一人目 十六歳 男
十六歳、男。
そっと目を開く。男の目に飛び込んできた景色は緑豊かな森だった。
道とよべる物は無く、地面と草を踏みしめている。
見た事の無い森だったが森だと認識できる程度には違和感無く森だ。
男はもう一度目を閉じる。そして念じた。
・・・・・・・。
「何も映らねぇじゃん。死亡履歴とか魂とか、意味わかんねぇこと言いやがって」
男は一人呟く、周りに人の気配は無い。
はい、ここが異世界です。
・・・なんて言われても納得できる要素は見あたらない。
とりあえず歩いてみる以外にやることも無かった。
ここが異世界だという証拠も無い。
拉致されて捨てられただけかもしれない。
普段森にも立ち入らない若い男は森自体に対しての恐怖感も無かった。
歩く、歩く。草が潰れる、小枝が折れる。
男はしばらく歩いた後疲れて座り込むがお尻にじわりと冷たさを感じた。
「うわ、なんだよ、湿ってるのかよ、くっそ」
男は倒木を見つけ座り直す、湿気はあるが地面よりはマシだった。
改めて周りを見渡すが特に変わった物は無かった。
動物の気配は無く、たまに虫を見る程度。マイマイカブリに似ていた。
いや、あった。男は少し変わった物を見つけた。
地面から赤い珊瑚のような物体が生えている。良くみたらそこら中に生えていた。
「なんだこれ」
男は近づいて珊瑚の様な物に触れる。
思ったよりも弾力性がある、強くつまんだら崩れてしまった。
崩れてしまった部分は粉状になって大気へと消え去る。
「・・・つっ」
突然指に痛みが走った。
珊瑚の様な物に触れた部分に刺すような痛みを感じ、ジンジンと痛む。
「んだよ・・・もう・・・、うっ!げほっげほっ」
喉までヒリヒリと痛みだす。息を吸うだけで喉が焼ける様に痛い。
「だ・・・だれか・・・いないの?」
助けを求めたいが誰もいない。息を吸う度に痛みは喉から食道へと広がる。
歩く、歩く。少し歩いては休む。
「うっ・・・・げぇっっっ!ふは・・・ぁぁ」
胃液を吐き出す。
お腹が痛い、お腹が熱い。
胃の中に焼けたナイフでも入っているのかと思う程だった。
珊瑚の様な物に触れた手にいたってはもう腐りかけの果物の様な色をしていた。
熱い、痛い。いっそのこと手を切り落とした方が楽かもしれない。
歩く、休む。休む時間の方が多くなってくる。
休むが息はしたく無い、最小限の息を吸い。そして吐く。
「うえっ!・・・ゲホ」
息と一緒に赤い胃液を吐き出す。
「ぅぁぁ」
吐き出す行為そのものに耐え難い苦痛を感じる。
胃と食道の内面を抉って口から吐き出しているような感覚に襲われる。
手の感覚はすでに無い。
代わりに手首が今にも引きちぎれんばかりにジクジクと痛む。
歩く、歩く?男はもう自分が歩いている感覚が無い。
痛みに耐えきれずその場から動けない。
「げほっっ!うぇぇぇぇぇぇええ」
口から赤い液体が落ちる。
液体よりも個体に近いそれは血というよりは肉だった。
「うあ!あああああぁぁぁああ!」
錯乱して腕を振る。ポトリッ・・・・手が落ちた。
「あ・・・あ?うえ?あは、はははははは」
落ちた手に小さな虫が寄ってくる。マイマイカブリに似ていた。
ジュクジュクに溶けた手を吸っている。
「うへはは・・・・」
ボトッ・・・・舌が落ちた。
男はその場に倒れ込むと湿った地面を赤い液体で更に湿らした・・・。
はい、一人目すぐ消えてごめんね。次からはもう少し長生きします!