白神祭中層②
少し時間を置いて天空神さんは気持ちを持ちのしたのか、スッと立ち上がり俺たちの方へ近づいてきた。
今回の案内はシロさんが俺に付けると言ったものなので、対応はリリアさん任せじゃなくて俺が行うべきだ。
正直、いま一番緊張が高まっている状態と言っていい。さっきまでの状況に対して、天空神さんがどういう行動をとるかによって、こちらの出方も変わってくる。
「皆様、ようこそいらっしゃいました。今回案内を務めさせていただきます天空神、名をスカイと申します」
……最初に「改めて」とか「気を取り直して」とかそういう言葉が付かなかったということは、さっきまでの件に関しては無かったことにしようとしていると見ていいだろう。
であるならば、こちらもそれに合わせて先ほどのやり取りには触れないのが吉だろう。
「宮間快人です。今日はよろしくお願いします、スカイさん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
名乗ってくれたということは、名前で呼ぶべきだろう。スカイさんより立場が上の最高神やシロさんをさん付けで呼んでいるので、下手に様とかつけても困るだろうから、普通にさん付けで呼ぶ。
「あまり長々と挨拶はせずに本題に入りますね。ご存知の通り、中層では私が皆様を案内させていただきます。事前に行きたいと思っていた場所などがあればそちらを優先させていただきますし、特に回る順番に拘りが無いようであれば、僭越ながらこちらでもコースは考えております」
「なるほど、えっと……皆は最初にどこに行きたいとか、ありますか?」
バインダーのようなものを出し、そこから中層の地図を取り出してこちらに見やすく広げながら話すスカイさんは、少し前のやり取りからは打って変わって仕事のできる方という印象だった。
いろいろと考えつつも、こちらの希望に合わせて臨機応変に対応してくれるような、そんな雰囲気があって安心できる。
それにしても、スカイさんが案内に決まったのは前日のはずなのだが、中層を回るコースなども考えてくれてるとは、結構手間をかけてしまったみたいで申し訳ない気分だ。
そんなことを考えつつ、他の皆にも確認をしてみるが特に希望などはないようだったが、そのタイミングでチェントさんとシエンさんが口を開いた。
「これ以上皆様のお邪魔をするわけにもいきませんし、私たちはトーレ姉様を連れてここで別れることにします」
「トーレ姉様が本当にお世話になりました」
「え~みんなと一緒に回ればいいのに、ぶーぶー」
トーレさんと連れて別行動をとるというふたりに、トーレさんが不満そうに頬を膨らませて文句を言うが……。
「……いえ、回るもなにも、トーレ姉様に待つのはお説教なので」
「……あえ?」
「ツヴァイ姉様に連絡をしました。仕事に区切りをつけて、すぐに来てくださるそうです」
「……うえぇぇ、ツヴァ姉くるの!? どうやら私の白神祭はここまでみたいだね。まぁ、お説教終わった後でツヴァ姉とも一緒に回ればいっか!」
なんだろうこれ、説教される前から反省する気ゼロっぽいんだけど……安定のトーレさんである。まぁ、ともかく三人はここで別れるとのことで、俺たちに挨拶をしたあとで去っていった。
それを見送ってから、スカイさんに改めて返答する。
「話が脱線してしまって申し訳ないです。特に皆どうしても最初にって場所はないみたいです」
「分かりました。それでは私が考えてきたコースで回りつつ、途中にどこか行きたい場所があればその都度調整することにしようと思いますが、その形でよろしいでしょうか?」
「はい。よろしくお願いします」
話はまとまり一区切りとなったところで、ふとスカイさんはなにやら緊張した面持ちで俺に一度頭を下げた。
「案内を始める前に一言だけ、失礼します。今回はミヤマ様にお選びいただいたとのことで、光栄の極みです。精一杯頑張りますので、どうかよろしくお願いいたします」
「……あっ、はい」
……選んだ、うん、まぁ、俺が選んだと言えばその通りなんだけど……実際はガラポン抽選機なんだけど、まぁ、それは言うべきではないだろう。
「あっ、俺に様とかは付けなくていいですよ。他の神族の方も様付けしたりはしないですし、口調も話しやすいもので大丈夫です」
……まぁ、俺の神族の知り合いは上の立場から順に5人なのだが、仮にも神様に様付けで呼ばれるのは恐れ多い気がする。
というか出来れば浸透して、他の神族も様付けとかじゃなくて普通に接してくれた方がありがたい。
「分かりました。それでは、ミヤマさんと呼ばせていただきますね」
「はい」
「では、改めてご案内を――あっ、申し訳ありません!?」
「っと、大丈夫ですか?」
挨拶が終わってさあ出発となったタイミングで、角度が悪かったのかバインダーに入れていたであろう紙が何枚か地面に落ちた。
反射的にしゃがんで拾うと、それは先ほど俺たちに見せた地図とは別の中層の地図であり、そこにはびっしりと書き込みがされていた。
おそらくルートを考えるのに使ったのだろう、地図には何本もの線が引かれていて、相当練って考えてくれたみたいだ。
やっぱり真面目な人なんだなぁと、そんな感想を抱きながらチラリと地図の一部を見ると……。
『ここは景色がいいのでオススメ! 要チェック!』
と可愛らしい丸文字で書かれており、その隣にデフォルメされたスカイさんっぽい絵も描かれていた。
……あ~これ、アレかな? あんま見ちゃ駄目な感じのだったかなぁ……
シリアス先輩「1000話目も近づいてきたけど、なにやるんだろ?」
???「特別番外編的なやつでは?」
シリアス先輩「つまりわた――」
???「シリアス先輩はエイプリルフールだけしか出ないでしょ」
シリアス先輩「……夢くらい見たいなぁ……」




