カヨ 2
キールは生でも食べれる木の実や山菜を集める、カヨの体力を少しでも戻すためだ。
この世界の物を食べれば元の世界には戻れなくなる。キールはもちろん理解していた。
しかしそれはカヨには教えない、教えれば食べないかもしれないからだ。
食べなければ動けない、少しでも、ほんの少しでも長生きしてほしかった。
キールは、この世界を理解してしまった。
最初はゴブリンと間違われ、斧で殴られた。
次は優しいお姉さんと仲良くなり、世界を知るきっかけをくれた。
その次は正義感の強いお兄さんを助け、そして助けられた。
そして今は、死に瀕していたところを命を削って助けてくれた。
キールは、何度も「人間」と深く関わった事で「悪夢」の中で存在力を得た。
カヨが命を分け与えるようにして生き長らえた事で、カヨの「夢人」として一つの個を得て、そして気付いたのだ。ここが悪夢の世界であることを。
この世界がワタリ様自身だ、探しても見つかる訳が無い。
ここは、人間の夢という広大な土地に空いた蟻地獄。
この世界に落ちた者は死へ引っ張られていく。
しかし、分かった所でキールにはどうにかできるような力は無い。
それどころかカヨの夢人となったキールはカヨが消えたら消えてしまう。
「カヨ、おまたせ。これ食べてよ」
カヨの所に戻ったキールは木の実や山菜をカヨに手渡す。
カヨの鼻血はもう止まっていたし、足の震えも治まっていた。
「わー、おいしそうな木の実だねぇ。・・・この草とかも食べるの?」
生で渡された山菜には流石に抵抗があった。十六の女の子だ、当たり前の事だろう。
「大丈夫さ、薬みたいな物だよ、我慢して」
キールが自分の為に集めてきてくれた物だ、カヨはしぶしぶ口に入れる。
美味しそうに見えた木の実はとても硬く、頑張って噛み砕くが非常に酸っぱかった。
「うー・・・なんなんこれぇー」
「普通は砕いた物を調味料みたいに使うやつだけど、ごめん、我慢して」
カヨは山菜も口に運ぶ、どう見てもただの草にしか見えなかった。
「うー・・・、ん?あ、これけっこう美味いわぁ」
それはほんのりと甘く、見た目に反して口触りも良かった。
「自然の物は魔力も含んでるから、ちゃんと全部食べてね」
「う、が・・・がんばる」
カヨは食事を終える。量は大した事無いのだが味との勝負だった。
「うん、ちょっとは動けるようになったかも」
それでも走る事は出来ず、二人は歩いて森の中を進んだ。
カヨはすぐに疲れては休憩をとる、道まで戻れれば少しはマシになるだろう。
「魔法って案外不便だよねぇー、それとも私が魔力無さ過ぎなのー?」
「魔力なんてほとんど無いのが普通さ。多く持ってる人が魔法を習うんだ」
「うわぁ・・・私が魔法使えても意味ないってことなの、なんなんそれ・・・」
「その魔法はどこで習ったの?」
「えー、習ってないよ。んー、前の人達のおかげかな。私の前の人と、その前の人」
「・・・コノカとタケルが、そっか。二人のおかげで、俺・・・生きてるんだね」
その後キールが泣きそうな顔で黙ってしまったためカヨも黙って歩いた。
しばらく歩いたあたりでキールが足を止める。
「どったの?私まだ歩けるよ?」
「あ・・・いや。おかしいんだよ。森の景色が違うというか・・・、歩き過ぎなんだ。もう普通の道に出てもおかしく無いはずなのに」
「えー、キール迷子なの?」
「森の様子が明らかに違うんだ・・・」
言われてみれば確かに雰囲気が異様だった。
樹木は背が高く覆い被さる様に光を遮り薄暗い。
歩き始めた時はこんな木は見あたらなかった、これほど大きな木なら遠目でも目立つはず。
しかも光を遮るほど群生しているのだ。
「・・・暗いね?」
「カヨはのんきだなぁ、いつの間にか違う森に繋がったっていうのに」
「へー、良くある事なの?」
「ないよ!・・・はぁ」
カヨは年下の男の子にため息をつかれ少しムッとする。
「この世界の事知らないんだからしょうがないでしょー、もーっ」
進んでるはずなのに似たような景色が続くせいで進んでる気がしない。
流石にカヨも体力が限界に近づいた時、ようやく変化が訪れた。
出来れば訪れて欲しく無い変化だった。
2話生き残りましたー、もうちょっとだけ続きます。




