閑話・薔薇の令嬢
多くの人で賑わう白神祭の中層、その一角にある神界の花々で綺麗な花壇が作られている場所にひとりの女性が居た。
緩くカールした明るい金の長髪、美しくも鋭さを感じる赤い目、赤い薔薇の髪飾りとダンスパーティにでも参加するかのような真紅のドレスに身を包んだ女性は、豊満な胸の前で腕を組み、周囲を睨みつけるような険しい表情を浮かべていた。
間違いなく美女といえる外見ではあるが、あまりにも鋭い雰囲気が近寄り難さを醸し出していた。
「……あれって、もしかして」
「機嫌悪そうだし、近づかない方が……」
通りがかる他の参加者たちも女性の威圧感に圧されるようにその場を早足に去っていく。そんな光景を険しい表情のままで見つめ続けていた女性の元に、ひとりの人物が近づいてきた。
「……いま戻りました。大丈夫ですか、『エリィ』?」
「……」
近づいてきた一見すると人混みに紛れれば見失いそうな……派手な外見の女性とは対極的に地味な印象を受ける女性……草華姫カミリアは、金髪の女性に声をかけつつ謝罪の言葉を口にする。
エリィと呼ばれた金髪の女性……界王配下幹部七姫の一角、薔薇姫ロズミエルはギロリと鋭い視線をカミリアに向けたあと、カミリアの肩を掴む。
そしてグッと己の顔をカミリアの耳元に寄せ、小さな声で呟いた。
「おお、遅いよ、リア……き、気絶するかと思った」
「……いや、花を買いに数分外しただけなんですが……立ってるだけでも駄目ですか?」
派手な外見からは想像もできない蚊の鳴くような小さな声で話すロズミエルに、カミリアは苦笑を浮かべながら言葉を返す。
すると、ロズミエルは表情を変えないまま小刻みに顔を左右に動かす。
「……無理、無理無理無理無理……し、しし、知らない人がいっぱい……吐きそう」
「相変わらず表情と声が一致しないというか……」
「そそ、そもそも、こ、こんな地獄みたいなところにくるのが、まま、間違ってるんだよぉ」
「……い、いや、エリィが行きたいって、私に声をかけて来たのでは?」
険しい表情とは裏腹に、声は泣きそうな声であり、それを聞いたカミリアはなんとも言えない表情を浮かべる。
そう、そもそも、カミリアが白神祭に参加したのは、ロズミエルに誘われたからであり、そうでなければ来る予定はなかった。
「神界の花が、見たかったし、ここ、こんなに人が多いとは、思わなかったから……」
「……今日は大掃除をしようと思ってたんですが」
「リ、リアが来てくれなきゃ、わ、私ひとりでこんなところに来れるわけないじゃん……掃除なら、今度私が手伝うから」
派手な見た目のロズミエルと地味な見た目のカミリアは、なんだかんだで昔から気が合い、七姫の中でも互いに一番仲のいい親友同士と言っていい間柄だ。
ロズミエルは派手な見た目とは裏腹にかなり内気で人見知りな性格であり、表情が常に険しいのも緊張で顔が固まってるだけである。
精霊の中でもかなり花好きであるロズミエルは、なかなか訪れる機会のない神界にしか存在しない花を見たくて今回の白神祭への参加を決めた。
しかしひとりでは初対面の相手との会話すらままならないロズミエルは、親友であるカミリアに助けを求めてこうして一緒に参加していた。
「ここの花も素晴らしかったですが、エリィが見たい花はここには無かったんですよね?」
「う、うん……本来は神域にしか咲いてない花が、と、特別に展示されてるって……」
「神域の花となると、もっと厳重に展示してそうですね。となると、富裕層向けのエリアに近い場所にあるのかもしれません」
「そ、そっか、じゃ、じゃあ、こんどはそっちに行こう……リア、お願い、前歩いて……怖い」
「事前の申請とかが必要じゃない場所だといいんですが……」
小声で話すロズミエルに若干呆れたような表情を浮かべつつ、カミリアは案内の冊子を見ながら歩き出す。それに鋭い表情のままで続くロズミエル……もちろん内心では人の多さに若干パニックになっている。
「しかし、神域の花には私も興味がありますね。以前の戦いのときは、被害を避けるためか花は無かったので見えなかったですしね」
「う、うん……人界や魔界には無い花が沢山あるって噂だし、いくつ展示してるか分からないけど、楽しみ……い、一度でいいから、神域の花畑を見て見たいなぁ」
「難しいでしょうね。リリウッド様でさえ、最高神様から話を聞いたことはあっても、実際に見たことはないと言っていましたしね」
「ざ、残念だなぁ……で、でも、これから見る花も、すごく楽しみ」
「ふふふ、そうですね。綺麗な花が見れるといいですね」
表情は相変わらず険しいままだが、少し声を弾ませるロズミエルにカミリアも微笑みながら足を進めていった。
【薔薇姫・ロズミエル】
明るい金髪にゆるい縦ロール、鋭い顔つきに派手なドレスと悪役令嬢みたいな見た目だが……実際は無茶苦茶内気で人見知りでありコミュ障。
親しい相手じゃないと会話もロクに成立せず、初対面ではそもそもロズミエルが一言喋るまでに相当時間がかかるほどである。
カミリアとは昔から仲がよくて、どこかに出かける時はカミリアに付いてきてもらっている。
精霊の中でも非常に花好きで、珍しい花を見たり育てたりするのが大好き。




