六人目 十六歳 カヨ
十六歳、女、カヨ。
カヨは森の中にいた、大きな木が疎らに生えている。
足下には・・・男性の死体。
「ひぃっ!」
慌てて後ずさり木の根に躓いて転ぶ。
カヨは慌てながらも状況を理解しようと、目を閉じ、そして念じた。
●死亡履歴
一人目、キノコの胞子を吸い込み死亡。
二人目、ダンゴムシに食べられ死亡。
三人目、村人に槍で突かれて死亡。
四人目、村人に鍋で煮込まれて死亡。
五人目、レッドキャップの攻撃で死亡。
●魂「3」
「えーと、じゃあこの人、五人目だったのかな」
カヨはなるべく遺体を見ないようにして起きあがる。
それでも目が離せず、遺体の肩に残った痛々しい傷口を目の当たりにすると、胃液が逆流するのを感じ口が気持ち悪くなってきてしまう。
抉れた肉、内部に覗く骨、トラウマになってもおかしくない光景だった。
「はぁー、なんなのー、もー」
カヨは近くの大木に身を寄せてうなだれる。
その時、ふと、木に文字が刻まれているのに気付いた。
キール マホウ ナオシテ タノム
「キール?この男性じゃないよね」
この世界に来る時に受けた説明、過去の冒険者の魂は残るが蘇生はできない。
「魔法、魂は3つ、ちょうど魔法を覚えれる数」
魂を3つ消費する事で得られる能力、魔法。
「そうまでして・・・治したい人?・・・キール、か」
「タケ・・・ル?・・・そこ・・・いるの?」
不意に木から声が聞こえ、カヨは心臓が飛び出るほどに動揺した。
「ふぉあ!木が喋った!なんなん、もう!」
良く見ると木に大きな虚が空いており、そこに人が居た事に気付いた。
十歳ぐらいの男の子、酷く衰弱しており血色が悪い。
そして何より右腕の損傷が酷かった。
包帯だと思われる布はもはや意味を成さず、腕は壊死した肉でかろうじて繋がっている。
息がある事自体が奇跡だと思える状況。
カヨの声を聞き、僅かに意識が戻った。だがそれも一瞬の事。
男の子は今にも消えそうな呼吸をしている。
「この子がキール?・・・考えてる余裕は無いなぁ。魂を3つ消費して魔法をください」
そう宣言するとカヨの脳裏に魔法によって何が出来るのか、その全てが刻まれた。
有名なロールプレイングゲームで使える様な魔法は一通り使える。
呪文は必要無く、ただ念じれば良い。
そして回数制限は無いが魔法の使用には魔力が必要だという事も理解できた。
「・・・私いきなり賢者じゃん、最強じゃないの?これ」
カヨは手に入れた力に浮かれるが今は先にやるべき事があった。
カヨは男の子に手をかざすと癒しの魔法をかける。
「呪文がいらないと言われると、逆にやりづらいね、えーと・・・なおれー!」
手から柔らかい光が放出され男の子の身体を覆う。
右腕の傷も新しく肉と骨が構成され、逆にホラーな絵面だった。
肌に艶が戻り、すっかり血色も良くなると男の子の目がしっかりと開きカヨを見つめる。
そしてゆっくりと口を開いた。
「・・・あんたは、異世界の・・・いや、外の・・・そうか。俺は・・・」
「私はカヨ。君がキール?大丈夫?まだ意識がぼんやりしてるのかな」
キールは木の虚から出るとタケルの遺体を見て悲しそうな顔をしていた。
「キール、うん、そう呼ばれてたよ。大丈夫、意識はむしろ・・・うん、色々と分かっちゃったんだ。君達と繰り返し深く関わる事で、分かっちゃったんだ・・・」
「あー、こりゃダメだね。キール、まだぼんやりしてるね」
キールは首を横に振る。
「俺は悪夢から生まれた夢人なんだ」
「・・・うーん。そういう電波なのは付いていけないなぁ」
「ごめん、・・・忘れていいよ」
そう言うキールの顔は今にも泣きそうに見えた。
「で、これから私どうしたら良いのかな」
「ああ、俺が案内するよ、町まで行こう。ここにいるよりはずっと良い」
そう言ってキールが歩き始めるが、カヨはその場に座り込んでしまう。
「カヨ?どうしたの?」
「分かんない、力が入らなくて・・・」
カヨはなんとか起きあがると身体に力を入れて歩こうとする。
しかし足がガクガクと震え、鼻血まで垂れてきてしまった。
「カヨ、何したの?明らかにおかしいよ」
「キールを治すために魔法使った以外の事はしてないよぉー、なんなんこれー」
「・・・魔力が足りなかった分体力持っていかれたんだ、ごめん。少し休もう」




