薔薇姫との遭遇②
カミリアさんと一緒に移動した場所には、初めて見る女性が立っていた。緩い縦ロールの金髪、鋭い目、深紅のドレスと随所に薔薇を模した飾り、身長は170㎝ほどでやや高めな女性。
険しい表情と鋭い目で腕を組む姿は、なんといか性格のキツイ貴族令嬢みたいなイメージで、これで扇子でも持っていたら漫画などで見る悪役令嬢のイメージがぴったり合うような女性だ。
「……カイトさん、紹介します。こちらが私と同じ七姫のひとり、薔薇姫ロズミエルです」
「あっ、飾りとかでもしかしてとは思いましたが、やっぱり七姫の方だったんですね。初めまして、宮間快人です」
「……」
偶然とはいえまだ会っていなかった七姫との遭遇ということで、偶然に驚きつつも自己紹介をするが……ロズミエルさんは険しい表情を浮かべたまま一言も発さない。
射殺さんばかりの鋭い目、不機嫌に見える表情。パッと見た感じでは、俺のことが気に入らないのかと思うのだが……正直、俺は少々戸惑っていた。
というのも、ロズミエルさんはこちらを険しい表情で睨んできているが……感応魔法によって伝わってくる感情は、表情とまったく違うものだったからだ。
驚き、焦り、恐怖、混乱、緊張といろんな感情が混ざったような……なんというか、テンパってるみたいな感情が伝わってきている。
「……あの、カミリアさん。ロズミエルさんって、もしかして……緊張してたりします?」
「え? 分かるんですか……あっ、そうでした。カイトさんはリーリエ様に近い力を持っているのでしたね」
ここまで表情と感情が一致しない人は、営業スマイル浮かべているエリーゼさんぐらいしかしらないこともあり、戸惑いながらカミリアさんに尋ねてみる。
すると、カミリアさんは驚いたような表情を浮かべたあとで、今度は納得した感じで頷いた。
「ええ、カイトさんの推測の通り、ロズミエル……エリィは、こう見えて物凄く人見知りでして、初対面の相手にはだいたいこんな感じです。怒ってるわけじゃなくて、緊張で顔が強張ってるだけなんですが……」
「なるほど、それでやけに慌ててるような感情が伝わってきたんですね」
「その通りです。ちょっと待ってくださいね」
一言断ったあとで、カミリアさんはロズミエルさんの元に近づく。すると、ロズミエルさんはカミリアさんの肩を掴んでスッと顔をカミリアさんの耳元に寄せた。
「……そうですか、やっぱり直接話すのは無理ですか……えっと『初めまして、ロズミエルです』とのことです」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
距離があるため俺には聞こえなかったが、ロズミエルさんはカミリアさんの耳元で小さく呟いているようで、カミリアさんがその言葉をこちらに伝えてくれることで、なんとか会話は成立した。
「ここであったのは偶然でしたが、以前は神界の戦いで助けていただいてありがとうございました」
「……『私が協力できたのはほんの少しだけど、力になれたのならよかった』っていってます」
「簡単ですが、お礼の品を……」
「ッ!?」
「…‥あ~えっと……カミリアさんに渡せばいいですかね?」
お礼の品を持って一歩近づくと、ロズミエルさんは険しい表情のままでスッと一歩下がった。なるほど、近付けるのはこのぐらいの距離が限界ということか……これは本当に筋金入りの人見知りっぽいな。
「あ、はい。私が預かります……え? 『優しそうな人だから、《16時間》ぐらいかければ直接話せるようになると思う』? そうですね……直接話すのは、またの機会にしましょう」
16時間かぁ……16時間はながいなぁ。さすがに白神祭が終わってしまうから、カミリアさんの言う通りロズミエルさんと直接話すのはまたの機会に持ち越そう。
「あっ、ちなみに直接話すまで16時間というのは、エリィにしては『破格の短時間』なので、カイトさんはかなり好印象を持たれてるんだと思いますよ」
「…‥た、短時間なんですか?」
「ええ、私は2日かかりましたし、同じ七姫の中で最長は……こちらもカイトさんがまだ会っていない方で、ブロッサムさんという方がいるのですが、彼女はいい子なんですが……なんと言うかグイグイ距離を詰めるタイプで、そういう勢いがある相手だとエリィが怖がってしまうので時間がかかりましたね……ええ『2年4ヶ月』ほど……」
「な、なるほど」
2年4ヶ月かぁ……それはまたとんでもないな。たしかにソレなら16時間というのは破格の早さかもしれない。
「……というか、それって、そのブロッサムさんという方は大丈夫だったんですか? そんなに時間がかかるといろいろ気にしちゃいそうな気がしますが……」
「それは大丈夫です。ブロッサムさんは『ロズミエル様は未熟な己を導くために厳しく接してくださっているのですね! つまり直接お話しいただけたときがロズミエル様に認めていただけたときということですね! ロズミエル様の期待に恥じぬよう全力で努力します!!』……という感じで燃えてましたね」
「……ま、前向きな方なんですね」
「というより、ブロッサムさんはちょっと思い込みが激しいというか……一度こうだと思うと、周りの話を全然聞かずに突っ走るタイプなので……いや、素直で真っ直ぐないい子なのは間違いないんですが……」
なんだろう、そのブロッサムさんはブロッサムさんで……結構濃い人のような気がする。
【桜花姫ブロッサム】
閑話で少し出ていたが、なかなか思い込みの激しいタイプで、なおかつ猪突猛進。真っすぐで努力家な好人物ではあるのだが、大人し目な性格が多い七姫の中では桁外れに行動派かつ、熱が入るとどんどんひとりで盛り上がりはじめ、周りの声が聞こえなくなるタイプ。
ちなみに初めてロズミエルと直接会話で来たときには、ついに認めていただいたと涙を流し熱くその時の感動を語ったため、ロズミエルに再び怯えられ……もう一度会話できるまでさらに数ヶ月かかった。




