アリスと縁日デート⑤
アリスと共に縁日の屋台を順に巡っていく。それこそ、すべてを制覇してやろうと、それぐらいの勢いである。
「……おかしいな?」
「なにがっすか?」
「いや、水に濡れないほどに超高速で動かしてるとかそういうわけでもなくて、俺の目から見てもゆっくり動かしてるみたいなのに……なんでお前のポイは破れないんだ?」
定番の屋台のひとつスーパーボールすくい。紙で出来たポイを使ってスーパーボールをすくうわけだが、基本的にポイは破れやすいので、大きいボールを狙うのは現実的ではない。
小さめのボールを素早くすくうのがコツ……のはずなのだが、アリスは平然と大きいスーパーボールをすくっている。別になにか特殊なことをしているようには見えないんだが、ポイがまったく破れる気配すらないとは……。
「ああ、それは『状態保存の魔法』をポイにですね」
「おいこら……チートはやめろ」
技術では無くて物理的にポイが破れないようにズルしてやがった!?
続いてこれはまた定番の輪投げ……まぁ、ここで言うのは超エキサイティングバトルスポーツではなく、普通の輪投げであるのだが……。
「こら、アリス……予告シューティングスターしようとするな」
「ふふふ、実はアリスちゃんは世界ランク一位のナイトメアなんですよ!!」
「知ってる……というか、むしろ俺はお前とかクロの正体に、なんで他の人たちが気付かないかの方が不思議なんだけど……」
実際六王祭の後もWANAGEを見る機会は何度かあったし、一度だけだがベビーカステラ仮面の試合も見た。だが、本当にベビーカステラを模した仮面を付けてるだけで、服装からなにからまるっきりクロだった。
アリスに関しては、まだ顔が見えないような恰好をしているが……それでも自分のことを超絶美少女ナゲリストとか言ってたり、気付きそうなものだけどなぁ。
「……あ~カイトさん、なぜかを教えましょう。それはですね、シャローヴァナル様の祝福を受けているカイトさんが、『認識阻害魔法を無効化』してるから気付いてるんですよ。むしろ気付かない周囲の方が正常なんですよ……」
「あっ……そういうことか!? じゃあ、伝説の鍛冶師だとか伝説の模型師だとかの正体に他が気付かないのも……」
「そう言うことですね。その手の魔法に関しては私は世界でもトップレベルですし、伯爵級とかでも気付くことはできないはずなんですよ。問答無用で無効化するカイトさんが例外すぎるだけなんです」
「……な、なるほど……長く感じてた疑問に答えがでた気分だ」
勿論途中で食べ物の屋台なども回る。相変わらずアリスはよく食べているが、美味しそうに食べる姿は可愛らしいので、見ていて飽きない。
「そう言えばカイトさんは、コレなんて呼びます?」
「あ~俺は『大判焼き』って呼ぶなぁ。母さんがそう呼んでたから。けど、小学校の時の友達とかは『今川焼き』って呼ぶ子が多かった気がするな」
「地域色が出ますからねぇ。珍しい呼び名だと『太鼓焼き』とか『二重焼き』なんてのもありますね」
「アリスが元居た地球でも同じ呼び名だったのか?」
「う~ん、どうなんでしょ? あの時はいまほどアレコレ情報収集してたわけじゃないですし、そこまで細かくは覚えてないんですよね」
まぁ、それも当然と言えば当然か、アリスにしてみれば相当昔の話だろうし、世界中を旅していたってことだからずっと日本に居たわけでもないのだろう。
「う~ん、話してたら少し食べたくなったな」
「食べます? まだありますよ?」
「いや、流石に一個丸々は多いな……一口だけくれ」
「はい、どうぞ」
アリスが差し出してくれた大判焼きを一口食べる。するとアリスはなにやら妙な表情で、俺が一口食べた大判焼きを見ていた。
……たぶんまた、間接キスがどうとか考えているんだと思う。
「……アリス?」
「ッ!? あっ、い、いえ、ちょっと考え事していただけですよ。ほ、ほら、餡子食べた直後にキスしたら餡子の味がするのかどうかとかって……あっ、いや、すみません。誤魔化し方を間違え――んんっ!?!?」
間接キスについて考えていたことを誤魔化そうとした結果、見事に自爆したアリス。それを聞いて俺がどういう行動に出るかは、アリスも分かっていたのか慌てて誤魔化そうとしていたが……もう遅い。
アリスの疑問を解決するべく、素早くしゃがんでキスをすると……また分かりやすいほどに顔を赤くするから、本当に可愛らしい。
「……どう? 餡子の味した?」
「……わかんねぇっすよ。だって、私もさっきまで食べてましたし……あ~でも、だから……も、もうちょっと、しないと……分からないかなぁ、なんて」
「ふふふ」
「微笑まし気に笑わないでくださいよ!? こっちは、なけなしの勇気振り絞ってるんですから!!」
今日は大胆になるという少し前の宣言を実行したのか、目線は泳ぎまくりではあったが、アリスはもっとキスがしたいと要望を口にした。
当然愛しい恋人の願いを断る理由などない。実際、完全にふたりきりというのは、互いに気が楽で……実はさっきから時折こうしてキスをしていたりする。
特に恥ずかしがり屋のアリスが、今日は本当に意識して積極的になろうとしているせいか、いつもよりずっと距離が近いような気がして……それがとても幸せだった。
【白い砂のようなもので出来た山がある】
【どうやら砂ではなく、砂糖みたいだ】
【相当の量だ。人ぐらいすっぽり埋まってしまいそうな、そんな量である】
【砂糖の山の横になにか旗のようなものが置かれている】
【旗には『イチャラブ』と書かれており、折ろうとしたような形跡がある】




