまぁみろ!」


村人達の悲鳴、それと同時に槍を持った者達が一斉に男に群がる。

綺麗に研がれた刃物はいとも簡単に男を貫いた。



次の人から名前が付きます

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