白神祭⑦
下層をみんなと一緒に歩きながら、思考を巡らせる。まだ白神祭にきてそれほど時間は経っていないはずなのだが、もうすでに偶然三人の知り合いを見つけるという事態になってしまった。
「なんというか、コレだけの人がいる中でそうそう知り合いと会うことは無いはずなんですけどね」
「……いえ、正直いつも通りのミヤマ様という印象しかありませんよ。ほら、お嬢様たちも自然体です」
「よくあることだって、思われてるわけですか……ところで話か回りますけど、思えばルナさんっていつもメイド服ですね」
「事実として、メイドですからね」
まぁ、理屈は分かるのだが……例えば同じメイドのイルネスさんは休みの日とかは私服だし、以前ルナさんと街で偶然会って家にお邪魔した時も私服だった覚えがある。
カジュアル系の服で、結構センスはよかったような気がするが……宝樹祭の時も六王祭の時も、ルナさんはメイド服を着て参加していた。
「なにか拘りですかね? リリアさんと一緒に参加する時はメイド服とか、そんな感じの……」
「いえ、特に理由は無いんですけどね。本当にただなんとなくと言いますか、結局一年通して一番長い時間きている服ですし、この格好が落ち着くというのもありますね」
「あ~なるほど」
学生が家でも制服姿だったりとか、そんな感覚かな? なんとなくわかるような気もする。
「まぁ、お嬢様が普段と同じ格好だと自然と私もメイド服というのはあるかもしれませんね。ミヤマ様は一度見ているでしょうが、私の私服はラフなものが多いので」
「あ~なるほど、たしかにお洒落はお洒落ですけど、少しリリアさんとは系統が違う感じはありますね」
「そういうことですね。まぁ、別にそういう系統の私服を買えばいいだけの話ではありますが……なんなら、ミヤマ様が買ってくれますか?」
「買いましょうか?」
「……そう言えば大金持ちでしたね、ミヤマ様」
俺の返答を聞いてクスクスと楽しそうに笑うルナさん……俺としては本当に買うことになっても一向にかまわないというか、なんだかんだでルナさんに助けてもらったことも多いしそのぐらいはお礼としても安すぎるぐらいだ。
普段のいたずら好きな部分さえなければ、もうちょっと素直に感謝も出来るのだが……。
「いやはや、さすが私の親友ふたりを瞬く間に篭絡せしめたモテ男は言うことが違いますね。その調子で私も口説いて、三人コンプリートを狙ってみますか?」
「なんとなくですけど、もし仮に本当にそうしたら……一瞬で主導権を握れそうな気がします」
「……リアルな考察はやめてください。実際に私とミヤマ様では経験値が違うんですよ。その差がある以上、私が圧倒的に不利です」
「本当に経験値の差だけが要因ですかねぇ」
「……なんでしょう、その微笑ましげな眼は……」
俺の感覚としては、ルナさんは性質的にはアリスに似ている。自分からふざけつつ攻める分には問題ないが、逆に攻められると弱いタイプだと思う。
実際耳年増というか、こちらをからかうような言動をしつつもノアさんへの反応とかを見る限り、結構初心なんじゃないかとそう思っている。
「……くっ、なんでしょうこの、絶対に勝てない気がするみたいな嫌な感覚は……ここはひとつ、休戦といきましょう」
助けを求めるように周囲を見渡すルナさんだが、他の皆もそれぞれ雑談をしておりこちらの会話に加わってくるような感じではない。
ルナさんもそれは分かったのか、少しして諦めるような表情で両手を上げ降参を宣言する。
「了解ですよ……あっ、ルナさん、あそこに焼きマシュマロの出店がありますので、食べませんか? 確か、ルナさんってマシュマロ好きでしたよね?」
俺も別にそれ以上ルナさんをいじめる気もなかったので、素直にルナさんの休戦を受け入れ、たまたま目に入った出店を指差しながら話を切り替える。
するとルナさんは、なんとも言えない……困ったような、呆れたような、それいてどこか楽しそうな表情を浮かべて小さな声で呟く。
「……はぁ、なんというか日に日にからかい辛くなる厄介な相手ですね。まぁ、それを悪くないと感じている私も私ですが……」
「ルナさん?」
「いえ、なんでもありません」
聞き取れなかったために聞き返したが、ルナさんはなんでもないと答えたあとで、少しいつもより幼く感じる笑みを浮かべた。
「……では、せっかくですし買いに行きましょうか。まさか、ミヤマ様程のプレイボーイが、誘っておきながら相手に払わせるなどという行いをするはずもありませんしね」
「抜け目がないというかなんというか……はいはい、もちろん誘った俺が驕りますよ」
「さすがミヤマ様、その優しさに不肖ルナマリア、胸の高鳴りが抑えられませんね」
「お、大げさすぎる」
「ふふふ」
いたずらっぽく笑うルナさんの表情はいつもよりずっと柔らかい気がして、不覚にもドキッとしてしまった。
シリアス先輩「……唐突に甘酸っぱい展開止めてくれる? 私にしてみれば、突如脈絡もなくビンタされたようなものなんだけど……」
???「じゃあ、唐突なイチャラブの場合は?」
シリアス先輩「それは突如隕石降ってきたようなもん……ひとつ付け加えるなら、この作品はよく突発隕石が降る……」




